コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
「おお、これは!」
鼓動がした、何処からともなく心臓の音が。
それを耳にしたのはゴルコンダだけで、それは書斎の主であるからこそ感じ取れたもの。
──命の、瞬き。
「ねぇ、ゴルコンダさん」
「何でしょうか、メブキさん」
ふわりと淡い光に包まれる中で、メブキは目の前の大人に語りかける。メブキにとっては、死んだ自分を拾い上げて、一人にしないでいてくれた大人。逆に彼にとっては、興味深い研究対象と言ったところではあったが。
「助けてくれてありがとうって、最後に伝えたくて」
「……優しくされたと、そう思われていることに対してですか?」
「それもあるけど、それだけじゃなくてね。……いっぱい踏まれちゃってた時、助けてくれてありがとうって言いたかったの」
それはベアトリーチェから被虐の対象にされて、嬲られていたときのこと。メブキの意識は朦朧としていて、身体が壊れてしまった時に見知らぬ怖い人に攻撃されていた、という意識くらいしか持っていなかった。
ただ、誰かがその時、自身を助けてくれたことも薄っすらと覚えていた。そして、目覚めた時にはゴルコンダの書斎に居て、自分と会話して理解してくれた。鈍いメブキでも、普通に考えれば誰が自分を助けてくれたかなんて理解できる。
「気付かれていたのですか」
ゴルコンダは素直に感心して、どうしてだかそんな自分に苦笑した。どうにも、ベアトリーチェよりもメブキの肩を持ってしまっている自分のことに気が付いたから。どうやら、彼にとっては両者を比較するとメブキの方が好ましい登場人物らしい。
「うん、だからね、何かお願いしてくれて良いんだよ? えっちなこと以外なら、頑張ってお礼したいから!」
そんなメブキの、無垢な筈なのに何かがおかしい言葉を受け取って、ゴルコンダは僅かに考え込んだ。
お礼、と彼女は言った。助けたことに対する対価を、メブキは支払いたいのだ。ゴルコンダと直に向き合って、話が出来る機会が最後だということを察しているから。
「ならば、そうですね」
その幼気さに、ゴルコンダは結論付けた。いま目の前で起こっている奇跡は、先生の力もあるだろうが、メブキ自身がキヴォトスに足跡を残してきたから刻めたもの。そのことに対して、敬意を払って。
「掴んで見せてください、溢れんばかりの青空を。この物語の終局を、良き青空を以て終わらせるのです。あなたが青春と呼ぶ果実を、気侭に貪るためにも」
そっと、彼はメブキの背中を押した。
再構築が始まり、最早この場に留まることが出来ないメブキは、最後にとびっきりの笑顔を残して。
「ハッピーエンドで終わらせちゃうから!」
最初から存在しなかったかの様に、彼の書斎から姿を消した。
久しぶりの客人だったからだろう、ゴルコンダは部屋が少し広く感じた。
──そして、再構築が始まった。
現実が書き換えられる、痕跡が無かったはずなのに存在するメブキの残り香を世界は認識する。
「どうか、どうか……」
「春風さんに、幸いがあらんことを」
それは、ある教会にて祈りを捧げる少女達の願い。
「メブキさん……」
「シミコめ、余計なことを! 行方不明だなんて聞かされてから、何も手が付かないっ」
それは、歴史ある古書館での一幕。友人を想う少女達の心配。
「さて、間に合えば良いのですが……」
「こんな怪我、メブキちゃんやセイアちゃん達の大変さと比べれば、全然大した事ないのに……」
それは、ようやく落ち着いてきた古聖堂跡地の天幕で。今後を憂う少女達が、焦燥で胸を焦がしている。
他にも散らばっている、少女達の一人の少女を想う気持ち。
それは確かに存在して、それはあちらこちらに点在していた。だから……。
──大空は確認した。
──大空は理解した。
在るべきはずのモノがないのだと。ならば、正しく配列し直さなければならないと。
そして、大空は行動した。どこまでも澄み渡るようにと、そういうテクスチャで透明に輝きながら。
最初に気が付いたのは、古聖堂跡地にいた少女達だった。
「これは……」
「朝?」
先生たちの眼の前で、光が収束して一つの形を取る。絵画から飛び出してきたそれに、コハルは勢い良く駆け寄って。思いっきり、少女の名前を呼びながら抱き寄せていた。
「バカ、バカバカメブキ! もう、いつも勝手に居なくなっちゃダメって言ってるでしょ!! 良かった、ほんとに良かった……っ」
「えへへ──ただいま、コハルちゃん!」
少女、春風メブキも、コハルのことを抱きしめ返した。そうして、抱きしめ合うことで伝わってくる体温が、脈動が、メブキに生きているということを教えてくれる。
温かな手、トクンと高鳴る胸、血が巡る意味、全部が全部愛おしいとメブキは全ての愛の中で思った。
「……ゴルコンダ、メブキをお世話してくれてありがとう」
「おや、先生からお礼を言っていただけるとは。気紛れな悪人の善行です、あまり真に受けないでくださると助かります」
「善行って自覚があるなら、本当にメブキを思ってくれてのことだったんだね」
「さて、どうでしょうね」
明らかにゴルコンダは誤魔化していたが、先生も深くは追及しなかった。ただ、何かキッカケがあればと、そんなことを思ったくらいで。
「ですが先生、よろしかったのですか?」
「何がかな」
「確かに、奇跡は舞い降りました。ですが、本来それは選ばれしものにのみ降り注ぐはずだったテクスト。──先生、本来はあなたが擦り切れた時のための、誰かが用意してくれていた保険だったのではないですか?」
ゴルコンダは、少女達の友情を傍目で確認しながら、そんな問い掛けをした。そして、この物語の中心にいるのは先生だという確信があるからこそ、余計な気を巡らせずにはいられない。先生こそが、この世界の崇高への階段を登る権利があると思っているが故に。
「……私は自分が知っている範囲でしか理解できないし、教えることも出来ないけど」
そんな心配を、先生は普段と変わらずに、きっと何時でも何処でも変わらない答えで回答した。
「それで傷付いた子供を助けることが出来て、生徒が健やかでいてくれるのなら、後悔なんて一つもしないよ」
あまりにも真正面の綺麗事が過ぎて、ゴルコンダは素直に肯定をし難かった。ただ、と思うこともある。
本来、ゴルコンダが求める文学とは、テクストとは、こんな青く透き通るものではないのだ。もっと灰色で、味わい深く、後味が残る代物なのだ。それが覆っても尚、こうしてページを彼は読み進めている。それは……。
「宗旨替えをした訳ではありませんが……この度の物語に出会えたのは、先生が居たからだということは疑いようがありません。あなたがあなたでいる限り、無限に青は尽きないのでしょう」
ですから、とゴルコンダは繋いだ。何やら歯切れが悪いような、そんな口調で。
「事ここに至っては、中途半端が一番物語を損ねます。どうか、物語に一貫性を持たせてくださいますように」
「言われるまでもないよ」
そうして、先生はゴルコンダから背を向けた。まだ助けないといけない生徒は、他に存在しているから。
「行くよ、イマジナリーお姉ちゃんを助けに!」
「っ、うん!」
「そうよ、ハナコ達も助けなきゃ!」
先生の声に反応して、二人はパッと抱擁を取りやめた。また、手が離れ得ぬ限りは分たれることはないと信じて。
「──メブキさん」
「なに、ゴルコンダさん」
そうして、今度はバシリカに戻ろうとする中で、ゴルコンダは最後に声を掛けた。舞台に上がるには、無力ではいけないという美学を持って。
「こちらを、どうぞ」
ゴルコンダに促されて、デカルコマニーが差し出したのは携帯用の小銃。恐らく、ベアトリーチェ相手には何の役にも立たない代物。……けれど、メブキはその銃を手に取った。
それは、戦うための決意。今度は自分も、みんなと一緒に戦うと、そう決めたが為の儀式のイミテーション。
「貴方のヘイローは新生しました。ならば、戦う力があるということです。それを私に、証明して見せてください」
「そういうこった!!」
「うん!」
力強く頷いて、銃を手に取ったメブキは先生達と共に走り出す。今のメブキは、何だってできる気持ちになっていた。
「……何でしょうか、塵芥風情が」
ベアトリーチェは機嫌を損ねていた。それは、会話に水を差されたからと言うのもあるが……その少女の目が、あまりにも生意気に過ぎたから。少女、阿慈谷ヒフミの目は、未だに輝きを失っていなかった。
「さっきから何なんですか、あなたは!
虚しいだとか、ハナコちゃんやナギサ様が貴方みたいな悪い大人になるだとか、そんないい加減なことばかり言って! 挙句に、サオリさんをこんなに傷付けて! メブキちゃんに酷いことをいっぱいして!!」
明確に少女は怒っていた。ただ、それは自らの憎悪を燃やす行為ではない。ひたすらに誰かを想っての怒り、義憤と呼ぶべきもの。それを胸の内に抱き、擦れていない少女の目でベアトリーチェを糾弾していた。
「世界は虚しくなんてありません、それが本質だなんて上っ面だけです! 大変なことも苦しいこともいっぱいありますが、それでも辛い時はお友達と助け合って、手を取り合って立ち向かえます!」
夢見ごと、ベアトリーチェだけでなくその声を聞いているアリウス生達もそう思ったが、否定しない。否定するには、彼女たちは疲れ切っていたから。
「ハナコちゃんは賢くて優しい子です。広く周りを見れていて、私の視野が狭まっている時でも、そっと助けてくれています!」
ヒフミが補習授業部を引っ張っていた。それは紛れもない事実だが、陰でずっとハナコが支え続けてくれていた献身さを知っていた。
「ナギサ様は綺麗で、優雅で、でも可愛い人なんです。たくさんの責任を背負って、私達のために日々努力なされています!」
友人として、彼女の側でそのことを見てきたから分かる。大変なこともしんどいこともあるが、それでもと頑張り続けるナギサの我慢を知っていたから。
「二人とも素敵な女の子です、酷い大人になんてなるはずがありませんし、あり得ません!!」
遠くから見て、全てを分かった気になっているベアトリーチェを否定する。ヒフミは、二人の温かさを知っているから言い切れた。
「サオリさんが傷付いてたら手当てをしてあげて、メブキちゃんが困っていたら助けてあげられる。そんな素敵な二人なんです、勝手に分かった気にならないでください!」
ヒフミの言葉に、ハナコは胸が詰まった。心の奥底で、ベアトリーチェの言葉を肯定している自身がいたことは確かだったから。でも、ヒフミはハナコを素敵な女の子だと、利己的で他者を害する存在になんてならないと断言した。だったら、とハナコは納得した。
「ヒフミちゃんがそう言ってくれるなら、そうなのでしょうね」
ハナコの内側の影が、光に当てられて解けていく。あれほど雄々しく見えた影は、ハナコの足元へと縮こまっていた。
「…………演説は終わりですか」
一方で、ベアトリーチェは先程よりも気分を害していた。否定されたことは一笑に付せるが、夢見がちな甘ったるい理想論には反吐が出る。
力なきものが何を言っても無意味なのだと、そのことを分からせようかとも思ったが、それだと否定せずに暴力に訴えたかのようにも思われるだろう。
だからベアトリーチェは、すぐさまの暴力には訴えなかった。徹底的に言葉で否定し尽くしてから、絶望の淵で暴力に沈めよう。
それが一番効果的だと思い、ヒフミの土俵へと上がり込んでいた。大人の言うことは、理不尽でも子供を圧迫できるのだと信じて、乗ってしまっていた……。
「つまらない言葉です、人生を怠惰に過ごしてきたものの儚ささえ感じます。貴方は、自分は他人の痛みが、気持ちが、わかってあげられる人間だとでも思っているのですか?」
ベアトリーチェは嘲笑した。世の中を全然知らない、所詮は子供の世迷言だと。
「それこそ傲慢、痛みも苦しみも辛さや苦しさ、全ては己が内に抱え込むものです。笑顔で近付くものは敵で、手を差し伸べてくるのは愚か者です」
ベアトリーチェは扱き下ろした。これが世の真実だと、自信を持って伝えるために。
「それらを総して、虚しいと定義しました。春風メブキが死んだという一点だけで、この言葉が真実だと分かるでしょう?」
余裕を持って笑みさえ浮かべて、事実を否定してみせろと強要する。そうすることで生まれる矛盾を突き、完膚なきまで言い負かせるのだと自信を持って。
「──メブキちゃんは死んでません」
「は?」
だから、ヒフミの口から出た言葉に、驚き以前に唖然とした。だってそれは、前提を否定する子供の駄々そのものだったから。
「先生も、コハルちゃんもメブキちゃんを助けに行ってくれました。だからメブキちゃんは無事で、私たちの前まで来てくれます!」
「……呆れました、子供の悪しき部分が詰まっています。そんな言い分が、通ると思っているのですか?」
ベアトリーチェの見下している視線に、ヒフミは真っ向から向き合っていた。それは、ベアトリーチェの言を否定するためではない。ただ、自分の想いを押し通すために言い切らなければならないこと。
「メブキちゃんが死んじゃうなんて、そんなことは認めません……。そんな暗くて救いのないことが真実なんて、嫌なんです……。虚しいのが本質で、血のにおいがするのが事実だなんて言われても、私は好きじゃないんです!」
言葉が、どうしてだか透き通っていた。誰の耳にも、アリウスに残っていた生徒全員にその言葉が耳に入っていく。
「私には、好きなものがあります!」
それは宣言、口論なんてヒフミは最初からしていなかった。自分の言い分はこうだと、主張し続けていただけなのだ。
「平凡で、大した個性もない私ですが……自分の好きなものについては、絶対に譲れません! 友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは友達と慰めて、慰め合って……! 苦しいことがあっても……誰もが最後は笑顔になれるような!」
言葉が熱を持って、伝播する。心の隙間に入り込んでくるような、少女の変え難い情熱が。
「そんなハッピーエンドが私は好きなんです!」
それは夢見ごとだった。けれども、とても熱くて、何者にも邪魔することができない。斜に構えている者でも、夢から覚めたら良い夢だったなと振り返れるような、そんな言葉。
「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます! 私たちが描くお話は、私たちが決めるんです!」
だから耳に入った、心に留められた。彼女の言葉に聞き入っていたアリウス生たちは、誰一人として否定の言葉を上げない。
「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!
私たちの物語──私たちの青春の物語を!!」
ヒフミは、ベアトリーチェの歪んだ目達を見つめていた。呆れてなどいない、笑ってすらいない……憎悪に塗れた、沢山の目を。
「だから、メブキちゃんは返してもらいます!」
それは、ヒフミの決意。青春を歩いている最中の、青い気持ち。
「セイアちゃんもです。あなたに差し上げるものは、何一つとして存在しません」
それは、ハナコの決意。友人のために戦うという、ヒフミが告げたような柔らかな想い。
「マダム、私たちは強制されなくても自分で選べるんだ。だから、与えられる必要は何もない」
それは、アズサの決意。自立できるという、決別を込めた意思表示。
「この私のバシリカで、そのような空々しいことをよくもっ!」
その全てが、ベアトリーチェの癪に障った。自分は間違えた、舌戦など望まなければよかったという後悔のもと、全てを薙ぎ払おうとした──その時のこと。
「空が、明ける? いや、違うのか……」
澄み渡るような青色を前に、サオリは呟いた。
夜の帳が下りていた空に、青が差したから。現在時刻は午前2時、明ける陽を持たない筈の空が、そこにはあったから。
辺り一面の青、雲一つさえない蒼穹。
……そして、
「セイアちゃん、そこに居たんですね」
囚われていたセイアの姿が、ハッキリと浮かび上がる。
「なに、が、起こっているんだ……?」
呆然としながら、セイアは空を見上げていた。見ていると、訳もなく泣きたくなるような、夜明け前よりも瑠璃色に染まっている空。
「っ、おねーちゃーーん!!」
そうして、もう聞けないと思っていた声が耳に入ってきた時、目から涙が零れ落ちていた。
凄いの! だってね、銃が手によく馴染んでるから! 今まで、持ってて怖かったのに、今は全然そんなことないよ。これが、本当に転生するってことだったのかも!
「メブキ、私の背中から離れちゃダメだからね!」
「私、銃撃てるよ?」
「撃っても当たんないくせに、生意気言っちゃダメ!」
そかな? まるでアクセサリーみたいに、自分でも扱えるって思えちゃうのに。……でも、コハルちゃんの方が慣れてるのは、確かだもんね。私は処女だけど、コハルちゃんは非処女ってことなのかもしれなかった。初体験の相手は、やっぱり先生なのかな?
「もうすぐだよ!」
先生の言葉に頷いて、私達は思いっきり走って。それで入った場所は、私がさっき死んじゃった場所。そこの天井は崩れてて、お空はもう朝が来て明るくなっちゃってた。
でも、だからちゃんと、私が探してた人の姿が見えたの!
「っ、おねーちゃーーん!!」
思いっきり、赤ちゃんを産みそうなお母さんくらい力を入れて、私はお姉ちゃんを呼ぶ。なんか触手さんにお姉ちゃん捕まってて、今から魔法少女エロゲーのえっちみたいなことが始まりそうな状況。そんなこと、絶対に許さないからね!
「触手プレイなんて絶対ダメーーッ! 私が触手さんになるまで、ちゃんと待たないとダメなんだからね!!」
「っ、バカ、か、キミは……。こんな時だというのに、ふざけていて……っ。いくらキミ相手でも、処女はあげられないんだっ!」
間違いなく、私のお姉ちゃんだった。だって、こんなにも私と息ぴったりで、心が通じ合ってる。離れてたって繋がってる、私たちは遠隔えっちしてるみたいな関係性なんだもん!!
「メブキちゃん、帰ってきてくれたんですね!!」
「ヒフミちゃん、それにみんなも! 心配かけてごめんなさい。でも、ただいまだよ!!」
辺りを見回すと、えっちが出来なさそうな不能触手をたくさん生やしてるお花さんが、お姉ちゃんとアツコさんを捕まえちゃってた。それに、サッちゃんさんは痛そうな怪我してて、早く治療してあげないとって分かっちゃうの!
「何故、このゴミが……」
「メブキは生きている、生きたいと願い続けている。それだけのことだよ」
「先生、よもや貴方がっ! ゴルコンダは何をやっているのですか、無能にも程があるでしょう!!」
お花さんはカルシウムが足りていないのか、受粉しようと花粉を射精し過ぎちゃったのか、すぐに怒りやすくなっちゃってた。多分、声的にあの時の怖い人。でも、今は怖くなんてないよ。
みんなが居るし、私も戦える。それにね、それ以前にね……。
「イマジナリーお姉ちゃんやアツコさんに触手プレイしようとして、サッちゃんさんに拷問リョナえっちするような酷い人は、絶対に許しちゃいけないんだよ! みんな、やっつけちゃおう!!」
「そうですね……。メブキちゃんの言う通り、あなたは大人でも残虐でもなく、えっちな触手だったのだと。そういう定義をしてしまいましょうか」
ハナコちゃんがそう言って、みんなもうんって頷いてくれて。そうして、お花さんはプルプルと震えちゃってた。多分だけど、私達をえっちな花粉で妊娠させようとしてるんだよ!
「ふ、ふざけるなぁーーーーーーーっ!!!!」
違ったみたい。もしかすると、みんなに見られて絶頂しちゃってただけなのかな?
「みんな、それに先生も。あの人がえっちな花粉を出しちゃう前に、やっつけちゃおう!」
「エッチな花粉は出さないと思うけど、やっつけることは同意するよ」
先生の目は、ちょっと……ううん、凄く怖かった。だって先生が睨んでるお顔なんて、全然見たことがなかったから。
「先生、大人のあなたなら分かるでしょう? 大事の前に小事を切り捨てる、よくあることで──」
「黙れ──」
冷たい先生のお声。びくってなっちゃって、コハルちゃんの背中に隠れる。先生、怒ってるの?
「この私に黙れと、そう命令したのですかっ、あなたは!!」
「私の生徒を傷付けるあなたを、私は許さない」
……私のこと? 先生、怒ってくれてるのって私のためなの?
「救済者たるあなたが、その様な小事に拘る。だから資格があれど、崇高に至ることができないのです」
「そんなものは知らないし、いらない。救済者なんて大層なものじゃないから」
「では、あなたは何者だというのですかっ」
先生は、とっても賢そうな会話をクソデカお花さんとしている。内容も、救済者だとかすーこーだとか、良く分かんないことばっかり。でもね、一つだけ分かってることがあるよ。それはね……先生は私達の味方だってこと!
「──私はこの子たちの先生だよ、平凡で至らないことばかりの、ね」
そっと私達を見て、そう言ってくれたの。でもね、ちょっと違うって、私は知ってるよ!
「違うよ、先生。先生はとっても格好良くて、優しくて、いつもいっぱいありがとうって思ってるよ」
だから、至らないなんてこと、全然ないの。そう言うと、先生は怖いお顔から、ちょっとだけ笑顔を見せてくれたの。
「ならば、ここで無様に散りなさい! 崇高を目指さないというのならば、我が権能の前に平伏するのです!!」
クソデカお花さんは、すごい悪役なセリフを吐きながら襲いかかってきた。お姉ちゃんを捕まえて、アツコさんにドスケベレオタードを着せている悪い人! 私も殺されちゃったし、今から仕返ししちゃうから覚悟してよね!
「最後の戦いだよ、みんな!」
先生の声に頷いて、私達は行動を始めたの。待っててね、お姉ちゃんにアツコさん。今すぐ、助けてあげるから!!
ベアトリーチェの武器は単純な彼我の質量差で、手数の多い触手くらいのものだった。だが、その肉の厚さと、損傷しても再生する身体は組み合わさると恐ろしい程に厄介なもので。……けれども、しかしだ。
「な、何故っ!? 私はアツコから神秘を吸い上げて、吸い上げてぇ!! なのに何故、なぜ再生しないのです!!!」
目が射抜かれる。細い触手が爆炎に焼かれ、降り注ぐロケット弾や狙撃を防ぐためのリソースが奪われていく。ダメージが蓄積し、血潮の代わりにアツコから収奪した神秘が漏れ出て溢れる。それを見下ろすのは……どこまでも青い空。
「
ベアトリーチェの叫びに応えるものはいない。もしくは、どこかで木偶が失笑していた。
「なぜ、なぜ、なぜぇぇぇぇぇ!?」
総体が削られていく、溜め込んでいた長年の蓄積が溢れて落ちる。崇高を目指すはずだった力が、地面へ溶けて消えていく。許せない、許されない、その思いだけが溢れんばかりになって、必死になって暴れて抵抗する。
時間は夜なのに、今は朝の様で。ベアトリーチェが有していた慈悲なき夜が終わり、大人の権能に陰りが見えた。だが、易々と敗北を認めるわけには行かない。
「先生、あなたが全ての元凶たるのならば!」
ベアトリーチェがその答えに行き着いて、先生への攻撃を実行するのは直ぐのことだった。しかし……。
「こっちだよ、先生!」
メブキが、先生の手を掴んだ。庇うように、メブキが前へと出る。
「メブキ!?」
「任せて……なんてね」
メブキの手にあったのは、愛棒と称していつも持ち歩いていたウイ先輩棒なるもの。メブキは、惜しみながらもその股間に当たる部分を連打しまくった。
「バイバイ、ウイ先輩棒……ごめんね」
目から光を放ち臨界点を迎える先輩棒を、メブキは涙ぐみながらに放り投げた。大好きな先輩を模したものだったけれど、先生の命には代えられなかったから。
先輩棒は、謎に微笑んだ顔のまま大爆発を起こした。ミレニアムが開発した、新型火薬の能率がよく理解できるほどの爆散っぷりだった。
「め、メブキのバカ! 先生も! 二人共、私の後ろにちゃんと隠れてて!!」
それに血相を変えたコハルが飛んできて、二人を柱の陰へと追いやった。
「メブキ、助かったよ。ありがとう」
「えへへ、戦ってる最中に、初めて先生の役に立てたね。……先輩棒も、ちゃんと異世界転生して幸せになってね」
悲しげに呟くメブキの頭を撫でつつ、先生は指揮を執って。
……そうして、決着の時は訪れた。
「あぁ、あぁぁっぁぁ、ぐああああああああっ!!」
再生はなく、先生の指揮の下で見違えるように戦う生徒たちを前に、ベアトリーチェは遂に力尽きた。
崇高を目指すはずだった、あの巨大な大人の姿は維持できずに崩れ落ちて。今まで溜め込んでいた神秘も、崇高を目指す燃料にする筈だったアリウスも、全てを失ってしまっていた。残されたのは、何も持っていない無力な大人の姿のみ。
「何故、どうしてっ。私の計画が……私の領地が……私の崇高がぁ!!」
苦しそうに、或いは悔しそうにのたうち回りながら、ベアトリーチェは血涙を流していた。
「あなたの負けで、彼女達の勝ちだよ」
先生の宣告に、ベアトリーチェは満身創痍ながら、それでも肥大化したプライドを支えに立ち上がって。
「ま、まだですっ。アリウスの生徒たちはまだ健在です! 何をしているのです、早く助けに来なさい!!」
半ば悲鳴のように、ヒステリックな叫び声を上げるベアトリーチェ。だが、それに応える生徒は誰もいない。ヒフミの高らかな宣言と、この青空を前に思わず銃を取り落としてしまっていたから。
「ご、ゴルコンダ! 失態を拭うチャンスを与えます!! そうすれば、私の神秘の最奥を覗かせて差し上げましょう!!!」
次に、共にあった同僚に呼びかけるも、返事はない。彼は、この結末を噛みしめるのに忙しいのだ。
陳腐とは言わない、在り来りはそうかもしれないが、王道と評するのだろうと独りでに納得をしていた。
「ならば、ならばあああああ!!」
最後の力を振り絞って、新たな神秘に──百合園セイアに彼女は手を伸ばそうとして。
「不様な姿、私のこれ以上に醜いモノだな、ベアトリーチェ」
木々が擦れる音と共にやって来た人形、マエストロの言葉に冷水を掛けられた。
「……あなたは」
「改めてと言うべきか、久しいな先生」
「マエストロ……」
名前を思い出して警戒する先生に、マエストロはおおらかに対応する。素っ気なく対応されることに、僅かながらに落胆を覚えつつも、それはおくびにも表に出さない。
「ま、マエストロ! 良いところに現れました、あのデカブツの出番です! あれ程の力があれば、この場の愚か者たちを一掃できることでしょう!」
「……愚かなのはそなただ、ベアトリーチェ。素直に負けを認め、恥を噛みしめることすらできんのか」
「なっ!?」
あまりの侮蔑に、ベアトリーチェは感情の処理が追いつかずに絶句して。マエストロは、先生との会話に水を差されたことに隠しもせずに不機嫌になっていた。
「認めたくはないが、これでもゲマトリアの協力者だ。身内の恥そのものだが、見捨てれば私も堕する。故に、こうして迎えに来た。そなた等と戦う気はない……今はな」
「な、何故です! 私と争い、先生たちは疲弊しています! 今なら、確実に勝てるのですよ!!」
「クドいぞ、ベアトリーチェ。……私は先生の友人ではないが、敵でもないのだ」
「クッ」
唇を噛み締め、この木偶の坊は動かないとベアトリーチェは憎々しげに確信した。何やら彼が満足そうなのは、私が敗れたことがそんなにも面白いのかと、余計な被害妄想を拗らせながら。
「では先生、口惜しくは在るがこれで私は去ろう。また出会うことが出来たのなら、今度は我が芸術について語り合おう──良き青空を、先生」
最後の言葉は、このフェルメール・ブルーにも似た青空を見せてくれたことに関する感謝の念だったのかもしれない。ふっと、マエストロとベアトリーチェの姿が掻き消えた。残されたのは、ボロボロになったみんなと、このどこまでも広がる青空のみ。
……全てが、やっと終わったのだ。
「おねーちゃーん、ぎゅーっ!」
「全く、キミは変わらないね。でも、変わらないで戻ってきてくれて、本当に良かった……」
私達は悪いお花さんをやっつけて、ウイ先輩棒の尊い犠牲の下に遂にアツコさんとイマジナリーお姉ちゃん……ううん、もうセイアお姉ちゃんって呼ぶべきだよね。セイアお姉ちゃんを助けることができて、初めてこっちの現実でぎゅーって出来たの。なんだか、夢がいきなりかなっちゃったみたい!
因みに、アツコさんとサッちゃんさん達は、手当のためにアリウスの保健室に行ってるよ!
「メブキちゃん、私ともハグしてくれませんか?」
「ハナコちゃん、それじゃあね、このままセイアお姉ちゃんごと、ぎゅーってして?」
「め、メブキ、私の名前……」
「まあ、セイアちゃんったら照れてますね。……ふふっ、可愛らしいので、二人共抱きしめますね♡」
「にゃーん!」
ハナコちゃんにもぎゅーってされて、優しいお姉ちゃんとお姉様に囲まれてる私は、キヴォトス一幸せなネコさんなのかもしれないね?
「め、メブキちゃん、私とアズサちゃんも良いですか?」
「!? 大歓迎だよ、来て!」
どしたのかな、どうしちゃったのかな? 私、もしかしてモテ期到来してるの? ヒフミちゃんもアズサちゃんにも、ぎゅーってされて幸せでねこねこメブキになっちゃいそう!
「待ってくれメブキ! 流石に重い、体重を掛けないでくれ! キミがどれだけ頑張っても、私に種植えは出来ないんだ!!」
「ふへへ、セイアお姉ちゃんはお母さんになって、私と赤ちゃんの二人共におっぱいあげないといけないから大変だね?」
「勝手に赤ちゃんのミルクを取るのは、あまりに卑しい行為だ!」
「……いやらしい行為? そだね、お姉ちゃんのおっぱい吸ったら、イッちゃうかもしんないもんね?」
「イクか! キミになんて絶対、イカされるワケがないんだ!!」
「え、エッチなのはダメ、去勢!!」
「コハルちゃんも来て、一緒にお姉ちゃんを去勢しようね?」
「するな!」
みんなでくっついた私達は、押しくら饅頭してるみたいなフローラル団子と化しちゃってた。女子高生のお団子が目の前にあるなんて、先生はラッキーだね? 今なら、女子団子食べ放題キャンペーン中なんだよ!
「……メブキちゃんが帰ってきてくれて、本当に良かったです」
そんな中で、ヒフミちゃんが涙声で呟いて。私はみんなから、そうだよーってセイアお姉ちゃんごとくちゃくちゃにされちゃったの。途中から、えっちなことされちゃうのかなって身構えてたけど、そんなこと全然無かったね?
「ところでセイア、その身体は本物なの?」
「メブキ共々、サラッと名前を呼んだね、先生」
「初めましてって言うには、所作に覚えがあり過ぎて……」
「……そうだね、何だかんだキミとも一緒にお茶会をする仲だったしね」
「……朝起きた時、お腹がタプタプしてたの、お姉ちゃんが中田氏えっちした後じゃないの?」
「なんで妹の身体で妊活を始めているんだ! するなら自分の身体でする、あまり姉を舐めないで欲しい」
「そっかー」
お姉ちゃんと会話してると、みんなの視線が何でかお姉ちゃんに向いてたの。どしたんだろ、実はお姉ちゃんが世界一えっちなロリ狐さんだってこと、全世界にバレちゃったのかな?
ヒソヒソ
「は、ハナコちゃん! セイア様ってその……メブキちゃんと血縁がないって、本当のことなんですか?」
「えぇ、ヒフミちゃん。心は交わり続けていたみたいですが、身体の交わりはなかったみたいです。……前のセイアちゃんも好きでしたが、今のセイアちゃんも大好きですね」
ヒソヒソ
「エッチすぎ、死刑!!」
「処刑しちゃダメだ、コハル」
「そうだった、去勢!!」
ヒソヒソ話してるけど、コハルちゃんの声はきっちり聞こえてきちゃうね?
「勝手に去勢しないでくれ!?」
「どしたのお姉ちゃん、急に去勢だなんて……永遠のロリータでいるために、赤ちゃん諦めちゃうってこと?」
「ちゃんと産む! ふざけないでくれ!!」
ブチギレお姉ちゃんはやっぱり可愛くて、全世界の人をロリコンにできるロリコンコンなお姉ちゃんだった。ロリコン相手に妊活できるから相手に困らなさそうだけど、私は純愛主義に目覚めつつあるから先生とえっちして子供作ってね!
……そういえば私たちって、一体何の話してたんだっけ? 妊娠のこと?
「確かに、セイアちゃんのこの身体で妊娠できるかは、いささかの興味はありますが……」
「捨ててくれ、そんなどうしようもないものは!
……先生、キミの問いに答えよう。この身体は仮初のもの、どうしてこんな形で現れているのか、全くもって理解ができない」
セイアお姉ちゃんは、お空を見上げながらそんなことを言った。えっと、一回死んじゃう前の私と一緒の状態ってことだよね、多分?
「セイアちゃん、一応聞いておきますが、本当に本体の方は無事なんですね?」
「ああ、今も寝こけているはずさ。残念だが、自力で戻る方法は分からないが」
じゃあ、お姉ちゃんは今も夢の中みたいな感じなんだ。それなら、早く戻してあげないとだけど……どうするの?
「それなら、古来からある方法を一つ試してみましょうか」
「ハナコちゃん、ニコニコだね?」
「何だか嫌な予感がするが……一応聞くとしようか」
「はい、キスしましょう。セイアちゃん♡」
「はぁ!?」
そっか定番だもんね、チューしてお目々パチクリするのって。うん、それなら私、頑張っちゃうよ!
「仕方ないね、お姉ちゃんってば!」
「何でキミはそんなに乗り気なんだ! ……やるならほっぺにしてくれ」
「うん!」
私はお姉ちゃんのほっぺに、ぶちゅちゅってしたよ! ……何にも起こんないね?
「ハナコ、やはりダメだったが」
「いいえ、まだです。……目覚める時は、王子様のキスが必要ですから」
にこって笑ったハナコちゃんは、やっぱり世界一可愛い女の子何だって確信したよ! でも、王子様とチューしなきゃダメってことは……チラリ。
「…………何かな?」
「先生、王子様なの?」
「私は君たちの先生だよ」
「お姉ちゃんとチュー、してくれる?」
「先生だよ!!」
「関係ありません、やってください♡」
ハナコちゃんに背中を押されて、先生はセイアお姉ちゃんの前まで連れてこられちゃった。……何だかドキドキしちゃうね!
「せ、セイア?」
「……これはだね、本当に仕方のないことなんだ。方法がわからない以上トライ&エラーを繰り返すしかないし、これはその二つ目と言うことだよ、先生」
せ、セイアお姉ちゃん、モジモジして真っ赤になってるけど、完全に受け入れ態勢になってる! チューはほっぺまでしかダメって言ってないし、完全に唇にされる気満々すぎるよ! 妹差別は良くないんだよ!!
ヒソヒソ
「やっぱり、セイア様ってメブキちゃんのお姉ちゃん過ぎます! ……先生、本当にしちゃうんですか?」
「まさか、こんなところに伏兵がいたとは……先生、どうする?」
ヒソヒソ
「メブキちゃん、見ましたか。セイアちゃんのお顔」
「うん、多分だけど発情期が来ちゃってるんじゃないかな?」
「ティーパーティの人が、こんなにエッチだったなんて……」
こそこそお話ししながら、私達は動向を見守って。それでね……。
「これ、本当にしないとダメなの?」
「先生、義務と想いの狭間で努力してきたことと、その中で大切にしてきた責任があるのは分かる。だが、このままだと落ち着かないんだ……どうか頼むよ」
「……………分かった」
きゃーっ! って黄色い悲鳴が出ちゃいそうなのを我慢して、マジマジと二人を眺めちゃう。どうなっちゃうのかな、一体! セイアお姉ちゃん、かつてないほどに真っ赤っかになっちゃってるけど!!
「それではお姫様」
「うん」
「お手を拝借しますね」
「うん…………うん?」
きょとんとしてるお姉ちゃんの手を取って、先生はね……。
きゃーーーーーーっ!!
そうして、セイアは目を覚ました。紫雲が漂う夢と夢との狭間で、手をさすりながらボンヤリとした頭のままに一言。
「惜しかった……」
「其方、随分と良い夢を見ていたみたいじゃな」
急に声を掛けられ、驚きながらセイアは飛び上がっていた。振り返れば、百鬼夜行の大予言者であるクズノハが、実に愉快そうな表情でセイアを見下ろしていたのだった。
次回、最終回