「大将、いつもの!」
「あいよ!お嬢ちゃん、いつも来てくれてありがとな」
「いえいえ。ここのラーメンが美味しくってすっかり虜になりましたよ」
「そいつは嬉しいねぇ。そこまで言われりゃあ作ってるかいがあるってもんだ。
へい、おまち!」
「お、来た来た!!これだよこれ!いただきます!」
銀行強盗から日が経ったある日のこと。
あたしはすっかり紫関ラーメンにはまっていた。値段の割に味も良く尚且つ人柄の良い柴大将がいるってだけでこのお店が気に入っていた。今では通うほどに足を運んでいるくらいですっかり常連さんと認識されているくらいだ。
普通の人なら仮面をつけていることに触れるだろうに、柴大将はそういった話に一切触れなかった。以前、こっちから尋ねたこともあったのだが
『お嬢ちゃんにはお嬢ちゃんなりの事情があるんだろ?
そこにとやかく触れるのは野暮ってもんよ』
と返した。うん、かっこいい。惚れるわ。
そういった件もあって、ここ紫関ラーメンが大好きなお店になった。
・・・もちろん、健康管理を怠ったりはしていない。元とはいえ、自堕落に過ごして太り気味になんてなったりしたら、ハスミちゃんやツルギちゃんに合わせる顔(会う気はあまりない)がない。
そんなことはさておき、麺や具材をほおばっていると。いつぞやのゲヘナっ子たちがお店にやってきていた。コートを羽織った子以外は柴大将提供のラーメンに舌鼓を打ちながら食べている。
「ねぇ、大将。あの子たちは?」
「ああ、あの子たちはアビドスさんとこのお友達だよ。よくこのお店に来てくれてる」
「へぇー」
ゲヘナの生徒とも交流があるんだ。ちょっと意外かも。でもまぁあたしとユメさんみたいに何か縁があって交流しているんだろう。それこそ探るのは野暮ってものだろう。にしてもあのコートの子、浮かない顔してるけど、大丈夫だろうか?
「‥‥じゃない」
ん?
「友達なんかじゃないわよぉ――――!!」
うぉ!びっくりした‥‥急に叫び出してどうしたのだろうか?
「わかった!何が引っかかっていたのかわかったわ!問題はこの店、この店よ!」
待て待て待て、話の脈絡がなさ過ぎてついていけないのだが‥‥
周りの子もびっくりしてるじゃん。
「私たちは仕事しにこの辺りに来てるの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!
なのに、何なのよ!このお店は!お腹いっぱい食べられるし!!
暖かくて親切で!話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかした雰囲気!」
「ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
別にいいことだと思うんだがな‥‥。
やれゲヘナだの、陰湿臭い政治ごっこのトリニティだの確執が無くなればもーまんたいなんだけど。
「それが何か問題ある?」
「ダメでしょ!メチャクチャでグダグダよ!私が一人前の悪党になるには、
こんな店はいらないのよっ!!」
悪党になんてならなくていいから…(切実)
コートの子、根っからのいい子っぽさが隠れてないのよ。
そんな無理に悪党になられても‥‥後が大変だから‥‥
向こうのカウンターでやいのやいの騒いでるけどこれ止めた方がいいな。
下手に暴れてお店に被害でも出されたらたまったもんじゃない!!
『天極』と『地獄』を持ち出し、渦中の子たちを止めようとするが軍服っぽい服を着たゲヘナ生なにやらスイッチのようなものを持っていた。
(‥‥‥‥。あっ、やべ!あれ起爆装置だッ!!)
「大将、伏せて!!」
ゲヘナ生は一切躊躇いなく起爆スイッチを押した。
閃光と爆風の中、あたしは咄嗟の判断で柴大将を庇った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
爆弾によって、紫関ラーメンのお店は跡形もなく倒壊してしまっていた。火薬の匂いが辺りに充満、瓦礫も散乱している中、あたしは大急ぎで柴大将の容態を確認する。
「大将!大将!!」
「うっ‥‥」
「大将、怪我はない?」
「ああ…、大丈夫だお嬢ちゃん。ちっと擦りむいちまったが…」
幸い大将には目立った大きな怪我もなかったが、脚に少々の擦り傷ができていた。
歩けない程ではなかったものの、大将をこの場にとどまらせるのは危険だ‥‥
「大将。大将は近くのシェルターに避難してください」
「お嬢ちゃんはどうするんだ?」
「あたしはあの子たちとお話ししてきます」
「‥‥無理するんじゃないぞ」
「ご心配にはおよびませんよ、大将。こう見えても、あたしそれなりに強いんですよ」
心配する柴大将を付近のシェルターに避難させると『天極』と『地獄』を構え、ゲヘナ生たちの前に繰り出す。
「‥‥あんたら、少々おいたがすぎるんじゃねえか?」
あたしの声にゲヘナの子たちは、各々違った反応を見せている。
「あ、黒狐じゃん。ヤッホー、久しぶり~~!」
「えっ、ムツキあの人と知り合いなの?」
「はぁ‥‥。社長、銀行強盗の時バケツ被ってた人だよ
同じ着物着てるし。それに『悪党狩り』で最近有名になってる」
「な、なんですってぇぇぇーー!?」
「あわわ‥‥」
紫関ラーメンを爆破したっていうのに悪びれるどころか、頭目の子は明らかに動揺しているようだ。
てか『悪党狩り』って何?いつの間にそんな異名がついてたの?
気を取り直してあたしはゲヘナ生たちに問いかける。
「あんたら聞いた話じゃ大将によくしてもらってたじゃないか?
それなのに店ぶっ壊すか、普通‥‥」
「そ、そうよ!冷酷無比で情け無用!金さえ貰えればなんでもこなす!
それが便利屋68のモットーよ!!」
表情見ただけではわかる。これぜってぇ事故だわ‥‥。だって声震えてるよ頭目の子?
明らかに動揺してるの見て取れるもん。マジの悪党って声震わせずに淡々か嬉々として話し出すもん。少なくともゲヘナにしてはまだ性根は良い方だな。まぁ、実行犯の子はちと怪しいが。
「よーし。そういうことならあたしがお灸据えてあげる」
「べ、便利屋68を舐めないでよね!黒狐だか知らないけど、
返り討ちにしてあげるわ!ムツキ!カヨコ!ハルカ!」
「お任せくださいアル様!アル様の邪魔者は排除します!」
「くふふ!そう来なくっちゃアルちゃん!!」
「面倒くさい‥‥でもやるしかないか‥‥」
便利屋68の4人も銃を構え臨戦態勢に入る。
お互い実力が未知数の中4対1の勝負が始まろうとしていたが‥‥
事態に気づいたアビドスの子たちも現場に駆けつける。
「あんたたち‥‥!!よくもこんなひどいことを!!!」」
「セリカちゃん、それにアビドスのみんな!どうしてここに?」
『爆発の反応を検知しまして、調べてみたら発生源がここでして』
「そういうわけだから、急いで来た」
「まさか、便利屋68が絡んでいたなんて‥‥」
そう言ってシロコちゃんたちも銃を構える。
「噂をすればアビドスまで来ちゃったね?」
「『黒狐』が居たのは想定外だったけど、いずれ決着
をつけなきゃいけなかったし、確保した傭兵呼んでくる」
便利屋68の一人が雇った傭兵たちを呼びよせる。
カヨコの要請によりどこからともなく武装した傭兵集団が集まってくる。
「さあ、アビドス、黒狐!!いざ、勝負!!」」
実力はともかく、金で雇われただけあって傭兵たちはわらわらと襲い掛かってくる。
だが、そんな有象無象如きあたしやアビドスの子たちの相手になるはずがない。一直線に便利屋69へと狙いを定める。
傭兵たちを『天極』と『地獄』で蹴散らしながら、頭目である陸八魔アルに向かって行くが前方を塞がれる。
「アル様の下には行かせません!!」
ショットガンを構えながら佇む一人の少女。
柴大将に聞いた話によれば、最初訪れた時はかなりオドオドしていたという。
けれど今はどうだろうか?
確実に目の前の相手を狩る。そう言わんばかりの眼光。
生粋の狂気。
目の前の彼女からはそれが感じ取れた。
「‥‥そこを、どいてくれないか?」
「い、嫌です。アル様には指一本触れさせません」
「どいて」
「嫌です」
「どいて!」
「嫌です!!」
なんだろう‥‥心が痛くなってくる‥‥
紫関ラーメンをぶっ壊した張本人とはいえ、彼女には何か近いものを感じてしまう‥‥
昔の自分を思い出すというか‥‥何と言うか‥‥
「ならあんたを倒してから行く!!」
「アル様の邪魔者は全て消します!!」
開口一番、ショットガンが火を噴いた。
さらに、銃身を持っては鈍器のように振り回す。
さすがは便利屋68の一員といったところか。一挙手一投足、立ち回りの全てがただのチンピラとは大違いだ。
銃撃戦に慣れきっている一般人はかえって格闘戦は不慣れなことが多い。
けれどこの子の場合、あたしの蹴りにも冷静に対処している。どんな修羅場くぐってんだか。
「死んでください 死んでください 死んでください!!」
怯えなんて一切見えない猛撃。社長への比類なき忠誠心が本来の力を引き出しているのだろう。
だが‥‥動きが大振りすぎる。
迫りくるハルカの足元に狙いを定め、足払いを掛ける。
「うわ‥‥ッ!」
「今だ!」
バランスを崩したハルカに、仰向けの態勢のまま『天極』と『地獄』の引き金を引く。 2丁のサブマシンガンから絶え間なく放たれる弾丸はハルカの胴を捉え、少し宙に浮かせる。
射撃の終わりと共に、ゆっくりと地面へ倒れるかと思われたが、ハルカは足を大地に着き、踏みとどまる。
「やああああああああああッ!!」
もはや悲鳴にも近い叫びをあげながら、再びあたしへと向かってきた。
意識が飛んでもおかしくない程の銃撃を浴びたというのに、凄まじい気迫で迫るのだ。
正直感心するよ。大事な人のためにここまでの狂気を出せるのは。
だけど、現実はそう上手くはできちゃいないのよ
迫るハルカを一歩も動かず待ち構えるサバキ。
冷静に息を整え、ハルカとの距離を測る。
「うわああああああッ!!」
「ちと、歯ぁ食いしばれっ!!」
半狂乱に陥ったハルカがサバキの眼前へと迫る。
そしてショットガンの引き金に指を掛けた。
今だっ!
彼女が完全に引き金を引ききる前に懐を掻い潜り、背後を取る。
あくまであたしの経験談に過ぎないが、躊躇いなく銃の引き金を引くタイプは射撃体勢に入った段階で動きが一瞬硬直する。しっかりした体勢で射撃しないとターゲットに上手く狙い撃つことは難しい。ショットガンのような反動が他の銃よりも大きい銃であればなおさらだ。
背後に両腕を回し、がっちりとホールド。そのまま勢いよく後方へと身体を反らせた。言ってみるなら、ジャーマンスープレックスである。華奢で小柄な彼女の身体はとても軽く、苦にもならない。
勢いをつけ、ハルカの頭が地面スレスレに着くタイミングであたしは身体を反らせるのを止める。
「あっ、あ、ああああ…‥」
頭上ではハルカが白目をむいて気絶していた。少しうわごとのようなうめき声を上げているがさしたる問題ではない。優しくそっと地面に降ろしてあげた。
‥‥ちょっとやりすぎたか?ただこれで少しはお灸になったと思いたいが。
そう思っていると後頭部にズキッっと衝撃が伝わる。振り返ると、宣戦布告していた子確か陸八魔アルだったか。後方でスナイパーライフルを構えながらあたしを見つめていた。
「嘘でしょ‥‥!?なんで効かないのよ!」
「さて、次は貴女の番」
「や、やられてたまるもんですか。ハルカの仇、社長である私がとるんだから」
ちょっと身体が震えているが気概は失われていない。リーダーとしての気質は十分だろう。
『天極』と『地獄』を構え睨み合ってると、向こうではアビドスの子たちが残りの社員を倒していた。
「ムツキ!カヨコ!!」
「ごめ~んアルちゃん。負けちゃった☆」
「やっぱりこの子たち、強い‥‥」
「ん、これで終わり便利屋68」
「観念なさい!!」
「くぅ‥‥」
傭兵たちも蹴散らし、戦況は完全にアビドス側が有利。これには思わずアルも苦渋の色を隠せない。
捕縛を行おうとした、その時。
「っ!みんな念のため伏せて!!」
上空から何かが落下してきている音を聞いたあたしは、即座に対象を撃ち落とす。
『天極』と『地獄』の銃弾が命中したそれは大きな轟音と共にはじけ飛ぶ。
辺りには火薬の濃い匂いが充満する。
『皆さん!今のは砲撃です!兵力の所属は‥‥ゲヘナの風紀委員会のようです!!』
風紀委員会か。厄介なのが来たな。
今の風紀委員会がどんなもんかはわからんが、確実に言えるのはそれなりに強いということ。現役時代でも度々顔を合わせることがあったが、あまり相手にしたいとは思わない。そう言える相手だ。
しっかしなんで風紀委員会がアビドスに?ゲヘナ所属の便利屋68を捕まえるためか?だとしても自治区にアポなしで突撃なんて真似しないと思うんだがな‥‥
「社長、ムツキ、ハルカを連れて早く隠れよう。奴らが来た!」
他のメンバーに警戒を呼び掛けるカヨコであったが追加の迫撃砲が炸裂。倒れてしまう。
一個中隊を引き連れながら風紀委員会たちは進軍を続ける。
あわや、一触即発の状況の中風紀委員会の一人がこちらを見て足を止める。
「あっ‥‥」
「どうしたのチナツちゃん?」
「もしかしてそこにいらっしゃるのは先生でしょうか?」
「”そうだよ。久しぶり、チナツ”」
「やはり先生でしたか。まさかこんな形でお目にかかるとは…
それに黒狐さんも‥‥」
あー…あの赤い腕章の子、確かあの時のゲヘナっ子!へぇ、風紀委員会所属だったんだ。いや~久しぶりだな
「知り合いなのあんた?」
「まぁ、ちょっと前にね」
まさかアビドスで会うとは思わなんだ。元気そうで何より、しっかしなんでまたこんな大掛かりに。中隊規模とは結構手が込んでるねぇ
アヤネちゃんが風紀委員会に確認を取っていると、風紀委員会側からも通信が入る。
『こんにちは、アビドスの皆さん。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。
今の状況について少し説明させていただきたいと思いますがよろしいでしょうか?』
横乳だ‥‥まごうことなき横乳もろだしスタイルだ。
えっ寒くないの?てか服の構造どうなってるの?
百鬼夜行でもトリニティでもそんな構造の服見ないぞ。
最近の子って結構変わってるんだなぁ‥‥。
おじさん、時代の流れを感じちゃうよ~~
なんてことを考えながらあたしは行政官と名乗る子からの説明に耳を傾けるのであった。
余談
サバキのジャーマンスープレックスは正義実現委員会現役時代に教わったもの。
今回は寸止めで終わらせていたが、大抵の不良は犬神家状態にしている。