コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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理由

 今のアリウスは大幅に弱体化していた。先のエデン条約で投入した部隊は半壊しており、ヒヨリの判断で撤退指示が出されていたが、それも半数以上が帰投していない。トリニティが総動員をしなくとも、正実が総力を上げれば押し込める程に、今のアリウスは弱りきっていた。

 

 しかし……。

 

「も、もうっ!」

 

「ちっ、このルートも使えないか」

 

 先走り気味だったコハルを引き留め、裏をついたルートを取ろうとしたサオリは、そこにも待ち伏せが存在していることに舌打ちする。ただ、"どうするのよ!"とコハルに睨まれても、その顔には焦りはなかった。

 

「こうする」

 

 サオリはジーンズのポケットから、何かの起爆スイッチを取り出した。それを容赦なく押すと、何処かで爆発が起こった音がする。それも複数箇所から、同時に。モクモクと黒煙がアリウス各所から舞い上がり、目を丸くしてるコハル達はサオリは冷静に告げた。

 

「敵は混乱している、薄い箇所からなら突破出来るだろう」

 

「あ、あんた、さっきまで味方じゃなかったの、ここの奴ら」

 

 引き気味のコハルに、サオリは好戦的に笑って。

 

「私が爆弾ごっこした後のやつ、片付けてなかったんだ」

 

「思い出だからな」

 

 アズサと、何やらおかしな会話をし始めていた。ヒヨリは"そんなこともありましたねぇ"としみじみ言い、ミサキは"ヒヨリが一番引っ掛かってたよね"と呆れ気味に呟いて。

 

 どうやらアリウスにおいては、遊ぶことも一つの訓練だったというのを知るという、とても嫌な一面を垣間見た先生だが、それでもチャンスはチャンスだった。

 

「一気に行こう、みんな。メブキは一番奥に?」

 

「ああ、ベアトリーチェが居るバシリカに、彼女も居るはずだ」

 

 サオリの言葉に頷いて、未だに動揺が隠せていないアリウス生に、先生の指揮の下に強襲を掛ける。士気は旺盛、勢いもあった。実力だって人一倍、それに先生の指揮まである。見張りのアリウス生が先生達を止められる理由など、どこを見渡してもありはしなかった。

 

「メブキ、待ってなさいよ。いますぐ助けに行ってあげるから!」

 

 その中で、コハルは誰にも負けないくらいに懸命だった。だって、誰にも負けない自負があったから。

 

 ──メブキのバカは、私が面倒見てあげなきゃいけないの!

 

 なのに勝手にフラフラして、勝手にボロボロになって、挙句に勝手に居なくなるなんて許さないし許さない。

 

 春風メブキは、下江コハルの親友だから。もし居なくなろうとしてるなら、言ってやらないと気が済まないことは沢山ある。だから、だから……。

 

「すぐ行くから、頑張っててメブキ!!」

 

 誰よりも前へ、引き止められながらもコハルは必死に進んでいく。心配ばかりさせるバカのほっぺを、引っ張り回してお仕置きしなきゃダメだったから。彼女の手は熱く、火照りの中で銃を握りしめていた。

 

 


 

 

「ふむ、ふむふむふむ。卵が先か鶏が先か、これは永遠の命題ですが、今回に限っては卵の方が先だったと、そういうことですか!」

 

 真っ黒なお顔を見せてから、直ぐにゴルコンダさんは何かを書く作業に戻っちゃったの。とっても嬉しそうだけど、私が赤ちゃんだって分かっちゃって、お母さんになる準備を始めちゃってるのかな?

 

 男の人でもお母さんになれる、そういうポリコレ的な世界を表現しようとしてるのかもしれないね?

 

「ふふ、ふふふふふっ、これは面白くなってきました。なるほど、まだ生まれてすらいなかったと、そう定義するのならば!! ベアトリーチェも、足を掬われることもあるやもしれません」

 

「ゴルコンダさん、楽しそうだね?」

 

 死んじゃった私を理解しようとしてくれてる、なんか変な人。でも、お話したら、私のことを分かってくれるし悪い人じゃないって思うの。多分、顔面コナンくんの犯人だから、沢山勘違いされてきてるって思うけど。

 

そういうこともあるでしょうが(私はそうですが)そうでないこともあるでしょう(もう一人は違うようです)

 

 楽しそうって言ったことへの、ゴルコンダさんのお返事。どっちなのか分かんないね? でも、カキカキするスピードは早いままなの。もしかして私、赤ちゃん系ヒロインとして、ネットの海に放流されかけちゃってる? ゴルコンダさんはいま、赤ちゃんメブキをヒロインにした小説書いちゃってるのかな?

 

 だとしたら、主人公はイマジナリーお姉ちゃんでよろしくお願いします! あの横乳はね、私に授乳するために横乳になってるってさっき気がついたから!

 

「メブキさん、次の読解へ進んでも良いですか? あなた方には元より興味がありましたが、更に興味を深めてしまいましたので」

 

「良いけど、私からも質問して良いかな?」

 

「どうぞ、ここは自由に解釈できる場。メブキさんにも、その権利はあります」

 

「ありがとうございます! んとね、えっとね……ゴルコンダさんは、横乳派かぱふぱふ派かどっちかな?」

 

「横乳、ぱふぱふ……ふむ、なるほど。普段は解釈しない内容です、不得手というのもありますが。しかし、問い掛けには応えねばなりません。これまでの文脈的に、授乳時の方法論についてのことと受け取りますが、良いですか?」

 

「良いよ!」

 

 私がもしイマジナリーお姉ちゃんのお乳を吸うなら、横から吸うのか前から吸うのか。これはとても重要なこと、ゴルコンダさんみたいに言うなら赤ちゃんなりの表現だもんね。

 

「それならば、答えはすでに決まっております。古来より、絵画や表現法においては正面からの授乳、つまりはぱふぱふと評されるものが主流でした。無論、私が表現する場合でもそのように致します」

 

「ゴルコンダさんは、ぱふぱふの方が好きなんだね!」

 

「はい」

 

 ゴルコンダさんは、えっちなことを恥ずかしがらずに言える、男前さんだったよ! 先生は直ぐに恥ずかしがっちゃうし、メブキのパイパイが大好きって何回も言って、特訓しなきゃダメなんだからね!

 

「満足されましたか?」

 

「うん!」

 

 大満足だね! 今度先生の夢枕に立って、ぱふぱふ、パイパイってずっと囁き続けないと。次に転生する時まで、私はみんなを護る守護霊さんなんだからね!

 

 ……本当に私、もう無理なの?

 

「ではメブキさん。今度は私があなたの掘り下げを行いますが、よろしいですか?」

 

「おっけーです!」

 

 ぐにゃってしかけた頭をブンブン振って、ほっぺをパンパン(えっちな音じゃないよ!)する。……よしっ、どんなえっちな質問でも、私ぱんぱん(えっちな音だよ!)答えちゃうからね!

 

「それではメブキさん、あなたがなりたいもの、もしくは憧れているものはありますか?」

 

 まるで噂に聞く、えっちなビデオのインタビューみたいな質問。もしかすると、どこかに隠しカメラが設置されてて、心霊映像体験ブルーレイディスクとして焼き付けられてるのかもしれないね? 見たら最後、私が毎晩夢枕に立っちゃうの。

 

 コハルちゃんがそのブルーレイを見ちゃったら、毎晩サキュバスメブキになって、どすけべASMRを頭の中でしてあげるんだ!

 

『しーこしーこ、しーこしこ、寂しくなんてないからね? 私が死んじゃっても、コハルちゃんはこうして絶頂できるでしょ? それはね、生きてるって証拠になるんだよ』

 

 コハルちゃんのおにんにんを握って、優しく語りかけるの。

 

『幽霊はイきてないから、沢山イクことができるコハルちゃんはこれからも毎日イき続けなきゃいけないの。ずっと悲しんでちゃダメなんだからね!』

 

 ビクビクってし始めたコハルちゃんに、サキュバスメブキはざーこって言いながら続けちゃうんだ。

 

『……それはそれとして、寂しいから毎日夢枕に立つね? 毎日絶頂させて性を実感させるから、楽しみにしててね!』

 

 うん、これだよ! 毎日コハルちゃんを絶頂させた後に、ウイ先輩のもとに行く。これが私の二股に生死を掛けちゃうソリューションだよ!!

 

「私ね、サキュバスになろうって思ってるの」

 

「ほぉ、それはそれは。夢で睦み合うことで、友人と出会うことが出来るからですか?」

 

「そうなの!」

 

「それもまた、儚い物語として面白くはあるでしょう。ですが、いま私がしているのは、もう少し根の部分の話です。

 ……そうですね、ならばこう言い換えましょう。生まれ変わったら、何になりたいのか」

 

「イマジナリーお姉ちゃんの妹! と、そういう意味じゃない、です?」

 

「えぇ、人間関係に束縛されない答えを欲しています」

 

 反射的にお口が動いちゃってた。イマジナリーお姉ちゃん、お母さんにもなって欲しいけど、お姉ちゃんでもいて欲しいの。でも、そういう答えをさっと避けていったら……。

 

「猫さんです!」

 

「なるほど、猫ですか」

 

 カキカキしてるスピードが上がったゴルコンダさんは、ねこねこメブキ概念を創出しようとしてるみたい。多分、ゴルコンダさんが転生したら、ねこねこソフトのシナリオライターさんになるかもしれないね?

 

「自由の象徴、気侭な性質、されど人と共生しなければ生きていけない種族。ふむ……」

 

「何よりかわいいの!」

 

「更には憧れが強い、猫は存在しているだけで良い生き物と感じている、と」

 

 ゴルコンダさんの注釈に、ウンウンと頷く。猫さんはね、存在してるだけで愛を溢れさせちゃうの。みんな、にゃーんって気持ちにさせちゃうもん!

 

「なるほど、では次の文脈に向かいましょう。……メブキさん、あなたは生きるということに対して、どう思われてますか?」

 

 さっきまでのアダルトインタビューから一転して、今度は哲学的な質問がやってきたね。ゴルコンダさん、書いてる間に射精しちゃって、賢者タイムに入っちゃったのかな? だったら、ゴルコンダさんは竿役さんに不向きだから、私の貞操はすごく安全だね!

 

 でも、それはそれで心配だから、ゴルコンダさんは病院に行った方がいいと思うな。一人でにイク前に泌尿器科に行った方が、多分幸せになれると思うの。

 

「えっとね……一生懸命になること、だと思うよ」

 

「そうでなければ、生きていないと?」

 

「ううん、色んな人がいると思うけど、生きるって大変だから」

 

 例えば、何も出来ずに一日過ごしてしまう時。何かしなきゃって思うたびに苦しくて、何も出来なかったと思い返すたびに切なくなるの。それでも何も出来ないのは、生きてるだけで精一杯だから。

 

 私は身体が苦しくて何も出来なかったけど、心が息苦しくて何も出来ないって時もあるって知ってる。身体がボロボロになると、心もボロボロになっちゃうから。

 

「生きてるだけで、必死にならざるを得ない人がいる。醜い現実ですが、それが真実の人もいるでしょう。ですが、今のあなたはそうではない様に見受けられますが?」

 

「んー、どだろね?」

 

 言われて、ちょっと考える。今の私、イマジナリーお姉ちゃんが居なくなって寂しくて、死んじゃったと分かって切ないの。でも、ドーンってテンションは下がりきってない。もう死んじゃったしって、諦めてるのとも違う。

 

 もうちょっと考えてみると、ピコンって答えがわかっちゃった。補習授業部で、みんなに教えてもらって頭が良くなったから気がつけたのかも!

 

「分かったよ、ゴルコンダさん!」

 

「メブキさん、あなたの答えを聞かせてください」

 

 難しく考える必要なんて、全然無かったの。哲学的な質問だったけど、ずっと私はそれを貰い続けてきてたから。

 

「一生懸命になることって答えは変わらないけど、一生懸命になるための条件があるの!」

 

「それは?」

 

 胸にあるのは、沢山の思い出。

 最初にイマジナリーお姉ちゃん、次にコハルちゃん。それから、沢山の友だちができて私が胸いっぱいに貰ってきたもの。

 

「──優しくされること。それが一生懸命になれるための、たった一つの条件だよ」

 

 例えば、イマジナリーお姉ちゃん。私を選んでくれて、キヴォトスに連れてきてくれたの。お姉ちゃんとして私を妹にしてくれて、ずっとずっと愛し続けてくれてた。愛は目に見えなくてもあるって、イマジナリーお姉ちゃんと一緒にいたら分かっちゃった。

 

 例えば、コハルちゃん。ウマシカでどうしようもない女の子だった私を、手を繋いでえっち本を一緒に読んでくれたの。それから友達になってくれて、いっぱいのはじめましてをコハルちゃんに教えてもらった。

 

 例えば、先生。お漏らしメブキと化した私にシャワーを貸してくれて、お兄ちゃんみたいに温かく接し続けてくれたの。私はウマシカな生徒で、普通だったら投げ出したくなっちゃうくらいバカバカだったけど、先生は最後まで見捨てないでくれた。

 

 他にも、例えばが沢山出てきて、それぞれのお顔が浮かんでくる。沢山の優しさが、私に差し伸べられてたって思い出せる。

 

 そうして、他にも。例えば──。

 

「例えば、ゴルコンダさん。死んじゃった私にお話する機会をくれて、いっぱい理解してくれようとしてるよね?」

 

「……私、ですか?」

 

 意外そうに、まるで男の娘だと思ってたのに女の子だったのが発覚した時みたいな、そんなお声を出してる。急に自分の話しされると、驚いちゃうよね。でも、事実だから変えられないことなんだよ?

 

「メブキさん、私は優しくなどしておりません。自分の知りたいことを探求し、自己の都合のみを優先している大人です。子供に対しての責任感など持ち合わせておりませんし、自分が良ければそれで良いと思う類の大人ですよ」

 

 ゴルコンダさんは、まるで先生がお勉強さんを教えてくれる時みたいに、穏やかな声で違うよって否定して。自分が無責任えっちする人なんだよって、そんな自己紹介をしたの。照れ隠しで言ってるんじゃなくて、本当にそうなんだって言ってる。ゴルコンダさんは賢くて、ここでは誠実で居てくれているってのが分かるから。

 

 でもね、それでもって思うんだ。

 

「優しくされたと思ったら、それはもう優しさなんだよ?」

 

 だって、優しくされた私は元気で居られてるんだもん。それはウソじゃないから、優しさも本当になっちゃうの!

 

「──なるほど、あなたの認識も、また優しさなのですね」

 

「!? 私も優しく出来てますか!」

 

「元より、優しい性格なのでしょう。だからこそ、相手にも自分にも優しく居られるというものです」

 

「えへへー」

 

 もしかすると頭を撫でて貰えるかなって思って差し出してみるけど、ゴルコンダさんは後ろを向いてカキカキしてて全然気が付いてくれなかったよ! 残念だね?

 

 それでね、ゴルコンダさんの沢山カキカキしてた手が、急にピタっと止まったの。頭撫でてくれるのかなって思ったら、それも違うみたい。ペンをそっと仕舞ったから。

 

 

「メブキさんと百合園セイアさんの関係性、メブキさんのパーソナリティ、これらはおおよそ読解できました。愛されて然るべき星の下、皆に愛されるために生まれてきた。そういう方なのでしょうね、あなたは」

 

「……もう分かっちゃったから、お別れってことです?」

 

 ゴルコンダさんは私を解るために、呼んでくれたって言ってたから。もし終わりなのかなって思うと残念で、寂しくてしょんぼりしちゃう。

 

 でも、ゴルコンダさんはすぐに答えなくて、ふむ、ってお手々を顎辺りに置いて考え始めたの。そうして、ブツブツと独り言。

 

「最初の目的は、私達とメブキさん達の類似性への興味。裏側が表に、表側が裏側になっていた理由も、メブキさんの欲求と百合園セイアさんの愛が故と分かりました。メブキさんへの掘り下げも済み、そのキャラクター性も理解できました。ならば、後は気にするべきはメブキさんではなく百合園セイアさんの把握ですが……」

 

 チラリと、ゴルコンダさんが私を見たの。のっぺらぼうだからどこが目かわからないけれど、見られてる感じがすごくする。多分、えっちな意味じゃない。どちらかって言うと……何だろ、優しい感じがする?

 

「個に対する感情移入も、物語を読む上での醍醐味ですね」

 

「ふぇ?」

 

「最後にもう一つだけ、聞いておきましょう。答えてくださいますか、メブキさん?」

 

「えと、はい」

 

 私、これからどうなっちゃうのかなって思ってたら、一回だけだから理論でゴルコンダさんはお話を続けて。私も、もうちょっとお話してたいから、うんって頷いて。

 

「──生きていたいのでしょう、メブキさんは」

 

 急に、そんなことを聞いてきたの。

 

「え、えっと、その、えとね……い、イキたいって唐突だね、ゴルコンダさんは! 女の子にセクハラしちゃダメなんだよ!」

 

「心の形を明かしてもらったのです。ならば器の底をなぞるのは、至極当然の好奇心というもの」

 

 じっと見つめられて、言葉に困っちゃった。だって、そんなの当たり前で、みんなとずっと一緒に居たくて、幸せにもなりたくて……考えても無駄だって思って、脳内パソコンのえっちフォルダに隠してた筈の想いが、抑えられなくなっちゃいそう。

 

 また泣いちゃいそうだから、私は喋らずにコクンと頷いたの。すると、ゴルコンダさんは満足そうに一度頷いてて。

 

「優しくされると一生懸命になってしまう。私にさえ優しくされたと思ってしまう心根では、それだけでもまだ頑張りたいと思ってしまったことでしょう」

 

 ゴルコンダさんの手にペンはない、何も書いていない。ただ、私に話しかけてくれている。私にえちえちヒロインを見出して、それだけだった筈のゴルコンダさんが。

 

「春風メブキさん、私はあなたに何も出来ません。それは裏切りであり、文脈もなく、軽薄であるが故にです。ですが唯一、あなたにはこの言葉を送りましょう」

 

 そう言うと、多分ゴルコンダさんは笑ったの。表情が見えないから、絶対とは言えないけど。

 

「──待て、しかして希望せよ」

 

 その言葉と一緒に、誰かが私を呼ぶ声がしたの。

 

 


 

 

「もうそろそろ、潮時でしょうか」

 

 侵入した先生達への対処、防戦、追撃。その尽くが空振り、打ち砕かれるアリウス生達の不甲斐なさを思い、ベアトリーチェは一人呟いた。儀式はもうすぐ行われる、秤アツコは贄へとなるのだ。そうすれば、百合園セイアさえも取り込めて、自身は誰よりも先に崇高へと辿り着ける。そのことを夢想し、浮かんだ笑みを扇子で隠した。

 

 そして直ぐに、その場へ駆けつけてきた足音が複数。ベアトリーチェは微笑みを浮かべて、哄笑すらしてみせた。

 

「そこで見ていなさい、百合園セイア。死出の旅路を、賑やかにして差し上げましょう」

 

 バシリカへ、真っ先に駆け込んできたのはサオリとコハルの二名だった。特にサオリは、十字架に掛けられたアツコを見て、頭の何かが切れてしまっていた。

 

「ベアトリーチェ!!」

 

「メブキを返しなさいよ!!」

 

 その者たちを確認して、コハルの言葉を聞いたベアトリーチェは、合理性と嗜虐心が合わさったアイデアを閃いた。またの名を、思い付きでの生兵法とも言う。

 

「ようこそ、先生方。歓迎致しますわ、フフ、尤も貴女方が求める春風メブキは、ここには居ませんが」

 

 ベアトリーチェは嘯いた、メブキを求めるのならば違う場所へと。

 偉大なる大人の力があるにしても、一度に相対する人数は少ないに越したことは無いのだから、と。

 

「みんな、メブキは、もう……」

 

 そうして、それを見ていることしか出来ないセイアは、切ない気持ちで呟いた。妹のためにここまで来てくれた感謝と、もう手遅れな状況に対する絶望から。

 

「行ってあげてください、コハルちゃん、それに先生。メブキちゃんを助けてあげられるのは、きっと二人なんです。……円堂さんが託してくれたメモが、きっと役立ちます」

 

 ハナコの言葉に頷いて、場を離れていくコハルと先生。そうして、ハナコはベアトリーチェには見向きもせず、宙を眺めて呟いた。

 

「セイアちゃん、メブキちゃんは何とかなります。だから──私はセイアちゃんを助けます。メブキちゃんと同じ、私の大事なお友達ですから」

 

 それは、セイアのことを思いやってのハナコの言葉。本音ですらあるそれは、セイアの胸に突き刺さって。

 

「すまない、私は奇跡を祈ることしか出来ない。……でも、信じたいよ」

 

 孤独に呟いた言葉は、誰にも聞こえることなく宙に溶けていった。

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