キヴォトス最強と言えば誰を思い浮かべるだろう?
”サシでやるなら空崎ヒナだろう。”
人々‥‥特にゲヘナ学園に蔓延る不良たちは口をそろえて言うだろう。
小さな躯体からは想像もつかない程の戦闘力。
繰り出す重火器の一撃は全てを粉砕する。
最強生物、万夫不当。
如何なる攻撃も彼女の前では塵にも等しい。
生半可な知恵など通用するはずもない。
まさしく圧倒的な個の暴力…いや、武の化身。
狙われたならば、抵抗せず速やかに降伏することを推奨する。
破壊の終幕をその身に受けたくなければ。
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場面は変わり、一同の前にかの風紀委員長が姿を見せた。
「たしか、便利屋を捕まえに来たようだけどどこにいるの?
今はシャーレとアビドスと、対峙しているようにしか見えないけど?」
『えッ?便利屋でしたらそこに‥‥』
慌ててアコが周囲を確認するも既に便利屋68は姿を晦ませていた。
『い、いない!?』
「‥‥。アコ」
『…はい。全て説明いたします‥‥』
「いや話は大体把握した。ゲヘナにとっての不穏分子の排除および
政治活動の一環での行動ということね。でもアコ、私たちは
風紀委員会であって生徒会じゃない。政治のことはあの
たちに任せておけばいいわ」
「詳しい話は戻ってから聞くわ。通信を切って校舎で謹慎しているように」
「…はい」
そう言ってヒナに諫められたアコは通信を切った。
けれど状況は良くなったわけではない。むしろ悪いと言えるだろう。
ゲヘナ最強戦力が来てしまったのだ。お互い非はあるとはいえ、勝ち目があるとはあまり思えない。
『こんな時にホシノ先輩がいたら‥‥』
ん?あっ、そういえばホシノちゃんいない!ごたごたしてて全然気づかなかった。
「うへ~こりゃまたすっごいことになってるね~~」
このすっかり見る影もなくなったふにゃふにゃボイスは‥‥!!
「ホシノ先輩!一体どこにいたんですか!」
「ごめんごめん。ちょっと昼寝してて遅くなっちゃった」
真打登場ってね。というよりこの状況下で昼寝はないな。てか絶対何か隠してる気がする。
「多分だけど便利屋を追って来たんでしょ?詳しい事情は分からないけど
対策委員会は勢揃いだよ。黒狐も一応こっち側だし、改めてやり合ってみる?
風紀委員長ちゃん?」
さらっと巻き込まれたな…まぁ、もとより逃げるつもりなんてないが…
「‥‥1年生の時とは随分変わった。人が変わったってくらい」
「ん?私のこと知ってるの?」
「昔情報部に所属しして、各自治地区の要注意人物をある程度把握してたから」
情報部?ああーーー!!
あっ君か!!先代の風紀委員長が期待寄せていた子!!
思い出した!随分雰囲気変わったから気づかなかった!!
なんてしている間にヒナは少し考えこむと、銃を下す。
「別に今日は戦いにきたわけじゃない。イオリ、チナツ、撤収よ」
「えっ!?」
『帰るんですか!』
交戦も辞さない状況下だったにも関わらずヒナは帰る選択を取ったのだ。驚くのも無理はない。
そしてあたしたちの前で頭を下げる。
「事前通達なしでの無断兵力運用。そして自治区での騒動を引き起こしたこと
このことはゲヘナの風紀委員長空崎ヒナより、アビドスの対策委員会に謝罪
する」
しっかりした子だな。
本人の性根は相当良い子なのだろう。やんちゃしがちなゲヘナ学園の生徒において礼節をわきまえ、非を詫びることができるのは根がしっかりした子でなくてはできない。
これが今の風紀委員会か‥‥
ヒナの号令に従い風紀委員会たちはゲヘナ自治区へと戻っていく。
なにやら先生と話しているが何をはなしているのだろうか?
まっ、気にすることでもないか。
さーてとこれ以上あたしができることはなさそうね。
みんながこっちに意識向いていないうちにおさらばさせてもらおうかしら。
さすらいの黒狐はクールに去るぜ‥‥
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ゲヘナの風紀委員会が立ち去った頃、アビドス一行は人知れず黒狐が立ち去ったことに気が付く。
「あれ?黒狐さんがいない?」
「ん、ほんとだ。いつの間に」
「うへ~~。ひとまず何とかなってよかったよ~~
でもおじさん全然状況がわかんなかったけど、
なにがあったの?」
「それはもう色々ありまして…私たちでも説明しきれないところが多く…」
『それはそうとホシノ先輩!こんなタイミングでどこに行っていたんですか?』
「あはは‥‥ごめんごめん」
「”とにかくみんな無事でよかった。今日は疲れたと思うし解散して休もうか”」
「先生、さっきゲヘナの風紀委員長と何話してたの?」
「”シロコ、それも含めて後でみんなに話すよ”」
「わかった。じゃあ、帰ろう先生」
そう言い一行は、それぞれ帰り道に向かうのであった‥‥‥
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翌日あたしは大将が搬送された病院に面会に来ていた。
「大将、怪我の具合はどうだい?」
「幸い軽いけがで済んだ。しっかしお店を爆破されたのはかえって良かったかもしれないなぁ‥‥」
何故?お店を跡形もなく破壊されたのに?なんで
「大将、どういうこと?」
「そういえばお嬢ちゃんは知らなかったな。アビドスのお嬢ちゃんたちにも
言ったんだが、ちょっと前から退去通知があってな」
退去通知?どこから?まさかとは思うけど‥‥カイザーコーポレーション?
「はっきりとは覚えちゃいねえが、確かそうだったような‥‥
解体する手間も省けたし、いっそ引退しようと思ってたところさ」
‥‥あの野郎ども。あたしやユメ先輩がいなくなってた間にそこまで支配権を広げてたのか。
黒服の話だとアビドスに眠る何かを狙って火事場泥棒をしてるらしいが、あんな奴らのために紫関ラーメンをが無くなるなんてあってはならない‥‥
それに2年前、胸をぶち抜かれた借りもあることだし。憂さ晴らししたいが‥‥如何せんあたしが下手に介入するわけにも‥‥一体どうすれば‥‥
「ともかく。大将、引退なんて絶対しないでくださいね。
大将の作るラーメンがあたし、一番好きなんですから!!」
「…はは。嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」
「じゃあね。大将、また来る。」
「おう、元気でな」
そういいあたしは面会を終え病院から立ち去った。
カイザーの悪質な行い。それに対する憤りはあれど、今のあたしはいわば亡霊。奴らの悪事を合法的に処罰できる権利も無ければ、証拠もない。下手に動けば犯罪者として生活がしにくくなる。
けれどアビドスを見捨てるなんてことはできない。
ホシノちゃん。ユメさん。
一緒に居られたのはわずかではあったけれど過ごした日々はとっても楽しかった。
だから今度こそ力に成りたい。
そう思いながら寝床のあるブラックマーケットに戻るのであった‥‥
あとこれは後に聞いた話なのだが、便利屋68はアビドス自治区を去ったらしい。なんでも依頼を遂行できなかった報復から逃げるためとか、事務所の代金が払えなくなったからとか。
噂は色々。けれどあの子たちなら元気にやっていけるだろう。
それにまたいつか会えるだろう。なんとなくそう思う。
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そうして風紀委員会との闘いから早二日が経過した頃。
あたしのモモトークに一件の着信が届いた。
時間は早朝、朝日の暖かい光が窓から照らされる中、眠気に耐えながら着信を確認する。
送り主は‥‥先生からだ。というかあたし新しい携帯でモモトーク教えたの先生しかいなかったわ…
何々…?
先生からの急なモモトーク。
嫌な予感が全身を伝う。ユメ先輩の時と似た…いやほとんど同じ感覚か…
だが次に送られたメッセージがあたしの予感を、眠気を一気に覚まさせた。
「あの‥‥あの馬鹿野郎‥‥!!」
なんで‥‥なんで‥‥黙って行くんだ…
アンタがあたしと同じ真似するんじゃねぇよ…ホシノ!!
余談 先生とヒナの会話
「――そういうわけだからカイザーには気を付けて。それと、先生。あの黒狐とは知り合いなの?」
「”シャーレ就任時に出会ったんだ”」
「そう…」
「”それがどうかしたの?”」
「なら先生、動向には十分気を付けて。今キヴォトスの誰も黒狐について詳しく知らない。
いい人物なのか悪人なのか判断材料があまりにも足りなすぎるから」
「”教えてくれてありがとうヒナ”」
「ええ。そういうわけだからじゃあね。先生」