正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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終業

 トリニティ総合学園において、サバキを知る者は皆こう語る。

 

 「サバキに拳を振るわせてはいけない」と。

 

 正義実現委員会の委員長、浄玻サバキ。彼女にまつわる伝説は数多く伝わっている。

 

 ある者は『大多数の不良たちを相手に、たった1人で立ち向かい壊滅させた』と話し、またある者は、『巡航戦車』を拳一つでスクラップにしてみせた』と話す等、真偽問わずサバキにまつわる噂は後を絶たない。

 

 事実、同じ委員会に所属する一年生でさえ、サバキの伝説を目の当たりにしたことがあった。

 

 『サバキ委員長ですか?一度だけあの人の強さを目の当たりにしたことがあります。あれはツルギが暴走した際のことでした』

 

 『きひひひひひひひひひひっ!!ギャッハアアア――――ッ!!』

 

 ショットガンを片手にツルギはサバキ委員長に飛び掛かりました。

 一方、先輩は持っていたサブマシンガンを離してしまったのです。

 

 『先輩ッ!!』

 

 絶叫と共に襲い掛かるツルギ。対して先輩は右手を力強く握りしめ、構えたのです。

 

 『そんな攻撃であたしがやれるかああああーーーーっ!!』

 

 先輩は真正面から拳を振るい迎え撃ったのです。

 

 『グフォォ‥‥ッ!?』

 

 先輩の右ストレートはツルギの胴を捉えました。拳を叩き込んだ衝撃で身体が少し浮いていたのは今でも覚えています。

 

 白目を向きながら地面へ崩れ落ちたツルギにはもはや立ち上がるだけの気力も、暴走する力も残されていませんでした。

 

 

 そう先輩は拳一つで無力化させたのです。

 

 これを見ていた他の同級生も2年生方も唖然していましたよ。拳一つで無力化なんて前代未聞のことでしたから

 

 

 

 ただ、それ以来先輩が拳を振るう姿は滅多に見られなくなりました。

 先輩に聞いても上手くはぐらかされてしまいます。ただ一言だけ教えてくれました。

 

 『あの拳は色んな想いが込められた拳だ。破壊しかない暴力にこの拳が負けることはない』と

 

 副委員長に聞いても詳しいことは教えてもらえませんでした。

 

 『姉貴‥‥いえ、委員長は滅多に拳で殴ることはありません。ですがあれはあの人の心すべてが詰まったものです』

 

 ですが私たちの間では今でも伝説になっています。

 

『サバキ先輩に拳を振るわせてはいけない』と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 今、サバキの眼前に佇んでいるのは対デカグラマトン用の爆弾によって機体を損傷したビナー。

 頭部の破損は大きく、口内の砲台は完全に破壊されていた。さらに熱エネルギーを集約していたことが災いし、爆弾に仕込まれていた大量の火薬に引火。爆弾の爆発による影響で熱光線の用のエネルギーが誘爆。体内で連鎖的に爆破が繰り返され、ビナーの装甲を内から破壊したのだ。

 

 だが、ビナーはそれでも眼前にそびえ立つ少女から目線を離さない。例えカメラアイが切れそうになっていたとしても、獲物への執着が依然として顕在していた。

 

 一方サバキも眼前のビナーを見据える。

 人工知能が再現せし預言者。キヴォトスにいつ未曾有の厄災を引き起こすかわからない存在。だからこそサバキの心中は決まっていた。

 

 奴を倒す。そしてユメさんを必ずホシノちゃんの元へ帰す。

 

 ふと己のサブマシンガンを見る。『天極』と『地獄』。ここまであたしと苦楽を共にした相棒。その相棒は先ほどまでの無茶が祟ったのか、激しい熱を纏っていた。相当連続で酷使したのだ無理もない。

 『黒笏』もビナーによる叩きつけを喰らったせいで銃身にひびが入ってしまっている。これでは、上手く狙撃も出来ないだろう。

 

 「正真正銘‥‥正念場ってところか‥‥」

 

 思い起こせば、あたしの学生生活は波瀾万丈だった。同世代が部活から去り、1人で委員長を任されたりもした。やんちゃな後輩と組みあって窘めたこともあったか‥‥。今ではカワイイ後輩に囲まれ、学校外で新たな友人を得ることができた。卒業はまだ先とはいえ、もう終着が近く感じる。まだまだやりたいことはいっぱいある。

 

 けれど今は、ビナーを倒すことだけを思う。未来ある後輩たちのため、あの怪物を止める。

 それがあたしの使命だ。

 

 

 再びビナーがサバキ目掛けて突進する。

武装が失われた今、ビナーが取れる最大限の攻撃。己の巨体を生かした戦い方だ。

 

 今のあたしの身体は骨の損傷に火傷、キヴォトス基準でも重傷だろう。

武器も限界間近。だとしてもあたしには残されたものがある。あたしの全てを込めてビナーに叩き込む。

 

 

 

ビナーの突進がビルの目と鼻の先にまで迫る。このままいけば衝突によりビルは倒壊するだろう。

倒壊に巻き込まれればサバキといえどただでは済まない。

 

 常人であればすぐにビルから避難するのが賢明だろう。

しかし浄玻サバキにそんな選択肢はない。ビナーがビルのギリギリまで迫ったタイミングで勢いよく駆け出す。そして、ビナーの頭部が近づいたタイミングでサバキは床を蹴り、空中へと飛び出す。

 

 

 ビナーがサバキに気づき、目と目があった。ビナーは機械であるが、その目はあたしを迎え撃つそんな意思を感じさせる表情であった。

 

 だがあたしは止まれない。止まることなんてできない。ビナーを仕留めるために、あたしのありったけを‥‥未来をここに賭ける。

 

 グッと強く握りしめた右拳に力がこもる。

 

 サバキは気づいていないが彼女の意思を示すヘイローが炎のように波立っていた。加えて強く発光し、光の粒が右拳に宿っていく。

 その右手はオーラを纏い、激しく燃えているように見えた。アビドスの砂漠が見せた蜃気楼だろうか。

けれどサバキの右手には確かに想いが込められていた。トリニティにいる後輩たち、アビドスのユメさんやホシノちゃんを想う心。

 

 過去に誰かが言っていた。

 

 

 『想いを乗せた拳はどんなものよりも重く、強い』のだと

 

 

 

「ビィィィナァァァァッ!!」

 

 

 

ビナーも必死に抵抗する。頭部のカメラアイを切り替え微かに残ったバルカン機能を使いサバキを近づけさせまいとする。降りかかる弾丸の雨が襲い掛かる。何発かの弾丸がサバキの羽の骨を貫く。

 

けれど痛みに耐えながらサバキの全てを込めた拳をビナーのヘイローの真下。デカグラマトンの文様が描かれた箇所へ全力のパンチを解き放つ。

 

 

 

 

一度きりのありったけを込めたサバキの拳。

攻撃を掻い潜り無防備となったビナーの頭上に炸裂する。

分厚いビナーの装甲が鈍い音と共に軋む。上から下へ与える重力を帯びた急降下攻撃。いかにオーパーツで構成されたビナーといえど、耐えられるはずがなかった。

 

 頭部装甲が激しく凹み、大きなクレーターが出来上がった。

 ビナーはギィ…ギギキと鈍い音を立てながらアスファルトの上に崩れ落ちていく。

 目の部分からも光が失われ、ピクリとも動かない

 どうやら機能が止まったようだ。

 

 

 だがサバキも当然、ただでは済まなかった。

 ビナーに拳を叩き込んだ後、ヘイローの輝きが失われ、全身に脱力感がいきわたる。

 

 着地態勢にも移れるわけもなく、あたしは地面へ叩きつけられた。

 

「ゲホッ…ガホ‥‥」

 

 吐血が止まらない。

 身体からも血があふれ出て来る。

 全身の骨は確実に折れただろう。それに足も満足に動かない。

 骨折に加え、靭帯も損傷した可能性がある。

 

 限界な身体に鞭を打ったんだ。無理はない。

 

 

 残された力で身体を引きずりつつ、ユメさんの元に向かう。

ユメさんの居た場所にまで戻ると、まだユメさんは気を失っている。

 

 

 よかった‥‥無事だ‥‥。ユメさん…アビドスに帰りましょう‥‥

 

 そう思いユメさんを担いだその時

 

 一発の弾丸があたしの胸を貫いた。

 

 

「‥‥ぁッ?」

 

 制服の上から滲み出す血。

 それを視認した途端、あたしの身体は糸がプッツンと切れてしまったかのように崩れ落ちた。

 

 やっとのことで動かしていた足も、腕も、羽も。

 サバキをサバキたらしめるヘイローにも細かいひびが走っていく

 

 一ミリたりとも動かすことができない。

 身を裂かれるような苦痛に苛まれても、声を上げることさえ叶わない

 

 

 残された力で顔を上げると、見覚えのあるオートマタたちが立っていた。

 

 そうカイザーPMCの兵士と理事である。

 

 倒れ伏しているあたしを前に理事は、兵士たちを引き連れ見下ろしていた。

 

 「ご苦労だったな。まさかあのデカグラマトンを倒してしまうとは」

 

 「ヵィザぁ‥‥」

 

 「おかげで我々の目的も楽に遂行できそうだ、感謝するとしよう。あぁ、それと君が我々から奪い返したそこの、生徒会長も返してもらおう。彼女にはあの1年を引き込むのに重要な存在だからな」

 

 カイザーの兵士たちがユメさんを連れて行こうと迫る。

 

 ユメさんを連れて行かせまいと手を伸ばそうにも、少しも動かない。

 

 どうしようもない状況の中、突如後方から咆哮と地鳴り音が響き渡る。

 

 つい先ほどまで聞いていたあの音。間違えるはずもない。

 

 ‥‥ビナーだ。

 

 確かに仕留めたはずのビナーが再起動し、鈍い音を立てつつ起き上がったのだ。

 

 「馬鹿なッ!?確かに機能停止した筈だ!」

 

 「理事!ここは危険です早く避難を!!」

 

 想定外の事態に理事はわなわなと震えているが、背に腹は代えられないと思ったのだろう。ユメさんを解放し車に乗ってその場から去ってしまった。

 

 復活したビナーは再度、あたしを見つめる。

 自らを機能停止にまで追い込んだ相手なのだ、見逃すはずつもりもないだろう。

 

 一難去ってまた一難。今度こそあたしの命はない。そう思った。

 

 せめてユメさんだけは

 護らなくては

 帰らせなければ

 

 骨が軋みながらもビナーへと振り返り睨みつける。

 

(来るなら来い‥‥!!道連れにしてでも倒してやる‥‥!!)

 

 しかしビナーは何を思ったのかそのまま振り返り、穴の中に潜っていった‥‥

 

 そう、とどめを刺さずに帰ったのだ。

 

 

 何故、ビナーがあたしにとどめを刺さなかったのかはわからない。

 あの場面ならあたしを仕留めることだってできただろうに。

 見逃された?だとしたら何故‥‥?

 

 頭の中に疑問が渦巻くも、あたしに考える余地は与えられなかった。

 

 

 ビナーが地面に潜った際に地上へと巻き上げられた大量の砂。

 ゴーストタウンを吞み込もうと押し寄せるそれはもはや砂嵐ではなく、砂の大津波であった。

 

身体を引きずり、ユメの懐から折り畳み式の盾を取り出す。

 盾を手に取り展開したサバキはそれを背に、ユメへ覆いかぶさる。折れた羽を無理やり動かし抱き寄せる。

 

(‥‥せめて、ユメさんだけでも)

 

 轟音と共に砂の波が、ゴーストタウンを、サバキとユメを飲み込む。

押し寄せる砂にもまれながらもサバキは決してユメを離そうとはしなかった。彼女を少しでも生き延びさせるために。アビドスに帰還させるために。

 

 意識が朦朧とする。きっと自分の最期が迫っているのだろう。

 

 あたしがいなくなった後、正義実現委員会は大丈夫だろうか。不良に舐められたりしないだろうか?

 

 いや、きっとバンが跡を継いでみんなを引っ張ってくれるはずだ。あたしはあの子たちを信じる。

 

 そしてホシノちゃん、ごめん。あたしはもうアビドスに来られないかもしれない。

 カイザーの嫌がらせだって激しくなるかもしれない。あたしに任せてって言ったのに、約束を破る形になってしまった。

 

 せめてあなたの未来が明るいことを祈せて欲しい。

 

 

 みんなの青春に幸運あれ

 

 

 

 

 未来を担う後輩たちの活躍を願い、あたしの意識は暗闇に落ちていった‥‥

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

正義実現委員会委員長 浄玻サバキ 消息不明

 

 

※追記:捜索開始から1年が経過。

これ以上の進展は見込めず、これ以上の捜索は不可能

 




これにて、序章完結になります。
少し閑話を挟んで原作に行く予定です。
これからも閲覧よろしくお願いいたします。。

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