コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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奈落

 彼女に初めて姉と言われた時、寂しかったんだと思った。一人で迷子になって、行く先も決まってない形の無いストレンジャー。フワフワとした意識のまま、無自覚に幽霊になってしまった少女。その子に話を持ちかけたのは、お互いに利用できる関係性になれると思ったから。

 

 他の世界の私も見つけられなかった小さな、それこそたった一つの偶然。身体は朽ちても生きていたかった少女と、身体はあるのに死んだ様に生きている私。逆だったら良かったのにと口にした時、キミは私が素敵な女の子だよと断言したね。

 

 チマチマな身体に萌え萌えのお耳、横乳が見えそうな服にダウナーな雰囲気。一目見た時から好きでした! などと言われた時は耳を疑ったが、スリスリと懐かれては拒絶もできない。

 

 勝手に姉と私を呼び始めて、勝手に妹を名乗り始めたキミ、春風メブキ。

 

 最初は、おままごとに付き合ってる気分だった。15歳とは思えないくらいに幼いキミは、ずっと楽しくて仕方がないって気持ちだったみたいだから。

 

 でも、一緒にいる私はキミの心が分かってしまうから。無垢な振る舞いに頭を抱え、常識を置き忘れた発言に振り回され、けれども邪心も悪意も何一つ持っていなかったキミ。

 

 未来が見えても、人の心は信用できない。そう思っていた私に、そうではないよと教えてくれたのがキミだった。

 人は思っているより単純だし、無知であっても善意を忘れずにいて、いつも一生懸命だった。

 

 気が付けば、姉と呼ばれるのに違和感が無くなっていた。

 

 お姉ちゃんと呼ばれる度に、私の中でキミは妹になっていった。キミの成長が嬉しくて、友人ができて世界が広がるごとに寿いで……。

 いつしか、キミの成長を見守るのが楽しくなっていて、くだらない言葉の数々も許容できるようになっていた。

 

 明日が分からなくなった恐怖を、キミは持ち前の破天荒さで吹き飛ばしてくれたね。嬉しい時や楽しい時に報告してくれて、苦しい時や悲しい時はそれを隠そうとした。そんないじらしさが、誰よりも愛おしい。

 

 キミのお陰で、ミカは魔女と呼ばれなかった。ナギサはエデン条約を締結できた。私も、心を誰よりも励ましてもらえていたんだ。でも、それ以前の話だったね。

 

 いつからか、私は無条件で君のことが好きになってた。居てくれるだけで、満足できてしまうくらいに。

 幸福を運んでくる蝶だからじゃない。本当に、心の奥から君に幸せになって欲しいと想うようになっていた。

 

 ──だから、百合園セイアは春風メブキの姉なんだ。

 

 それだけは、自信を持って断言できるよ。

 

 


 

 

 寂しくて寒い場所、キヴォトスで初めて感じる寂しい感じ。……なんか、落ち着かないの。トリニティはどこでもポカポカ温かいのに、この学校だけはなんで違うんだろうね?*1

 

「……ここに住んでるの?」

 

「そうだ」

 

 地下ダンジョンを出て直ぐ、古い校舎の中に入っての。サッちゃんさんたちの学校であり校舎。そのお返事で心配になっちゃった。だって、心が風邪を引いちゃいそうだから。

 

「ねぇ、お漏らしお姉ちゃん」

 

「あのぉ……リーダーがサッちゃんさんなら、私はヒヨリお姉ちゃんで良いと思うんですけど」

 

「そっか、確かにそうだね。私もお漏らしメブキって言われ続けたら、怒ってみんなに紙パンツ被せて回っちゃうと思うし*2。じゃあ、今からヒヨリちゃんって呼ぶね?」

 

「はい。あれ、お漏らしと一緒にお姉ちゃんも流されましたか?」

 

「それでね、ヒヨリちゃん」

 

「は、はぃ」

 

「アリウスって、何するところなの?」

 

 アワアワしてるお漏らし……じゃない、ヒヨリちゃんにお話を聞いたのは、一番お顔に出してくれそうだって思ったから。お話ししてて、相手が無表情だと反応が難しいもんね*3

 

「えっとぉ、戦い方と思想的なものを学ぶ学校、ですね」

 

「エージェントさん育成高校なんだ。思想ってバニバニスーツのこと?」

 

「ばにたすばにたーたむ、全て虚しいことだという思想ですね。私もあなたも、その虚しさの中にいるんです」

 

「すごく過酷な学校なんだね」

 

「はい……」

 

 しみじみと呟いたヒヨリちゃんは、すっごく暗いお顔をしてた。やっぱり、ここは不健全な学校だよ! だって、こんなに我慢させられるのに、全然気持ちよくさせてもらえないんだから!!*4

 

「でもね、おにゃにーくらいは許されても良いと思うんだよ。ムラムラしても、そこまで強くなれないって思うし。多分ね、先生のツチノコさんに負けやすくなっちゃってるよ?*5

 

「はい……はい?」

 

「射精管理は聞いたことあるけど、絶頂管理は初めて……あ、女の子の寸止めがそれにあたっちゃうのかな?」

 

「い、一体何の話をしてるんですか?」

 

「え? アリウスはおにゃにー禁止でムラムラさせられて、強制賢者モードをさせようとしてくる学校さんなんだよね?*6

 

「そ、そうだったのですか!?」

 

「そんな訳があるか!」

 

 ヒヨリちゃんの頭を、ペシンとサッちゃんさんが叩いてた。その後、私にジロって怖い目を向けてきたの。慌てて、アツコさんの後ろに隠れる。なんか、ちょっと緑の香り。菜園とかやってたりするのかな?

 

「……アリウスは、恨みと怨念で形作られている。それを形容する言葉が虚しい──全ては虚しいものだって言葉」

 

 アツコさんがそっと教えてくれたそれは、何だか暗くてゾワゾワする怖い感触のする考え方。虚しいって聞くと空っぽみたいに感じるけど、お話を聞くと中身まで許さないよって気持ちでたっぷり。復讐みたいなことして、後に残った気持ちを現してるのかな?

 

 ……なんだか、そうだったら寂しいね*7

 

「ムラムラを発散するために、復讐するの?」

 

「ムラムラなどしていない」

 

「じゃあなんで、そんなことを?」

 

 思わず、そんなことを聞いちゃってた。サッちゃんさんはジロッと私を睨みつける。私も対抗して、ヒヨリちゃんを盾にするとジタバタってされちゃった。あのねヒヨリちゃん、動くと盾にならないんだよ?

 

「……それが我々のアイデンティティだからだ。継承されてきて、唯一受け取れたもの。憎悪とは、伝え継承することができる代物だ」

 

「先輩たちからの贈り物だったってこと?*8

 

 ヒヨリちゃんに逃げられちゃったから、今度はアツコさんの背中に隠れる……フリをして、スリスリする。年上成分が足りてないから、栄養バランスを考えてちゃんと摂取しないといけないもんね?

 

 ……服の下、何かピッチリしたもの着てる? アツコさん、私がハナコちゃんにスク水フェチにされたのを調査してくれて、下に着てきてくれたのかな?

 

「そう、それと血筋だけが、私たちに許されたものだった……」

 

 アツコさんに抱っこされて、されるがままに私はされてた。アツコさんは、私を好きにしてくれて良いんだからね?*9 サッちゃんさんとヒヨリちゃんは、もっと好感度稼いでからじゃないとダメだよ?

 

「もしかして、アツコさんがお姫様って呼ばれてるの、本当にそうだからで姫始めとは関係ないの!?」

 

「ようやく気がついたか……そうだ、姫はアリウス生徒会長の血を引き継いだが故に、そう呼んでいる」

 

「じゃあ、私もお姫様って呼ばないとダメなのかな?」

 

「アツコでいい」

 

 コアラのメブキと化して、アツコさんに抱きつきながら移動する私。思ってるより、アツコさんって力持ちだよね? 私、40kgあるのに。

 

「じゃあ私も、メブキって呼んでくれていいからね?」

 

「……百合園セイアはお姉さん? それとも、ヒヨリみたいに、お漏らしで結ばれた仲?」

 

「ひ、姫ちゃんまでそんなことを!?」

 

「イマジナリーお姉ちゃんはね……」

 

 当然家族だけど、ちょっとだけ考えてみる。正直に話して良いのか、実はイマジナリーお姉ちゃんとはレズ姉妹なんですって誤魔化しちゃった方が良いのか*10

 

 ……きっとアツコさん、真剣に聞いてくれてるんだよね。なら、ウソっこするのは違うかもしんない。それに、転生したことを話さなきゃ、多分大丈夫だし!*11

 

「イマジナリーお姉ちゃんは家族だよ。自慢のロリ狐ぺったんこお姉ちゃんなの*12

 

「ぺったんこなんだ」

 

「そうなの、私より小さいんだよ!」

 

 アツコさんのお顔は、ガスマスクに隠れちゃってて見えない。でも、ちょっとクスッとしてくれたお声がした気がするの! イマジナリーお姉ちゃん、喜んで? お姉ちゃんのおっぱいで、人を笑わせちゃうことに性行したんだから!*13

 

「そうなんだね、なら──」

 

「姫、余計なことは言うな」

 

 アツコさんがこしょっと耳打ちしてくれそうだったところで、サッちゃんさんが間に入ってきたの。多分、前世は間女の宅配便屋さんだったのかな? 屈強な男の人を、くっころさせる職業だった可能性もあるね?

 

「見られている」

 

 見られてるの? 周りをキョロキョロすると、なんかアズサちゃんタイプのガスマスクつけた人達がチョロチョロっていてて、私たちの方をじっと見てるの。視線はわからないけど、ガスマスクと服を反対向きに着てなきゃ間違いなくそう*14

 

 な、なんか怖いよ、じっと見つめられてると。慌てて、アツコさんとのラブラブ抱っこをやめて、ヒヨリちゃんの後ろに隠れる。

 

 もぞもぞされちゃうけど、私も最近木登りに自信が出てきたから(ウイ先輩にしがみつく為に練習したの!)*15、ヒヨリちゃんに強制おんぶしてもらって離れない。吸引力の変わらない、ただ一人のメブキなんだよ! 実質騎乗位だね?

 

「な、なんで私に引っ付くんですか! あ、いま何か掛けられてる!? お、おしっこ? 霧吹きに入れたおしっこを掛けられてます?」

 

「……おしっこの方が良かった?」

 

 ヒヨリちゃんは、なんか雨の日のダンボールに入ってる犬さんのにおいがしたから。シュッシュって、小さい霧吹きに移してあるファブリーズをしたの。私のおしっこのせいで、ヒヨリちゃんは女の子の危機だったから。

 

 でも、やっぱりヒヨリちゃんはおしっこマニアで、私のあれで喜んでくれてたんだね……。待っててね、直ぐにはできないけど後でちゃんとしてあげるから*16

 

「良いわけありません! もうイヤです、おしっこはイヤなんです!!」

 

「大丈夫、嫌がるふりしなくて良いんだよ、ヒヨリちゃん。私、ちゃんと理解あるの」

 

 ヒヨリちゃんの大声に、周りで見てたガスマスクの人たちが、ザワザワってし始める。おしっこ? と小声で話す姿は、ヒヨリちゃんの性癖を噂してるに違いないの。

 

「ヒヨリちゃん、噂されてるね? これで有名になっちゃって、一躍時の人になったヒヨリちゃんは、おしっこバラエティに呼ばれちゃうの」

 

「そんなものがあるんですか!?」

 

「うん、クロノスの人とか、よくお漏らししたって言われてるし」

 

「そ、そんなぁ。い、イヤです、出演したくありません!!」

 

「でも、ヒヨリちゃんがおしっこを掛けられることで、救われる人がいるんだよ?」

 

「私が救われてません!」

 

 ヒヨリちゃんに、でもねってお声を掛けようとしたところで、べしってサッちゃんさんにかるーく叩かれて。酷いよ! って言おうとしたところで、お口をチャックする。気が付けば、一つの扉の前にいて。

 

 ──なんか、キヴォトスで一番冷たい空気が漂ってる……気がしたの*17

 

「マダムの居られる場所だ」

 

「まだむ、人妻さん?」

 

「減らず口を叩くのもよせ、どうなっても責任は取れない」

 

 タダでさえ重いお口が、べろちゅーされてる感じで喋れなくなっちゃう。本気で危ないって、心の中の猫さんが主張してるの。

 

 まるで、深夜におトイレに行く時みたい。トイレの花子さんが、この先に待ち構えてるのかもしれないね?*18

 

「黙ってついて来い」

 

 サッちゃんさんに従って、ヒヨリちゃんから下馬したの。でも、足を動かそうとしても、駄々っ子になってて動かないの。……イヤな感じ、するもん*19

 

「……何をしている」

 

「ど、どうしても行かないとダメ?」

 

「マダムが所望しているのはお前……いや、百合園セイアだ。姉だろうがなんだろうが、差し出してもらう」

 

 イマジナリーお姉ちゃん、私のお姉ちゃん。キヴォトスに来てからずっとずっと一緒だった、優しいロリ狐さん。そのお姉ちゃんと、お別れさせられちゃうの? ……それ、やっぱりヤダよ*20

 

 お姉ちゃんがいるから、ずっとお気楽でいられたの。楽しいことややらなきゃいけないことに、一生懸命でいられたから。一緒にいて、見ててくれてるってわかってたもん。いつかお別れしなきゃって思ってたけど、いま直ぐなんて……。

 

「手、握るね」

 

「ふぇ?」

 

 おしっこと、いっそのことうんちをして抵抗しようとしてた私に、アツコさんはそっと手を握ってきたの。どしたの? って思ってると、アツコさんは唐突にガスマスクを取って。

 

 ──本当にお姫様なんだって、その時私は信じられたの。

 

「私も一緒だから……ごめんね」

 

「アツコさん?」

 

「ねぇ、サッちゃん。アズサにごめんって、伝えてくれる?」

 

「……姫?」

 

「行こう、メブキ*21

 

 アツコさんに見惚れている間に、初めてお名前呼んでくれたなって思っているうちに、部屋の扉は開かれて。古いにおいに、少しの香水が混じった香り。歴史の匂いが部屋にあって、その中央に──誰かが、いた。

 

「ようこそアリウスへ、百合園セイア……いいえ、依代の亡霊ですね、あなたは」

 

 最初に、紅い色が目を飛び込んで来たの。それから、沢山の目とドレス。アツコさんはお姫様だけど、この人は女主人って感じの気配。

 ヨーロッパの宮殿みたいな場所で、奥の方から私に話しかけてきたの。

 

「……人間さん?」

 

「あなたよりは、そうでしょうね」

 

 コツン、コツンって、歩く度にヒールの音がしてるの。きっと大人の女性、長い髪は綺麗だなって思うけど、でもっ。

 

「死人は死んでいるのが責任です。私が、貴女を冥府へ送り返してあげましょう。百合園セイアを手に入れる、そのついでにですが*22

 

 いま目の前に立ってる人が、やっぱり怖くて仕方ないの。ずっと見られてた感じは、きっとこの人の目。身体が震えて、怖くて、尻餅をついちゃってた。

 

 ──きっと、この人は私を殺しちゃうんだって、分かっちゃう。死んじゃう時の予感が、前世の時と同じくらいしてるから*23

 

「灰には灰を、塵には塵を。──子供らしい、浅はかな企みでしたね、百合園セイア」

 

 どうすれば良いか分からずに見上げる私に、その人は手を伸ばしてきて。すっと、その人の手が私のおっぱいを掴んだの。……ううん、掴んでなかった。手が、腕ごと私の胸に沈み込んでる。ズブズブ、ヌルリって。……なんで?*24

 

「私の瞳はおおよそのモノを捕捉し、知覚できる代物。妖精眼には及ばずとも、特別と言って差し支えないものです。知覚できれば、この様に触れることさえ可能なのです」

 

 クチュって身体の中を弄られる感覚……気持ち、悪いよぉ*25

 

「や、やめて、くださいっ」

 

「動かれると、間違えて握り潰してしまうかも知れませんよ。──貴女の姉を名乗る人を」

 

 怖い人に囁かれて、ピタッて身体が止まっちゃった。だって、イマジナリーお姉ちゃん、死んじゃうかもって……*26

 

「グスッ、な、んで」

 

「フフ、久しぶりですね、ここまで無力な子供は。ですが残念です、もう終わりなのですから」

 

 女の人が、私の身体の中で何かを掴む。温かくて、私よりも大事って思っている部分を*27

 

「や、やめて、イマジナリーお姉ちゃん、取らないで……っ」

 

「さようなら、亡霊の貴女。必要なのは百合園セイアのみです。──消え去りなさい」

 

 私の大好きなお姉ちゃんを掴まれたまま、腕が引き抜かれて。その人は何も握ってないはずなのに、私の大切なものはポッカリと穴が空いちゃってて。それで──それで?

 

 …………………………あっ*28

 

 

 


 

 

 

 ベアトリーチェが薄く笑いながら行っている行為を、サオリは戦慄しながら、ヒヨリは恐怖しながら、アツコは悲しそうにしながら、それぞれ眺めていて。

 

 事が終わった後、腕が引き抜かれると同時に春風メブキのヘイローが消え失せて、身体が淡く解けていく。そうして、後に残されたのは戸惑っているような薄いホタルの様な一つの光。

 

「なるほど、しぶといですね。その未練がましさが、百合園セイアに目を付けられた理由ですか」

 

 まるで虫ですね、なんて言葉と共にベアトリーチェは、その光を踏み抜いた。音はなく、けれども何かがひしゃげる音が、サオリ達の耳には聞こえた。

 

 そして……。

 

「マダム、サオリ達は逃がして」

 

「姫、何を言っている?」

 

 悲しみを湛えたまま、アツコがベアトリーチェの前へと歩み寄った。サオリとヒヨリは意味が分からず、困惑するばかり。ベアトリーチェは、我が意を得ていると満足気に頷いた。

 

「……マダムが百合園セイアを欲したのは、自分が取り込むため。だからあの子を……メブキを、無傷で捕まえてくるように指示していた。でも、今のマダムは大人で、生徒じゃないからそれは不可能。だったら、百合園セイアを受け入れる器を作らなきゃいけない」

 

「そうです、その器を形作るための儀式は、ロイヤルブラッドでなければ行えません」

 

 正確には、そんなことはない。だが、より崇高に近付くために、ベアトリーチェ自身が取り込む神秘はより厳選したものでなくてはならない。少なくとも、彼女自身はそう思い込んでいた。

 

「で、ですが!?」

 

「いいから、サっちゃん」

 

 食い下がろうとするサオリに、アツコは首を振って押し止める。その胸にあるのは……様々なことを諦めて、アズサの友達までも諦めてしまったが故の諦観と罪悪感。

 

「ごめんね、サっちゃん、ヒヨリ。アズサとミサキにも、ごめんなさいって伝えて」

 

 だからせめて、死後の世界へは一緒について行ってあげないと。贖罪の意識を、そうすることで示そうとアツコはしていて。

 

「私は……」

 

 サオリは、迷いながらも銃に手を伸ばして。けれども……。

 

「サオリ、そこまでです」

 

 ベアトリーチェが指を鳴らすと、奥の方からアリウス生達が三個小隊突入してくる。待ち構えられていた、それが一目で分かる準備の良さ。最初から、そのつもりだったかと、サオリは歯軋りするしかなかった。

 

「サオリとヒヨリは追放処分とします。アリウスから退去しないのならば、この場で処理しても構いません」

 

 ベアトリーチェの言葉と共に、複数の銃口がサオリとヒヨリへ向けられて。

 

「クソッ」

 

「……悲しいこと、ばかりですね」

 

 二人は、形勢不利と判断してすぐさま背を向けた。アツコを置いて、今は勝てないと逃げ出していた。それが出来る教育を、アリウスは施していたから。

 

 

 

「──サオリ?」

 

 そして二人は、アリウスに足を踏み入れんとする先生達の前に現れた。顔色は白く、困惑と動揺を隠せないまま、けれども意志を宿しながら。

 

 

 


 

 

 

「マダム、ぞんざいに扱われては困ります」

 

「そうでしたね、ゴルコンダ。あなたはこのゴミを欲していましたか」

 

「えぇ、彼女達の在り方は、私達とも重なるところがありましたから」

 

 虚像と非実在、現実と空想、在るようで無いもの。ゲマトリアが一員、ゴルコンダが春風メブキと百合園セイアの存在に気が付いたのはつい最近のこと。自分達とは違い、表現としての在り方ではないが、その実情や経緯などはメルヘン(物語)足り得ると認識した二人。だからこそ、彼は問いかけてみたいと思って、ベアトリーチェに取引を持ち掛けていた。

 

 ヘイローを破壊する爆弾の対価は、これでいいと。きっと、この物語はまだ消費しきれていないからとも。

 

 もの好きですねと、虫の息になっている光を回収するゴルコンダをベアトリーチェは見下した。ゴルコンダが目指すであろう崇高は、曲がりくねった複雑怪奇なものに違いないと、確信しながら。

 

「では、失礼します。これより、彼女と話さねばならないので」

 

「そういうこった!」

 

 虚像と非実在の片割れ、デカルコマニーは掴んだ光を、壊れ物の様に自らが掲げているキャンバスへと迎え入れた。そのまま、彼は宛がわれた部屋へと、ひっそりとその身を隠した。対話と、もしかすると再話が始まることを期待しながら。

*1
恐らく、空の目が届かないような、そんな場所だからだろう……危険な場所だ

*2
キミは怖がってるくせに、もう少し緊張感を持ったらどうなんだ? ……怖いからこそ、か?

*3
そうだね、ここでは知恵を出していこう。時間さえ稼げれば、先生たちがきっと……

*4
まて、知恵を出せと言ったんだ。エチを出せとは言ってない!

*5
困り始めると、直ぐエロに逃げる! キミの悪い癖だ!!

*6
そうだったら、どれだけ平和なことか

*7
正しい解釈では無いだろうが、寂しさと共にあるしか無かったんだ、アリウスはね

*8
憎悪の継承こそが唯一渡せる思い遣り……ミカがどうにかしたがった理由も、分かるというものだね

*9
……懐き過ぎている、もうちょっと離れなさい

*10
良い理由が何一つ無いんだ

*11
狂った誤魔化しをされるよりかは、遥かに傷は浅く済むからね

*12
余計な語彙が多すぎる!

*13
笑いものにされる立場から言えば、キミの乳房は私よりも確実に小さいということだけだよ。キミも笑いものにされてしまえばいい

*14
喚きすぎないように、いいね?

*15
……ウイに再会するためにも、何とか抜け出さないとね

*16
最早、手段を選んでる場合ではないか……メブキ、やれるかい?

*17
……メブキ、撃たれてもいい。引き返してくれ。ここにはきっと、あの大人がいるっ

*18
怖がっているのに、茶化して立ち向かおうとしなくていいんだ! クッ、声がどうやっても届かないのかっ!!

*19
っ、声は届かなくても、気が付いたのかい!?

*20
私のことはどうだっていい、それよりもキミが……

*21
待って、本当にやめてくれ!

*22
やはりっ、私の妹に近付くな!!

*23
お願いだ、どうかメブキを……

*24
な、なんてことをしているんだ!

*25
メブキを無茶苦茶にしないで、お願いだ……

*26
離してくれ、メブキを離すんだ!!

*27
や、やめっ──

*28
あ、ああああああああああああああ

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