19話
偽ハリー様、誤字報告ありがとうございます。
どこまでも果てしなく広がる砂漠を全速力で駆ける一台のパジェロ。
大事な生徒である小鳥遊ホシノを救い出すため、一行は目的地へ一直線に進む。
いよいよカイザーの駐屯基地に近づいてきたころ、相手方もこちらの接近を確認したようで兵力を差し向ける。
「敵、発見!どんどん前進していきます!」
「兵力を集結させろ!対デカグラマトン用大隊も呼び寄せるんだ。
数で物を言わせろ!」
「理事、北方に少数ながら兵力を確認!」
「なんだと?」
アビドス一行が進む中、先生が頼んだ援軍がカイザーの援軍を阻んでいた。
そう。ゲヘナの風紀委員会である。黒狐が車を借りている一方で、先生は戦闘力、ならびにカイザーとも張り合える援軍として風紀委員会に援軍を頼み込んだのだ。
黒狐が知る由もないことだが、先生の頼み方はかなり特殊だったらしい。
「イオリ、チナツ、アコ。準備は良いわね?」
『ふふ。こちらは既に整っています、』
「こっちもOKです」
「いつでも行けますよ委員長!!」
「私たちで全軍食い止める。誰一人先生には近づけさせない」
風紀委員会と対峙するカイザーの大隊は相手がたかが3人だと慢心していた。
だからこそ彼らは舐めた代償をその身で払うこととなる。
キヴォトス最強格の実力を。
終幕が牙をむく
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パジェロで基地内を爆走し続けていた先生一行。
けれど敵の攻撃も激しさを増し、車では進むのが難しくなる。
「ごめん。車ではここまでが限界みたい。
あとは歩いていくしかない」
『いえここまででも全く問題ありません。
先生から教えられた地点はあともう目の前です!』
パジェロから降り、目的地まで進んでいくと再度アヤネちゃんから通信が入る。
『2㎞先前方に敵を発見。もうすぐ接敵します!』
アヤネちゃんからの報告に交戦準備を整えていると突如前方で爆撃が起こる。
こちらへ迫っていたカイザーの部隊が突然、吹っ飛ばされたのである。
思いかげないことに驚いていると別の通信機から連絡が入る。
応答すると紙袋を被った生徒がホログラムで表示される。
その生徒はトリニティの制服を着ており、ペンで5と書かれた紙袋を目出し帽のように被っていた。
『あっ‥‥うぅ…あの私です‥‥』
あれ?もしかしてヒフミちゃん?いや、今はその名前で呼んじゃ不味いか。
そうだよね?ファウストちゃん。
『は、はい。私はファウストです。トリニティ総合学園とは一切関係ありません!
…すみません。こんな形でしかお役に立てず…』
いや、これだけでも十分すぎると思うんだが?
それにあの砲弾。トリニティ所持の榴弾砲だよね?あれティーパーティーの権限がないと使えない筈なんだけど…?ヒフ‥‥ファウストちゃんって本当に普通のトリニティ生か?
若干訝しげに思うもそんな邪な考えは捨て置き、ファウストちゃんのおかげで助かったのは事実だ。
「ん、ありがとう。助かった」
「はい!おかげで戦わずにすみました!」
『あ、あはは…それでは、みなさん、頑張ってください!』
そう言い残しヒフミちゃんは通信を切断する。
ヒフミちゃんの援護によりあたしたちに向かわせていたカイザーの兵隊たちは大混乱に陥っていた。一気に攻め込むには絶好のチャンスである。
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それからというものアビドス一行の快進撃が始まった。
オートマタや兵士などはもはや進軍を阻む障害にすらなりえない。
果てには武装ヘリやクルセイダー戦車をも蹴散らし、一行は目的の座標にまで到着した。
今までいた場所よりも砂漠化の侵食が酷く、所々建物の屋根が露出している場所さえある。
「あれ見て!砂漠の真ん中に学校が!」
‥‥本当だ。他の建物に比べてしっかりとしてる。痕跡からしてここってまさか…
「そうだとも。此処は本来のアビドス高等学校の本館だ」
もはや聞きなれた馴染みの声。そうカイザーPMCの理事だ。
特殊部隊のオートマタどもを引き連れ対策委員会、先生、あたしと対峙する。
やっぱりか。砂漠に高校といったらアビドスしかないもんな。
理事は懐かしい話でもしているかのように語り始める。
「この廃墟は、元々アビドスの中心地でもあった。ゲマトリア
と手を組む際、奴はここに実験室をたてることを要求した」
実験室…そこにホシノちゃんが…てかやっぱりゲマトリアが関わってたか。
「副会長を助けにいきたいのなら行けばいい。もう実験とやらが始まって
なければいいがな。それにただで通すつもりはない」
続々と増え続けているカイザーの部隊。全勢力を集めここで仕掛けるつもりなのだろう。
いくらあたしたちでもこの数は相手取るには、消耗を避けられない。
「行け」
理事の号令の下、カイザーのオートマタたちが一斉に襲い掛かろうとしたその時である。
先陣を切っていたオートマタに何かが着弾。砂煙を上げる程の大爆発が起こる。
「こ、今度はなんですか!?」
「もしかして新手…?」
「ふふふ…」
カイザーの援軍かと警戒を張りめぐらせていると、誰かの笑い声が響く。
「待たせたわね!!便利屋68、ただいま参上よ!!」
声の主は便利屋の社長陸八魔アル。
そして社員他3名。
以前、時にはあたしたちと戦い、またある時には共闘もした便利屋68の面々が戦いに駆けつけてくれたのである。
『べ、便利屋の皆さん…!!』
「ヤッホー眼鏡っ子ちゃん!」
「お、お邪魔します‥‥!」
「社長、これまずいタイミングで割り込んできちゃったんじゃあ‥‥」
「そんなの関係ないわ。私たちがなんのために来たと思ってるの」
「ここは私たちに任せて、先に行きなさい!!」
‥‥わーお。これは惚れちゃいますわ。流石社長さん。
でもそれ結構勢い任せで言ってないかしら?
多分内心、言っちゃった――なんて思ってたり。
なんて、せっかくの助っ人に失礼だな。
「先生。ここは便利屋に任せよう」
「あんたたち!全部が終わったら‥‥一緒にラーメンにでも食べに行くわよ!!」
「はい。御恩は必ず!!」
「ん、ありがとう。先を急ごう先生」
「”ありがとう。アル、ムツキ、カヨコ、ハルカ”」
便利屋にカイザーの軍団を任せて、あたしたちは包囲網を突破し先に向かうのであった。
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足止めを便利屋に任せ、ホシノの下に急いでいると再びカイザー理事が立ちはだかる。
「ああも!どこまで邪魔すれば気が済むのよ!!」
「‥‥しつこい」
全くだ。これではもはやストーカーの域にまで到達しているだろう。カイザー理事ではなくカイザーストーカーだ。
あたしたちと対峙した理事は、これまで保ってた余裕を捨て去り、吐き捨てる
「対策委員会…前からお前たちのことが気に食わなかった。
ありとあらゆる策を講じ、妨害してきた。だがどうだ!
滅びかけの学校に残り、借金を返そうと粘ってきた!!
何度も何度も徹底的に苦しめ続けてきたというのに…
毎日毎日楽しそうに‥‥!!」
「お前たちのおかげで…!!計画が!!私の計画そのものが!!!」
はぁ~~~。もう呆れてものも言えねぇよ…
それってつまり―――――
ただの逆怨みじゃねぇかッ!!
なんだ?
つまりあたしやユメさん、対策委員会のみんなはアンタらの逆恨みで人生滅茶苦茶にされたってこと?
‥‥なんだろう。すごいむかっ腹が立ってきた。こいつはダメだ。絶対許しちゃいけない。
‥‥カイザー理事。お前、存在しちゃいけない奴だよ。
「あんたみたいな下衆に私たちが負ける訳ないでしょ!!」
「ホシノ先輩を返してもらうよ!」
「あなたのような汚い大人なんかに絶対、負けたりしません!!」
そうさ。あたしもあの子たちも負けない。負けるつもりもない。
『先生、お願いします!!』
「”私の大事な生徒を‥‥返してもらうよ!!”」
さぁ、やろうかカイザー。
2年前の‥‥いや、ずっと前からの借りを返してやる!!
カイザーとの決戦が幕を開く。
戦線の最前線を突っ走り、カイザーの軍勢を蹴散らしてく。
「ぐわぁぁぁぁ――――!!!」
今のあたしはアドレナリン、フルマックス状態。
群がるオートマタたちを『天極』と『地獄』で粉砕し、PMCの兵士は意識を刈り取る。
『敵、右方向から来ます!』
「了解!」
アヤネちゃんのナビゲートを受けながら、本命の理事目掛けて進む。
軍用戦車がキャタピラを回転させながら突進しに来る。
「ちょっと!危ないわよ!」
「問題なし。むしろこれでいい」
「えっ!?」
対策委員会の心配を余所にあたしは戦車など気にも留めていなかった。
はなから理事にしか興味はない。
「おらあああッ!!」
高速で突進してきた戦車のフロント部分にあたしの右拳を振り下ろす。
何かが破裂したかのような音と同時にフロント部分がひしゃげ、たちまち大きなクレーターが出来上がった。
「な、なんだ?何が起こった!?」
戦車の操縦士も事態が分からず混乱しているが、どうでもいい。
すかさず両腕にありったけの力を籠める。
「‥‥ぐっ、うおおおおおお!!」
日頃なら重いと感じる戦車だが、カイザーへの怒りやら鬱憤やら混ざりに混ざった感情があたしの力に変わる。
プレゼントだ。クソッタレども。
「おらあああああああッ!!」
戦車を持ちあげ、カイザー目掛けて放り投げる。
動揺したカイザーの兵士たちは退避が間に合わず、戦車の下敷きと化した。
「‥‥ねぇ、今戦車投げたわよね?」
「うん。投げてた」
「‥‥すごいですね。どこからそんな力があるんでしょう?」
若干引かれたかもしれないが、気にしないことにする。
「おのれ‥‥おのれ、おのれえぇぇぇッ!!こうなったら…
私のゴリアテを出せ!!」
対策委員会による怒涛の快進撃に、苛立ちを隠せない理事。
堪忍袋の緒が切れたようで自らゴリアテに乗りこみ対策委員会へと襲い掛かった。
周囲のことなど一切顧みず、ガトリング砲や砲撃を放ちまくるゴリアテ。
完全なバーサーカーと化したゴリアテだが、ビナーに比べたら拍子抜けもいいところ。あのクソ長蛇に比べたら威力も規模も脅威も何もかもが劣る!!
「そんなんであたしの相手が務まるか」
「黒狐!!まずは貴様から始末してくれる!!」
あたしに狙いを定めた理事のゴリアテが迫る。
両腕のガトリング砲を全速力で回転させながら目まぐるしく弾を放出する。
『天極』と『地獄』の砲身を盾の代わりにし、ガトリング砲の弾を受け止める。
「”黒狐!!”」
「「黒狐!」」
『「黒狐さん!!」』
みんながあたしを心配くれる。
そっちも大変なはずなのに。
だけどあたしは大丈夫。こんな鈍な弾、へでもない。
ガトリング砲の弾がサバキの着物を掠め、破れていく。
ホシノちゃん以外、あたしの正体を知る者はいない。
黒狐としてキヴォトスを騒がし、今こうして悪の元凶と戦っているのが元トリニティ生で正義実現委員会の委員長だったなんて、思いもしないだろう。
それでもあたしは構わない。
この先あの子たちが知ることはないだろうし、気にもならない。
だから今、あたしはただ一人のキヴォトスの人間として。
身勝手に利用し
騙し、搾取して
大事な人を攫った
あたしが裁く!!
一歩。一歩。
弾丸の嵐を確実に踏み歩いて進む。
「何故だ!何故倒れん!!」
何故?決まってるだろ。守りたい、助けたい人がいる。
ただそれだけよ。アンタみたいに人をだまして、火事場泥棒をばかりしてきたような奴にはわからないことだろけど。
撃たれながらも倒れず迫るサバキに、理事は恐怖を感じ始めていた。
遂にはガトリングが弾切れを起こしているのにも構わず、ほぼ無意識のうちに後退りしていた。
‥‥覚悟はいい?
あたしは軽く跳躍し、ゴリアテのコックピット部分に近づく。
あたしの覚悟。
アビドスで過ごした楽しい日々の思い出。
ユメさんとホシノちゃんの想い。
そして対策委員会のみんなの希望。
全部この拳に込める。
「カイザーPMC理事。高利貸罪および生徒誘拐・監禁罪、
自治区内乱罪の罪で、判決を言い渡す!!」
「有罪!!甘い蜜を吸い続けた代償、ここで清算するがいい!!」
握った拳にビナーの時と同じ、炎のようなオーラを纏う。
今や変容したヘイローもサバキに応えるように、輝きを放つ。
「【閻魔裁き】!!!」
「うわあああああああああーーーーッ!!!」
かつてデカグラマトンを沈めた拳が理事のゴリアテに炸裂した。
頑丈なビナーでさえ頭部が大きく歪む程の威力を持っていた拳は、ゴリアテをコックピットにいる理事ごと殴り飛ばし粉砕した。
けたたましい轟音と共に、煙を上げながら崩れるゴリアテ。
理事は這う這うの体で脱出していたようだが、すかさずサバキは理事の前を塞ぐ。
「何故だ‥‥何故‥‥貴様は対策委員会の手を取るのだ…
なんの利益も無いはずだ‥‥」
本当に何もわかってないんだな。いいよ、あんたに教えてあげる。
「2年前、鉛玉をプレゼントしてくれてありがとな」
「な、2年前だと…!?まさか、貴様は…!!」
ふんッ!!
これ以上話されても面倒だったから理事にはドロップアウトしてもらった。
ああ。殺してはいないから安心して。ちと顔面ボコボコにしてから、寝て貰ってるだけだから。
それに理事がやられて兵士たちも我先にと逃げ出してるわ。
会社内で人望なかったのかしら。
「えっと…勝利したのでしょうか…?」
あっ、うん、そうだよ。これでもう救出の邪魔はされない筈。
「そうよ!ホシノ先輩を早く助けないと」
「ん、行こう」
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カイザーを退けたあたしたちはやっとホシノが囚われている実験室へとたどり着いた。
実験室の扉は固く閉ざされており、中々開けることができない。
「先輩はすぐそこにいるはずです!!」
「ああ、もう固いわね!全然開かないじゃない!!」
「私も手伝います!」
「アヤネ、どうしてここにいるの?」
「先生にお願いしてシャーレからヘリを貸してもらったんです」
「みんな。あたしに任せてくれるかしら?」
みんなを扉の前から離れさせると、あたしは一呼吸入れ扉を思いっきり蹴りつける。
右足にありったけの力を込めたヤクザキックは、固く閉ざされた扉の厚い鉄板をぶち抜き、吹っ飛ばす。
あたしの足が若干お釈迦になりかけたが、気にしない。
「「「「ホシノ先輩!!!」」」」
「”ホシノ” 」
拘束を解き、対策委員会の子たちがホシノちゃんの下に向かっている。
‥‥あたしはここらでお暇しましょうか。
せっかくの後輩と感動の再会を果たしているんだ。余所者が居ては雰囲気も台無しだろう。
「良い後輩に恵まれたね、ホシノちゃん」
先生やみんながホシノちゃんと会っている間に、あたしはその場から去った。
ちなみにちゃんとパジェロは回収し、店主の下に返した。
幸い、目立った破損もなかった。
その日は宿で疲れた体を癒すため死んだように眠るのであった‥‥
余談だが、立ち去る際ゴリアテのガトリングにより着物が破れたことで、着物の下から片翼がちらりと見えていた。それに気づいた生徒がいるのだが、この時のサバキ自身が知る由はなかった。
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サバキが人知れず砂漠を去った頃。
再開を喜び合う対策委員会はサバキが居ないことに気が付く。
「あれ?また黒狐さん、いなくなってる」
「手伝ってくださったのに、どこに行ってしまったのでしょうか?」
「何も言わずにいなくなるなんて水臭い」
「また会えるといいですね」
「大丈夫だよ。また会える」
ありがとう。トリニティの委員長さん。
余談
ホシノを閉じ込めていた実験室の扉はゲマトリア監修の下作られておりかなり頑丈に作られている。
そんな扉を蹴っ飛ばした為、サバキは少しの間脚の筋肉痛に悩まされることになった。