コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
セイアは珍しく、惰眠を貪っていた。
昨日夜間に活動し、更には精神的なダメージを負ってしまったが故に。
妹の夢に入り込む余裕すらなく、自らを癒すためだけの睡眠に浸らざるを得なかったのだ。
窓から差す陽光にすら抵抗し、浅ましくも眠りを手放さなかったセイアは贅沢をしていたともいえよう。
だが、何にでも終わりは来る。セイアがどれだけ望もうが、いつかは目を覚まさねばならない時が来るのだ。
……時が来た、スマートフォンが震える。
不躾な着信音で、水底にあった意識が、急激に引き上げられていく。
目をぼんやりを開けたセイアは、非常に不機嫌そうであった。だが、そのまま二度寝を決め込める性格でもない。
渋々といった風情で電話を取ったセイアの鼓膜を揺らしたのは、リオの涼やかな声であった。
『セイア、急ぎ伝えたいことがあるの』
「……朝早くから、随分とご挨拶だね」
『もう10時半よ、起きて然るべき時間だわ』
部屋の時計を見上げれば、確かに時刻はその通り。寝過ぎているわけではないが、頃合いのいい時間であった。
「……おはよう、リオ。どうやら昨日の疲れを引きずっていた様だ。君の言葉で、ようやく目が冴えた」
『それは幸いね、あなたには動いてもらわなくてはならないのだから』
リオの言葉に、何やら不穏な気配を感じ取ったセイアは、身体に纏わりついていた微睡みを放り投げた。
「事件が起こったのかい?」
『えぇ、現在進行形で被害が広がっていっているものが』
一体何の話か、恐らくはあの忌々しい棒のことに違いないのだが。
嫌な確信を抱きつつ耳を傾けたセイアに、リオが告げた内容は……。
『イマジナリーお姉ちゃん棒の人格を内蔵したデータが、EXPOに展示中の機械へと無差別にインストールされているの。各展示場で、機器が乗っ取られて自らのことをイマジナリーお姉ちゃん棒と名乗っているわ』
「──ふざけているのかあぁーーーっ!!!」
『ふざけていないわ、厳然たる事実よ』
おかしい、こんなことは許されない。
昨日あれだけ努力して、量産型イマジナリーお姉ちゃん棒を闇に葬ったはずなのに、翌朝には元気にEXPO会場で暴れ回っていることなど、あってはならない事実である。
セイアは心の底から、強く強くそう思った。
というか、自分の名誉のためにも、そう思わざるを得なかった。
『緊急事態だということは分かったでしょう。このまま人格データが無差別に拡散され続けたら、イマジナリーお姉ちゃん棒は100万の意識に届きかねない。そうなれば最後、あなたは時間漂流者になる』
「クッ、私が一体何をしたというんだっ」
本来、リオの予測ではもう少し事態は緩やかに推移するはずであった。ヘルメット団はあのイマジナリーお姉ちゃん棒という形に拘っているのだから、少なくとも早急に悪くなることはないだろう、と。
無論、無限イマジナリーお姉ちゃん棒コピペ戦法の脅威も考えないことはなかった。しかし、それを可能にするにはヴェリタスの張り巡らしたファイアウォールを突破するか、もしくは……。
『データセンターを介して、拡散されたか』
外から侵入できないのならば、内から入り込めば良い。単純な帰結、明快な手段だ。
ミレニアムのデータセンターは、ミレニアムに存在するおおよそのデータの動きを、監視、追跡できる。ミレニアムのデータ、おおよそ全てに通じている源泉である。
そこに、特定外来生物のイマジナリーお姉ちゃん棒を放流した結果、この有り様なのだとリオは推察した。
「データセンター……そこを破壊すれば、全てが収まるのかい?」
『データセンターは、ミレニアムの記憶野に相当する場所なの。破壊されれば、多くの研究データが失われることになる。許可できない』
「では、どうすればいいんだっ!」
『感染源にはネルを派遣するわ。あなたは、イマジナリーお姉ちゃん棒に感染した機器を、電磁パルスを浴びせて機能停止に陥らせて欲しいの』
「……了解した」
本当は、自分が要因となっているものに一撃を加えたい。そんな気持ちが溢れんばかりにあったが、状況を考えると大元は地の利があるネルに任せた方が良い。
そう必死に自分に言い聞かせて、セイアは渋々と頷いた。
時間はない、早速動かねばとセイアはベッドから飛び降りた。イマジナリーお姉ちゃん棒を去勢するという使命感に、熱く心を燃え滾らせながら。
『……ところでもう一つ、聞きたいことがあるのだけれど』
「手短に頼む。私はこれから、全てを破壊しなければならないんだ」
『展示品は不可避なものを除いて、極力壊さないでちょうだい。強力な電磁パルスを浴びせれば、活動を停止するはずよ』
「了解、装備を受け取り次第活動を開始する。それで聞きたいこととは?」
妙にエネルギーに溢れているセイアを前に、リオはそっと手繰るように、言葉を紡いだ。
『……各地のイマジナリーお姉ちゃん棒は、妹の春風メブキ及び先生のお尻の穴を要求しているわ』
「差し出すわけがないんだ、ふざけないでくれ!!」
激怒しているセイアの言葉に、リオはそうねと同意して。
『それで、なのだけれど。……春風メブキというのは、イマジナリーお姉ちゃん棒の妹であるのは本当かしら?』
「私の妹なんだっ、断じてあんな棒の妹などではない!!」
あまりに力強い断言、心の底から胸を張ってそう言えるからこその言葉。それを聞いて、リオは小さく呟いた。
『春風……そういうことだったのね』
無心でいるには、あまりにもしみじみとした言葉。それも、妹の苗字を口にしてのこと。
セイアが妙に気になってしまったのも、仕方のないことだっただろう。
「そういうこと、とは?」
『……いずれ、あなたとも関わりができれば話すわ』
だが、リオは答えない。
露骨にはぐらかされたことに、セイアはややムッとしたが、直ぐに頭を振った。今は、それどころではない事態なのだから。
「まあいいさ。それよりも、電磁パルス発生装置はあるかい? 今から、奴らの脳を破壊して回るのに必要なんだ」
『エンジニア部に銃型の物があったはずよ、取りに行って』
「了解した」
それを最後に電話が切れる。
瞬間、セイアは走り出していた。
今は形のない人格データだから姿形は見えていないが、もしあのふざけた棒のAIが百合園セイアですと自己紹介を始めたら最後だ。セイアの名誉は地に堕ちて、周りからバイブのセイア様と囁かれることになりかねない。
挙句、ブチギレて開き直ったサンクトゥス分派の面々が、イマジナリーお姉ちゃん棒を通販販売などすることなどを始めたらもう取り返しがつかない。
そんなことはあり得ないのだが、あり得ないことが連続して起こりすぎてセイアの脳はおかしくなっていた。
「絶対に、絶対にそれだけは阻止しなければっ!」
普段の彼女を知っている人が見たら目を丸くしそうなスピードで、エンジニア部へと駆けていく。
今のセイアは、野生に帰った一匹の狐だった。
そうして、エンジニア部までたどり着いたセイアを出迎えたのは、混沌とした状況であった。
『スマナイ、ウチノイモウトガ、ドコニイルノカ、シラナイカイ?』
「なんですの、これは!?」
「しゃ、喋るメカワニーーっ!」
「火を噴いていますわーっ!!」
「皆さん、落ち着いて退避してくださーい!!」
「またエンジニア部か!!!」
得体の知れないメカワニが闊歩し、妹を求めながら火炎放射を放つ。エンジニア部の部室は耐火素材が採用されているため事なきを得ているが、一歩間違えれば大火災にもつながる惨状が目の前に広がっていた。
「クッ、早く装備を受け取らなければっ」
『? オリジナル、カイ? メブキトセンセイハ、ドコニイル?』
「知らないが、知っていても教えるわけがないんだっ!」
見た目がクソ強そうなワニ相手でも、セイアは怯まず啖呵を切った。中身がイマジナリーお姉ちゃん棒だと思えば、どんな見た目でも許せなさの方が優ったからだ。
『……メブキト、センセイノオシリヲ、ヒトリジメ、スルツモリカイ?』
「ふざけるなっ! メブキの姉は私だけだし、そもそもが私は先生のお尻などに執着は持っていない!!」
『……ナル、ホド。ユリゾノセイア、ドウシデモ、コタイカンデ、コセイハ、ハッセイスルノダネ』
「キミが百合園セイアと名乗るんじゃない!!」
セイアはブチギレながら、イマジナリーお姉ちゃんメカワニに背を向けた。徒手空拳では、こんな化け物スペックな相手に敵うはずないのだからという理性を持って。
賢明な判断である。ここで怒りに飲まれていれば、確実にボロ切れセイアですまないしていた。
一方のイマジナリーお姉ちゃんメカワニも、セイアを追いかけることはしない。彼女には、早くメブキを見つけて甘やかすか、先生を見つけて尻尾を挿入するという崇高なる使命があるのだ。一般通過ロリ狐貧乳お姉ちゃんに構っている暇はなかった。
……ただ、そう簡単に事は運ばない。
何故なら、イマジナリーお姉ちゃんメカワニは、メブキと先生に気付いてもらうために、派手に口から火を吹きながら行進してる。
結果として、血相を変えたエンジニア部や戦える生徒たちが、その暴挙を止めようと前に立ち塞がったのだ。
「ウタハ先輩、アバンギャルド君をネットから切り離して、自動から手動運転に切り替えたよ」
「よし、これでおそらくは暴走しない。アバンギャルド君はヒビキ、君に任せる。何とかしてメカワニを抑えてて欲しい」
「分かった、ウタハ先輩は?」
「雷ちゃんのロックを解除して、戦闘用モードを起動させる」
「……なら、それまでなんとか持ち堪えてみせる」
「頼んだよ」
イマジナリーお姉ちゃんメカワニの目の前に立ち塞がるのは、ミレニアム世紀の発明品であるアバンギャルド君。
本来ならば、性能差的にアバンギャルド君で鎮圧できるはずのマッチアップだ。しかし……。
『ザンネンダガ、キミタチノオシリニ、キョウミハナイヨ』
「っ、速い」
このアバンギャルド君は展示用で、暴走した時に危険性のないようデチューンされた機体だ。それも、現在はヒビキがラジコン操作でワンテンポ遅れながら稼働している。
一方で、イマジナリーお姉ちゃんメカワニは、エンジニア部特有の特機で無駄に多機能であり、ポケモンで言うところのヒードラン並みに火を吐きながら天井を這いずり回っていた。正直言ってキモい。
更に言えば、イマジナリーお姉ちゃんメカワニは思考がダイレクトに身体に反応している。故に、ワンテンポ遅れているアバンギャルド君では抑えるのは至難の業であった。
ただ、数少ない幸いなことは、デチューンされているとはいえアバンギャルド君は極めて耐久力が高い点と、イマジナリーお姉ちゃんメカワニの性欲が先生にしか向けられてなかった点だろう。
そうでなければ今頃、ヒビキは大破したアバンギャルド君を背に、リョナ系統のエロゲーみたいな行為をイマジナリーお姉ちゃん棒メカワニにされていたに違いないのだから。
なお、先生はしっかり貞操の危機である。
どうか上手く隠れて、やり過ごして欲しい。
アバンギャルド君が嬲られつつもギリギリで耐え凌いでる中、ウタハは自らの愛機である雷ちゃんのリミッターを解除していた。
真の力を発揮した雷ちゃんは、並みの機体を大いに凌ぐ性能をしている。それさえ発揮できれば、幾らイマジナリーお姉ちゃんメカワニと化しているメカワニとはいえ、大破させることが可能である目算があったのだ。
そんな忙しく作業している最中のウタハに、息を切らせた声がかかった。
「すまない、電磁パルス照射銃を借りたいのだが!」
「悪いが後回しにしてくれ、今はメカワニを止める必要が……」
「そのワニを止めるのに必要なんだ!」
ピタッと、忙しなく動いていたウタハの手が止まった。状況解決の糸口になり得ると思って、話しかけてきたトリニティの生徒……セイアの言葉に、耳を傾けるだけの価値を見出したのだ。
「電磁パルス銃ということは、ハード面ではなくソフト的な部分に対して負荷をかけるということだね。確かにそれでメカワニ(仮)の意識は落ちるだろうが、その後は半自動防衛機構が作動して、一人でに破壊活動を繰り返すことだろう。根本的な解決にはならない」
「なんで傍迷惑な機能を積んでいるんだっ!」
「メカワニはエンジニア部の発明品だからね、盗まれた時用の対策さ」
「っ、だが、意識と機体間の連携を断つことができれば、少なくともあのワニは弱体化するだろう! そうすれば、今より有利に戦えるはずだ!!」
「……一理あるね」
セイアの必死な訴えに、ウタハもその理を認めた。
故に、大きな声を張り上げていた。
「コトリ、手が空いていたら電磁パルス銃を持って来て欲しい!」
「避難誘導も完了しましたし、行けます! お任せください!!」
打てば響くように返答があって、間も無いうちにコトリがシュタッと現れた。セイアは直ぐにそれを受け取って、気合を入れる。
今の今まで、侮辱されまくりの尊厳汚辱祭り状態だったのだ。
普段幾ら大人しめ(メブキ比)なセイアといえども、殴り返せる状況にあればグーを握りしめるのも仕方のないことであった。
「悪いがしばらく、この銃は借りさせてもらう」
「構わないが、やれるのかい?」
明らかに華奢なセイアを心配(トリニティのお嬢様であることも勘案)しての言葉に、セイアは不敵な笑みを浮かべた。
「これでも、勘がいい方でね。──当たらないし、当てられるものさっ!」
普段なら、もう少し謙虚な受け答えをしていたことであったろう。
しかし、遂に反撃に出れる状況にあって、セイアのテンションは爆上がりしていた。それに伴い、予知能力を失ってから芽生えた第六感も、主人のテンションと連動するように鋭利になっていた。
──今のセイアは、未来予測さえ可能な程に冴え渡っていた。
そうしてセイアは、自らの勘に従い、アルギニンのダンボールを身に纏った。
「……ん?」
思わずウタハが怪訝な声を出してしまったのも、仕方のないところだろう。この流れなら、正面から堂々と突入していきそうな、そんな勇壮な台詞を吐いていたのだから。
だが、セイアは愛用のアルギニンBOXに身を隠して、牛歩の如く怪獣機械同士が争っている場に近づいていった。
……そう、今のセイアは、未来予測さえ可能なほどに勘が冴えている。その勘が、セイアに囁いたのだ。
──いやー、ヤバいっす。
今あの中に飛び込んだら、ボロぎぬっすね、と。
そしてセイアも、然りと彼我の戦力差を認めていた。メカワニ相手に、正面から立ち回れると思い込むほど増長はしていなかったのだ。
ネルがこの場にいたら、"カッコつけ損なってンじゃねーよ"とツッコんだことだろう。
テンション爆上がりだったが故に、様相と見合わない啖呵の切り方をしてしまっただけなのである。許してあげて欲しい。
ただ、その小物チックなセイアの賢明さは、無事に花開きそうであった。イマジナリーお姉ちゃんメカワニに気付かれないままに、その近くまで接近することができたのだ。
イマジナリーお姉ちゃんメカワニは、アバンギャルド君をしばくのに必死で、その姿を微塵も視認できていない。
だからこそ、セイアにとって好機であった。
「──百合園セイアは、私一人なんだ! 止まれえぇぇーーっ!!!」
『オリジナル!? シマッ──グワアアアーーッ!!!』
そしてセイアは、その好機を見事に掴み取れていた。
アバンギャルド君とくんずほぐれずしていたイマジナリーお姉ちゃんメカワニのケツ穴に、今までの恨みと言わんばかりに電磁パルス銃を乱射する。
半ば勢いまかせのそれはガバエイムの極みであったが、数打ちゃ当たるの論理でいくつもイマジナリーお姉ちゃんメカワニに直撃する。
結果、イマジナリーお姉ちゃんメカワニは目のハイライトが消え、意識を遮断されたのだった。
「……やったの、か?」
無論、まだである。
イマジナリーお姉ちゃんメカワニの意識が落ちるのと同時に、自動防衛機構が作動する。
エンジニア部の製品はしぶといのだ、良くも悪くも。
「……いけ、る!」
ただ、先ほどでパワー負けしていたアバンギャルド君が、少しずつメカワニを押し返している。イマジナリーお姉ちゃんメカワニの意識を落とした効果は、確実に出ていた。
ヒビキはラジコンを必死に操作しつつ、アバンギャルド君を奮い立たせた。ここが勝負どころと、ヒビキが、エンジニア部の全員が理解したのだ。
「みんな、集中砲火を掛けるんだ!」
ウタハの号令従い、髪を炙られてアフロになっていたエンジニア部の部員たちが、決死の覚悟でメカワニに全方位から銃弾を浴びせかける。
どさくさに紛れて、セイアもヤケクソ気味に愛銃の引き金を引き続けた。
……そうして、遂に。
「か、勝った……」
クソ頑丈だったメカワニが煙を上げて、動かなくなる。エンジニア部の外にメカワニを逃すことなく、内々で処理することに成功したのだ。
「「「う、うおおおおーーーーっ!!!」」」
エンジニア部の部員たちが、今日は他のどこにも迷惑をかけなかったと勝鬨を上げる中で、セイアだけはひっそりとその場を後にする。
彼女にはまだ、数多のイマジナリーお姉ちゃん棒を電磁パルス銃で虚無らせるという使命があったのだ。
セイアの名誉を守る戦いは、まだ始まったばかりであった。
イマジナリーお姉ちゃん棒騒動が激化する地上を尻目に、見た目は平静を保っている地下の一室。
そこで、一人の少女が携帯越しに会話をしていた。
『随分と手を広げられましたね、ミライさん。私の立てた計画は、分散と再集結を繰り返す不正規製造であったはずですが』
電話口から聞こえてくるのは、幼いけれども理知的な声。その声音は、ここまで上手く行ってるのに何を焦っているのでしょう、という純粋な疑問に彩られていた。
それに、ミライと呼び掛けられた少女、かつてミレニアムに存在した疑似科学部部長であった彼女が答える。
「教授、あなたの助言があったから、私たちは勢力を大きくすることに成功しました。その点については、間違い無く感謝しています」
それは、ミライにしては礼節を重んじている謝意であった。ここまで来れたのは、間違いなく教授の力を借りてのことだと自覚はあったのだ。
「──ですが!」
……だが、それは今までのこと。
これまでの感謝とこれからの指針は別物だと、ミライは考えている。
そう、ミライは教授、キヴォトスの犯罪コンサルタントを自称する智者、ニヤニヤ教授のコントロールから脱しようと決意していたのだ。
「ミレニアムは大いに混乱しています。イマジナリーお姉ちゃん棒は、確かに調月リオを追い詰めているんです! 今こそ、正当な権利を主張する時が来たんです!!」
ミライ含めた疑似科学部の面々は、かつてカスみたいな詐欺商品を売りつけまくり、無事リオに廃部へと追い込まれた過去を持っている。
その過去を恨んだミライは、今こそ復讐の時であると燃え上がっていたのだ。
あ、あと、射精耐久ジェンガをした後の先生よりも早漏なミライとしては、これ以上待てなかったという事情もあった。
『……なるほど、悪い大人に唆されたのですね』
「なっ、なんでそれを知って!?」
だが、その額面上の理屈の裏側も、ニヤニヤ教授は見通していた。
教授は把握していたのだ。時折ミライが、怪しい絵画を持って徘徊する大人と会話していたことを。イマジナリーお姉ちゃん棒が、その大人によってもたらされたものであることも。
……その大人の、正体と危険ささえ。
『ミライさん、これはどんな方向にせよ努力をやめなかった貴方に敬意を表してのアドバイスですが──あの大人は私ほど、あなたを思って助言をしているわけでは無いでしょう』
老婆心、余計なお世話と言われればそれまでである。
ただ、教授は自らを頼って依頼してきた人物に対しては、心の底から尽くしてあげるタイプのコンサルタントであったのだ。
『あの大人には、あの大人なりの目的があります。いざという時に、背中を預けて良い相手であるとは思えません』
土壇場で刺されても、文句は言えませんよ。
教授の忠告は、その一語に尽きる。
自分ほど他意なく、その大人がミライを支えるとは微塵も思ってなかったのだ。
「ギブアンドテイク、と言うやつですよ」
しかし、ミライは既に決めてしまっていた。
彼女の手元には、その大人よりもたらされた、とある論文が手にあったのだから。
「私たちが役に立つうちは、向こうも捨てようとは思わないでしょう」
『ほむ、そうですか』
これ以上、言い募っても無駄であると教授は判断したのか、もう忠告を繰り返すことはなかった。
ただ、それならばと、最後の親切として一言だけ助言を口にする。
『でしたらミライさん、その大人が何を目的としているのかを理解しておくことです。でなければ、向こうがミライさんを用済みと判断するタイミングが図れませんので』
「心に留めておきます」
無理でしょうね、とミライの駆け引き下手を察していた教授であったが、それ以上は何も言わずに通話を切った。
そうして、持久策を取っていた教授との決別の通話を終えたミライは、これから訪れるであろう将来に向けての皮算用を始めていた。
既に彼女の頭の中には、復活した疑似科学部による輝かしいミライが広がっていたのだから。
「ふふ、ふふふふふっ! 待っていなさい、調月リオ!」
華麗に復讐を遂げて、疑似科学部の廃部が間違っていたと、自らに跪き謝罪するであろうリオのことを思うと、ミライは笑みが溢れてしまう。
「貴方への復讐です、貴方の理論を使って疑似科学部の正しさを証明して見せましょう!」
手元にあった論文を手にし、女の子にあるまじき表情をしてしまうミライ。彼女の中では、既にリオが自らの下僕と化していた。
そんな彼女が手にしている論文、その執筆者は調月リオで。
──その表題は、"四次元空間に存在するであろうAIの自我と、ユビキタスAIネットワーク理論について"。
悲しきかな、ミライは量子力学を疑似科学扱いしていた。