日本に吹き荒れる黄金の風 作:白雪(pixivでもやってる)
私には理解できなかった……
結局、母は心臓をやられて亡くなっていたらしい。
あまりにも静かに倒れていたため、他の馬も気づかなかったとか。
事実、オレも近づくまで気づかなかった。
クロノちゃんはかなり心配していたが……きっとオレが母の死を引きずるほうが母は気にするだろう。
オレがやるべきことはわかってる。
走りで……証明するのだ。
母の強さを。
そして、オレ自身の存在を。
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それから約二年が経った。
育成厩舎でサートゥルナーリアとかいういけすかない牡馬と毎日やりあったり、セレクトセールでなんと二億で取引されたり。
馬主、というのも決まったらしく、新興一口クラブのDMNヴァヌーシーになった。
本当に新興で、なんとオレ含めて四頭が一年目。
そのうち一頭はオレと同じ厩舎の牝馬ちゃん。
名前は、ラヴズオンリーユー。
とてもセンスのあるいい名前だと思う。
父がオレの父と同じ三冠馬(しかも無敗)のディープインパクト。
近親にG1馬がかなりいる超良血馬で、調教師の矢萩さんからも期待されている。
そんな彼女はオレの隣の馬房である。
「ねえ、ちょっと。何見てんのよ」
「おっと、すまん。考え事をしていてな」
「はあ……あんた、デビューいつ?確かあたしより早かったわよね。」
「うん。といっても1ヶ月の差くらいだから誤差みたいなものだよ。10月はじめって言ってたかな?」
「へえ、次走は?」
「勝てたら東京スポーツ杯二歳Sだってさ。自己条件で勝ちを積み重ねるんじゃなくて格上挑戦させる気だな」
「…………あんたなら、速いし、強いし、勝てるわよ」
珍しくデレたラヴズ。
まあ彼女とは結構な頻度で併せて走っている。
お互いの実力は把握している。
もちろん、彼女の強さは同世代と比べても牝馬のトップ層を狙えるレベルだ。
そんな彼女からお墨付きを貰ったからかなり自信がつく。
「ありがとなラヴズ。」
「別に……」
典型的ツンデレキャラみたいな言動だ。
かわいい。
ぷいっとオレから顔を背けた彼女。
そのとき、ちょうどある馬が調教から帰ってきた。
「あっ、ラヴにヴァンくんじゃん。なになに?恋バナ?」
「ちがうわよ、マル。デビューの日について話してたの!」
ラヴズともうすっかり仲良しなマルシュロレーヌである。
百合の波動を感じる……。
ちなみに、ヴァンくんというのはオレのことだ。
ヴァンドール。
フランス語で黄金の風。
父親から名前を考えたという話だった。
「デビューかあ。わたしはもう少しかかりそうなんだよねえ。」
「マルシュも……芝か」
「うん、そうなの」
マルシュとは同じ父親を持つ同世代の馬ということで仲良くなった。
結構気性が難しいところも覗かせるが、基本的に気のいい少女だ。
ラヴズとはいいコンビになるだろう。
「とにかく、さっさと走って、さっさと勝って帰ってきなさいよ、いいわね?」
「ハイハイ……」
ラヴズにそう睨まれて、オレは苦笑いをした。
マルシュはからかうように「ヴァンくんカッコいいから、女の子たちが群がるだろうけど頑張って無視しなよ?ラヴが怒っちゃうからね」なんて言ってる。
「ん?オレってカッコいいの?」
「うわ、ナルシストみたい」
「ごめんて」
さすがにそのドン引き顔は堪えますラヴズさん。
「うん。厩舎の女の子たち、結構ヴァンくんのこと気になってる感じだよ。」
マルシュがいうならそうなのだろう。
馬の美醜がわからん……クロノちゃん、ラヴズやマルシュはかわいいとは思ったけど。
オレの容姿が特段優れてるとはあまり思えない。
ふつうの、栗毛の牡馬だと認識してるんだが……。
「……調子乗らないでよ」
「乗らんよ」
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次話はちゃんと走ります