コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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調印式

「始まりますね、セイアちゃん」

 

「今日まで、あれこれ駆けずり回ってきた。ハナコにも相応に苦労を掛けて、他の組織にも垣根なく協力してもらった。出来うることは、最大限行なったんだ……きっと成功する」

 

 セイアとハナコの二人は旧校舎、補習授業部が合宿で使った教室で映像越しに古聖堂の様子を観察していた。ミレニアム製のドローン群から流れてくる映像、各々が己が職分をまっとうしている姿。

 

 ティーパーティと万魔殿の生徒達がお互いを牽制しあい、正義実現委員会とゲヘナ風紀委員会が周りに不審な人や物がないか眼を光らせ、シスターフッドが時折思い出した様に警備の生徒に耳打ちする。

 

 レッドウィンターから来た工務部の部員達が何かを叫びながら作業を続け、SRTから派遣された生徒が近場の公園に違法建築した塹壕に姿を隠す。

 

 万魔殿の飛行船が姿を現したことに聴衆達は歓声を上げ、ナギサやミカはその様子ににこやかな笑みを浮かべてみせて。そんな中を、ヒナが乗った車が会場へ向かう。

 

 喧騒の中で、先生は喧嘩しそうな両校生徒の仲裁に奔走していた。先生の脇をベッタリ、アズサとヒフミが固めている。心配して、先生が行くならと無理やりついていったのだ。

 

「先生は……本当に困った(素敵な)方です」

 

「あれだけ言ったのに、頑張ってるみんなの手助けを少しでもしたいと聞かない。あれで頑固なのがね……だからこそ先生なのだが」

 

 精一杯駆けずり回っていた先生だったが、時計を見たアズサとヒフミに促されて、心配そうな顔のままにSRT製の塹壕に移動を始めた。

 

 その様子を見た二人は、安堵のため息を漏らす。少なくとも、これで大怪我をしたりはしない筈だから。いま一番心配すべき人物が、爆心地に留まることになるだろうナギサとミカに移ることへとなった。

 

「……今更だが、わざわざ二人を死地に置いておく意味はあるのかな?」

 

「それは何度も説明した通り、アリウスを引き摺りだすためです。セイアちゃんのお陰で、私達には情報のアドバンテージがあります。これまでの行動から推察しても、アリウスはここでトリニティ・ゲヘナ両校を叩いてくることでしょう」

 

 友人への心配から、何度も無意味な問いを繰り返すセイアに、ハナコは嫌がることなく同じ説明を繰り返す。友人を危険な場所に置いたまま、自分だけは安全な場所にいる。その罪悪感については、痛いほどによく分かるから。

 

 ハナコだって、先生やアズサ達があの場所にいることに、ソワソワしてしまう。だけれど、状況をコントロールしたまま色々なことを解決できる機会をみすみす逃すほど、ハナコは悠長な気質をしていなかった。

 

 セイアが抱えている問題を早急に解決して、メブキをどうするかという問題に注力するためでもある。故に、ハナコなりに無理をし続けてきたのだ。ここさえ乗り越えられれば、あとはどうとでもなると考えているからこその無理でもあった。

 

「ですから、罠だと分かっていても飛びついてもらうために、ナギサさんたちには囮になってもらいます。……ごめんなさい、セイアちゃん」

 

「いや、本人たちも了承したことだ。それは責められることじゃない……ないが」

 

 メブキのチマチマな身体で、セイアはウロウロとしてしまっていた。落ち着かずに、心配が耐えないといった様子で。

 

「未来がわからないということが、こうも不安を増大させる。あれほど未知を望んでいたのに、既知をこれほどに欲してしまう。心は、これほどに移ろいやすいものなのか」

 

「初体験ですね、セイアちゃん♡」

 

「これではメブキをバカにできない、未成熟なのは私もだったみたいだ。……あと、如何わしい言い方はやめてくれ。身体はメブキだから、君の声でそんなことを言われると勝手に喜び出してしまう」

 

「自分のいやらしいところは、全てメブキちゃんのせいにしちゃうんですね」

 

「違うっ、嘘みたいだが、メブキは細胞レベルでキミが好きで──」

 

 二人の緊張がわずかに解れた、そんなタイミングでの出来事。空を切り裂く様に移動する飛翔体を、ドローンが知覚して。

 

「来ました!」

 

 ハナコが叫んだのと同時に、古聖堂は爆炎に包まれた。

 かつて、公会議が行われた伝統ある建物。幾重にも歴史が重なっても存在し続けた古聖堂は遂に崩れ去り、爆炎の内側より忘れられてきたものが溢れ出す。──ただいまと、憎悪を溢れさせながら。

 

 


 

 

「けほっ、けほっ」

 

「ナギちゃん、大丈夫?」

 

 その爆発は、他の世界の歴史よりも小規模に留まっていた。工務部の除去作業により、周辺地域にまで及ぶ爆発の連鎖が押し留められたためだ。

 

 それでも、爆発の中心に居たのならば、その威力は殺せるわけがない。本来ならばナギサは気絶していただろうが、全身に痛みを感じつつも意識がある。それは、隣の親友が身を挺して庇ってくれていたから。咄嗟に遮蔽物の間に、ナギサを押し込んでいたのだ。

 

「み、ミカさんこそ、無事なのですか!?」

 

「うん、でも二人揃って制服、買い直さないとね」

 

 火薬のにおいに包まれて、煙の隙間から見えたのはお互いのボロボロの姿。無事とは言い難い幼馴染の姿に、二人して目をパチクリさせて。

 

「これで、セイアちゃんにごめんねってできるよね。私も、ナギちゃんも」

 

「格好がつくと、そういうことですか。……ある種の脅迫ですね、それは」

 

 ミカのいい加減さに救われながら、ナギサはボロボロの身体を押してその場に留まった。条約を結ぶために、自分たちのエデンを創造するために。それがナギサの、自分なりの罪滅ぼしだったから。

 

 


 

 

「全てリーク通り、先生も無事。なら──」

 

 携帯を片手に、車内でヒナは呟いた。今日起こるであろうこと、それらを先生から聞いていたから。携帯には、"私は無事だから、会場に行ってあげて"という先生からのモモトークが表示されている。

 

 爆発の範囲が狭まったことによって、ヒナへの被害は爆風によって車が横転したくらいなもの。本人は傷一つなく、今すぐにでも動き出せる。

 

「っ、先生の言うことが本当だったということですねっ! 万魔殿が素直に条約締結なんて、おかしいと思っていましたけど!! 本当にやらかしてくれましたね!!!」

 

「万魔殿というより、アリウスと手を組んだのは恐らくマコト。今頃、きっと笑って──」

 

 ヒナが言い切る前に、万魔殿一同が乗っていた飛行船が爆散する。空から降り注ぐ残骸が、辺りに被害を拡大させている。その様子に溜息を吐きつつ、ヒナは懐を確かめた。

 

 そこには、イブキがしたためてくれた”いにんじょう”と平仮名で書かれた物が一通。これは、本日行われる忍ペロさんのイベントと引き換えに、イブキに書いてもらった書状であった。

 

「今だけは、私がゲヘナの代表……」

 

 その一通の書状が、特に興味のないものなのにヒナの心の重石となる。この条約の大切さを、ヒナ自身が良く分かっているつもりだから。

 

「委員長、行ってください。早くしなければ、囲まれます!」

 

 けれども、動かなくてはいけない。アコの言う通り、現在ヒナの周りにはアリウスの生徒達が集結しつつあるのだから。

 

「ごめん、アコ。任せられる?」

 

「はい、こちらも周辺の風紀委員に号令を掛けています。委員長に頼らずとも、皆で力を合わせられればっ」

 

「分かった、お願い」

 

 ヒナは駆け出した。条約を結ぶために、ナギサが待つ古聖堂跡へ。

 きっと、これさえ乗り越えられればと、そんな気持ちを胸に秘めながら。

 

 


 

 

「みんな、大丈夫?」

 

「うん、衝撃はここまで届いていないし、塹壕だってあったから」

 

「でも、かなり揺れましたね。ナギサ様……」

 

「他の子たちも心配だし、早く助けに行かないと」

 

 塹壕から這い出てきた先生たちは、古聖堂周辺を見渡して顔を顰めていた。その惨状が、風に乗って嫌でも伝わってきたから。

 

「先生、それでは我々は独自に行動を開始する」

 

「うん、ユキノ達もお願い。……一緒に行けなくて、ごめん」

 

「私としては、先生には救助活動も控えていて欲しいのですが……」

 

「それは、流石に譲れない」

 

 先生の言葉に、一緒に待機していたユキノ達FOX小隊も苦笑して。嫌いではなくなってしまった大人に格好をつけるため、小隊員4名は静かに自分たちの名乗りを上げた。

 

「FOX小隊、作戦を開始する。──目標は、この事件の首謀者達」

 

 彼女達は目標に向けて、速やかに行動を開始した。

 この場において、彼女達の成すべきこと。それは、エデン条約の乗っ取りを阻止すること。アリウススクワッドを捕捉し、逮捕することが最大の目標であった。

 

 

「私達も」

 

「はい!」

 

「二人は後ろに、私が先行する」

 

 先生たちも、事態の収拾に向けて走り出した。セイアの予言の、その先に辿り着くために。今度こそ、この連鎖を断ち切ろうと決意して。

 

 


 

 

「これは……やっぱり、見切られている」

 

 巡航ミサイルを皮切りに、会場へと地下より浸透を開始したアリウス生達。けれども、想定よりも過少な損害。未だに組織的抵抗を続けられている、正義実現委員会にゲヘナ風紀委員会の生徒達。

 

 勝利条件である条約の乗っ取りは、要のロイヤルブラッドがシスターフッドと地下で鬼ごっこを始めており、最早現場に近付くどころの話ではない。

 

 そして彼女、戒野ミサキの前にも──。

 

「目標を発見、直ちに捕縛する」

 

「……SRT」

 

 アリウス生達の中でも、小さく噂されていた存在。自分達と同じ暴を振るう形をしているのに、単純な虚しさであろうとしていない存在。

 

「形勢は不利……ううん、ハッキリ悪い」

 

 撤退の2文字が脳裏にチラつきながら、ミサキは銃を取った。すぐに背を向けても、タダでは逃がしてくれない相手だと理解できていたから。

 

 


 

 

「芸術の在り方、それを理解できぬ輩のなんたる多いことよ」

 

 古聖堂地下カタコンベにて、身体を軋ませながら歩く木偶は独り言を口にする。その傍には、何者もいない。

 

「喝采はない、喝采はない。古寂れ、忘れられゆくもの。如何な歴史があれど、如何な造詣であろうと、理解できぬ者共にとってはガラクタも同然」

 

 一人、彼は地下深くへと潜って行く。その口ぶりは、どこか寂しそうなもので。──結局、彼の元へ誰かが来ることはなかった。

 

 


 

 

 ヒナは最短ルートを選び、ナギサの待つ場所へと止まることなく駆けていた。無論、最短ルートにはアリウス生達が待ち伏せしているのだが……。

 

「邪魔っ」

 

「む、無傷のヒナさんを相手取るなんて、無理ですぅ!?」

 

 ただ一度の斉射で、訓練されたアリウス生達を一掃する。物陰で隠れてやり過ごした者も居たが、ヒナのスピードに追随できる者は居ない。ヒナが去った後に残されるのは、倒れ伏したアリウス生に加えて、痛いですねぇ、苦しいですねぇ、という諦観の声。

 

 世の中の虚しさを口にしてから彼女、槌永ヒヨリは信号弾を打ち上げた。負けた責任なんて取りたくはないけれど、このままだと自分も地面に倒れ伏す事になり兼ねないと判断をして。

 

 ……それに、きっと最低限の目標は果たせたはずだと、そう信じたから。

 

 

 ──そうして。

 

「見つけた」

 

 ヒナは遂に辿り着いた。ナギサが待っている、調印式の会場へ。

 ボロボロのナギサが、ミカに肩を貸してもらいながらも、ヒナの姿を見つけて笑みを浮かべる。その二人の姿に、ヒナも少し心が動かされた。

 

「お待ちしておりましたよ、空崎ヒナ委員長」

 

「ごめんなさい、遅れてしまって」

 

「ここから見てたけど、すっごく早かったよ。ちょっと感心、そんなに頑張ってくれるんだ?」

 

「……今日は、ハレの日になる筈だったから。でも、まだ間に合うと思って」

 

「そっか、ゲヘナにも平和主義者って居たんだね。全員棍棒持った蛮族って思ってたのに☆」

 

「ミカさん、余計な口を挟まないでください。失礼な上に叩きたくなります」

 

 ナギサに注意をされて、ミカは舌を出して戯けてみせた。思っていたよりも余裕そうな二人に、ヒナも頷いてから懐より一通の書状を取り出す。

 

「これは、万魔殿議員である丹花イブキより託された委任状。羽沼マコト議長にもしもの事があれば、エデン条約に関することに限り風紀委員長が代行を出来るという内容」

 

「ティーパーティーがホスト、桐藤ナギサも空崎ヒナ風紀委員長がゲヘナ代表であることを承認致します」

 

 ナギサがヒナへと近付き、ヒナもまたナギサの眼の前へと歩を進めた。これからの2校の関係、それを示すような慎重さで。

 

「……トリニティは今後、ゲヘナに対する一切の軍事的野心を持たないとここに宣言し、新たな時代を築く努力を積み重ねていくことを、ここに誓います」

 

「同じく、ゲヘナもトリニティへの不可侵条約を尊重し、あなた達との新たな関係を作り上げることを、ここに宣言する」

 

 そっと、二人は握手を交わしあった。こう在りたいという二人の展望が、そこに詰まっていた。

 その様子を、ミカは複雑な感情で見守る。アンチ・ゲヘナの旗頭として、ずっと対立の矢面に立ってきたのが彼女だったから。

 

「……でも、仕方ない、か。嫌いだったら、見ないふりをすれば良い。影でこっそり、悪口を言ってれば良いだけ。乱暴に解決するのは、もう懲り懲りだし」

 

 けれども、ミカは浮かんだ感傷をすべて飲み込んだ。暴力で解決する果ての出来事を、ミカは体験していたから。だから──。

 

「よろしくね、ゲヘナの風紀委員長さん」

 

 おずおずと、自らも手を差し出して。ヒナはキョトンとしながらも、その手を握り返していた。

 

「よ、よろしく?」

 

 これは政治的な、パテル派首領としてのこれ以上ないメッセージだった。ナギサは、そんな親友の衝動的な行動に呆れながら、その歩み寄りが何よりも嬉しく感じていた。

 

 


 

 

『作戦終了、敵幹部は一人しか確保できなかった。期待に添えず、申し訳ない』

 

「ううん、アリウスの逃げ足が鮮やかだっただけだから。むしろ、よく一人でも捕まえられたね」

 

『そう言ってもらえると、慰めになる。ただ、気になる点が』

 

「……アリウスの見切りが早すぎること?」

 

『先生も気がついていたか。そうだ、キヴォトスでは作れない、恐らくは外の世界から持ち込んだだろうミサイル。それを撃ち込んでまでの作戦、普通だったらもっと目的に固執する筈──』

 

「ごめんユキノ、あとでかけ直すね」

 

『イレギュラーか、了解』

 

 作戦終了の報告を電話越しに聞いていた先生は、途中でそれを打ち切った。それは、アズサが上げた声に反応してのことだった。

 

「っ、姫!?」

 

 先生たちは傷付いた生徒達を救護騎士団や救急医学部に引き渡し、アリウスの生徒達に投降を呼びかけながらあちこちを駆け回っていた最中。そんな中で、アズサは見知ったガスマスクを見つけて声を上げた。それを見た先生は、混み合った話になりそうだと通話を一旦終了して。

 

 一方の彼女、姫と声を掛けられた方も、アズサを認識して足を止める。何とかシスターフッドの追撃を振り切って、ここまで逃げてきたため、アズサ達と構える体力が残っていないとも言える。

 

「アズサ、知り合い?」

 

「うん……先生、話しても良い?」

 

「良いよ」

 

「ありがとう……投降して、姫。姫も私と傷つけ合うことを望んでいない、そうでしょ?」

 

 アズサに呼びかけられて姫、秤アツコはガスマスクを取った。その素顔の綺麗さに、ヒフミは初対面時のアズサを思い出し、先生はアズサとアツコの会話に耳を傾ける。この場にいるものは、全員戦意が無いことを確認した故に。

 

「久しぶり、アズサ。……そうだね、あなたと戦うことを、私は望んでない」

 

「ならっ」

 

「でも、サオリ達が待ってるから」

 

 アツコは先生とヒフミに目を向けて、そうしてアズサに語りかける。

 

「アズサも、そこの二人を放って来てって言われても、納得しないよね?」

 

 アツコにそんな意図はないが、アリウスから抜け出したアズサには、些か皮肉めいてそれは聞こえて。

 

「けど、手が伸ばせるのなら。今すぐにでも、迎えに行きたいっ」

 

 アズサは叫んで、アツコは微笑んだ。眩しいアズサを見ていると、何だか嬉しくて。

 

「気を付けて、アズサ。まだ、終わってないから」

 

「姫、それは一体──」

 

 それだけ残して、アツコはまたガスマスクを装着した。そのまま、踵を返して離脱する。アズサは咄嗟に銃の照準を合わせたが……撃てなかった。

 

「アズサちゃん、その、大丈夫です、か?」

 

「ヒフミ、それに先生……ごめん、撃てなかった」

 

「撃っちゃだめです! だって、あの人も、アズサちゃんの友達、なんですよね?」

 

「友だちというより……家族、みたいな人」

 

「なら、余計にダメです!!」

 

 ギュッとアズサを抱きしめて慰めるヒフミに、そっかとアズサは零した。この甘さが、どこかで命取りになるかも。そんなことを思いつつも、そう出来なかったことでヒフミ達の本当の仲間に成れた気がして、嬉しくて……。

 

 

 

 そんな二人を見守っていた先生の携帯に、ハナコから通話が掛かってきた。定時連絡、こっちは上手く行ったと伝えようとした先生はその電話を手に取って。

 

『ごめん、なさい。先生……』

 

 電話口から聞こえたハナコの苦しそうな声に、楽観は全て吹き飛ばされてしまった。

 

「ハナコ、どうしたの! 大丈夫!?」

 

『はい、私は。ですが、セイアちゃんが、メブキちゃんが……っ』

 

 苦しそうな吐息の中で、ハナコは懸命に言葉を紡いだ。絶対に、伝えなくてはならないという気持ちで。

 

『──誘拐、されてしまいました。もし、かすると、そちらの攻勢は予備で、本命は、こちら、だったの、かも……』

 

「ハナコ? しっかりして!!」

 

 電話を取り落とした音がして、先生は直ぐにセリナに連絡を取った。直ぐに、傷付いたハナコを助けてもらう為に。

 

「先生、一体どうしましたか?」

 

 必死な先生の様子を見て、不安さが隠せなくなったヒフミは声を掛けて。アズサは、アツコが去った方へと視線を向けていた。

 

 


 

 

 にゃ? あれ、ここどこかな?*1

 今日はイマジナリーお姉ちゃんが身体貸してーって言ってきたから、いっぱいお紅茶飲んでイマジナリーお漏らしを体験してもらおうと思ってたのに*2。にゃにゃ? 誰か、おんぶしてくれてる?

 

「袋の一つでも用意できれば良かったが、時間が無かった。悪いがヒヨリ、運搬の方を頼む」

 

「え、えへへ、私は役に立ちませんし、雑用くらいは任せて下さい」

 

 薄暗くて、周りがよく見えないけど、背負ってくれてるのが女の子だっていうのはわかるよ!

 

「……姫、無事だったか」

 

 わっ、アズサちゃんばりのガスマスクの人が、にゅっと現れたね? これって、ガスマスク萌えに目覚めなさいっていう、神様のお告げかな? 多分、この子も凄い美少女のオーラがしてるよ!*3

 

 それはそれとして、イマジナリーお漏らししちゃいそうだよ、私! お姉ちゃん、どうして私におしっこパスしたのかな!!*4

 

「ミサキは……そうか、捕まったのならやむを得ない。アズサに一度、預けておくことにしよう」

 

「ふぇ、アズサちゃんを知ってるの? お友達さん?」

 

「り、リーダー!? この子、目を覚まして……」

 

「お前は……気配が違う? 百合園セイアでは、ない?」

 

「あ、えっと、私はメブキ、春風メブキだよ! 今はとっても、おしっこしたい気分だよ!!*5

 

 近くにおトイレ見当たらないし、これはもしかして……立ちションをしなくちゃダメなんだね! ……知らない人しかいないけど、連れションしたら、ちょっと仲良くなれるかな?

 

「見え透いた手だな、温室暮らしのトリニティらしい陳腐な策だ」

 

「そ、そうですよね? そんなこと言って、逃げ出す準備を──」

 

「あっ」

 

「あ?」

 

 イマジナリーお姉ちゃんは、どうしてだか紙パンツが嫌いみたいで、勝手に脱いじゃってたの*6。露出狂なのかな、酷いね?*7 だから、仕方ないの、これは。えっと……ごめんね?

 

「あ、あぁ!?!?!???!!!!!?」

 

 じょぼじょぼじょぼと、おしっこがいっぱい出ちゃう。イマジナリーお姉ちゃんは無駄に我慢してたみたいで*8、いつも以上にタップリと。多分、三分間くらい、ずっと出ちゃってた。まるでお漏らしチキンラーメンタイマーだね?

 

 ……うぅ、パンツもスカートも濡れちゃって、気持ち悪いよぉ。

 

「ご、ごめんなさい、シャワーとか、どっかにありませんか!」

 

 おんぶしてくれてる人も一緒に、シャワー浴びてキレイキレイしないとだよって思って言ったら、何か背が高くてモデルさんみたいな人はビックリした顔をして固まっちゃってた。何か、赤ちゃんはえっちしたらできるって知った時のアズサちゃんみたいだね?*9

 

 うにゃ? なんか背負ってくれてる人、凄くプルプルしてるね? 連鎖おしっこ召喚、しようとしてるの?

 

「も、もう終わりです、おしまいですぅ!!!!」

 

 あ、違うね、これ。おしっこ浴びちゃって、どこでもキレイキレイできない時の絶望の声だよ。…………え?*10

 

「待って、何処にもシャワーもお着替えもないの!? 私達、お漏らしシスターズとして、アンモニアの絆で結ばれちゃってる!? そんなのくちゃいから、絶対に嫌だよ!!*11

 

「そんなの、どこにもありません!! あと、漏らしたのはあなただけです、うわーん!!」

 

 そ、そんな!? こんなのって酷すぎるよ!!

 

「うわーん!!」

 

「うわーん!!」

 

 私たちは、二人で涙を流し合った。こんな物理的な絶望は、転生してから初めてだったから。お陰で、ちょっとだけ仲良くなれた気がするけど……うぅ、やっぱり気持ち悪いよぉ。

*1
すまないメブキ、私が狙われているのは想定外だったんだ。能動的に動いている私は観測できなかったから……いや、言い訳だね。君まで巻き込んでしまって……

*2
常に感じていた尿意の正体はそれだったのか!? ……気のせいだとは思うが、少し漏れてしまっていたらすまない

*3
待てメブキ、状況を把握するんだ。実は君は、連れ去られている最中なんだ

*4
こんな事になるとは思っていなかったからだよ

*5
余計なことを言いすぎるな、メブキ。今の君は、銃声一発で尿意が決壊する状況なんだ!!

*6
恥ずかしいし、当たり前じゃないか

*7
君のお漏らし癖には負けるよ

*8
本当に大変な時で、尿意を我慢するしか無かったんだ! 君の愚かさは、何時だって私の想像を上回ってくる!!

*9
あまりの事態に、理解が追いついていないんだ。……アリウスの生徒も、そういう感性はある、か

*10
そんな事実に気がつくより先に、そろそろ誘拐の最中だと気が付いても良くないかい?

*11
私も嫌だよ

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