あれからというもの、あたしは秘かにアビドスを支援していた。
学校を襲うカタカタヘルメット団の襲撃部隊を不意打ちしたり、匿名で支援物資送ったりと様々だ。
しかし、支援物資も雀の涙ほどでしかならないだろう。加えて連中は、相変わらずしつこい。何度撃退してもすぐに立て直し襲撃を図ってくる。
現在のアビドスだって補給もままならない状況だろう。
また、素性不明なあたしがやれることは限られているのが現状である。
セリカちゃんやアヤネちゃんには知られているとはいえ、ホシノちゃんと正面切って会うのは、気が引ける。
もやもやしながら宿へ戻っていると、凄まじい轟音が響いた。
(なんだ‥‥?今の音。まるで戦車の砲撃のような‥‥)
普段からキヴォトスに鳴り響く銃声とは違った音。
まるで空気が震えるような感じに、異常に多い硫黄臭。
あたしの勘が警告を鳴らす。
なにか、嫌なことが起きそうでならなかった。
音がした現場では、カタカタヘルメット団たちがアルバイト帰りのセリカちゃんを襲っていた。
「ターゲット、沈黙。続けますか?」
「いや、いい。生かさなければ意味がない。
車に積み込め、ランデブーポイントに向かう」
「了解」
そういうとヘルメット団たちは気絶したセリカをトラックの荷台に乗せようとしていた。
そこへサバキが居合わせる。
「セリカちゃん!!」
叫び声でヘルメット団たちはサバキの存在に気づく。
「リーダー、黒狐です!!」
「落ち着け、対象の確保は成功している。
可能な限り団員を集めろ。時間を稼げ」
リーダーの格の指示により道端からぞろぞろとヘルメット団員たちが集まってくる。
その数30人ほどだろうか。トラック護衛のためとはいえ、ここまでの数を用意するとは以前のカタカタヘルメット団よりもさらに規模が上がっている。
「うおおお―――ッ!!」
「覚悟しろ―――ッ!!」
雪崩のように押し寄せるヘルメット団。
一人一人は大したことはなくとも如何せん数が多い。
「邪魔すんなぁっ!!」
『天極』と『地獄』で薙ぎ払うも、カタカタヘルメット団は次々に湧いて来る。お世辞にも団員達1人1人の戦闘力は高いとは言えない。けれど塵も積もれば山となると言ったように、数でまとまった場合は違う。勝利を目的としなければ、山は大きな障害物に成りえるのだ。
今いる団員達の目的は輸送の時間稼ぎだ。トラックさえ逃がしてしまえばそれで目的は果たされる。
全て団員たちを倒した時には、既にトラックは郊外へと向かってしまった。
アビドス砂漠は知っての通り広大な場所。ここで逃がしてしまえば、セリカちゃんを救出するのは難しくなるだろう。
かと言って走ったところで間に合うはずもない。
何か手は無いか、そう思い辺りを見回していると、近くにバイクが転がっていた。若干煤を被っているものの、まだエンジンがかかるようだ。運がいいことに鍵もつけぱなっしである。
「誰のかはわからないが、使わせてもらう」
バイクの乗り方は心得ている。多少荒っぽくなるが、今はこれしかない。
ギアを上げ勢いよく走り出す。
あたしの前で人攫いしようなんざ、絶対許さねぇ!!
――――――――――――――――――――
すっかり夜になって辺りが真っ黒になったアビドス砂漠。
舗装された道路もない荒れ果てた道でトラックとバイクが激しいカーチェイスを繰り広げていた。
「黒狐、未だ後方にいます!」
「速度を上げろ、何としても撒くんだ」
「これ以上、スピード出ません!!」
運転席で何やらごたごたしているようだが、今は一刻も早くトラックの荷台に追いつかなければ。
スピードを時速100キロにまで上げ、トラックの側にバイクを付ける。
「リーダー!黒狐が右側に!」
「‥‥こうなったら、トラックの車体をバイクにぶつけろ!」
「了解!!」
「っち、なりふり構ってられないってか」
ヘルメット団の乗ったトラックは、車体をバイクの方に寄せぶつけようとする。
何人も載れるトラックと一般用バイクだ。まともにぶつかれば、バイクはおじゃんになるだろう。けれど、逆にこれは良い。
「わざわざ、近づいてくれてありがとよ!!」
トラックが迫ってくる中、慎重に座席シートに立つ。
10m、5m、1m‥‥今ッ!!トゥッ!
ガシャンと先まで乗っていたバイクの車体が横転する間際、あたしはトラックの荷台の上に飛び移る。
少しふらつきながらも、荷台の屋根にしがみつく
「黒狐が荷台の天井に!」
「かまわん、振り落とせ」
あたしを振り落とすべくトラックの車体が激しく揺れる。
なんとかしがみついているが、このままでは振り落とされるのも時間の問題だろう。多少の怪我ですむとはいえ、ここで落とされてはセリカちゃんの身に何が起きるかわかったものではない。
なので、ここはセリカちゃんに起きてもらうしかかない。分厚い鉄板越しで伝わるかわからんが、いっちょぶっ叩いてみる。
オラオラオラオラオラオラ 起きろぉッ!!
ひたすらパンチを繰り返し、鉄板がやや凹んだ頃。
荷台の中からセリカちゃんの声が聞こえる。
「こ、ここどこ?もしかして私攫われた!?
外、見えるかな‥‥ってここアビドス砂漠郊外
の砂漠じゃない!」
そりゃ、いきなり攫われて目が覚めたら砂漠にいるって驚くのも無理はない。
そう思っているとセリカちゃんの独白は続く。
「こんな所じゃ連絡も出来ないし‥‥
みんなに裏切ったって思われるのかな…。
誤解されたまま、みんなに会えないまま死ぬなんて‥‥」
「そんなの‥‥ヤダよ‥‥」
‥‥。
セリカちゃんのすすり泣く声が聞こえた。
盗み聞きするつもりはなかったが、以前会った時は、快活で笑顔が似合う少女だった。けど、そんな彼女が泣いている。攫われて不安に駆られているだろうに、自分のことではなく学校の仲間たちのことを想っている。
いい後輩に恵まれたな、ホシノちゃん。
だったら正義実現委員会元委員長兼アビドス生徒会臨時役員として、見過ごしてちゃあたしの名が廃るってもんだ!
「おーい、セリカちゃん!聞こえ―――」
荷台の天井越しに話しかけようとするが、爆発音と共に車体が再び揺れ動く。
今度はヘルメット団の運転ではなく、何かがトラックを撃ちぬいた、そんな衝撃だ。
衝撃で横転するトラック。
地面に激突する前に受け身の態勢を取ったため怪我なく、着地できた。ただ大きく投げ出されたが。
同じく荷台から投げ出されたセリカちゃんも混乱していた。
するとホログラムと共に通信が入る。
『セリカちゃん発見!生存確認しました!』
「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!それと黒狐も」
照れ隠しするセリカちゃんの周りにホシノちゃんやアビドス生たちが集まっているのが見えた。
それと先生の姿も。なにやらワイワイやっているが、とにかく無事でよかったと安堵する。
『前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!!
さらに巨大な重火器も多数、徐々に包囲網を構築
しています!』
『敵ながらあっぱれ‥‥。それじゃ、せっかくだから
包囲網を突破して帰りますかねー。それとそこの狐
ちゃんも手伝って欲しいなー』
コク。
咄嗟に首を縦に振ったが、あれホシノちゃんだよね?随分と雰囲気変わったような…
なんて余韻に耽けてる場合じゃない。ヘルメット団の連中、ぶっ倒す!!」
―――――――――――――――――――――――――
こうして切って落とされたアビドス&あたしVSカタカタヘルメット団。
相変わらず連中は数を武器とした人海戦術に加え、どこから調達してきたかわからない戦車まで引っ張り出して来た。
けれど先生の指揮の下、アビドス生たちは果敢にカタカタヘルメット団たちを蹴散らしていく。
銀髪の狼子はドローンを操作し雑兵を一網打尽にする。淡々と処理している様から大分この手のことには慣れているのだろう。
ガトリング砲を持った生徒は満面の笑みで銃弾をぶっ放している。目を輝かせながら薙ぎ払っているのだから、ある意味恐ろしさを感じる。
ホログラムで写っていた眼鏡っ子、アヤネちゃんは巧みなナビゲートで的確にアシストをこなしている。この手腕で1年生なのだから、将来が楽しみだ。
セリカちゃんも吹っ切れてヘルメット団たちに立ち向かっている。あの快活さが戻っているのだ。心配ない。
そして、肝心のホシノちゃんはというと。
ユメさんが使っていた盾を活用しながら戦っている。かつての攻撃一辺倒で荒々しかった戦闘スタイルから護りに徹した戦い方に変わっていたのは少し意外である。2年という歳月が、ホシノちゃんの心境に影響を与えたのだろうか。
(けど、一見穏やかそうに見えて纏う殺気は変わらない。あたしにはわかる)
何も言えずホシノちゃんの前から去ったあたしがどうこう言える立場ではない。
少なくとも、今はヘルメット団の殲滅に力を入れなければ。
「‥‥さんざん悪行働いてきたんだ。いい加減往生しな、てめぇら」
ヘルメット団員たちがあたしの周囲を取り囲む。
数の差を活かして倒そうという魂胆だろう。だが、
甘い、甘すぎる
『天極』と『地獄』のマガジンを取り換え、銃弾を補充する。
一斉に飛びかかるヘルメット団。
そんな連中に、とうとう閻魔の裁きが下された。
2丁のサブマシンガンによる一斉射撃が飛びかかったヘルメット団たちに炸裂する。
バタバタと砂に倒れ伏し、あっという間に蹴散らした。
その様を見ていたホシノちゃんがあたしに声を掛ける。
「おー、狐ちゃんもやるねぇ。ところでなんだけどさ。
君、おじさんと会ったことない?」
「ヴェ、ナニモッ!!」
「ふーん‥‥それもそうだよね。おじさんも覚えがないし。
変なこと聞いて悪かったね」
あっぶねぇ‥‥正体気づかれなくてよかった‥‥
バレたら気まずいってレベルじゃないぞ‥‥。心臓に悪いったらありゃしない…
内心冷や汗かきながらも、飛び出してきたクルセイダー戦車の相手をする。
『黒狐さん、照準がそちらに!』
アヤネちゃんのナビゲートの通りに戦車の砲手があたしに向く。
いっちょ前に仕掛けようってか。素人にも程がある!!
現役時代やっていた技を一つやってみることにしよう。
改造戦車から放たれた砲弾。弾道はまっすぐあたしを狙っている。
だが、こういう時は―――――――
――――蹴るに限る!!
撃ち出された砲弾を回し蹴りの要領で、弾く。
交代する戦車に接近し、『地獄』で履帯を焼き切る。
履帯を切られたことで動けなくなったクルセイダー戦車の底を掴む。
「そおおおおりゃあああああッ!!」
全身の力を一気に込め、ちゃぶ台返しの如くひっくり返した
「ひぃっ!」
「無茶苦茶だぁ!!」
その様子に恐れをなした団員たちは蜘蛛の子散らすように逃げ帰っていった。
結果、セリカちゃんの救出も成功。アビドス生たちに大した被害も出ずヘルメット団を撃退することができたのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ヘルメット団たちを撃退した後。
あたしはアビドス生たちに悟られぬよう、その場から去った。
現状あたしがやれることはやった。先生もいるのだ。
きっとあの子たちなら大丈夫。そう思い町にいると。
「”やあ、さっきぶりだね”」
先生がいた。
あたしの跡を追ってきたのか?一応尾行されていないか警戒していたが‥‥
「先生。何故ここに?」
「偶然、見かけてね。それにお礼を言いたくて」
「お礼?」
「”セリカの件、君が救出までの時間を稼いでくれたから
見つけることができた。ありがとう”」
「いえ、ヘルメット団の悪行が許せなかっただけです。
あの場に居たのも偶然でしたから」
「”それにシャーレ奪還の時も。本当にありがとう”」
屈託のない微笑みを見せる先生。
本当に偶然だったのだからここまで言われる理由もないのだがな…
「”改めて自己紹介を。知っての通り私はシャーレの先生だよ”」
「…あたしは『黒狐』。訳あって今はそう名乗ってる
あんまり事情は聴かないで‥‥恥ずかしいから‥‥」
自分で言っておいてなんだがすごく気まずい。なんだよ恥ずかしいからって。
これ以上話しているとどうにかなりそうだ。ぼろを出す前に身を引こう。
「先生、これ」
そういってあたしは先生にモモトークの番号が書かれた紙を渡す
「あたしのモモトーク。何かあれば言って、じゃあ」
あたしは足早に先生から去った。
走ったせいかわからないが、心臓がバクバクしていたのはいうまでもない。
余談
いつも以上にハッスルしたため筋肉痛に苛まれた。
それと回し蹴りの際足の筋肉が攣りかけた。