コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
それはね、懐かしい匂いだったの。
転生前の、病院に住んでた頃。
私の周りは真っ白で。
消毒液と、薬品と、窓辺にあるお花の匂い。
それが全部で、私の世界。
気分的にはまっしろしろすけ、清潔だね。
前世の私は、世界で一番清らかなおにゃのこだったのです。
……でもね、やっぱりつまんないの。
それだけで輪が閉じてるのって、寂しい。
だからね、風が吹くのが楽しみだった。
窓を開けて、お外を見遣って、ピューって吹く風が。
ロリショタちゃんたちの笑い声と一緒に流れてくるそれで、私も世界に居られてるんだって思えたから。
でもね、だからこそ、それは特別だった。
それ以外の匂い──とても落ち着かせてくれる、安心の匂い。
その人が側に居たら、それを感じられて。
安心して、スヤスヤだって出来ちゃった。
側に居てくれたなら、最後の時でも寂しく無いねって。
起きてられる時は、そう思えたから。
だからね、匂いが女の子になっちゃって、ミレニアムの制服を着てても間違うはずがなかった。
安心させてくれる──先生と似てる、でもずっと前から知ってた匂いの気配を。
多分ね、それは久々に嗅いだ時の、実家の匂いに似てるんだって思った。
だから、おっきな声で叫んじゃったの。
「私のお兄ちゃんが、猫耳貧乳ロリ美少女になっちゃってるよぉーーっ!!」
「再会した第一声がそれなのかよ……。相変わらずで安心したよ、メブガキがよっ」
えへへ、ただいまって感じだね、お兄ちゃん!
私とお兄ちゃんは、見つめあっちゃってたの。
あっ、別に恋に落ちたとかじゃ無いよ?
私は攻略不可能のヒロインで、先生のハーレムルートでしかぬぎぬぎしないタイプのヒロインだから!*1
ただね、目の前のロリお兄ちゃんを見てるとね、思っちゃうのです。
「……お兄ちゃん、なんだよね?」
「……メブキ、なんだよな?」
二人揃って、前世と違う姿をしちゃってるから。
目の前の人がそうだって分かってても、何だか不思議な感じになっちゃう。
思わず、お互いの頬っぺたをムニムニしながら、確かめ合っちゃったの。
ペタペタ、ムニムニ、モミモミって*2。
「……なぁ、メブガキ。何で胸揉んだ?」
「お兄ちゃんは元男の子だから、おにんにんがおっきしなくても、乳首は普通の女の子よりぼっきっきしやすくなってるかなって……」
「お前、妹を目の前にして勃起してる兄が居たら、どう思う?」
「残念ながら攻略不可能だから、不能になってねって思うよ!*3」
「そうだよ、するわけねーだろ。妹相手に、例え乳首であっても、勃起なんかさ」
照れなく断言できちゃったから、この人は本当にお兄ちゃんなんだって確信しちゃった*4。直ぐに思うと相手に乳首をぼっきっきしちゃうお姉ちゃんは、見習わないといけないんだからね?*5
あっ、でも私とお姉ちゃんは義理の姉妹だから、ギリギリオッケーなんだよね*6。
……うん、やっぱり私相手なら、お姉ちゃんもぼっきっきしても大丈夫だからね!*7
「流石はお兄ちゃん! でもね、おっぱいの大きさは私の方が上なんだよ?」
「勝負してねーよ、そんなところで」
「でも、先生も大きい方が喜んでくれるって思わないかな?」
「あの人、性癖は小麦色の肌だから、胸どうこうは……。いや、あるのか? カリン、大きいもんな……*8」
「???」
なんか、私の知らない話が飛び出してきた。
おかしいね、キヴォトスで戸籍上の家族になるためにも、先生のお嫁さんに一緒になればいいんだよって提案をしようと思ったのに、お兄ちゃんの口から出てきた言葉は、想像の斜め上のお話。
──先生の性癖は、ガングロビッチ巨乳ギャルってこと*9。
先生なんだよ、そんなのあり得ないよね?
第一、お兄ちゃんの方が私より先生に詳しいなんて、そんなのうそっこだもんね?*10
「お兄ちゃん、ワザップ恋愛教室は妹条項第19条で禁止されてるんだよ?」
「何で不満顔して、ムキになってるんだよ」
「今世の私は、超絶かわかわインキャ美少女で、ムキムキになんかなってないよ!」
もう、お兄ちゃんったら、自分が猫耳美少女になっちゃったからって、私より猫濃度が高いことで傲慢になっちゃってるんだね。
こんなに可愛い妹を捕まえて、ムキムキなんて失礼しちゃう!
第一ね、お兄ちゃんは勘違いしちゃってる。
先生の性癖は、決してガングロビッチ巨乳ギャルなんかじゃなくてね……。
「先生は、私でたくさんムラムラしちゃってる、正統派の妹性癖なんだよ!*11」
だから、自信満々おまんまんって気持ちで、ピシッて指差してお兄ちゃんに宣言したの。
私は先生に心を落とされちゃってるけど、先生は私に身体を落とされちゃうんだよって*12。
するとね、どうしてお兄ちゃんは可愛くなったお顔で怪訝そうにしてから……。
「……あのさ、他意はない話なんだけど」
「うにゃ?」
「……処女膜、残ってるか?*13」
「!?」
──とんでもない、サイテーのセクハラ質問をしてきたの!*14
「ふ、ふじゃけないで! ピカピカ処女膜の妹おまんまんなんだよ!!」
「いや、口ぶり的に、先生に媚薬飯でも食わせて、流れでしちゃったのかなって……*15」
「何で私が盛っちゃう側なのっ、盛られる立場なんだよ!!*16」
「先生がそんなこと、するわけ無いだろ*17」
お兄ちゃんは、おんにゃのこになっちゃったから、幾ら妹にセクハラしても大丈夫なんじゃないかって思い込んじゃってるみたいだった。
そんなわけ無いし、何でか私を竿役扱いしてる壮絶な勘違いが、あんまりにも酷すぎるよ。
それかもしくは、先生を受けのヘタレおにんにんなんだって思い込んじゃってた。
……私に全然手を出してこないから、そっちの方は有力説かもしれないね?*18
「いや、俺は胸とかどうでもいいけど、メブキはメブガキでもあるから、胸も薬も盛ってるかもなって」
「何にも盛ってない、無添加メブキになんてこと言うの!」
「いや、正直膜が破れてますし盛ってましたって言われたら、教育を間違ったかもしれないって後悔しそうだったから、健全メブキで居てくれて一安心してたんよ*19」
「なんだ、ケツちゃんのうそっこで疑ってただけだったんだね」
「そうそう、無農薬メブキで安心した」
「因みになんだけどね、盛ってたらどうなってたの?」
「腐れぬんこって罵倒してた」
お兄ちゃんは、もし私が悪のメブキ、略してアクメブキに成り果ててたら、自分が先生のメインヒロインになり変わるつもりだったみたいなの。
……油断ならないお兄ちゃんだね?
「ん、ケイ、どしたの?」
そんな誤解が解けている中で、どうしてかケツちゃんは括約筋が震えちゃってるみたいに、プルプルとしちゃってたの。
ケツちゃんの着信バイブレーション機能は、名前の通りにお尻に存在しちゃってたのかな?
「……久方ぶりの再会ですから、邪魔したら悪いと黙って聞いていれば、二人揃ってふざけた会話をペチャクチャとっ*20」
顔を上げたケツちゃんは、"おにんにんなんかに絶対負けないっ"て誓った女の子みたいな顔してたの。
……やっぱり、お尻にアナルビーズ入っちゃってるのかな?*21
「大丈夫、心配しなくても近親相姦は起こり得ないよ」
「誰がそんな斜め上のことで、頭を悩ませますかっ」
「……先生に媚薬飯、食わせようとしてたのか?」
「なんであの大人に、私がそんなことしなくちゃいけないんですか! 違うに決まってるでしょう!!」
「因みに、俺もないぞ」
「当たり前のことを、わざわざ誇らしげに伝えないでください!」
頭の痔がまだ治ってなかったケツちゃんは、ロリお兄ちゃん相手にブチブチキレ散らかしちゃってたの。怖いね?*22
「うーん……ごめん、分からない」
「何で妹レベルまで、知能指数が低下しているのですか!」
「兄妹だからな。あっ、因みにケイに嫌われたら俺は……泣くぞ?」
「クッ、そんな情けない脅迫が通用するとでもっ!*23」
「意訳すると、"喧嘩したくないから教えて欲しいな。はぁと"になる」
「何で"はぁと"とかわざわざ口にしたんですっ。小馬鹿にしてるんですか!!」
「いや、照れ隠し」
「〜っ、余計に恥ずかしい真似をしないでください!」
でもね、ケツちゃんはお兄ちゃんの言葉が座薬になったのか、段々と語気を柔らかくしてったの。頭の痔を治しちゃうなんて、お兄ちゃんってば優しさとやらしさで構成された座薬さんだね?*24
「……私を嘘吐き呼ばわりして、カスの妹教育を目の前で実践していたことです」
それで、ケツちゃんは何でブチってしちゃってた理由を話してくれて。その内容的に、思わずお兄ちゃんと顔を見合わせちゃった。
あれ、もしかして、私たちが悪かったのかなって。
そうして、声に出さないままアイコンタクトで相談を始めたの。
(間違った妹教育って何だろ?)
(分からないが、うそっこ呼ばわりは良くなかったかもな)
(うー、でも、私はお清楚でド健全だよ? R-15の、コンシューマーメブキなのに……)
(ケイはソフ倫の職員みたいな倫理観をしてるから、R-17判定喰らったのかもな)
(そっか、レーティング詐欺しちゃったって思われちゃったんだね……)
(多分な。そういう訳だから、一緒に謝ってくれるか、メブキ?)
(うん、分かったよ……)
お兄ちゃんと以心伝心なアイコンタクトが終わって、ケツちゃんの方を2人で向く*25。
ツンツンってしてるおめめが、ジトーって私たちを見てたの。
「……何か言いたいことがあるんですか?」
「言いたいことというか、伝えたいことっていうかさ……」
お兄ちゃんと二人で頷き合ってから、ぺこーって頭を揃って下げたの。
「「嘘吐き呼ばわりして、ごめんなさい!!」」
一緒のタイミングで、息ぴったりのコンビネーションごめんなさい。
一人ずつだと足し算のごめんなさいだけど、一緒に頭を下げると掛け算のごめんなさいになるの!
なんかね、懐かしい。
病院で看護婦さん相手に怒られそうになった時、一緒にこうしたのを思い出しちゃうからかな。
……ごめんなさいって気持ちはあるのに、何だか嬉しくなってきちゃう。ケツちゃん、本当にごめんね?
そうして、ちょっとの間、頭をじっと下げ続けて。
「……三つ子の魂百まで、と言いますからね。もう、いいです*26」
お許しの言葉を貰えて、ホッとしちゃった。
折角仲良くなれたのに、ケツちゃんと喧嘩になっちゃうのは嫌だったし。
お兄ちゃんも垂れてた猫耳がピンってして、良かったって思ってるのが伝わってくる。
……私も来世は、猫耳族になるからね*27。
にゃーんが似合う女の子になるから、私から猫属性を取っちゃダメなんだよ!*28
「全部許します。ですから──帰りましょう」
そんな子猫なお兄ちゃんに、ケツちゃんはそっと手を差し伸べたの。捨て猫さんを拾う、優しいヒロインみたいな笑みを浮かべながら。
「また、続きを始めるんです。あなたと私、関わってきた皆と、そこの妹とも」
差し出された手を、お兄ちゃんはじっと見てる。
猫耳が、ピクピクって反応しちゃってる*29。
ケツちゃんの言葉を、とっても大事に聞いてるって伝わってくる。
「止まっていた針を動かしましょう。──私は、あなたと共に、時計の針を刻み続けて居たいです」
ケツちゃんも、言葉を一つずつ大事にして、まるで宝石を扱うみたいに、お兄ちゃんに気持ちを伝えてる。
ケツちゃん、お兄ちゃんのこと、大切に思ってくれてるんだ。
……なんか、嬉しいね?
そんな真心の籠った手を、お兄ちゃんは両手で握りしめて。
「──ちょっとだけ、待ってくれないか?」
「…………え?」
完全に、一緒に帰る流れだった筈だったの。
私も、本当に良かったって気持ちでいっぱいになってた。
また、お兄ちゃんと一緒できるんだって。
なのに、お兄ちゃんは待ったを掛けた。
そっとケツちゃんの手を離してから、見遣ったの……私の方を。
「お兄、ちゃん?」
「メブキ、ちょっと話したいことがあるんだ」
いつも通りの、軽い口調。
深刻な話でも無さそうな感じ。
帰る前の、ちょっとした雑談なのかなって思って。
「良いよ、何かな?」
もしかすると、アロマさんのアロマをペロペロしてから帰るつもりなのかなって思った私に、お兄ちゃんは……。
「──俺の帰る場所って、どこになるのかなって思って、さ」
何だか、意味深なことを話し始めちゃってたの。
……ミレニアムの住んでたところか、お姉ちゃんの家のどっちかで悩んでるってことなのかな?*30
お兄ちゃんの隣に座って、お話を聞く。
昔はベッドと椅子の距離があったけど、今はほんのすぐ隣だね。
「どしたのお兄ちゃん。おにゃにーを親に見つかった子供が、ブチギレて家出しちゃった時みたいなこと言って*31」
「絶妙に嫌な例えを持ってくるじゃん」
「よく分かんないから、教えて欲しいなってことだよ!」
「仕方ない、教えてしんぜよう」
「わーい」
お兄ちゃんが2度目の思春期に入った理由を尋ねたら、うんって一つ頷いてから話し始めたの。
今の自分が、どんな感じなのかってことを。
「俺さ、キヴォトスに来た時のこと、あんまり覚えてないんだ」
「ある日突然、異世界転移しちゃってたってこと?」
「そうそう、ソゥユートみたいに言葉が通じないなんてことはなかったけど、ある日ポツンってキヴォトスに立ってた。キッカケも何も、分かったもんじゃないんだ」
ある日、気がついたらTS異世界転移していました。話はそういう内容で、話してるお兄ちゃんはちょっと懐かしそうにしてる。
色々あったんだって、それだけで伝わってくる。
「色々あってネル……まぁミレニアムの番長みたいなのにしばかれて、リオ……こっちは生徒会長な、その人に事情を話して相談する機会を作ってもらえて、何だかんだミレニアムで被験体扱いで面倒見てもらえることになったんだ*32」
「何で番長さんに、しばかれちゃったの?」
「錯乱して、ミレニアムの敷地で放尿してたからかな*33」
「それなら、しょーがないね」
「うん、しょうがなかった」
ピンチの時はオシッコが出ちゃう、血は争えなかった*34。この分だと、大ピンチの時は二人揃って血尿が出ちゃうかもね?
「でさ、しばらく落ち着く時間ができた時に、考えてたんだ。なんで俺、キヴォトスに来ちゃったんだろって」
「うん」
「で、考えてるうちに気がついたんだ。……あっ、転移してくる前後の記憶も無いやって。それどころか、俺がどんな俺なのかも分からないなって」
「……どゆこと?」
お話を聞いてると、まるで記憶喪失になっちゃったお兄ちゃんみたいな感じ。お姉ちゃんのおっぱいくらいのフニフニさで、ふわってしたことを言ってるの*35。
つまり、実態がよく分かんないってことだよ!*36
「んー、例えばさ、今のメブキは高校生だし、そういう自覚があるだろ?」
「うん、ピカピカおまんまんの高校1年生だよ!」
「……学校、楽しいか?」
「うん、毎日楽しい!」
「そか、なら良かった」
お兄ちゃんが、頭を撫で撫でしてくれた。
ちっちゃいロリの手になっちゃってるけど、優しい手つきは昔のまま。
なんか落ち着いちゃう。
えへへ、って笑みが出てきちゃうね?
「で、話は戻るが、メブキは高校1年生って自己の認識がある。……でもさ、俺の場合はちょっと違ってて」
「違うって?」
「……俺が春風◾️◾️◾️って認識はあるのに*37、俺は高校生なのか、大学生なのか、それとも社会人になってるのか。それが全く分からない、TSしてた意味だって不明すぎるし、自分の立場が何なのかって認識がごっそり抜け落ちてるんだ」
困ってるお顔で、そう言うお兄ちゃん。
私も、もし自分がそうだったらって想像してみて……なんかゾワゾワってしちゃった。
だって、正解が分かんないから。
自分が学生さんだったら、学校に行けば良い。
社会人さんだったら、出勤しなきゃってなる。
でも、それが分かんないと、考えてると頭がグルグルってしてきて、頭がパーンってなっちゃいそう。
「それに気がついた時、なんか足元がない感じがして、凄く怖くなった」
「……お兄ちゃん、大丈夫?」
「ん、いろんな人が助けてくれたおかげで、今はな」
「そっか」
お兄ちゃんも、やっぱり頭がパーンってなっちゃってたみたい。けど、今は笑って大丈夫だよって言ってくれてるから、きっと安心していいんだよね。
「ヒマリ……こいつは近所の不思議なお姉さんキャラみたいな奴だが、そいつ曰く、今の俺は社会的な役割を損失した状態で、何にも染まっていない透明色の状態。つまりは、認識的無職にあるとかほざかれたんだが*38」
「ヒマリさん、知ってるよ。えっちな声の人!」
「そう、ASMR出したら絶対買う類の声をしてる奴だ」
「そのえっちな声のお姉さんに、お兄ちゃんは無職って罵られちゃったんだね」
「最悪な出来事だった……」
お兄ちゃんはサドでもマゾでもなかったから、無職は単に傷つく類の罵倒になっちゃってたみたいだった。
「でも、だからヒマリは提案してくれたんだ」
「マゾになって、罵倒を気持ちくなれる身体になろうって?」
「ヒマリが彼女になってくれてたなら考えたかもしらんけど、違う*39。──ミレニアムに入学しませんかって、そう提案してくれたんだ」
嬉しそうに微笑みながら、本当のロリっ子になっちゃったみたいに話してたの。
……お兄ちゃんは、妹より可愛くなろうとしちゃダメなんだよ?*40
「女子高生になれて、嬉しかったってこと?」
「ちげーよ、自分の立場が保障された気がして……って、言いたいところだけど、結果だけ見たらそうなるかな」
否定しなかったお兄ちゃんは、ミレニアムのフローラル女子高生の匂いを纏ってる。
身も心も、女子高生になっちゃったのかな?
中身がお兄ちゃんなら、男の子でも女の子でもどっちでも良いけど!*41
「ミレニアムに入学して、少し落ち着いて。自分が何でここにいるのか、何がしたいかを考えることができたんだ」
「それって……」
ここまでの流れで、灰色の脳内海綿体を持つ私は分かっちゃった。
キヴォトスでエロゲーを作ろうなんて面白いことを思いついて、完成したらメールを私に送ってくれる優しい人は、一人しかいないと思ったから。
「存在することの理由、俺がキヴォトスに辿り着いた訳。それを考えてたらさ……パッと、一人の顔が思い浮かんだ」
「……私?」
「そ、メブキ。魔王を倒すでも世界を救うでもない俺が、何で異世界転移したのかって理由。それはきっと、妹くらいしかないなって。お前に、少しの幸福を届けることが使命なのかなって」
お兄ちゃんは、魔王を倒したり世界を救うのと一緒の列に、妹に幸せを届けたいって気持ちを並べてくれてた。
……胸が、じんわりする。
あったかくて、くすぐったい。
お兄ちゃんの中で、私はとっても大きい妹だったんだって分かるから。
「でも、エロゲーの道も一歩から。一人で作るなんてこと、出来ないからさ。ミレニアムを巡って、エロゲーを一緒に作ってくれる人を探したんだ」
「……それが、ケツちゃん?」
「ケイはメインヒロイン、折角だから某同人ギャルゲーを作るラノベにあやかってみたんだ。……一生物の、仲間になったけどさ」
お兄ちゃんは、素直に大好きが言えない女の子だった。そんなお兄ちゃんを、ケツちゃんはジッと見つめてる。
不安そうに、戸惑いながら。
ケツちゃんもお兄ちゃんのこと、大切に思ってるんだってこと、伝わってくる。
素直じゃないお兄ちゃんで、ごめんね?
「楽しかったんだ、メブキのことを抜きにしても。仲間と何かを一生懸命にする、そのことが」
「うん」
「でもさ、エロゲーが完成に近づく度に、思ったんだ。……これが完成したら、俺はもうキヴォトスにいる理由、無くなるんじゃないかって」
「……うん」
お兄ちゃん、不安になっちゃってたんだ。
楽しくて、嬉しかったから。
ずっと、自分はここに居ていいのかって、悩んじゃってもいたから。
「私はね、お兄ちゃん。お兄ちゃんともっとお話ししたいし、一緒に遊びにだって行きたい。前世で出来なかった、あれとかそれとか、やりたいこと全部したいよ」
だったらって、私が思ってる、こうだと良いなって気持ちを伝えたの。
キヴォトスに来てからの、元気になった私を見て欲しくて。前世で出来なかったこと、一緒に沢山したくて。
病弱メブキはもう居ないから、安心してほしいなって思ったの。
「……お前、成長したのな」
「久々に会った妹が、デカパイ妹になったってこと?」
「ちっぱいだよ、お前は」
「!?」
お兄ちゃんは、サイテーのレッテル貼りをする男の子だった*42。
自分の方が小さいのに、よく他人のお胸にちっぱいとか言えちゃうね? そのうち先生に揉まれたら、女性妹ホルモンがドバドバして、デカパイメブキになるから覚えててね!
「そうじゃなくて……昔のお前は、心配させないように、一生懸命色々と隠すタイプだっただろ」
「そうだっけ?」
「そうだったよ」
そうだった、かもね*43。
「でも、今のお前は包み隠さなくて、俺の心配もしてくれたんだろ?」
「……お兄ちゃん、困ってたから」
「ん、優しく成長してくれてて、嬉しいなって」
「えへへ、ありがとうだよ!」
いっぱい褒められて、何だかてれてれしちゃう。
私って、おっぱい以外も成長してたんだって、そう実感できて。
そんな私を、お兄ちゃんはロリママみたいな優しいお顔で見つめてたの。
「……本当は、これが奇跡みたいなものって、分かってるんだ」
「にゃ?」
ロリママ顔のまま、お兄ちゃんはそっと私の髪に手を添えて。そのまま、なでなでしながら話し始めた。
優しい声音で、噛み締めるように。
「死んだ妹と巡り会えて、その妹が好きなものを作って、残せた」
愛情を込めて、お兄ちゃんはママお兄ちゃんになりながらお話ししてくれてる。男の子の安心感みたいなものより、女の子のママみたいな感触の方が強いって、撫でてくれてる指先から伝わってくる。
「転生してこの世界にいるかもって自分に言い聞かせてきたけど、記憶を持って俺のこと、お兄ちゃんって呼んでくれて……本当に、ほんとに嬉しかったんだ」
「……うん」
私が知ってるお兄ちゃんは、エロゲーを一緒にしてた時みたいな楽しそうな顔と、心配してる時のしょんぼり顔が殆どで。
だから、こんな表情もできるんだって、ちょっと驚いちゃった。
「で、さ。自分が建ててた目標、大体が達成できちゃったから。目的もなくキヴォトスに戻ったら、またふとした瞬間に、ここか元の世界に戻っちゃうんじゃないかって思っちゃってさ」
でも、話してる内容は、全然穏やかじゃない。
まるで、もう直ぐお兄ちゃんが……。
「まあ、要するに……俺が存在して良い理由が、見つけられなくなったってこと、かな」
そこで初めて、優しいロリママお兄ちゃんの顔が、少しの陰りを見せた。昔たまに見た、なんか困ってる時の顔。
お兄ちゃん、凄く悩んでるんだ……。
「……必要がないと、居なくなっちゃうの?」
「分からない。……だから、怖いんだ*44」
頭を撫でてくれてた手が止まる。
声に、何か我慢してるみたいな震えがあった。
「それにさ、向こうにだって父さん母さんとか居るだろ?」
「……うん」
なんか、色々と懐かしい。
お母さんとお父さん、暗い顔をよくしてた二人。
私を見て、いつも可哀想だと言って泣いてたお母さん。お仕事が忙しくて、滅多に会えなかったお父さん。
お兄ちゃんは毎日殆ど会いに来てくれてたけど、二人は私が成長するにつれてあんまり来れなくなっちゃった*45。
お父さんは私の入院費を稼ぐのに大変で、お母さんは私の顔を見る度に泣いちゃうから。
無理してこなくて良いよって言ったら、あんまり来なくなっちゃったの。
……お兄ちゃんが居たから、寂しくなんてなかったよ?*46
けど、私の中での両親は、何だかぽやってボヤけちゃってる。叔父さん叔母さんって距離感がしっくりくる、そんな二人*47。
「俺まで居なくなったら、可哀想かなって思ってさ。……だから、メブキに話をしたんだ。両方の世界を知ってるお前なら、どうするんだろうなって思って」
気が付けば、お兄ちゃんは草臥れちゃってた。
疲れちゃってるのが伝わってくる、そんなロリの目をしてたの。
……そっか、ずっとそれで悩んじゃってたんだね。
私のとこに来てくれて、優しくて、エロゲー博士で、いつも私の味方をしてくれてたお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんが、今は迷子のロリみたいな顔をしちゃってる。
「ね、お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんに伝えたいことがあるの」
「伝えたい、こと?」
「とっても大事なことだよ!」
だから、助けたいって思ったの。
初めて、お兄ちゃんが見せてくれた弱気だったから。
「あのね──ずっとずっと、ありがとうって言いたかったの!」
席を立って、お兄ちゃんの真ん前で、その言葉を伝えた。
大事な言葉だから、真っ直ぐ伝えたくて。
お兄ちゃんは、目をまん丸にしてたの。
「何を……」
「急でごめんね? でも、書けなかったんだもん……遺書に」
私の言葉に、お兄ちゃんのロリ顔がクシャってなっちゃう*48。
悲しいって思ってくれてるの、分かっちゃう。
胸がギューってしちゃうこと、言っちゃってごめんね。
でも、どうしても伝えたいことだったから。
「本当はね、遺書にいっぱい、お兄ちゃんにありがとーって書きたかったの。全部全部、ありがとうって」
紙いっぱいに、お兄ちゃんへの感謝を書き続けたかった。でもね、ちょっとそれは難しかったんだ……。
「最後の方ね、身体中痛くて、腕も上手く動かせなくて、一言だけしか書けなかったの……」
お兄ちゃんのロリ顔が、クシャってしたまま戻ってこれなくなってた。
そのお顔も、なんか懐かしい。
前世の最後の時、私の手を握ってくれてたお兄ちゃんが、おんなじ表情をしてたから*49。
「だから、伝えるね」
今にも泣いちゃいそうな、お兄ちゃん。
多分、あの時も後で泣いてくれたんだって分かっちゃう。
悲しませてばかりの、悪い妹でごめんなさい。
嫌なこと、思い出させちゃって本当にごめんなさい。
でも、そんなダメな妹でも、お兄ちゃんのことが大好きでした。
そんな妹心を、どうか受け止めてください!
「ずっと隣に居てくれたこと、エロゲーのことを教えてくれたこと、私のために泣いてくれたこと、優しいお兄ちゃんでい続けてくれたこと、最後まで手を握っててくれたこと。全部ぜんぶ嬉しくて、ほんとのほんとに──救いでした」
いつもお兄ちゃんに助けられてて、妹はそんなあなたに助けられていました。
私が死んじゃったせいで伝えられなかった、あの時の気持ち。
伝えられなかったかつての言葉を、やっと私は届ける事ができた。
……ありがとうって言えて、良かったよ*50。
「────っ、ありが、とう、なんてっ、こっちの言葉、なのにっ」
ぽろぽろ、ぽろぽろって、あったかい水滴が零れ落ちてる。お兄ちゃんの目から、眼の前の私を見つめながら。
お兄ちゃん、泣いてくれてる。
私のために、私の言葉で。
それを見てたら、私にまで泣き虫さんが移っちゃいそうになっちゃう。
「俺の、方こそっ。お兄ちゃんって、呼んで、くれてっ。小さい時から、ギュッて手を握ってくれてたメブキがっ、世界で一番可愛い妹だって、そう思ってたっ!」
「……お兄ちゃんってば、シスコンさんだね」
「……ダメ、か?」
「ううん、今の私はブラコンでシスコンの妹だから、嬉しいよ」
昔にお兄ちゃんがやってくれたみたいに、ギュッてロリなお兄ちゃんを抱きしめる。
背中に手を回して、ゆっくり落ち着いてって撫でてく。
涙が止まるまで、何度も。
泣かないでって、言えなくてごめんね。
私を想って泣いてくれてるの、嬉しくてごめんね。
本当にありがとうだよ、お兄ちゃん。
「ね、お兄ちゃん、覚えてるかな?」
「何、を?」
流れる涙が緩やかになって、落ち着いてきた頃。
私はね、ある一つのことを尋ねたの。
「──私が残してた、遺書の内容」
また泣かせちゃうかもって思ったから、抱きしめたまま尋ねたの。
それは、前世の最後に残したもの。
たった一つの、私からの贈り物。
腕の中のロリお兄ちゃんが、ビクッて震えて。
「……覚え、てる」
それでも、ちゃんと私の書き遺しを見てくれたんだって、ちょっと安心できちゃった。
「じゃあ、内容言える?」
そう聞いたら、ロリお兄ちゃんは私の背中の服を、ギュッて握って。
「──もっと、幸せになって*51」
お兄ちゃんがロリ声でそう口にして、ちょっと思い出しちゃった。
身体中が痛くて、意識も曖昧で、それでもって一生懸命に書いた言葉。
私の大切なお兄ちゃんが、今まで面倒を沢山見てきてくれた人が、今後は幸せで居てくれますようにって。
それだけは、何とか書けたの。
「そうだよ、お兄ちゃん。ブラコンの妹はね、非攻略対象でも、お兄ちゃんの幸せを心から祈っちゃう生き物なのです」
「……兄の方も、そうだよ」
「えへへ、ブラコンでシスコンの兄妹は大変だね?」
声が震えてるけど、泣いてない。
ちゃんと色々、受け止めてくれてる。
やっぱり、お兄ちゃんは妹より強い生き物なんだね。
「だからね、お兄ちゃんは幸せになる義務があるの! 妹の最後のお願いは、ブラコンのお兄ちゃんなら絶対聞かなきゃダメなことなんだよ!!」
ピシッて指差して、悩みすぎて動けなくなっちゃったお兄ちゃんに伝える。
ジッとしてるだけだと、頭がパーンってなっちゃって苦しいよって。動いて探してる方が、色々と楽しいからって。
──幸せは、俯いてるだけじゃ見つからないんだよって。
「歩いて、一緒に探しに行こ! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから、きっとウマシカ! だからね、一人で悩んでても仕方ないの」
きっと、今のお兄ちゃんに足りてないのは、勇気だけ。考える度に怖いって感情が大きくなって、動けなくなってるだけだから。
「向こうの世界とキヴォトスを行き来する方法とか、お父さんお母さんに元気だよってNTRビデオレターを送る方法とか、一緒に先生のお嫁さんになる方法とか──*52」
目の前がなんか暗くて、一歩先が崖かもしれないって思うこと、あるよ。前世で、そういう気持ちがなっちゃったこと、沢山あるから。
記憶もあやふやで、自分のことをよく分かってないって、不安だと思う。
けど、それでも一つだけ、お兄ちゃんも確信してる確かなことも、あるの。
「全部、一歩踏み出して探しに行こ。私だって、幸せのハメドリくんを、まだまだ探してる最中だから!」
だって、私たち──。
「妹は、ハメドリくんを見つけられなくて困ってます。だから助けて、お兄ちゃん!」
兄妹、だもん!
「…………幸せの青い鳥、だろ。勝手にBWLAUTE BEIRRDの歌詞にあやかってんじゃねーよ」
「えへへ、私たちって以心伝心だね?*53」
「エロゲーで義務教育、済ませやがって……」
伝えたいことが、言葉以上に伝わってる。
私が言いたいこと、お兄ちゃんに伝えられてる。
キヴォトスだと、こうなれるのはコハルちゃんだけだったから。すっごく懐かしくて、嬉しいなって気分になっちゃう。
お兄ちゃんと一緒くらい、私のことを分かってくれてるコハルちゃんは、もしかしたら運命のおにゃのこなのかもしれなかった。
初えっちは、やっぱり私とコハルちゃんと先生、あとついでにセイアお姉ちゃんの4Pになっちゃうのかも、しれないね?
……幾らロリになってたとしても、お兄ちゃんは混ざるの禁止だからね!
「私からの言いたいことは、以上だよ!」
「メブキ、俺……」
「あっ、待ってお兄ちゃん。
「……私、からは?」
そっと、私はお兄ちゃんをギュッてするのをやめたの。
私のデカパイに埋まれちゃってて、見えなくなってた視界を、ちゃんと見せてあげられるように。
するとね、入れ替わるみたいに、お兄ちゃんの正面に一人の女の子が立った──立ちはだかった。
「……ケイ?」
そう、ケツちゃん。今にも痔が悪化しちゃいそうな、そんな我慢した顔を浮かべている女の子。
お兄ちゃんを大事に思ってるのは、私だけじゃないんだよ?
「…………御託は、並べ終えましたか?」
「え?」
私、ケツちゃんのこと、痔が悪化しそうな女の子ってさっき思ったけど、なんか違ったみたい。
お兄ちゃんの目の前に立ったケツちゃん──明らかにお尻がブチ切れちゃってた*54。
「言いたいことはもう無いのかと、そう聞いているんです!」
「……もう無いけど」
お兄ちゃんの言葉を聞いて、ケツちゃんはキッてお兄ちゃんを睨みつけて。それから、右手を大きく振りかぶったの!
「ふんっ」
「ぐえっ!?」
電光一閃、お兄ちゃんのロリ頬っぺたを引っ叩いた後に、そのままケツちゃんはお兄ちゃんの襟首を片手で掴み上げて、そのままねこねこソフトの喧しいタイプの歌みたいに畳みかけ始めたの!
「第一に、何で私に相談しなかったのかっ!」
「んぎゅ!?」
「第二に、くだらなさ過ぎる事で悩んでいたことっ!!」
「ほげぇ!?」
「第三に、いつも適当にヘラヘラしてる癖に、本心を見せないところっ!!!」
「くぎゅぅ!?」
ケツちゃんのビンタは、一度で終わらなかった。
一つお兄ちゃんのダメポ(ダメダメポイントの略だよ!)を上げる度に、ビンタを加えてる。
ばしーん、ばしーんって、ムチで調教されてる女の子みたいな音が響いてる。瞬きする間に、お兄ちゃんの頬っぺはおたふく風邪の女の子みたいになっていっていった。
あわわ、ば、バイオレンスだよ!?*55
「第四に、開発中のエロゲーはまだスタッフロールが未実装なのに、最後まで作ろうとしなかったこと!!!!」
「んごぉ!?」
「第五に、アリスを含め、散々みんなに心配をさせたこと!!!!!」
「ひぎぃ!?」
一方的にボコボコにされてるお兄ちゃんだけど、叩いてる方のケツちゃんの方が泣いちゃいそうな顔をしてる。
お胸の中に仕舞ってた色々が、お兄ちゃんの無神経帰った方がいいのかな発言によって、完全に弾けちゃってた。
だからケツちゃんは、鈍感系クソボケ主人公と化したお兄ちゃんが帰っちゃわない様に、一生懸命調教してるんだ。
……でも、その調教もずっとは続かない。
ケツちゃんは、これで最後と言わんばかりに、今までで一番大きく手を振りかぶって。
「最後に──私の言語野データを、カスの文章を流して散々犯し尽くした癖に、勝手にどこかへ行こうとしたことです!!!!!!*56」
「────っ」
最後の振り上げた手を、ロリお兄ちゃんは目を見開いて受け止めていた。
──目の前の女の子が、泣いちゃってるってことに気が付いて。
「人のことっ、あれだけ汚しておいて……っ。ヤリ逃げなんて、絶対許すわけ、ないでしょう!!!」
そのまま、ケツちゃんはお兄ちゃんの胸に顔を埋めちゃってた。泣き顔を、目の前の人に見られなくするみたいに。
お兄ちゃんは、頬っぺたを赤く腫らしながら、戸惑ってるみたいに手を彷徨わせてた。
けど、ケツちゃんが離れないから、いつかの私にやってくれたみたいに、ギュッて抱きしめたの。
慰めるために、泣かないでって気持ちを込めて。
「……ご、めん」
「っ、本当ですっ。私をヒロインにするって、あなたが言ったんですっ。ハッピーエンド好きなクセにっ、ヒロインを不幸にしないでください!!」
「……悪い、そうだな。言い出したの、俺だったよ」
完膚なきまでに論破されたお兄ちゃんは、ボコボコにされちゃってたのに、何だか憑き物が落ちた顔をしながら頷いてたの。
……マゾさんなのかな?
「ケツちゃん、ちょっとだけお耳貸して。二人が運命の二人になれちゃう、とっておきの呪文、教えてあげるから」
でも、できる有能妹な私は、そんなヤボちんさんなツッコミは入れないの。代わりに、お兄ちゃんに刺さっちゃいそうな、とっておきの言葉をケツちゃんの耳元で囁く。
どうか、二人がいつまでも仲良くいられます様にって、気持ちを込めて。
「……ケイ?」
私の言葉を聞いたケツちゃんは、むくりって顔をあげて、お兄ちゃんの胸から離れたの。
目尻は赤くて、涙の跡が残ってる。
けどね──。
「── わたしを犯した責任、ちゃんととってもらいますから」
泣き腫らした後でも、ケツちゃんが浮かべた笑顔は、雨上がりの虹みたいに輝いてた。
みんな見惚れちゃうくらいな、そんなキラキラ笑顔だった。
「……ばーか、月姫の二人組だと、なんか色々大変だろーが」
ケツちゃんの七色えがおに照れちゃったロリお兄ちゃんは、ぺちって妹の頭を優しく叩いたのでした。
お兄ちゃんのくせに、可愛いね?
そうして、私たちは手を繋いだの。
お兄ちゃんを真ん中に、三人で仲良く。
「じゃあ、帰ろっか!」
「ええ、帰りましょう。……また、続けるために」
私とケツちゃんの言葉に、お兄ちゃんはうんって確かに頷いて。
「帰るか──幸せを探すためにも」
「うん!」
そうして、私たちは車両間の扉に手を掛けた。
強く思えば、どこにだってたどり着ける扉だから、
私たちが帰りたい場所、それを強く思い浮かべて。
今はと繋がる扉を、えいって引いたの。
そうして、私たちは──。
「──ただいま!*57」
次回、2度目の最終話です。