コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
『まず、EXPOの手続きをしてください』
おしりちゃんに指示されて、私たちはフローラル女子高生饅頭の一員になりに受付へと行ったの。
朝のごった返し状態と比べたら落ち着いてて、列になって並んでるところまで人波は無くなってた。
ちょっと安心。朝みたいな感じだと、ミニマム女子高生な私とコハルちゃんは、押し潰されておせんべい女子高生になっちゃってたかもしれなかったから。
それでも、パスポート貰えるまでに、一時間半も掛かっちゃったんだけどね!
でも、いいの。
待ち時間の間、ちゃんとお話し出来たから!
「おしりちゃんって、なんでおけつちゃんなの?」
『ケイツーですっ、お尻ではないと言っています!』
「……お尻も性器だって主張してる過激派さんもいるけど、おしりちゃんもそういうえっちさんなの?」
『そんなもの、エロゲーの中の産物ですっ』
「そうなの。お尻はうんちを出し入れするところだから、本当は性器じゃないの。おしりちゃんは賢いね?」
『入れないでくださいっ、狂っているのですか!!』
「お尻ちゃんも、うんちするときは言ってね。私の腕でしちゃダメだよ?」
『腕時計の身空で、出来るわけがないでしょうっ』
おしりちゃんはデジタル腕時計さんで、小さな画面にテキストウィンドウを浮かべて、必死に文字を表示してる。
だから、会話のテンポは良くないんだけど、一生懸命な感じが伝わってきてとっても可愛いの! テキストウィンドウに文字が表示されるの、エロゲーのヒロインみたいで素敵だし!
……でもね、みんなでわーってお話すると、文字が表示しきれなくなっちゃうんだ。
「ね、おしりちゃんはどこ住み? モモトークとかやってるかな?*1」
「な、何聞いてるのよ、ヘンタイ! もっと他に聞くことあるでしょ!」
「えっ……あっ、そっか! おしりちゃん、コハルちゃんがね、スリーサイズ教えてだって!*2」
「言うわけないじゃないっ、スケベ!」
「スケベ!? おしりちゃんも聞いたよねっ、いまコハルちゃん、私の身体をスケベだって思ってるってこと!*3」
「寸胴メブキの癖に、自意識過剰なのよ!!」
にゃっ、寸胴メブキ!?
私の妹的ひんにゅーぼでぃを、カレーのお鍋と一緒扱いなんて酷いよ!
「わ、私よりコハルちゃんパイパイの方が大きいからって、言って良いことと悪いことがあるんだよ! 意地悪なコハルちゃんは、デカパイ搾乳法で、みんなに乳搾り牧場コハルちゃん体験してもらうしかなくなっちゃうんだからね!*4」
「ふざけないでっ。そんなの、真っ先にハナコが牧場送りになっちゃうでしょ!*5」
「ハナコちゃんの大切なパイパイを、みんなにモミモミさせて、どさくさに紛れてコハルちゃんも揉もうってこと? そ、そんな淫棒、私が絶対に許さないよ!*6」
「まあ、メブキちゃんは優しいですね♡*7」
「ハナコちゃんに近付いてくる性欲つよつよコハルちゃんは、私が絶対にやっつけてあげるから!」
「ほら吹きメブキ! 言ってないって言ってるでしょ!!」
「でも、おしりちゃんもほら……『おしりちゃんではありません』って表示しているよね? これはね、インターネット言語で、コハルちゃんはえっちって意味なんだよ?*8」
「しけぇ!!」
みんなが喋ってる中で、どうしてかおしりちゃんはずっと、『おしりちゃんではありません』って表示したままだったの。
もしかしたら、うんち離席をしちゃってるのかなって思ったけど、定期的に文章を再表示し直してるから、おんなじ文章を何度も打ち直してるみたいなの。
……アリスちゃんに付けてもらった、おけつちゃんって名前、大事にしてるから、なのかな?
「あのね、おしりちゃん。やっぱり、おしりちゃんってイヤ?」
もしかして私、意地悪さんだったのかなって思って聞くと、やっとおしりちゃんは画面に別の文字を表示してくれたの。
『ケイツーです、二度と間違えないでください』
何だか怒ってるみたいな言葉で、読んでしょんぼりしちゃった。それから、ごめんねって気持ちが、ムクムクしてきたの。
「ケツちゃん、本当にごめんね……。今度からは間違えないようにするから、許してくれる……?」
あうあうって気持ちで、ドキドキしながら画面をじっと見てると、ちょっとしてから画面に文字が表示されたの。
『……もう、それでいいです*9』
おしりちゃん……じゃなくて、ケツちゃんからね、ぷんぷんって雰囲気が消えて、またお話しを再開してくれたの!
……嫌がってるのに気が付いてあげられなくて、本当にごめんね。
「そういえば、ケツちゃんはどしてkeyのイベント案内人をしてくれてるの?」
無事に手続きを終えてチケットを購入できたのは、もうちょっとしたら夕方になっちゃう時間帯。ちょっとEXPOを見てると、直ぐに夕方になっちゃって。
だからね、明日からがんばろーって話になって、今日は解散しちゃったの。
二人と別れてホテルのお部屋に来て、今はケツちゃんと二人っきり。だからね、ケツちゃんを口説くのは今しかないって思って、お話しし始めたの。
おしりちゃん呼びして、無くしちゃった好感度を戻そうってしたのもあるんだ。
ケツちゃんはお顔が見えないけど、エロゲー形式のウィンドウで会話してくれてるし、それだけで絶対仲良くなりたい女の子だもん!
『……約束、したんです』
「約束?」
だからね、ヒロインみたいな言葉がウィンドウに表示されて、ドキって心臓が高鳴っちゃった! きゅーんって、胸にきちゃうやつだよ!
「約束って、なにかな?」
ワクワクしながら、腕時計の画面を覗き込んだの。
もしかして、ケツちゃんは誰かのヒロインさんなのかなってトキメキながら。
するとね、ウィンドウはちょっとの間空白だったけど、それでも待ってたら、ゆっくり文字が表示されて。
『……内緒、です』
何だか、甘酸っぱい言葉。
多分ね、唇に人差し指を当てながら言ってくれてる言葉だと思うの!
約束って何のことか分からなかったけど、ケツちゃんはアズサちゃんに匹敵する美少女さんだってことは分かったの。
あにゃるが弱い系AI美少女のケツちゃん、今後ともよろしくお願いします、なんだよ!
「むにゃむにゃ、おねーちゃん……デカパイ……よこ、ちち……モミモミ……モギモギ……」
「なんて夢を見てるんだ、全く」
口では呆れた風も装いつつも、もはや慣れたものと気にした風もないセイア。これが日常的なことで、動じなくなっているのだ。
現在時刻は23時、今日あったことを色々と話してくれていた妹をなんとか寝かしつけた時間帯。
急げばギリギリ間に合うな、とセイアは足早にホテルの部屋を後にした。
本当は妹と一緒に眠りにつき、夢の中で存分に甘やかしてあげたい気持ちも勿論ある。だが、そうしていられない事情がセイアにはあったのだ。
──ユビキタスイマジナリーお姉ちゃん棒ネットワーク構築の阻止。
是が非でも、これを達成しなくてはならないから。
そうなのである、このままではセイアは時間に囚われない存在になってしまうのだ。イマジナリーお姉ちゃん棒とかいう、クソふざけたものに巻き込まれて。
そもそもの原因、全ての時間軸にイマジナリーお姉ちゃん棒が偏在する様になるという現象。この意味の分からない現象を一言で形容するのならば、ありとあらゆる歴史に存在したことになってしまう、とでも言えば良いのだろうか。
つまりは、何故か第一回公会議のサンクトゥス派として参加しているイマジナリーお姉ちゃん棒や、アリウス分派の庇護者を自認して勝手に彼女たちに着いていくイマジナリーお姉ちゃん棒など、勝手に歴史の中に紛れ込んでしまうのだ。
果てには、雷帝とツーショット撮っているイマジナリーお姉ちゃん棒や、死にかけている梔子ユメにローションを飲ませてあげるイマジナリーお姉ちゃん棒など、ありとあらゆる所の視界の端(セイア的には恥である)に存在するようになる。
歴史に影響は与えないが、常に見切れている形でイマジナリーお姉ちゃん棒がフレームインしてしまう。それが、ユビキタスイマジナリーお姉ちゃん棒ネットワークの正体である。
これだけでも、セイア的には屈辱的な尊厳破壊なのに、イマジナリーお姉ちゃん棒が百合園セイアを自認しているせいで、セイア自身も影響を受けてしまうというのが最悪さ極まっている。
影響を受けた結果、全ての時間軸に百合園セイアが存在する様になる。
今日の夜に目を瞑って眠った筈が、目を開ければ1週間前の朝に目を覚ます。そうして目を再び瞑れば、遙か未来の夕方で目を覚ましてしまう。
つまりは、今日に留まれなくなるのだ。
確率的には、明日の朝に目覚めることも可能であろう。しかし、天文学的な確率な上、過去や未来を行き来しているうちに、今日という概念が曖昧模糊になってしまう。
そうなったが最後、百合園セイアは寿命という概念からも解き放たれ、時を彷徨う亡霊という現象と化してしまう。人間で、なくなってしまうのだ。
そんなふざけた事象、絶対に受け入れるわけにはいかない。セイアが大切にしているのは、大好きな友達や愛している妹、好意を寄せている先生がいる今なのだから!
そういう訳で、気合十分といった感じでセイアはリオの隠れ家……美少女力学同好会の部室? へとやって来た。
既にリオとネルはスタンバイが完了しており、セイアを待っていたのだろう。部屋に入って来た時に、二人の視線をセイアは直射されることになった。
「来たな、流石にバックれはしないか」
「あんなもの、放置出来るわけがないだろうっ!」
「そりゃそうか」
あっけらかんとしているネルに、他人事だと思って! と身の上に対する僻みみたいな感情を覚えてしまうセイア。ともすれば、逆恨みへと到達しかねない感情だった。
「ま、やることは決まってるからな。あの棒が100万本生産される前に、なんとかすりゃいいんだろ。まだ市場に出回ってすらいない代物だ、焦る必要はねーよ」
だが、ネルの冷静な分析を聞いて、己の溜飲が下がったのをセイアは自覚した。それに、不安がっている自分を、ネルが慰めてくれていることも。
イマジナリーお姉ちゃん棒問題で疲弊していた心に、その善意はとても沁みた。さっきまで感じていた僻みを何処かへと押しやって、なんて頼りになる仲間なのだろうか、と即座に手のひら返しをしてしまうほどに。
「……その通りだ、ネル。助言、感謝する」
「おう」
俄かに友情が芽生えそうになっているセイアを見て、素直な奴だとネルも若干の快さを感じた。メブキナイズされたセイアは、IQが20近く下がってて親近感が持ちやすい生き物だった。
「……今回の任務を説明するわ」
場の空気が落ち着いたのを確認し、なすべきことについて話し始めた。成すべきこととは、勿論イマジナリーお姉ちゃん棒関連のことである。
「今まで、イマジナリーお姉ちゃん棒が何処で生産されていたのか分からなかったわ。恐らくは少数ロットでの生産、大量生産していたわけじゃない」
その分析に、セイアはホッと胸を撫で下ろした。
まだ取り返しがつく、私は終わってはいないと。
そもそもからして、あんなものが大量に世に憚ることなど、断じて許容できないのだから。
「で、またその探索の続きってことか?」
「そうよ。それに、今まで検挙できていなかったからか、向こうの動きも大胆になって来ているわ」
「大胆に……?」
セイアの呟きに、リオはミレニアム内の工場付近の監視カメラを映し出した。荒く、乱れた映像の中、それでも特徴的なヘルメット団の少女たちの姿が映し出されていた。
「現在、EXPOの開催に伴って、ミレニアムの各工場は夜間操業を停止している。各部が好き勝手に物を作らないよう、安全対策のために規制をかけているの」
「そこを狙って、ヘルメット団は工場を利用しようとしている、と?」
「ええ、そう。方法は不明だけれど、工場の管理者権限を解除して、昨日から活動しているのを確認したわ」
「──つまりは、一網打尽にしてしまおうということだね」
リオの肯定に、セイアは近くに置いてあったあるサブマシンガン(ネルの予備)を手にする。全て、吹き飛ばしてやると呪詛じみた気持ちで。
「バカ、ちげーよ」
……が、残念なことに、そのサブマシンガンは直ぐにネルに取り上げられてしまった。
不満気なセイアだが、ネルの対応をリオは肯定した。
「ミレニアムの自動工場は、ミレニアム生全員の資産よ。傷つける行為は、極力避けなくてはならない」
「む……それは、そうだが……」
不承不承ながら、一理あることを認めざるを得ない。
誠に残念なことに、セイアの工場ごと全てを破壊するという案は棄却されることになった。残念ながら当然の結果である。
「あなたにしてもらいたいのは、工場のブレーカーを落として、イマジナリーお姉ちゃん棒の生産を止めること」
「……ネルはどうするんだい?」
「追跡任務についてもらうわ。ブレーカーを落とした後、ヘルメット団員達は、生産したイマジナリーお姉ちゃん棒を回収して、彼女達の拠点に退却することが予想されている」
「そいつらを泳がせて、拠点と親玉を探るってことだな」
ネルの言葉にリオは頷いて、言葉を続けた。
「これまで、様々な迂回経路や情報欺瞞で誤魔化されてきた。けれど今回は、ヘルメット団は大きな荷物を背負って逃げることになる」
「いい目印だな、荷物持ってる奴を追いかければ良いってわけだ」
「そういうことよ」
今まで、リオはネル個人に頼るしかなかった。
C&Cを、個人の調月リオとして利用することができなかったのだ。
それ故、今までは手が足らずに逃げ切られて来た。
だが、今はセイアがいる。
セイアの能力は未知数だが、今までよりも出来ることの範囲が広がる。
今日こそは、このイタチごっこに終止符を打てる。
棒狩りとかクソダサいあだ名を付けられていたネルは、やっと事態が解けそうなことにやる気を漲らせた。セイアほどでないにしろ、ネルにとっても、まあまあウンザリする事件だったのだ。
「お前は潜入、あたしが追撃。いいな?」
「ああ、よろしく頼むよ、ネル」
そっと手を差し出されて、ネルも手を差し出して応える。握手……ではなく、セイアの手を軽く叩いて、気合いを入れる形で。
パチンと乾いた音が響く。
これが、彼女達の任務開始の合図となった。