――――もっとしっかりしてください!あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!?もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!
(‥‥‥。やってしまった‥‥)
つい苛立ったからってあんなこと言った挙句、ポスターを破くなんて‥‥。ユメ先輩はただ願望を言ってただけだったのに。昔の砂祭りのポスターだって手にれるの、相当大変だったはず。どう考えてもやりすぎだ。
‥‥はあ、ユメ先輩になんて謝ろう。
ユメ先輩に掛ける言葉が見つからないまま、学校に到着する。いつもの通り、席に座り始業までのチャイムを待つだけなのだが‥‥
(ユメ先輩‥‥来ないな‥‥)
普段は授業が始まる前に、ユメ先輩が教室を訪れるのだが今日は珍しく来ていない。
(いや、いくらマイペースな先輩とはいえ、あれだけの言葉を言ってしまったんだ。来づらくて当然だ…。せめてモモトークだけでも送っておこう)
そうこうしている内に授業開始のチャイムが鳴る。
悩んでても仕方がないため、学習用BDを見て授業を受ける。ユメ先輩に掛ける言葉を探しながら‥‥
――ーーーーーーーーーー
気づけばすっかり放課後の時間になっていた。けれど肝心のユメ先輩は現れなかった。モモトークを見ても既読がついていない辺り、学校にすら来ていないのかもしれない。
もしかして、身体の具合が悪いのかもしれない。
アビドス復興の為にでいつも先輩は各所に赴いている。正義実現委員会の委員長さんと一緒にヘルメット団を一掃したはいいものの、ここ最近の活動は忙しかった。きっと疲労が溜まって身体を崩してしまったのかもしれない。
軽く教室の清掃を終わらせ、施錠し帰路に着く。途中、コンビニでお見舞い用のお菓子や飲み物を買ってユメ先輩の家の前に置いていった。ちゃんとモモトークで連絡を入れ、その日は帰ることにした。
また少しすれば、会える筈。その時はちゃんと謝ろう。
そしてまた2人でアビドスの復興に向かって頑張るんだって
そう思っていた…
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異変に気が付いたのはそれから2日経った頃だった。
ユメ先輩の無断欠席。
既読が付かないモモトーク。
そして極めつけは家の前に置いてあったお菓子たちがそのまま放置されてあったこと。
どう考えてもおかしかった。いくら先輩とはいえ、なんの連絡も寄越さないのははっきり言って異常だ。
ふと、嫌な予感が脳裏を巡る。
ユメ先輩の身に何かあったのではないかと。
モモトークに出られないのも、学校に来れないのも、ユメ先輩に何が起こったからかもしれない。
居ても立っても居られなくなった私はある人物に急いで連絡を取ることにした。
アビドスをヘルメット団から護るために戦った、正義実現委員会の委員長 浄玻サバキに。
親交のあったあの人ならユメ先輩から連絡があったかもしれない筈だ。
当てが外れた。あの人の元に連絡が来ていない以上、手がかりは望めない。
‥‥本当は私一人で解決した方がいいのかもしれない。でも今はユメ先輩の安否が最優先だ。背に腹は代えられない。もう一度助け舟を出してみることにした。
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それからさらに時間が立ち、辺りはすっかり日に暮れていた。
委員長さんのモモトークからはあれから変わったこともない為、仕方なく私は学校から出て街に足を運んだ。
街では何かあったらしく、住民の人たちがひそひそと話をしていた。
気にせず歩いてると、ある会話が耳に入った。
「そういえばさ、さっきのニュースすごかったよね」
「そうそう西の町、急に砂で吞み込まれちゃったんでしょ?怖いよねーー」
なんてことのない会話に聞こえた。
砂漠化が進むアビドスでは砂嵐によって町が砂に吞み込まれることは少なくない。それに西の町は既に住民が立ち退いたゴーストタウンだ。関係がない。
どうだっていい内容に思っていた。だが‥‥
「でも俺見たんだよね。バイクに乗ったアビドスの生徒がそこに入っていくの」
「え、本当?」
「ほんとほんと。しかもさ見間違いじゃきゃ後ろに乗っていたの生徒会長さんだと思うんだよ」
「まっさか~~生徒会長さんがそんなとこ行くわけないじゃん。見間違いじゃない?」
「ははは、そうだよな」
嫌に胸騒ぎがした。
そんなわけがないと心に言い聞かせながらも全身から血の気が引いていく感触がした。とにかく走った。ただの思い違いであってほしいと淡い希望を持ちながら、ただひたすらに、がむしゃらに西の町へと走った。
町はすっかり砂で埋もれてしまっていた。以前立ち寄った時は、人はいなくとも町という形は保たれていた。しかし今は家屋もビルも、道路も全てが砂に埋もれてしまっていた。辺り一面全てが砂。大規模な砂嵐が起こったのだろうか?
そんなことよりも今はユメ先輩を探さなくてはならない。
走りながら辺りを散策していると、一か所の砂から人の腕が突き出ていた。逃げ遅れて砂嵐に巻き込まれたのかもしれない。救助するべく、腕の周囲にあった砂を取り除いていく。砂をかき分けて掘り進めると‥‥
「‥‥ここに居たんですね。全く探しましたよ」
‥‥ユメ先輩。
ユメ先輩は砂の中で埋もれていた。
どれくらい砂の中に居たのだろうか。呼吸も既に止まっていて、体温も氷のように冷たかった。
「ユメ先輩‥‥ユメ先輩‥‥」
いくら身体を揺すってもユメ先輩から返事は帰ってこない。
いつもマイペースで朗らかで少しおじさん臭くってでもどこか居心地が良かったユメ先輩がどこか遠くに行ってしまったようで。
涙が止まらなかった。
何故、もっと早く気づかなかったんだろう。なんで助けに行かなかったんだろう。少しでも早く気づいていれば、ユメ先輩は‥‥ユメ先輩は‥‥
どれだけの時間、泣いていただろう。ようやく涙が止んだ頃、前方からこちらにやってくる人影があった。
涙を払い、ショットガンを構えて咄嗟に警戒態勢に移る。
どんどんと迫ってくる人影に対し私は叫ぶ。
「止まれ‥‥!!それ以上近づいたら‥‥撃つ!!」
しかし警告に構わず人影はさらに近づく。私は銃の引き金に指を掛けた。
『クククッ‥‥これはこれは、ご無沙汰しております。小鳥遊ホシノさん』
「黒服‥‥」
黒服。アビドスに入学した頃から何度も私にスカウトを掛けてきた得体の知れない大人。
内容はアビドスの退学を退学し黒服の元に来ること。代わりに借金の半分を肩代わりするという破格の条件だったが、明らかに怪しすぎるしユメ先輩を1人にするわけにもいかなかったからその都度断っていた。
そんな相手が何故、砂漠に?
黒服をよく見ると、何か背負っているように見えた。ユメ先輩が使っていた盾と、アビドスの制服?
いや、あの髪と銃はまさか‥‥
「トリニティの委員長さん?」
『ええ。その通りですよ』
なんで彼女が黒服に担がれている?それに今の彼女からは生気が感じられない。
「なんでお前が委員長さんと一緒にいる。それにこの惨状、もしかしてお前が関わっているのか?答えろ」
『生憎、私はそこの委員長さんに手を貸したにすぎません。それに私が来た頃には既に彼女は砂漠に埋められて
いました。見つけるのは骨が折れましたよ』
相変わらず心の底が見えない。だが、あの発言からして本当に関わっていないのだろう。でなければわざわざ委員長さんと盾を運んでくる理由がない。
「それで何の用だ」
『貴女に一つ報告がありまして』
急に黒服がパチンッと指を鳴らす。するとどこからか一輪装甲のロボットが現れ、ユメ先輩の遺体を抱きかかえる。
「返せっ!お前は私からユメ先輩を奪う気かっ!!」
引き金に掛けていた指に力が入る。だが、このまま撃ってしまうとユメ先輩に当たってしまいかねない。
『ククク…小鳥遊ホシノさん。貴女は一つ勘違いをしているようです。アビドスの生徒会長さんはまだ生きています』
「嘘だ‥‥!だって先輩の身体‥‥あんなに冷たく‥‥」
『一時的な仮死状態になっているだけです。そちらの委員長さんよりかは蘇生が見込めるでしょう』
「そんなの信じられるか!!」
『‥‥信じるか、信じないかは自由です。ですが私は彼女らを連れて行かなければなりません。そこの委員長さ
んは実に興味深いものを見せてくれました。その対価は支払わなければならない。ただそれだけのことですよ』
私に背を向け歩き出す黒服。ロボットに委員長さんを預け、ユメ先輩と一緒に砂漠の向こう側へと去っていく。
そんな光景を前に私は‥‥
―――――引き金を引けなかった。ただ去っていく黒服の姿を見ているだけしかできなかった。
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その後のアビドスは大変だった。
ユメ先輩が行方不明になったことで、学校から離れる生徒が増えた。砂漠化もさらに進み、借金の返済も行わないといけない。私一人でアビドスを背負うことになった。
けれど悪いことばかりではない。2年の間に、新入生としてノノミちゃん、シロコちゃん、セリカちゃん、アヤネが入学してくれたのだ。可愛い後輩ができて私は幸せ者だ。
未だ2人の行方へはわからない。それに昔潰したカタカタヘルメット団が復活して再び襲撃を始めた。
また先輩たちが帰ってこれるよう、私はここで頑張ります。後輩たちもいます。だから安心してください。
それに今度こそ―ーー
護って見せますから