ディープスカイ様
感想ありがとうございます。
8話
M&H様、誤字報告ありがとうございます。
閑話:貴女はどこに
《とある生徒の独白》
ある日、授業を終え正義実現委員会の部室を訪れると、いつもいるはずの先輩がいませんでした。
普段なら誰よりも部室にやってきて書類仕事にとりかかっているはずの先輩の姿が部屋のどこにも無かったのです。
「すみません、副委員長。サバキ委員長はどちらにいらっしゃいますか?」
私が委員長について尋ねると副委員長は
「すまない、私も知らないんだ。何しろ今日委員長の姿を見ていなくてね。聞いた話では学校にも来てないらしいし、もしかしたら風邪でも引いたのかもしれないな」
「風邪、ですか‥‥」
「ああ。私の方でお見舞いに行くつもりさ。ハスミ、今日の正義実現委員会の活動は休止にする。君も帰って休むといい」
「わかりました」
先輩に促された私は部室から出て、その場を後にしました。
あの時の私は事態を楽観視していたのかもしれません。風邪が治ったらまた会える、そんな淡い希望を抱くほどに。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
けれどそれから何日か経過しても委員長は、部活にも学校にも現れませんでした。
それどころかトリニティ自治区でも委員長の姿を見たという話を聞きません。
「‥‥先輩、今日も来ませんでしたね」
「ああ‥‥」
部室でツルギと話していると、同じ委員の子がやってきました
「ハスミちゃん、ツルギちゃん、集合だって副委員長が」
「わかりました」
「わかった」
促されるままに私たちは部室の会議室に集められました。
他の子も同じなようで周りもざわめき立っています。
するとみんなの前に副委員長がやってきました。
ですが普段の副委員長らしからぬ表情をしていました。平静を保っているように見せている。そんな顔でした。
「みんな、急に集まってもらってすまない。だがどうしても伝えなければならないことがある。よく聞いてほしい。サバキ委員長の‥‥」
‥‥は?
副委員長からの報告に私は思わず耳を疑いました。
先日まで元気そうにしていたのに、先輩の行方が分からなくなったなんて、急に言われてもにわかに信じられなかったからです。
隣居たツルギも呆然としていました。
当然委員長を慕っていた私たち1年生の間に動揺が走ります。けれど副委員長は話を続けました。
「既にヴァルキューレ警察学校にも捜索届けを出している。だがしばらくの間委員長の不在を知った不良たちの活発化が懸念される。各員、巡回の際には警戒を強めるように。話は以上だ‥‥」
そう言って副委員長は部室を後にしました。
どうしても納得がいかなかった私は副委員長の後を追った。
「副委員長!先輩が行方不明なんて、どういうことですか!!」
「‥‥私だって信じたくなかった。でもお見舞いで委員長の家に向かった時鍵がかかってたんだ。寝ているのかと思って後日モモトークでメッセージを送ったが2日経っても既読が付かない。学校にもいないということは‥‥くっ‥‥」
その時の副委員長の表情は今でも思い出します。
とても悔しく、後悔の念に駆られていたような表情でしたから。
そんな姿の副委員長に私は何も言うことはできませんでした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
先輩が行方不明になってから75日が経過しました。
不良たちの活発化は何とか食い止めることができ、トリニティ自治区の平和は保たれています。
そんな中、ヴァルキューレからサバキ委員長の制服が発見されたとの報告がありました。
居ても立っても居られなくなった私は一目散に駆け出し、部室に駆け込みます。
「失礼します!副委員長、先輩の制服が見つかったと‥‥」
部室を訪れた私の目に入ったのは、机の上に置かれた委員会の制服。全体的に黄ばんでおり、相当悪環境の中放置されていたことがわかります。
副委員長は捜査を担当していた公安局のカンナさんという方と話しているところでした。
「発見されてのはアビドスの砂漠?」
「はい。辺りを根城にしていたヘルメット団が所有してのを発見。押収に至りました」
「連中はなんと?」
「彼らは依然として容疑を否認していますが…如何せん証拠が不充分過ぎます。立証するのも難しいでしょう」
「だが、どんな経緯があれど連中が持っていた以上委員長と何か接点があったかもしれない」
「そうですね。それに件のヘルメット団の構成員は
ゲヘナ学園。
トリニティ総合学園とは切っても切れない長い因縁のある学園。
「自由と混沌」を校風としており、キヴォトスにおいてもその治安の悪さは折り紙付きとされている。
トリニティとゲヘナは昔から対立関係にあり、互いを嫌悪し合っているほど。
かく言う私もあまりゲヘナのことは好きではありません。
素行が悪く、キヴォトスの何処かしこで騒動を引き起こす。鎮圧しても反省の態度を見せず、それどころか逆切れまでしてくる始末。連中の態度には終始苛立ちを抑えるのに苦労します。
ただ、先輩はゲヘナに対し悪感情を向けることはありませんでした。
『ゲヘナ全員が悪い子ばかりではない。優しい子だっている筈』
と言ってトリニティもゲヘナも平等に扱っています。
ですが、大事な先輩をゲヘナが奪ったならば‥‥‥
逸る心を抑え、寮の自室へと急ぎその日は布団に入って忘れることにしました。
あの先輩が簡単にやられるはずがない。そう信じて
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
先輩の失踪から約150日目
ブラックマーケットの巡回を行っていた時でした。
ちょうど騒ぎが起こったらしく、私たちの班は現場に急行することになりました。
逃げ惑う生徒や市民の方々。騒ぎの中心になっている場所に向かうと、ゲヘナの生徒がバッグを片手に騒ぎ立てていました。
「このバッグが目に入らねぇかッ!!あたしはなぁ、トリニティの委員長をぶっ倒したんだぞ!!身包み全ておいていきやがれっ!!」
ゲヘナ生が乱雑に振り回しているのは、先輩がいつも銃を入れているバッグ。
何故、アイツがそれを持っている‥‥?
周囲に威張り散らすゲヘナ生はバッグがボロボロなのにも関わらず振り回し続ける。それもわざと壁にぶつけたり、足蹴にまでしてーーー
私の中で何かが切れた気がしました。
すぐさまアサルトライフルに弾丸を込め、ゲヘナ生目掛け発砲する。
銃弾はターゲットの腕を掠め、奴の手からバッグが離れる。
「‥‥貴女、そのバッグどこで手に入れました?」
「あ?聞こえなかったのか?お前んところのボスを倒して‥‥」
くだらない嘘を吐いた下郎の側方をライフルで撃ち抜く。
「ヒッ‥‥」
「もう一度聞きます。そのバッグ、どこで手に入れた?」
「し、しらな‥‥」
今度は白を切ろうとしたソイツの胴を撃つ。
「そのバッグ‥‥どこで手にいれたと聞いているんです‥‥!!」
「だから…しらない‥‥」
私はそのゲヘナ生の身体を何度も何度も撃ちました。相手が気絶するまで、念入りに執拗に。
結局、アイツからバッグを手に入れた経緯を聞くことは叶いませんでした。
――――――――――――――――――――――――――
任務から戻り、寮へ戻る途中、ティーパーティーの幹部らしき生徒の話し声が聞こえました。
盗み聞きするつもりはありませんでしたが、つい聞いてしまったのです。
「ねぇ、聞いた?」
「何々?」
「正実の委員長、行方不明なんだって」
「えー!?それほんと?」
「ほんと、ほんと。それにね聞いた話じゃゲヘナの連中の仕業なんじゃって話」
やはり…ゲヘナが‥‥憎きゲヘナめ‥‥よくも委員長を‥‥
自室に戻っても心の中に沸き立つ激しい憎悪。
憎悪に居ても立っても居られなくなった私でしたが、そこにツルギが訪ねてきました。
「‥‥ハスミ」
「ツルギでしたか‥‥どうかされましたか?」
私を見つめるツルギの表情はどこか浮かないようでした。まるで何かを心配しているような。
「あまり気を詰めすぎるな。委員長ならきっと大丈夫だ。きっと‥‥」
ツルギの発言に私は思わずむっとしてしまいました。
きっとゲヘナ関連のことで頭がいっぱいになっていたのでしょう。
気づけば己の激情を暴露していたのです。
「‥‥大丈夫?大丈夫ってなんですか!先輩の失踪はゲヘナに何かされたに違いありません!!そうです、全てゲヘナが‥‥」
「ハスミ‥‥」
「あの野蛮な奴らのことです。きっと汚い手で委員長を‥‥ぁぁ!許せない‥‥赦せない‥‥!!」
「ハスミ!!」
ツルギの呼びかけでヒートアップしていた私は、ふと冷静さを取り戻しました。
危うく前後不覚に陥る所でした。
「‥‥止めろ。それ以上は先輩の意思を踏みにじることになる」
「‥‥そうでしたね。すみません。つい熱くなりすぎたみたいです」
「今は残された私たちでどうにかするしかない。私の相方はお前でないと務まらないんだ」
「ええ…」
ツルギはそっと私に寄り添ってくれました。
「今はうんと泣け。溜まったもの全部吐き出せ。私が全部受け止めてやる」
その言葉に私は抑えていた感情がとめどなくあふれ出ました。泣いて泣いて、泣きまくって。
その日は一日中子どものように泣きじゃくりました。
その間もツルギはずっと私の傍に居てくれました。
――――――――――――――――――――――――――
あれからさらに2年が経ちました。
バン副委員長はトリニティを卒業しキヴォトスから離れました。
今の正義実現委員会はツルギと私がそれぞれ委員長、副委員長を引き継いでいます。
先輩方が紡いできた正義実現委員会の誇りと信念を途絶えさえないために。
それと私たちにも後輩ができました。
とても可能性を感じられる子たちでとても将来が楽しみです。出来ることなら先輩にも一目見てもらいたかった。あと、私ここ最近で身体が大きくなったんですよ。先輩、昔言っていましたよね?私は将来大きな子になれるって。
『よくもあたしの妹分を!!利子をつけてお返しするぜ!!これはあの子の分だッ!!』
『ぐぎゃあああッ?!』
初めて会った時、先輩不良を殴り飛ばしいじめられていた私を助けてれました。
『大丈夫か?‥‥てめえら!一端の学生が寄ってたかって小さい子を虐めてんじゃねえ!!』
あの時の大きな背中、今でも忘れはしません。
‥‥叶うのなら、もう一度会いたい。今の私たちを見て貰いたい。
先輩、貴女は今どこへいるのですか?
何をしているのですか?
どうか元気な先輩の姿を私たちに見せてください。
「ハスミ先輩――!連邦生徒会への出立準備完了っす!」
「ありがとうございます、イチカ。すぐに向かいます」
最近のキヴォトスは物騒な噂が絶えません。
連邦矯正局から停学中の生徒が一部脱走したという話も世間ではまことしやかにささやかれています。
また、出所が分からない武装ヘリや戦車の流通も2000%増加しています。一時期は大人しかったスケバン等も再び活性化し始め通学中の生徒が襲われる被害相次いでいる状況です。
‥‥正直、類を見ない程の危機だと思っています。ですがこのまま黙っているつもりはありません。
本日、ツルギに代わってD.U地区に赴き連邦生徒会長と会う予定です。もう何週間も姿を見せていないということですが、意地でも会うつもりでいます。トリニティの存亡にも関わる事態ですから。
「ではいってきます」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「あらあら‥私の物真似とは、少々いけ好きませんわねぇ‥‥」
「すまない。意図したつもりは全くなかったんだが‥‥」
D.U地区郊外、連邦生徒会長が所有する建物の前で2人の人物がが相対していた。
1人は黒い着物に紅白の面を被った狐耳の少女。名は狐坂ワカモ。
百鬼夜行連合学院で停学処分を受け、矯正局に収監されていた生徒である。騒動に乗じて矯正局を脱獄した後、ここへやってきた。目的はこの場所にあるという連邦生徒会が大事にしているものを破壊するため。連邦生徒会に恨みを持つ不良たちを扇動しやってきたまでは良かったものの…邪魔をされていた所であった。
そんなワカモと対峙しているのは、同じく着物を着用し狐面を身に着けた人物であった。ただワカモの衣装とは所々差異が見られる。
黒をベースとしつつ青のラインが入った着物。
顔を覆う狐面もワカモの物とは異なり、着物と同じ黒ベースで青のライン入り。
また、目つきの所も鋭く、のぞき穴も紫色のレンズで覆われている。
狐面の後ろでなびく、赤と緑がかった薄い水色のツートンカラーのロングヘア―。
ヘイローも形が違う左右非対称。色も髪と同じツートンカラーをしていた。
彼女は建物に襲撃しようとしていたワカモと不良を見つけ、食い止めるべく立ちふさがったのだ。
そんな人物を前にワカモは話しを続ける。
「おや、そうでしたか。これは失礼。ですが‥‥」
突如ワカモは、手に持っていた九十九式短小銃を突きつける。
「目的の物を壊す前に、貴女を壊してみるのもまた一興とは思いませんか?」
しかしもう一人は依然として態度を崩さない。
「そうか。やれるものなら‥‥やってみろ」
黒狐面は、色褪せた2丁のサブマシンガンを構え、ワカモと対峙する。
これから数十分後、建物を奪還すべく、各学校の代表者とキヴォトスに赴任した”先生”なる人物がやって来ることになるのだが‥‥
それはまだ先のお話