コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
「えっとね、keyっていうのは、お外の世界にある伝説のエロゲーメーカーさんで、泣きゲーの始祖って言われている会社なの! ゲームをプレイした人は、おめめから涙が止まらなくなっちゃうんだ!」
あのお電話の後、コハルちゃんとハナコちゃんにお願いしてたの。一緒に伝説のエロゲーを探しに行ってください、って。
受付会場、パンパン(えっちな音じゃないよ!)のままだから、入れる様になるまで一緒してくれたら嬉しいなって。
だからね、どんなゲームを探すか伝えてたの。用意したティッシュで、涙を拭いちゃうみたいなゲームなんだよって!
「そんな素敵なエロゲーをみんなでプレイしたいから、一緒に探してください!」
ペコって頭を下げる。
お願いしますって、骨折しちゃった先生のおにんにんみたいに。
ドキドキしながら返事を待つ。
ヤダって言われたら、一人で探すことになっちゃうから。そうなっちゃったら、寂しいもん。
「……そんなの、本当にあるの? 伝説の、え、えろげー、とかいうやつ」
「あるよ!」
コハルちゃんの疑問に、お顔をぐわって上げて答える。だってね、ちゃんとした根拠だって考えたんだよ!
えっとね、keyって会社がお外の世界にあること自体、キヴォトスの人たちは知らないの。だから、エロゲーとkeyって単語を結びつけるのは難しい。
確かに、鍵穴に鍵をズポズポするのはえっちだけど、そんなことしたら鍵穴もガバガバになっちゃうもんね。
そこにえっちさを見出すのはコハルちゃんくらいだし、コハルちゃんはエロゲーについて無知無知だから関係ないの!
──つまりは、キヴォトスの内じゃなくて、外から来た人のメッセージだってこと!
完璧な推理、今日の私は名探偵メブキだね!
「そういうことなんだよ、二人とも!」
私の名推理についてお話しすると、二人はにゃるほどって頷いてくれたんだ!
「納得したけど、鍵穴の説明、必要ないじゃない! それに、そんな頭のおかしいことはアンタしか思いつかないしっ!」
「? ならコハルちゃん、目の前で私が鍵で鍵穴をズポズポしてたらどうするの?」
「エッチなのはダメ、死刑!!」
やっぱりコハルちゃんは、鍵穴と鍵はえっちしてる関係性だと思い込んじゃってた。
本当にえっちさん……自慢の親友だよ!
「ですが、そのモモトークは、何故メブキちゃんに届いたのでしょうね?」
「にゃ?」
コハルちゃんを完全論破しちゃった直後、今度はハナコちゃんが首をコテンってしたの。
お外から来たのは分かったけど、どうして私個人にモモトークをしてきたんだろうって。
言われてみると、確かにその通りだよ!
前世で使ってたfanzaの購入履歴、流出してたりしてないよね?
うーん、うーん……。
……あぅ、IQ1919を誇ってる私の名探偵な灰色の脳細胞が、それが一番可能性が高いって告げてきちゃってるよ!?
「どどど、どうしようハナコちゃん! 私のえっちな購入履歴、流出しちゃって炎上しちゃってるかもしれないよ!!」
そう、エロゲー界隈は戒律が厳しい。
SNSとかで未成年がエロゲーをプレイしてる自慢をしてたら、囲んでボコボコにしちゃうくらいリテラシーが高いの。
だからね、もし私が未成年だってことが露見しちゃったら、間違いなく燃やされる。
お兄ちゃんとの共用アカウントです! って言い訳しても、"良い訳あるか、じゃあ入れるね?"ってされちゃう。
あっ、私は死んじゃってキヴォトスに来てるから、代わりに炎上するのはお兄ちゃんだよね?
……じゃあ、私の処女の代わりにお兄ちゃんの処女が散らされるってことなの!?
「あわっ、あわわわ!?」
お仕置きオーク部隊に包囲されて、必死にお尻の穴を守ってるお兄ちゃんを想像してしまう。
あまりに絶望的な絶対あにゃる戦線に、思わず震えが止まらなくなっちゃう。
「安心してください、メブキちゃん」
そんな私に、ハナコちゃんは私と同じ目線にしゃがんでくれて、大丈夫だよって言ってくれたの。すごく落ち着く、お姉様属性の優しさをいっぱい溢れさせながら。
「メブキちゃんのSNSは炎上してませんし、履歴も流出していませんよ」
ニコッて微笑みながらそう言ってくれたから、ハナコちゃんが言うのならそうなのかも? って思えちゃう。
これが人徳なんだね、お姉ちゃん!
「そ、なのかな?」
「えぇ、メブキちゃんのお話だと、モモトークをくれたのは伝説の会社さんなんですよね?」
「そ、そうだよ!」
「なら、その会社は、流出したデータを勝手に使う様な悪い企業なのでしょうか?」
ハナコちゃんの問い掛けに、私は直ぐにお返事できた。だって、私も鍵っ子(keyファンのことだよ)なんだもん!
「──keyはキラキラなエロゲー会社さんだから、そんな悪いことは絶対にしないよ!!」
「はい、その通りです。でしたら、不正規に手に入れたデータで商売しようなんてしないはずですよね?」
「……確かにっ!」
ハナコちゃんの完璧すぎる名推理で、keyは悪徳商売なんてしないんだって証明してくれたの!
お兄ちゃんのお尻の貞操も無事って証明できて、一安心だね!
「ハナコちゃん、ありがとうだよ!」
「どういたしまして♡」
一件落着だねって、ハナコちゃんとハイタッチ(パイタッチは我慢したんだよ?)する。全部解決のわっぴー(いまトリニティで大流行りの言葉)エンドだよねって!
「……それで、メブキにモモトークが届いた理由は?」
でもね、それにコハルちゃんが待ったを掛けたの。まだ全部は解決してなくて、謎はまだあるんだよって。
……言われてみると、確かにそうだね?
個人情報が流出してなかったのは良かったけど、それならkeyが何で私にモモトークを送れたのかが分かんなくなっちゃう。
私、keyのゲームとかにクラウドファンディングもしたことないし……本当に謎だね?
「……エロゲーの神様が私のことを好きすぎて、keyのゲームをプレゼントしようとしてくれてるってことなのかな?」
「そんな神様、いる訳ないじゃ無い!」
「じゃあ、届いたモモトークは何なんだろうね?」
「……やっぱり、イタズラじゃないの?」
「それは違うって、さっき証明したよ!」
「そう、だけど……」
コハルちゃんと二人で、にゃんにゃんと首を傾げあったの。何だかちょっと、不気味だね?
……何かあったら大変だし、やっぱり一人で探しに行った方がいいのかな?
「──メブキちゃんは、探しに行きたいんですか?」
悩んでるところで、ハナコちゃんがそっと聞いてくれたの。
迷うことなく、私はコクコクって頷く。
だって、ずっと楽しみにしてたし、もし本当だったらって考えるとずっと落ち着かないんだもん。
「さ、探しに行きたいよ!」
迷わずにそう言ったら、ハナコちゃんはうんって頷いてくれて。
「──でしたら、一緒に探しに行きましょう。本当か嘘か、それでハッキリします」
「っ、うん、ハナコちゃん大好き!!」
嬉しくて、ハナコちゃんをぎゅーってする。
いつものふわふわハナコちゃんで、胸がたくさんキュンキュンしちゃう柔らかさ。
きっとね、ハナコちゃんはたくさんの優しさでできてるから、こんなに身体がポカポカで柔らかいの!
「コハルちゃんも、それで良いですか?」
「……メブキは本当に仕方ないんだから」
まるで、利き手を負傷しちゃってる私のことが大好き系ヒロインみたいなお顔で、コハルちゃんはツンツンしながらそう言ってくれたの。
えへへ、えへへへへ。
やっぱりコハルちゃんは、私のことをすっごく大事にしてくれてるね!
「っ〜、コハルちゃんも大好きだよーっ!」
「きゃっ!? 急に抱きついてくるなぁ!」
「えへへー、やーだよ?」
「ひっつき虫メブキ!」
「にゃーん!!」
「しゃーっ!」
今度はコハルちゃんに抱きつきスリスリをすると、赤ちゃんが出来ちゃうと思ったのか、ジタバタ抵抗されちゃったの。
コハルちゃんもお姉ちゃんも、私がオークかもしれないって時々間違えちゃうの何でだろうね? 妹系赤ちゃんヒロインのメブキだよって、何回も言ってるのに!
「うふふ、仲良しさんですね♡」
「どこがよ!」
「えへへ、ハナコちゃんも一緒にぎゅーする?」
「はい、と言いたいところですが……まずは、届いたモモトークを確認しましょう。それからでも、ぎゅーっとするのは遅くありません」
「あっ、そうだった! モモトーク、確認しなきゃだよ!!」
ハナコちゃんに言われて、モモトークを見るために一旦コハルちゃんから離れる。
……コハルちゃん、そんなに猫さんみたいな目で見つめられちゃったら、可愛すぎてチューしちゃうかもしれないから、ダメなんだよ?
「それで、さっき届いたモモトークには、何が書いてありましたか?」
「えっとね、えっとね……」
keyから届いたメッセージを確認して、中身を読み上げる。RPGモノのエロゲーみたいだねって、何だかワクワクしちゃいながら。
「ミレニアムの、ゲーム開発部の部室まで来てくださいって書いてあったよ!」
セイアは薄暗い地下道を、赤髪の少女に誘導されながら歩いていた。
……ひたすらに、いつもより早口気味に話し続けながら。
「認めたくは無いが、私の似姿をしたあの電気按摩器を訴訟するために、ミレニアムまで来た。あんな機械、この世に存在して良いわけがないんだっ」
「おう」
「事の発端は妹の愚挙から始まっているのは致し方ないことだが、私に似ているが私じゃない、あのふざけたカスの棒に執着している輩が何故増えてしまっているのか、本当に意味がわからないっ」
「……おう」
「大体だね、人の顔を模した電気按摩器なんて、悪ふざけ以外の何者でもない。しかも、一人でに話し始める。絶対に売れるはずがないんだっ」
「…………おう」
「第一、何でよりによって電気按摩器なんだっ。一番、尊厳を──」
長い、めんどくせぇ。
彼女の内心を端的に表すと、これだけで済む。
ただ、隣の彼女が相当に腹に据えかねていることだけは分かっているから、取り敢えずは相槌だけ打って話を聞いていた。
聞き流しても良いはずなのに、何だかんだで聞いてあげている少女は、荒っぽいだけではなく真面目でもあった。
そうして、息を切らしてセイアの口数が少なくなっていくタイミングを見計らって、で、と尋ねた。
「お前、名前は?」
「はぁはぁ……んぐ、まだ名乗っていなかったか」
軽く息を整えて、セイアは何事もなかったかのように自己紹介を始めた。棒への見解を熱く語っていたことは、全部忘れ去ったみたいに。
「私は百合園セイア、トリニティのティーパーティ……ミレニアム的に言えばセミナーに所属している様なものだね」
「ふーん、そんなお偉方がねぇ」
目の前のブチ切れおもしろ狐が、実はトリニティの生徒会メンバーだと言われて赤髪の彼女は、"マジで何でこいつの怪しい棒が出回ってんだよ"と心の底から思った。
本当に意味が分からないのだ、彼女としても。
セイアがその心を知ったら、赤べこの如く頷いたであろう。
「それで、キミは?」
お互い、自らの身分を明かすべきだろうというセイアの促し。
バカバカしい珍道中だが、自分が何故か関係してしまっているが故に、イマジナリーお姉ちゃん棒を破壊して回っているネルは、既に仲間と言っても過言ではなかったから。
「あー、そうだな」
さっきの、セイアのクソ長い愚痴を聞いてしまった手前、意地でも引かないことは想像できた。なのでネルは、ガシガシと髪の毛をくちゃくちゃにしながらも、仕方なしに名乗ることにした。
「ネル、美甘ネルだ」
自らの名前のみを明かして、地下道を歩いていたその足を止めた──目的地に到着したから。
ひっそりと、誰にも見つからない様に幾重にも偽装された隠れ家。入り組んでいて地味な道筋の先が、ネルたちの活動拠点。
名前以上のことは、この部屋の主が自分よりも適切に説明するだろう、と考えて。
「おい、戻ったぞ」
パスを入力して入室した二人を迎えたのは、長いストレートの黒髪に、真っ黒な制服に身を包んだ彼女。
「お帰りなさい……ネル、どういうこと?」
ネルの後ろに続いて、おずおずと部屋に入ってきた横乳狐に、これは何? という視線を向けていた。
「私は──」
「知っているわ、百合園セイア」
言葉を遮って、セイアの言葉を遮断する。
そんなことは、とうの昔に知っているから。
彼女が知りたいのはセイア自身のことでなく、何故ここにいるのかという一点だけなのだ。
問われたネルは、しち面倒くさそうにしながら、これまでのことを要約した。
「例の棒、こいつがその原型らしい。それで、肖像権の侵害が許せないとか何とか。だから、仲間に入れて欲しいらしい」
「原型ではないが、単純に伝えるとそういうことになる」
妙に決意の籠った目で、セイアは黒い彼女を見つめた。その目は、仲間になりたそうな瞳をしている。
黒い彼女はそれを聞いて、少し俯いて考えを巡らせた。
この状況下において現れた、イマジナリーお姉ちゃん棒のオリジナル。これは、奇貨であるのは間違いなかったから。
「……なるほど」
思考を纏めて、顔を上げた。
セイアの目を見つめて、淡々と告げた。
「協力を得られるのなら、より合理的に動けるわ」
「マジかよ……」
ワンチャン、熱意は買うが拒絶されねーかなと思っていたネル。気持ちは分かるが、戦闘面においてセイアは邪魔者以外の何者でもなかったから。
だが、受け入れられてしまったのなら、もうしょうがないと割り切った。切り替えが早いのが、彼女の長所でもあるのだ。
「それで、キミは……」
何者なのか、という問いをセイアは飲み込んだ。
彼女の姿を、ティーパーティとして見知っていたことを思い出したから。
「セミナー会長の──」
自分が言えた立場ではないが、どうして彼女の様な重要人物がここに居るのか。若干の混乱の中で生じたセイアの疑問に、黒い彼女は真面目な顔で首を横に振った。
「今の私は、セミナーの会長ではないわ」
色々あって、セミナーの仕事は全て、後輩に任せてしまっている。そんな自分が、どうして会長を名乗れるのだろうか。
自責の念から、セイアの気づきを否定する。
「……敢えて、名乗るのなら」
ただ、今の彼女はセミナーの会長ではなくても、もう一つだけ名乗れる称号があった。
自分が何者であるのかと定義するのならば。
思索を巡らせた時に、たどり着いた思考の果て。
僅かな逡巡を経て、よすがに縋るみたいにその役割を口にした。
「調月リオ──美少女力学同好会、部長代行よ」