トリニティ自治区の廃墟にて、一人のトリニティ生徒が手足を拘束され床に転がされていた
「危ない目に遭いたくなきゃ大人しくしてるんだな」
「もう、遭ってる気が‥‥」
「ああん?」
「いえ、なにも‥‥」
女生徒に詰め寄るガラの悪い赤いヘルメットを被った不良生徒。手に持った銃の銃口を女生徒に突き付け脅迫していた。
「お前を人質にトリニティから身代金をいただく」
「学園と交渉するつもりですかッ!?」
驚愕する女生徒に取り巻きのヘルメット団員が語り出す。
「そういうこった。でもうちらだって鬼じゃねぇ、交渉がすんなり成立すれば大人しく返してやんよ」
「まぁ、そしたら次のトリニティ生を攫わせてもらうがな」
「そうやってあんたらはずっとボコボコヘルメット団に資金提供し続けるんだよ」
計画の全容を明かしゲラゲラ笑いだすヘルメット団員たち。
そんな彼女たちに狙われ、己の無力さに女生徒は涙をこぼしそうになる。
身代金の到着をヘルメット団員たちは今か今かと待ちわびているが、彼女たちはこれから後悔することになる。
トリニティに対して喧嘩を売るという行為が、如何に愚かしいことかを。
ドーーーンッ!!
突如、アジトでもある廃墟に爆発音が鳴り響いた。あまりの出来事に団員たちの間にも動揺が広がる。
「な、なんだッ?!」
ドーンッ!!
間髪入れずに再び轟音が鳴り響く。
2度目の爆発によって今いるフロアの壁が破壊され、舞い散る砂埃の中から人影が数人近づいていく。
「ご足労掛けましたね、ヘルメット団の皆さん」
「くひひ、くひひひひっ!!」
崩れた瓦礫を踏み越え、黒セーラー服を身に纏った集団が姿を現す。
「シスターじゃねえが懺悔は聞いてやる。今のうちにかみさまにでも祈っとけ、五体満足でいられますようにってな」
正義実現委員会の
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
書類仕事を終えて、仮眠を貪っていたあたしの耳に入ったトリニティ生の通報。
ここ最近幅を利かせるようになったボコボコヘルメット団なる組織が通報をくれた生徒の友人を廃墟に拉致したという。
すぐさま支度を整え、別途行動中のツルギちゃんとハスミちゃんに連絡。ヘルメット団からの電話を逆探知することでアジトを割り出した。
そして現在、あたしたちは人質の居場所に検討を付けてヘルメット団の捕縛に乗り出したというわけだ。
「きええええええっっっ!!」
先陣を切ったのは1年生、いや現委員会の中でも指折りの実力を持っているツルギちゃんだ。動揺しているヘルメット団員を片っ端から捕まえてはその身体に弾丸を撃ち込んでいた。
いや~~見てるこっちが哀れに思うくらいの蹂躙劇だ。
…っと、呆けてる場合じゃなかった。人質ちゃんが巻き込まれないようにしないと。
「ぎゃはははははははっっ!!」
魑魅魍魎の類なんじゃないかってくらいの表情をしたツルギちゃんは変わらず周囲のヘルメット団員を気絶させていく。しかし、勢い余って彼女の流れ弾が人質の女生徒へ飛んで行ってしまう
「ひっ‥‥」
「ふんッ!!」
極楽の銃身をバット代わりに流れ弾をはじき返す。
「‥‥ツルギ、敵はあっちよ」
「‥‥すみません、委員長」
落ち着きを取り戻したツルギちゃんは再び奇声を発しながらヘルメット団員たちをボコボコしに戻っていった。
一方あたしは、すっかり縮こまってしまった女生徒の元に寄りそう。
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」
ここまで小刻みに震えている分に軽い
まぁ、あれを直視しちゃったら仕方のないことだとは思うが放置するのもよくはない。
「っん、あ~~テス、テス。よし」
喉の調子を整え、震えている女生徒の肩に手をのせる。
こっちに気づいたのを確認した後、あたしは女生徒に向かって話しかけた。
「怪我はないかい、お嬢さん」
万全に調整された喉から出る圧倒的イケボ。これは被害に遭った人質のメンタルをケアすべく日夜努力を重ねて完成された賜物である。
トリニティ総合学園はキヴォトスでもトップクラスのお嬢様学校でそこに通う生徒もお嬢様系が多い。そのため非行生徒から狙われやすく身代金目的の誘拐事件が度々起こる。
殺人こそキヴォトスで忌避されているため命を奪われるというケースはないものの、突如犯罪に巻き込まれた彼女たちの心情は察することができる。
現場の後処理や救助に当たる救護騎士団や学園のトップであるティーパーティーからも彼らの心傷を和らげて欲しいと頼まれたこともあって、委員会の課題にもなった。
被害者が抱える恐怖をどうすれば和らげることができるのか。考えた末の結果がイケボである。意識をこっちに向けさせることで陥りかけたメンタルを回復させる。そう言った意図があって生まれたのだが‥‥
「ひゃ、ひゃいいいぃぃ////」
難点は毎度毎度声をかけた生徒の顔が真っ赤になってしまうこと。救護騎士団からは健康に問題はないとないと言われているものの少し心配である。
あたしの声、へんだったかなぁ?
女生徒を背負い、近くに待機させていた子たちに預ける。
おおよその制圧を終え、帰還しようとしていたその時、地面に這いつくばっていた赤ヘルメットの生徒が手榴弾のピンに手を伸ばしていた。
「クソがぁ‥‥せめて一発くらわせて――」
しかし手榴弾がサバキに投げられることはなかった。静かに乾いた音がパァンっと鳴ると赤ヘルメットはそのままま倒れ込んだ。
「ナイス射撃。バンにハスミちゃん」
「信頼してるからって気を抜かないでください。危うく爆破されるとこでしたよ」
「ごめんごめん。それにしてもハスミちゃん、腕が上がったねぇ」
「ありがとうございます。以前練習に付き合ってくださったおかげです」
なんて、ハスミちゃんが言うものだから救護騎士団が到着するまでの間ハスミちゃんの小柄な体を抱きしめ目茶になるまで頭を撫でまくった。
ついでにツルギちゃんも労いとして徹底的に撫でまくったが、
「ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ギャアアアアアア!!!!」
と顔赤らめ奇声を挙げながら一目散にどこかへ行ってしまった。
そういうとこも可愛いぞ、ツルギちゃん。
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久しぶりの休みの日。羽を伸ばそうと周囲を散策しているとトリニティ生の間でも人気なケーキ屋の前で右往左往している子を見かけた。
「あれは‥‥ハスミちゃん?」
正義実現委員会の1年生で真面目でツルギちゃんの良き理解者な彼女。そんな彼女が何故ケーキ屋の前でウロチョロしているのか、非常に気になった。
「あぅ…どうしよう‥‥」
「や、ハスミちゃん!」
「ひゃああああああッ!?」
あたしが声を掛けたら驚かれてしまった。
驚いたハスミちゃんに内心謝りつつも何をしていたのか尋ねてみることにした。
「どうしたの?こんなところで何か悩みがあるなら聞くよ」
「それが…」
外で話すのもあれだったのでケーキ屋に入りハスミちゃんの悩みを聞くことに。
「実は最近食べ過ぎなのではないかと思いまして‥‥」
ハスミちゃん曰くスイーツが大好きらしく、ここ最近はこのお店のケーキを買って食べるのが習慣になっているという。それでつい食べ過ぎてしまい、太ってしまうことで委員会の仕事に支障が出てしまうのではないかと不安に駆られているようだった。
最近のハスミちゃんの行動を振り返ってみると、スナイパーとしての腕は上達しており委員会の仕事もそつなくこなしている。特に問題はないように感じるのだが‥‥
「ハスミちゃん、ここ最近は一度に何個食べてるの?」
「ええっと…1~2個くらいでしょうか。それが週3日のペースでして」
「食後の後、何かしてる?」
「はい、食べた分運動量を増やしています」
この会話から察するに食べ過ぎではない。むしろもっと食べていい。この悩みは彼女の真面目さが直結しているのだとあたしは感じた。
「ハスミちゃん、好きなものは我慢する方が毒ってもんさ。後のことを考えてるんなら好きなだけ食べな」
「‥‥いいのでしょうか?」
「いい!ハスミちゃん、いっぱい食べていっぱい大きくなりな。3年になるくらいにはあたしを越してくれるには、ね」
「わかりました。今日はいっぱい食べることにします。先輩もいっぱい食べましょう」
「その息だ!よし今日はあたしが奢ろう」
その後あたしとハスミちゃんはケーキ屋のケーキを幾つも平らげお腹いっぱいになり解散した。
ケーキを食べているハスミちゃんの姿は委員会にいるときのように愛らしく、輝いていた。
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久方ぶりの休日を満喫で終えた翌日。
身体が軽く、気分も良かったあたしは正義実現委員会の部室に一番乗りでやってきていた。
さっそく今日の業務の確認を行っているとなにやら白地の封筒がデスクの上に置いてあった。
送り主はトリニティ総合学園のトップと言ってもよいティーパーティーからであった。
「はぁ~‥‥また面倒ごとの連絡かなぁ。まさか、派閥の過激派がクーデターを企んでるとかそういうのじゃなきゃいいけど」
渋々封筒を開けると、そこには一通の通知書が同封されていた。
『連邦生徒会からの連絡。この度、生徒会では他校との交流を深めるべく新一年生による体験活動を行うことになりました。貴校におかれましては、この度活動の場として選ばれたことをご連絡申し上げます
‥‥。どうやらあたしの予想よりももっと面倒な事態になりそうだ。