正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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新章スタート!
ここからサバキがメインストーリーに関わっていきます。

10話
M&H様、誤字報告ありがとうございます。


1章:リターンアビドス編
プロローグ:目覚め


 

 ガタン‥‥ゴトン‥‥

 

 何かに揺られていることに気づき、あたしは目を覚ました。静かに音を立てながら走る列車、どうやらいつの間にか眠っていたらしい。

 

 まだ、頭がぼーっとする。

 

 だいぶ寝ていたみたいだ。まさか、ここまで疲れが溜まっていたとは‥‥こんな姿、可愛い妹分たちには見せられな‥‥

 

 電車の窓から外を見てみると地平線の果てから、朝日が昇っている。

 

 空はどこまでも清く、澄み切りどこまでも続いている。

 

 ただ、あたしには不可解に想っていたことがある。

 アビドスにて、カイザーからユメ先輩を助け出しデカグラマトンの預言者ビナーと交戦。死力を尽くして戦い撃退し、ユメ先輩と共に砂に呑み込まれた。そこまでしか覚えていない。では何故、列車に乗っているのだろうか?

 

 それよりも、気にすべきことがあった。

 

 「ユメさん!!」

 

 もしかしたら列車に乗る前に離れ離れになってしまったかもしれない。そんな可能性に思わず肝を冷やす。

 

 必死に周囲を見回すと、隣の座席から寝息の立つ音が聞こえていた。その方を見てみるとユメさんがスヤスヤと心地よさそうに眠っていた。特段、怪我も見当たらない無事なようだ。

 

 ほっと胸を撫でおろしていると、前の席に誰かが座っていた。

 連邦生徒会の制服と紀章を身に着けているものの、ところどころ血液が付着している。どうやら、怪我をしているようだ。

 傷を手当しすべく駆け寄ろうとするが、そっと彼女に制止される。

 

 「‥‥私は大丈夫です。それよりもこうしてお話しするのは初めてですね、浄玻サバキ委員長」

 

 「何故、あたしの名前を知っているの?あたしは貴女のことを知らないのだけれども」

 

 「私の友達がよく貴女のことについて話していましたので」

 

 あたしの前に座っている謎の少女は静かに話を続ける。

 

 「貴女は今、非常に危ない状況に立たされています。今ならまだ、あるべき場所へ帰れるはずです。その方と一緒に」

 

 「危ない状況って何?それにあたしはあなたを置いていくわけにはいかない。難しい話はよくわからないけど、あなただって戻るべき場所があるはず」

 

 すると目の前の彼女は微笑んでいた。

 

 「‥‥やっぱり、話に聞いていた通りの人でした。貴女へ頼みたいことがあります」

 

 「頼みたいこと‥‥?」

 

 「どうか”先生”を助けてあげてください。”先生”は私が信じた大人です。”先生”が選択する未来を支えてください。責任を背負う意味を貴女は知っている。きっと私の話のことは忘れてしまうでしょう。ですが、それでも構いません。初めて会った身で図々しいかもしれませんが、お願いします」

 

 唐突の話にあたしは理解が追い付かなかった。彼女の言う”先生”という存在。そしてその”先生”を助けるという役割を託されたこと。正直なんの話をしているのかはわからない。けれど、頼まれたことを断るつもりなど最初からない。

 

 「‥‥任せてくれ!正義実現委員会の委員長、浄玻サバキの名において、その使命必ず果たす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――――長い夢を見ていたような気がする。

 

 目を覚ますと、身体にふかふかな布の感触が伝わる。どうやら、ベッドに寝かせられていたらしい。

 

 ベッドから起きようとするが、中々身体を起こせない。全身がまるで固まっているような感じだ。仕方ないので仰向けのまま辺りを見渡す。

 

 全体的に寂れており、一般的な建物‥‥というよりかは廃墟の一室という感じだろう。しかし何故あたしはこんなところにいるのだろうか?

 

 『ククク‥‥ッお目覚めになりましたか』

 

 「黒服…ッ!」

 

 声のする方向を見ると黒服が椅子に座っていた。どうやら本を読んでいたようで、パタンと冊子を閉じる。

 

 「随分と長くお眠りになっていたようで」

 

 「‥‥あぁ。自分でもわかる。結構寝てたみたい。ちなみにあたしどれくらい寝てた?」

 

 「見積もって約2年ですね」

 

 「2年ッ!?」

 

 ‥‥マジかっ。あたし、そんな寝てたんだ‥‥ってあああああッ!?てことはあたし留年してるんじゃん!!てか、あたしの学籍残ってるっ!?

 

 内心慌てていると黒服が話を続ける。

 

 「無理に身体を動かさない方が良いかと。意識が戻ったとはいえ、2年もの身体を動かさなかった影響は大きい。しばらくすれば身体は元のように動くことはできるでしょう。ですが今日の所はご安静にすべきでしょう。では」

 

 そういって黒服は部屋から去った。

 最後に覚えている記憶が確かならあたしはあの時、ほぼ死んでいるだろう。だが、私はこうして生きている。それに黒服が私を助けたとでもいうのだろうか?

 

 気にかかるが今日はもう寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 翌日、黒服は再び姿を現した。

 すっかり、身体も元のように動かせるようになった。黒服は合わせたい人物がいると言って歩き始める。

 病衣のまま黒服の後ろに付いて、廊下を進む。

 

 ふとあたしは黒服に質問する。

 

 「‥‥一つ聞きたい。黒服、お前はあたしを助けたのか?」

 

 「ククッ、ええその通りですよ」

 

 「何のために」

 

 「別に特別な理由などありません。強いて言うなら、単身でデカグラマトンを撃退した神秘ですかね。あれほどのものを失うのは惜しかったので。それと、同僚が貴女の音楽を聴きたがっていました。それだけのことです」

 

 アイツにしては珍しい。基本的に手助けなんてあまりしない筈なのに。ビナーの時だってあたしが何するのか気になってナビゲートをした。本当に黒服か?

 

 「それと、アビドスの生徒会長についてですが‥‥」

 

 まさか、何かしたつもりなんじゃあ・‥‥

 

 「少なくとも命に別状はありません。ですが未だ意識が戻っていません。植物状態と言ってもいいでしょう。少なくとも生命維持は続けていますよ」

 

 ‥‥わからない。黒服の意図がまるっきり読めない。

   奴の狙いはアビドス。ひいてはホシノちゃんの神秘。ユメさんを助ける道理などない筈なのに。

 

 「黒服。ユメさんもあなたが?」

 

 あたしの問いに対し、黒服はただ「見合った対価ですので」としか返さなかった。

 歩くこと数分。ようやく目的の場所に到着したらしい。

 

 黒服に促され、部屋に入ると黒服とはまた違った人物がいた。

 

 黒いタキシードを着用した紳士らしき人物。

 けれどその全貌は明らかに異形であった。

 

 通常1つであるはずの頭が2つ、しかも片方の頭は首から生えている。

 そして極めつけは全身から聞こえる木の軋む音。絶対に生身からでは聞こえないであろう音。

 先ほどの頭といい、美術のデッサンで使われる人形に良く似ている。

 総合的に見て、人間の容貌とはかけ離れた見た目。この人物もまた黒服と同じと考えていい。

 

 「ご客人をお連れしましたよ、マエストロ」

 

 「おおぉ!そうか!」

 

 『マエストロ』そう黒服に呼ばれた人物は再度木が軋む音を立てつつこちらへ向いた。

 そして手を差し伸べる。

 

 「まずは自己紹介を。お初にお目にかかる。私は『マエストロ』。ゲマトリアではそう呼ばれている」

 

 『マエストロ』から漂う雰囲気。黒服とも、私が以前相対した”アイツ”とも全く違う。敵意も邪な気配も、胡散臭さも感じない。感じられるのは親しみだろうか‥‥?

 

 とにかく礼儀を欠くのは失礼だ。

 

 「こちらこそ初めまして。浄玻サバキです」

 

 すっと差し出した手を握り握手する。

 手を握った限り感じられるのは木の感触。やはり木製の人形には違いないだろう。だがどういった構造で動いているのかは謎だが。

 

 にしてもあたしの手を握るマエストロが妙に喜んでいるように見えるのは気のせいか?いや、人形だから表情はわからないのだけれども。

 

 「以前、百鬼夜行でそなたの演奏を耳にしたことがあった。

  音楽は絵画や劇のように目で見て伝わるものではない。楽器から発せられる音を聴覚することで初めて認識で 

  きる。私は、百鬼夜行でそれを目の当たりにした。奏者から伝わるほど培われた”経験”と”知恵”。 

  聞く者への敬意を忘れぬ”品格”。それらを大前提とし、考えうるほどの”知性”実に素晴らしい」

 

 「あ、ありがとう、ございます…?」

 

 まさか、ここまで高評価を頂けるとは…

 なんというか少し以外だった。

 

 

 「方向性は違えど、”音楽”もまた芸術。”芸術家”であれば、素晴らしき芸術には敬意を払うべきだ」

 

 ”芸術家”マエストロが口にした言葉にあたしは思わず身が震える。

 未だあたしの脳裏にはあの光景が忘れられない。”アイツ”が言っていた”芸術作品”が並べられたあの光景が

 

 あたしの身体が少し震えていたのをマエストロも勘付いたのだろう。握っていた手を離す。

 

 「‥‥失礼、そなたにとって今の言葉は無配慮であった。申し訳ない。

    ただ付け加えるならば、”前任者”の芸術には美学があれど芸術性はなかった。

    私は芸術家でありながら「根源の感情」を追い求める探求者。

    君の音楽に対し理解と敬意があるということはわかってもらいたい」

 

 「ええ…もちろん」

 何とか身体の震えを抑え、持ち直す。すると黒服が話始める

 

 「マエストロ。サバキさんにお渡しするものがあると言っていましたが‥‥」

 

 「おお、そうだ。危うく忘れるところであった」

 

 そういうとマエストロはカタカタと双頭を鳴らしながら、衣服が着せられたマネキンを持ってくる。

 

 全体的に黒色の着物で所々青色のラインが入っている。

また、顔の部分には着物と同じカラーの狐面が置かれていた。

 

 「芸術への理解者に成りえる可能性を持つそなたへこれを贈ろう」

 

 

 お、おぅ…なんか感情重くないか?

 そんなにあたしに期待を寄せているのか?まぁ、悪い気はしないけれど‥‥

 

 「ククッ、そういえば着替えるついでに今のご自身のお姿を見てはいかがでしょう」

 

 「‥‥?」

 どういう意味だ?黒服の意図がよくわからない。あたしの身体を見たってなにも変わんないでしょうに

 

 

 

 彼らに促されるまま、あたしは更衣室に入り着替えをする。

 前に百鬼夜行で演奏した際に着物を着たことがあった。その時お祭り運営委員会に着付けのやり方を教えてもらった為、手を借りることなく着替えを済ませると思っていたのだが‥‥

 

 

 「‥‥はッ?!」

 

 更衣室に備えつけられていた鏡を見てあたしは思わず絶句する。

 赤色に染まっていた筈の髪は、半分薄みがかった緑色になっている。鏡に写るヘイローは、半分別のものが置き換わっていた。それに右目も変わった髪と同じ色になっている!?

 

 2年間、寝ていたとはいえここまで変わるものなのか?

 

 っあああ!余計わからない。

 変わったヘイローに変質した頭髪。

 なのに背丈は大して変わってない。せめて5cmは伸びてて欲しかった!!

 

 っと考えていても仕方がない。

 今は着替えを済ませなければ。

 

 腕を裾に通し、きゅっと帯を締める。

 仮面を手に取り、顔につけると後頭部の方でカチッと音が鳴った。

 

 「ん?なんの音?」

 

 気のせいか。それにしてもこのお面、目の部分が紫色になっているのにも関わらず周囲の色彩がよくわかる。

 それに視野も良い。

 

 更衣室を出ると黒服とマエストロが出迎える。

 

 「中々いい恰好ではないですか」

 

 「そうであろう。百鬼夜行での演奏で私は新たな視点を見出した。

  青く燃える程の熱情、観客を呑み込む程の黒く貪欲な技術と意欲。その発想を基に私が製作した作品だ」

 

 あたしを他所に会話を続けるゲマトリアたち。

 一旦狐面を外そうと側面に手を掛けるが‥‥

 

 

 「‥‥外れない」

 狐面はあたしの顔にしっかりと張り付いており、お面を繋ぐベルト部分が固くなっている。

 

 ‥‥嘘、外れないんですけど!?なんで?

 

 「ククッ‥‥そういえば言い忘れていました。そのお面、滅多なことでは外れませんよ」

 

 おいいいい!そんな大事なこと最初に言えよ!!

 

 「失礼、ですが今の貴女には必要なので」

 

 黒服曰はく、あたしは行方不明者および推定死亡者と扱われており顔を出せば混乱が起きてしまうらしい。

 そのため顔や身分を隠す必要があるのだという。

 幸い、食事や着替えの際は外れるため餓死の危険性はないらしい。

 

 ‥‥にしても厄介なのを着けられたな。これだからゲマトリアは‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 マエストロと別れ、身支度を済まし身体を伸ばしていると黒服が3丁の銃を持ってきた

 『天極』と『地獄』、『黒笏』、そして『????』

 

 どれも装飾の色が薄れているものの、銃身には傷一つ入っておらず動作も問題はなかった。

 それどころか、前より扱いやすくなっている。

 

 黒服曰はく、砂に埋もれていた所を回収し、ゲマトリアの技術で動くようメンテンナンスを施したようだ。道理で前より扱いやすいわけだ。

 

 「ククッ、それとサバキさん。こちらを」

 

 そういうと黒服は1枚のカード取り出し、あたしへ渡した。

 あたしの証明写真が載せられた1枚のカード。学生証に似てはいるものの違うように見える。

 

 「これは?」

 

 「これは貴女用のカードですよ。今のサバキさんは学籍を凍結されています。いや最悪抹消されていること

  でしょう」

 

 そうだった。今のあたし行方不明者なんだった‥‥

 そりゃ2年も音信不通なら学籍も、下手したら口座さえ凍結されてるかも。

 

 「キヴォトスにおいて生徒の証を失うことは致命的と言えるでしょう。

  だからこそそのカードをお使いください。飢えて死ぬということは免れるでしょう」

 

 コツコツと廊下を歩き、出口にまで向かう。

 

 「それともう一つ。近々完成する連邦生徒会の組織『シャーレ』を訪ねてみると良いでしょう」

 

 「シャーレ?」

 

『シャーレ』

 正式名称 “ Independent Federal Investigation Club (独立連邦捜査部)

 

 

 連邦生徒会によって設立された詳細不明の機関。

 生徒会長によって付与された権限のもとに、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れるという。

 

 そして噂ではそんな連邦生徒はキヴォトスの外から”大人”を連れて来ているらしい。

 現時点ではめちゃくちゃ不安だが、今のあたしは孤児にも等しい。シャーレに身を置いてみるのも検討してみよう。

 

 

 そうこうしている内に出口へとたどり着いた。

 

 「ではお別れですサバキさん。また貴女とお会いできることを願っていますよ」

 

 「できればこっちは会わない方がいいと思うんだけどね…ま、ありがとう」

 

 「クククク…ッ照れましたね」

 

 「違うからなぁっ!」

 

 

 

 こうしてあたしは黒服に別れを告げキヴォトスの大地へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 それから数日間。

 キヴォトスの各所を転々としつつ、人を助けつつ暴れるチンピラを制圧する毎日を送っていた。

 

 やはり2年という時の流れは大きかった。

 大人しかったチンピラたちが幅を利かせるようになり、あちこちで迷惑を掛けるようになっていた。

 さらに矯正局から収監されていた生徒が脱走したという噂もある。一体キヴォトスの治安はどうなってしまったのか。

 

 なんやかんやで過ごしていると、クロノス報道部からのニュースが始まる。

 

 『ご覧ください!こちら、D.U地区郊外!只今連邦生徒会に恨みを持つ生徒たちが絶賛暴れております!近隣住民の方は直ちに避難を!』

 

 テレビの電源を切り、再び身支度を整える。

 狐面を装着し、銃をバッグに詰め込む。

 

 たとえ亡霊であろうと、なすべきことは変わらない。

 役職を失おうと、己の道はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 「連邦生徒会の施設を占拠しろ――ーッ!!」

 

 「ひゃは――――ッ!!壊せ!壊せ!!」

 

 狐坂ワカモに率いられ暴れまわる不良たち。

 目標の連邦生徒会の所有する施設『シャーレ』までは目と鼻の先にまで迫っていた。

 

 「待て待て待てえええっ!!」

 

 「「「あああん?」」」

 

 「キヴォトスの平和を乱す者は、このあたしが許さないっ!!」

 

 

 ―――てめえら、まとめて相手してやるよ!!」

 

 「なんだとぉ!!やっちまえッ!!」

 

 なだれ込む不良集団にあたしは勇猛果敢に突撃するのであった

 




余談:
 今話が年度最後の投稿になると思います。
 閲覧、感想等、皆様ありがとうございます。とても執筆の励みになります。
 来年もどうか『正義実現委員会の閻魔様』をよろしくお願いします。

 
 
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