コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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ミレニアムEXPO編、開幕です!
セイア視点とメブキ視点を行ったり来たりします、ご了承ください。


アフターグロー 同じ空の下で
引率


 技術の祭典、ミレニアムEXPO。

 

 ミレニアムの威信と技術力、そしてキヴォトス全土の科学の発展を願う、崇高な理念の下に行われる祭典。

 

 そのミレニアムEXPOに参加するにあたって、トリニティ生たちを誰が引率するか。ミレニアムからの招待状が届いた時に、ティーパーティで真っ先に取り上げられた議題であった。

 

 

「ナギちゃんは今ティーパーティのホストで、セイアちゃんはエデン条約機構の代表。二人とも忙しいから、やっぱり私の出番だよね?」

 

 ウキウキと告げたミカは、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。いつも、ナギサとセイアにばかり負担を掛けていたから、こういう時くらいは自分が役に立たないとと、気合い十分だったのだ。

 

 勿論、普段のミカが無為徒食に甘んじていたわけではない。

 

 晄輪大祭などの対外交流イベントでは積極的に指揮を執り、定期的にポップしてくるエデン条約機構から脱退せよと主張する強硬派を宥めすかし、それでも話を聞いてくれない場合は首を180度捻るマッサージを施してあげていた。

 

 ただ、そんな優しさに満ちているミカだからこそ、同じティーパーティなのに背負っている責任の差異に、どこか後ろめたさを感じていた。

 

 なので、こういうイベント事で張り切って先陣を切る。自分にはこういうのが合っているという、自認もあったから。

 

 だから、今回も自分の出番だろうと、自然とそう思っていたのだ。

 ──セイアが異論を唱えるまでは。

 

「待ってくれミカ、今回はその役を私に譲って欲しい」

 

「え?」

 

 忙しいはずのセイアが、急に異論を挟んできた。それも、何故か決意の籠った目をして。妙な入れ込み具合に、ミカは当惑した。

 

 セイアちゃん、ミレニアムに興味なさそうなのに、と。

 

「セイアさん、何か理由があるなら、まずはその事情を話してください」

 

 けれど、色々と乗り越えて、現在は精神的に余裕ができているナギサがやんわりと仲介した。ミカとセイアの二人が元気で、ヒフミと前以上に親密なメル友になっているが故の余裕であった。

 

「すまない、そうだね。これは、身内の恥の話になるから、あまり公言はしたくなかったのだが……」

 

「……メブキちゃんのこと?」

 

 ミカの問い掛けに、コクコク頷くセイア。メブキちゃんかー、そっかーと呟くミカは、今度はどんな面白いことが起きたんだろうと想像を軽く巡らせて。

 

「……メブキさんが、どうかしたのですか?」

 

 何かを察しつつも、ティーパーティのホストとして聞かねばならないことを渋々とナギサは口にした。

 

 メブキにも良いところがあるのは知っているが、クソガキのエロガキであることもナギサは承知していたから。

 

「…………棒、をね」

 

「……棒?」

 

「──棒の製造元を探り出し、ミレニアム特許局に訴訟しなくてはならないんだ」

 

「一体何の話ですか!?」

 

 端的に言って、意味が分からない。けれど、妙な不穏さを感じたから、ナギサは問い糺さざるを得なかった。

 

 ミレニアムEXPO、それはミレニアム屈指の祭典であると同時に、トリニティにとっては友好を築く場でもある。

 

 だからこそ、友好的な関わり合いを望んでいるし、そうでなくてはならない。……であるのに、何故かセイアは法廷闘争に赴こうとしていた。

 

 なので、訴訟などと口にしているセイアを、容易に野放しには出来そうになかった。揉め事を起こされたら困るのだ、トリニティ的に。

 

 最悪、自分のセーフティハウスに、セイアを幽閉しなくてはならないかもしれない。そんなことを考慮に入れつつ、ナギサはセイアの釈明を待った。

 

 最近は様子がおかしいが、セイアは元より理知的だったはずだから。ナギサの考えていることは承知のはずで、これには何か深い事情があるのだろうと斟酌したが故に。

 

 

「…………これを、見て欲しい」

 

 暫しの沈黙の後、重々しくセイアは自身のスマホに保存していた、とある動画をナギサとミカへ提示した。すっごく嫌そうにしながら、けれども仕方ないといった風情で。

 

 その動画には、彼女の妹がリビングで、何やらコケシみたいなものに話し掛けている動画が映っていて……。

 

 

『イマジナリーお姉ちゃん棒、実はコハルちゃんは私たちの家族だったんだよ?』

 

『ソレハ、ホントウカイ、メブキ』

 

『本当だよ! だってね、コハルちゃんに聞いたの。"下エロコハルちゃんが許せないなら、あだるてぃな下の毛コハルちゃんなら許してくれるよね!"って』

 

『ユルシテクレタノカイ、コハルハ』

 

『ううん、許してくれなかったの。"は、生えてないわよ、ふざけないで!"って』

 

『デハ、コハルガカゾク、トイウノハ?』

 

『お姉ちゃんもお股ツルツルで、私もそうだから! 調べたことあるんだけど、この年齢でおけけ生えてないのは珍しいんだって』

 

『ナラ、モシヤ?』

 

『うん、そうなの──きっとコハルちゃんも、私やお姉ちゃんと同じ、おけけが生えない血筋なんだってことだよ!』

 

『ナルホド、イトコカモ、シレナイネ』

 

『そうなの! コハルちゃんもツルツルおまんまんの定めを背負った家族、不毛おまんまんの一家なんだよ!』

 

『ソウダッタノカイ、メブキ。……オモエバ、ワタシニモ、ハエテナイネ』

 

『きっとイマジナリーお姉ちゃん棒も、ワタシと一緒の血が流れてるんだよ!』

 

『フフ、メブキハ、カワイイネ』

 

『えへへ、そういうことで、コハルちゃんも今日から家族なんだよ!』

 

『ヤッタネメブキ、カゾクガフエルヨ!』

 

 

 

 そこで、動画は再生をストップした。

 

 あまりの理解できない内容、してはいけない内容に、ナギサは絶句する。ミカの頭も、はてなマークで埋め尽くされた。

 

 二人揃って、動画から齎されたカスの情報を流し込まれて、頭がうまく処理できていなかったのだ。

 

 そんな中で唯一動けたのは、動画がプツンと切れた瞬間に、自身もプツンとぶちギレていた百合園セイア、ただ一人だけであった。

 

「──絶対に許されてはいけない肖像権の侵害なんだ!!!」

 

 あっ、キレるとこそこなんだ、とぼんやりミカは思った。メブキちゃん、やんちゃさんじゃんね、と発言していた内容を極度に矮小化する作業に脳を従事させながら。

 

 ナギサは、真面目に内容を受け止めようとしすぎて、全く理解できずに空を眺めていた。空が青くて素敵だなって、そんな素朴なことを愛おしく感じながら。

 

「そう言うワケなんだっ。私を行かせて欲しい、ナギサ!!」

 

 ──どういう、訳なのでしょう。

 

 心の底から困惑しつつ、ナギサは頭を巡らせようとした。とにかく、自分はティーパーティのホストとしての責務を果たさなくてはならないから。

 

 けれども、頭を働かせると浮かんでくるのは、動画を視聴した上で浮かんでしまう様々な疑問。

 

 イマジナリーお姉ちゃん棒とは一体なんなのか。何でデフォルメ化されたセイアさんが、怪しい呂律ながら喋っているのか。この機械の用途は何なのか。下江コハルさんは、本当にお二人と血が繋がっているのか。そもそもメブキさんはセイアさんの義理の妹で、血の繋がりは無かったのではないか。大体、あの映像は何処で入手したものなのか。

 

 考えれば考えるほど、ドツボに沈んでしまう。だって、ロジックなど存在しないのだから。全てフィーリングで、そうだったら嬉しいという空想に過ぎないのだ。

 

 一方でミカは、メブキちゃんがセイアちゃんにイタズラしちゃったんだね。というレベルまで、解像度をボヤけさせることに成功していた。

 

 深く考えても、分からないものは分からないという割り切りがあったのだ。……あの動画を、真剣に考える必要性を微塵も感じなかったともいう。

 

 この場に先生がいれば、ミカは賢いねと褒めてくれたことだろう。

 

「……うん、良いよ」

 

 そんな賢明なミカが、宇宙猫状態になっているナギサに代わって返答をした。ともかく、セイアが何処までも真面目なんだということを理解したから。

 

 エデン条約機構の常駐、誰がするんだろうな、と他人事みたいに考えながら。結論だけ書いておくと、ミカであった。

 

 ここでは、イロハと空気感があんまり合わなかったため、ちょっとピリついていたことだけ記載しておく。人間、得手不得手があるものだから仕方ない。

 

「良いのかい、ミカ?」

 

「だってセイアちゃん、必死だもん。邪魔したら、またクドクド言うんでしょ?」

 

「……キミはいつだって一言余計だね、ミカ」

 

「えー、せっかく譲ってあげたのに、ひどーい! セイアちゃんみたいに、長々と喋ったりしてないのに」

 

「そういうところだよ。……だが、ありがとう」

 

「どういたしまして! セイアちゃん、ちゃんと自分の口でお礼が言えるようになったの、偉いね」

 

「子供扱いしないでくれ、メブキの教育のことを考えるとね……」

 

「お姉ちゃんって言うより、ママみたいだね⭐︎」

 

「どう頑張っても、お乳は出ないんだっ」

 

 ミカの顔は、慈愛に満ちていた。すっかりメブキちゃんのお姉ちゃんだねって、頭が悪いセイアを完全に受け入れている。本人に指摘すれば、無駄に長い言い訳が始まるから指摘しないが。

 

「という訳で良いよね、ナギちゃん!」

 

「えっ、何がでしょうか?」

 

「セイアちゃんが、ミレニアムに行くの。そんなに心配なら、先生に仲介して貰えば良いし!」

 

 ミカが口にした、先生と言う単語。その一言で、虚だったナギサの目に光が戻ってきた。

 

 そうですっ、先生ならば何か起こりそうであっても、軟着陸させてくれるに違いありません!

 

 脳のリソースに余裕のないナギサは、極々自然にミカの言葉を受け入れていた。追い詰められた人間が、神に縋るのにも似た心理だったのかもしれない。

 

「そうですね、今すぐ先生に連絡をとりましょうっ」

 

「ナギちゃん、どうどう。落ち着いて」

 

「私は冷静です!」

 

 絶対嘘じゃん、そう思ったけどミカは口にしなかった。事実を指摘するのは、火に油を注ぐ行為に他ならないと理解しているが故に。

 

 ミカは賢いのだ、本当に。

 

 

 そうして、先生に鬼電したナギサは、無事に協力の依頼を取り付けることに成功したのだ。

 

 これが、セイアがミレニアムEXPOを引率することになった経緯である。

 

 

「ところでセイアちゃん、直接ミレニアムに乗り込まなくても、製造元にクレーム入れたら良いんじゃないかな?」

 

「そうしたんだが、どうやら回線を解約したようでね。100回電話しても繋がらなかった」

 

「100回も……」

 

 セイアの怒りは、どうやら根深そうでもあった……。

 

 


 

 

 そうして、現在。

 ミレニアム行きの電車にて。

 

「お姉ちゃん、本当に一緒に周れないの?」

 

「悪いが、ハナコやコハルと周って欲しい」

 

「……先っぽだけでも?」

 

「ああ」

 

「中田氏しないのに?」

 

「何の話をしているんだっ」

 

「一緒に周ろうって話!」

 

「周れないんだっ、半分はキミのせいでもある!!」

 

「お姉ちゃんも一緒がいいのに……」

 

 メブキが、悪あがきの駄々を捏ねていた。何度も説得されてきたが、お姉ちゃんと先生相手には、ここ最近わがままさを発揮している。

 

 甘やかされたがりな女児と化していた。

 尤も、保護者のセイアはきっちりと言い聞かせるタイプの姉であるのだが。

 

「……最終日になら、あるいは」

 

「えっ、ほんと!?」

 

 ……ただ、それはそれとして妹にはすごく甘かった。ヤダヤダ期の妹はちゃんと教育できるが、しょんぼり期の妹には極端に弱い。

 

 妹が落ち込むことにかけては、人一倍敏感な姉であったのだ。

 

「約束だからね、お姉ちゃん!」

 

「……努力するよ」

 

 指切りげんまん、嘘ついたら先生のおにんにんを入れちゃうよ! と嬉しげに小指を絡めてくる。それは本当に罰なのだろうか、と考えてしまったセイアはもう手遅れなのかもしれなかった。

 

 そんな二人を、先生は口を挟まずに温かく見守っていた。軽く、電車では静かにね、と注意しながら。

 

 

 

「済まないがコハルにハナコ、愚妹を頼むよ」

 

「ま、任せてください!」

 

「うふふ、セイアちゃんは良いお姉ちゃんになりましたね」

 

「うん、世界一のド貧乳ロリ狐お姉ちゃんなんだよ!」

 

「ふざけたことを大声で叫ぶんじゃない!」

 

 そうして電車を降りた後、メブキをコハルとハナコに託す。この二人なら、メブキも安全だし退屈しないこと請け合いである。

 

「それでは先生、少しの間頼む」

 

「任せて……セイアも大変だね」

 

「同情が身に染みるよ」

 

 最後に、先生にみんなを頼むとお願いして、セイアは駆け出す。

 

 真っ先に、ミレニアムの特許局に訴訟を持ち込まなければならない。熱い使命感に突き動かされ、トテトテ走っていた──そんな時のことであった。

 

 

「よしっ、いくかぁ」

 

「イソゴウ、カゼガフクマエニ」

 

「アタシたちが吹かせるんだっての」

 

 ──ピタリと、セイアの足が止まった。

 

 何か聞こえてはならない声が、何処かしらから聞こえてきたから。

 

 騒がしい中で小声での囁きだったが、殊このことだけには敏感な姉的聴覚が、その声を拾ってしまった。

 

 まさか、と思い振り向く。そんなこと、あってはならないんだ、気のせいなんだと確かめるために。

 

 振り返った先、そこには……。

 

 

 ──小型のイマジナリーお姉ちゃん棒を、アクセサリーみたいにカバンに引っ掛けている、そんなヘルメット団の少女の姿があったのだ。

 

 

「……………………は?」

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