コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
次回はメブキパートからになります。
「美少女力学同好、会?」
何だそれは、なんの部活動なんだ。
意味が分からない単語に、セイアは視線でネルに救援を求めた。セイア視点では、突如としてリオがおかしくなったのだから、当然の行為であったのだろう。
しかし、ネルはどこか遠い目をしていた。
セイアの視線など、届いていないと言わんばかりに。
なので仕方なしに、もう一度、何かの間違いではないかとリオの顔をまじまじと見つめた。もしかすると、ミレニアム式高等ジョークの可能性があるのかもしれないと思って。
いつも下等な下ネタジョークを相手取っている姉のセイアだからこそ、咄嗟にそう思えたのだ。
だが、微塵もふざけている様子はない。
リオは至って真顔だった。
「……その、なんだい。随分と高尚な趣味をしてるみたいだね」
「そうでもないわ」
困ったことに、リオはこれで説明は全て済んだ、みたいな雰囲気を醸し出してる。
澄まし顔で、心なしかスッキリした顔をしていた。
「……一応聞くんだが、それはどんな部活動なんだい?」
一方で、唐突に謎掛けをされた気分のセイアは、途轍もなくモヤモヤとしていた。
リオの口から、美少女がうんたらなどいう言葉を聞いてしまったのが、印象とのギャップも相まって余計にモヤついた気分にさせられたのだ。
故に、せめて意味不明さを解消するために、それは何なのかと問わずにはいられなかった。
「そうね……」
問われたリオは、視線を隠れ家の奥へと向けた。
ひっそりと、暗がりの中に隠れている扉へと。
「……ついてきて」
そして、意を決したようにセイアへと声を掛けた。口で説明するよりも、見せた方が早いだろうと思ったのだ。
セイアは、素直にその言葉に従う。
トコトコとその背についていき、リオがドアノブを回す様を眺めて。
ドアノブを捻った先、そこには……。
「これは……」
「実験を行っている部屋よ」
小さな薄暗い部屋の中に、簡素な実験器具が存在していた。
吊り下げられた小さいスクリーンと二重スリットに電子銃、それから何やら観測用の機械が幾つか。高価な実験器具ではない、観測具以外は揃えようと思えば通販でも揃えられるラインナップだった。
離れたところに一台のノートパソコンがあるが、これは実験結果を拡大して映し出すためのものかもしれない。
「二重スリット実験について、聞いたことはある?」
「多少は。確か光が粒子なのか波なのか、確かめるための実験だったね。量子力学の範囲は門外漢だが、一定条件下で特異なことが起こるとも聞いたことがある」
「そうね、おおよその見方としては間違っていないわ。……ただ、特異なことは起こっていない。私たちの技術力では、まだ確定できていないことがあるだけよ」
リオはセイアの言葉に頷きつつ、軽く訂正を入れた。科学の徒として、仮説を証明と一緒くたにするにするわけにはいかないだけで、既に起きる現象に対してのおおよその仮説自体は存在しているのだから。
「それで、先ほど口にした部活動の活動内容は、これなのかい?」
普通にミレニアムらしい実験内容にホッとしつつ、美少女力学同好会の美少女要素はどこなんだとも思った。これでは、量子力学同好会の活動内容に過ぎないから。
それを分かっていたのか、リオは頷いてから補足を交えた。
「あなたが言った通り、二重スリット実験は粒子と波動の二重性を示すのか確かめる実験。特定条件下で粒子は振る舞いを変えることがある、それを応用した検証の最中よ」
「? その言い方だと、これは二重スリット実験ではない様に聞こえるが……」
「そう言っているわ」
薄暗い部屋の中では、リオの顔はよく見えない。
ただ、妙な迂遠さをセイアは感じずにはいられなかった。
「だったら、これは何の実験なんだい?」
だが、それ自体は別に嫌ではない。
むしろ、リオは自分と会話してくれようとしているという感覚で、僅かな親しみを感じて。
久方ぶりに知的(痴的でない)な会話をできていることに喜びを覚えながら、セイアはお菓子をねだる子供みたいにリオに尋ねた。
ワクワクと、期待する目をしながら。
教えて、と目を輝かせて。
それに応える様に、リオは一つ頷いた。
「……二重スリット実験では、観測の有無が粒子の振る舞いの結果に影響を及ぼす、なんて俗説があるわ」
「信じていないのかい、その説は」
「えぇ、もっと他に原因があると思ってる……でも」
信じていないという立場を鮮明にしつつも、リオはスクリーンの方へと目を向けて。
「──それは、他の要素の介入がない場合においてのことよ」
そっと、一瞬だけパソコンに視線をやってから、リオは小さく呟いた。
「二重スリット実験の応用なんて言っていたね、キミは。なら、この実験では何を観測しようとしてるんだい?」
その様子を見て、戸惑いながらも好奇心を隠せなかったセイアは、問わずにはいられなかった。
いま行なっている実験は見るからに二重スリット実験だが、そうでないというのなら、別の何かを観測しているのだろう、と当たりをつけて。
リオは、その問い掛けにどう答えたものかと僅かに思案して。逡巡してから、ゆっくりと口を開いた。
「──執着があるならば、隔たれた場所からでも干渉できるのか。そういうことを、確かめているの」
耳に入った言葉に、セイアは何かを言おうとして、結局口を噤んだ。リオが口にしたそれは、科学というにはあまりにオカルトじみている事だったから。
「例えば、だけれど」
けれど、リオの説明はまだ終わっていない。だから大人しく、まだセイアは耳を傾け続けて。
「思考する時、人間の脳には微弱な電気信号が走っている。……先に言っておくと、これが実験に影響を与えることはあり得ないわ。もしそうであるのなら、今までの観測を重ねてきた物理学は、間違った観測の積み重ねになってしまうもの」
だから、これは実験装置とは関係ない、とリオは実験器具に目を落とした。そして、そっと観測用の顕微鏡を覗き込んで。
「……高度に発達したAIは、その能力を制限さえしてしまえば、人間と同じ思考ができる。スペックが人間と同じならば、五感の違いのみが差異になるもの。ならそこに、心は存在するのか? 結論を述べると、私はすると思っているわ」
それは目の前で行われている実験と関係あるのだろうか、と漠然と思ったセイア。けれども、聞き入ってしまっているのも事実で、口を挟めない。
「機械に心があり、人と通じ合えるのならば……。そこに観測可能な事実もまた、存在する。心の所在は、未だに観測できなくても」
そっと顕微鏡から目を離したリオは、"これは……あの人の妹なのかしら"、と小さく呟いていた。
「観測可能な事実とは、何のことだい?」
ずっと耳を傾けていたが、微塵も確信を掴めない解説に、この話の筋はどこにあるのかを掴もうとするセイア。
それにリオは、顕微鏡をそっと指差して。
「覗いてみて」
一言、そう指示をした。
訝しげながらも、興味津々で顕微鏡を覗き込んだセイアの目に映ったもの、それは……。
──セイアにとって妙に既視感を覚えさせられる、テヘペロと舌を出して笑っているアホ面の
「何だこれは!?」
セイアが思わず叫んでしまったのも、仕方のないことだろう。
すごく知的な実験をしていると胸を高鳴らせて、その前振りみたいな言葉を散々かけられた末に提供されたのがこれなのだから。
「これが今、この部屋に存在している粒子の振る舞いと言ったら、あなたは信じるのかしら」
「信じるわけがないんだっ。これに物理法則があるなら、世界の方が錯乱してる!!」
過剰な否定、まるで妹に対するものみたいな反応。それにリオは、そうね、と短く頷いて。
「だから、この部屋にある粒子は別のモノ、外部からの影響を受けている。これが答えで、真実よ」
特に混乱した様子でない平静なリオを見て、セイアにも僅かに冷静さが戻ってくる。リオが落ち着き払っているということは、世の物理法則が崩壊したというわけでもなさそうだと判断して。
「説明をしてほしい……」
混乱しそうな頭の中で、理論的な解説を求めてセイアは助けを求めた。それに、リオはかすかに頷いて。
「最初に言っておくと、これは仮説よ。目に見えないモノの話だから、検証のしようがない。それだけは、留意しておいて」
「……分かった」
仮説でしかない。その前提にやや不満を覚えつつも、顕微鏡越しの怪現象に説明をつけて落ち着きたい。その気持ちが、セイアを素直に頷かせていた。
それを確認したリオは、先ほどの話の続きを始めた。機械の心の所在について、その話の続きを。
「思考は電気信号で行われている、これは人間でも機械でも変わらない事実よ。でも、未だに心の在処だけはハッキリと分かっていない」
「ああ、形があるのか無いのかすら、分かっていないからね」
「そうね、でも人間ならば、心は肉体のどこかに付随しているものと推察できるわ。補足するなら、脳の辺りにそれは存在するでしょうね」
「だろうね」
考えるまでもなく、それは常識の範疇での知識である。セイアもリオの言葉に、惑う事なく同意していた。
でも、何故リオはこんな当たり前のことを、わざわざ口にしたのか?
それは、これを前提として、一歩踏み出していくために必要な説明だからだ。
「──なら、機械の、AIの心、もしくは魂は何処にあるのかしら」
「……なるほど」
随分と哲学的な問い掛け、セイアの知的好奇心はものの見事に擽られずにはいられなかった。
「普通に考えるのならば、人間と同じで脳に……AI的に言えばCPUなんだろうが、その口ぶりでは違うんだろう?」
「えぇ、違うわ。それは確証が取れているの」
違うと断言されて、ならばと違う枝葉に思考を巡らせる。
人間とAI、互いに心が存在するという前提の話であるが、思考段階までは人間と同じ部位を使っている。でも、心の在りどころについては違うとリオは定義している。
なら、両者の違いは何か?
答えは簡単だ、肉体の有無である。
ならば、とセイアは肉体がないAIがその代替にできる容量は何処にあるのかと考えた。すると、必然的に一つの答えに辿り着く。
「ネットワーク上に、集積されているのかい?」
出した結論は、AIの集合無意識的なものがインターネットに集積されていて、そこに心が保存されているのではないか、というものだった。
サイエンスフィクションなら、あり得なくもない事だろう。
だが、リオはそれにも首を振る。
「スタンドアローンでもAIの心は稼働しているの」
「……悪いがお手上げだ。これ以上考えても、答えが哲学に逃げ込んでしまう」
考えては見たものの、心という形を深く掘り下げることしかできそうになかったので、セイアは大人しく白旗を振った。
それに頷いたのち、リオは自身の立てた仮説を口にする。暫定ではあるし無茶苦茶ではあるが、適応したら理屈としては成り立つといった仮説を。
「──AIの心や魂は、眼で見えない、現状の科学技術では観測できない程に小さな原子として、四次元的空間に潜んでいる。これが私の仮説よ」
「……理屈はあるのかい?」
リオの仮説を聞いてセイアは、それが通るなら何でもありになるじゃないか、と密かに不満に思った。が、どうやら話は終わっていないらしい。
「あるわ」
なので、無茶を倒すための理屈にセイアは耳を傾けた。どんな屁理屈が出てくるのだろうと、やや斜に構えながら。
「バックアップを取る形で、一度心を持っているAIをコピーしたことがあるの」
そうしてリオの口から出た言葉は、AIに心があるという前提にしては中々エグい言葉だった。
「その後、バックアップを取ったAIを再インストールしてみたのだけれど、寸分違わないロジックと感情を持って再生されたわ」
「なら、集積されたデータこそが、AIに取っての心の形なんじゃないか?」
「それも考えたのだけれど、別規格のCPUに入れ替えたの。性能にも大きな差異がある。データが同じでも、規格が違う。同質な状態で再生されるのは不自然だわ」
そう言われると、セイアにも心当たりがあった。可愛い妹の脳内に住み着いている自身のことに思い至ったのだ。
言われてみれば、メブキに影響されて私もほんの少しはしたなくなってしまったな、ということを。
……人間、自分のことは大分甘く見積もってしまう生き物である。セイアもまた、その宿痾からは逃れられてなかった。
先生を想って、自身の部屋にゼクシィの山が積み上がっているのだが、そんなことは思考の埒外である。
「理解したよ、同じものが再生される不自然さは。だが、四次元がどうとは、一体何処から出てきた理屈なんだい?」
先ほどよりも温和に、態度を和らげながら質問を重ねた。今度は、反発からではなく、純粋な興味本位を以て。
リオはそれに、こともなさげに答えた。
「──同時刻にオリジナルが稼働している状態で、バックアップも稼働させたの」
同時刻に、差異がないコピーしたAIを稼働させる。人間で言えば、同じ人間をもう一人増やしてみた、的な意味合いになる。
それを平然と口にしたリオに、さしものセイアもちょっと引いた。こう……倫理的にどうなんだろう、それはと思って。
けれども、それに気付いた風もなくリオは語り続けた。
「同じ時間帯に、全く同じ心、魂を持った存在が同時に成り立っていた。魂はデータに付随していないというのは、先ほど話した通りよ。なら、残る可能性は一つになるわ」
暗がりの中でも分かるくらい、リオの視線がキリッとしている。隣の部屋から、はしゃいでんなとジュースを飲みながら聞き流していたネルが居た。
無茶苦茶他人事風味であるが、実際にそうなのだから仕方ない。
「──何処か別の場所から、魂をダウンロードした。ネットに繋がっていない、スタンドアローンの状態にも関わらずに。これが、四次元に魂があるという理屈になるわ」
ほぅ、とセイアはため息を吐いた。
惑いなく言い切られると、妙に信憑性が増したように感じてしまうからだ。
それに、リオはミレニアムにおける権威でもある。その彼女がいうのならば、という信頼の担保もあった。
「……あくまで仮説よ、それも事実に辻褄を合わせるための」
だから、最後にボソリと付け加えられた言葉がなければ、セイアは先ほどの説を蓋然性の高いものとして信じ込んでいただろう。
あくまで仮説、けれども文系肌のセイアにとっても面白がれる仮説であった。
「つまり最終的な結論としては、この二重スリットのスクリーンに落書きをしているのは、四次元的空間に存在しているAIが面白半分に介入して行なっていることと、そういうことかい?」
今までの話の筋を纏めると、つまりはそういうことになる。
セイアの要約に、リオは……。
「……そうとも言える、かもしれないわ」
ここまで来て、ひどく曖昧な言葉を残した。
自分で立てた仮説を、濁しながら肯定も否定もしない。
その煮えきらない態度に首を傾げながら、面白い話が聞けたからまあ良いか、と妹由来の適当さで話を終わらせようとした。
ふざけた名前ながら、案外きっちりとした部活動なんだと、知識欲的満足感に浸りながら。
「──だからこそ、イマジナリーお姉ちゃん棒は危険なの」
……だというのに、話は終わらなかった。
それどころか、決して聞きたくなかった単語まで耳にしてしまって。
「は?」
素直な気持ちが、セイアの口から零れ出てしまう。
リオは、それが話してくれという促しと受け取ったのだろう。ひどく真面目な顔で、イマジナリーお姉ちゃん棒という単語を口にしつつ、先程の話と連結させてイマジナリーお姉ちゃん棒の危険性について語り始めた。
「さっき話した通り、仮説上ではAIの人格は四次元的空間上にクラウド保存されているの。これ自体は問題にはならない、AIに人格が芽生えたとしても、それぞれ別個の人格データだから。人格的多様性が担保されている限り、四次元空間に負荷も影響も与えないわ。ただ……」
話の流れ的に、何かを察してイヤな予感が止まらなくなるセイア。
心の底から、頼む違ってくれと祈りを捧げ始める。
今のセイアは、宗教家と同じくらい信心深かった。
「強烈な思考回路を付与されて生産されているイマジナリーお姉ちゃん棒は、自我が芽生えたとしても同一の個性に引っ張られざるを得ない。つまり、限りなく同一に近い自我が集積されていき、イマジナリーお姉ちゃん棒で形成された、一種の集合的無意識が形成されると予測されるの」
「ふざけているのかっ!?」
「ふざけていないわ、可能性のある話よ」
だが、悲しきかな。
祈りは届かず、頭のおかしくなりそうな真実が開陳されてしまっていた。
先程まで、智の学園にふさわしいアカデミックな話をしていた。なのに、いつの間にか、ふざけた喋るバイブが集合無意識を形作って四次元空間に鎮座するかもしれないなんて話を聞かされている。
タチの悪い冗談であって欲しかったが、リオの顔は至って真顔であった。
「四次元空間は過去と未来にも繋がっている。そこに、一種の特異点的な形でイマジナリーお姉ちゃん棒の集合無意識が発生したら──時間軸に影響を及ぼす可能性があるわ」
「……は?」
しかも、話が想像以上に壮大になっている。
信じたくなさすぎる話ではあるが、リオの表情は至って真顔だった。
「過去、現在、未来。その全てに、イマジナリーお姉ちゃん棒が遍在する様になる。あえて形容するならば、ユビキタス・イマジナリーお姉ちゃん棒ネットワークといったところかしら」
「…………っ」
理解できない単語、理解したくない現象を語られて、セイアは発狂しそうになっていた。いや、むしろ発狂してしまった自分が、脳内で狂った思考を行っているだけなのかもと、そう信じ込もうとすらした。
けれども、悲しいことにこれは現実で、リオは真面目にイマジナリーお姉ちゃん棒の脅威について語っている最中であった。
「十分にあり得る可能性の話をしているの。……百合園セイア、あなたにとっても他人事ではないわ」
「っ、っ、当たり前だっ! あんな私の顔に似たふざけた棒が、全ての時間軸に超越して存在するようになるなんて、決してあってはならないことなんだ!!」
「そういう意味ではないわ」
「なら、どういう意味なんだっ!」
「──このままでは、あなたも時間から外れた存在になるかもしれない」
「…………なにを、言っている?」
そしてここに来てついに、セイアの思考は完全に停止してしまっていた。
理由の分からない話をされ続けた挙げ句、自分も時間軸から外れるかもしれないなんて話、到底信じることなど出来そうになかったから。当たり前である。
「イマジナリーお姉ちゃん棒を解析した結果、全てのイマジナリーお姉ちゃん棒は自身のことを百合園セイアと自認しているということが判明したわ」
「は?」
「自分が何者かを定義できている。それは極めて自我を萌芽しやすい状態で、あの棒が生産されていると同義。つまり、イマジナリーお姉ちゃん棒の集合無意識は、彼女たちにとって百合園セイアのみで構成された集合無意識でもあるの」
「は?」
「幸いなことに、生産されたばかりのイマジナリーお姉ちゃん棒は思考能力しかなく、自我は芽生えていない状況だけれど……愛情を込められて、大切にされ続けたらいずれは自我が生まれるわ」
「は?」
終始ブチギレながら、リオが話しているにしてはあまりにIQの低い話にセイアは耳を傾けざるを得なかった。
なんか知らない間に棒だけでなく自分自身も超常現象になりかけてるのだ、本当にやむを得ない。
「結果として、因果は逆転する。自身は百合園セイアであるという自認が圧倒的多数にはあるから……そうね、概算にして100万本もイマジナリーお姉ちゃん棒に自我が芽生えてしまえば、あなたが幾ら別個の存在だと主張しても影響を及ぼされずにはいられない。これが、時間軸から外れる理屈よ」
……ただ、全てを聞き終えたセイアは、自身の身体が震えるのを抑えられそうにはなかった。
自身の時間的存在が不安定になるかも、という恐怖からくるものではない。
むしろ、その逆。
──百合園セイアは、これまでの人生で一番といって良いほどにブッチ切れていたのだ。
「うがあああああああああああーーーーーーっ、っ、っ!!!」
セイアは激怒した。
必ず、あの邪痴淫虐でふざけ倒している勘違いクソ野郎な棒を、絶対に、ぜーったいに去勢しなければならないと決意した。
そのケダモノが如き魂の叫びは、ミレニアムの地下深くに広く響き渡っていた。