savefile1:冒険の序章
「先生、お待たせしました」
「”黒狐、来てくれてありがとう”」
シャーレで過ごすようになったある日。
あたしは先生からのモモトークでミレニアム自治区を訪れていた。
なんでも先生は、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部という部活から助けを求められたようで。
部活の廃部を阻止し、活動を存続させる為、郊外にある『廃墟』へと向かっていた。
「先生、この人は?」
「”ああ。モモイ、ミドリ、紹介するよ”」
「初めまして。モモイさん、ミドリさん。あたしは黒狐と言います
どうぞお見知り置きを」
「ご丁寧にどうも‥‥私は才羽ミドリって言います。そしてこっちが姉の‥‥」
「才羽モモイだよ!お姉さんの恰好、いいね!
今後のシナリオの題材に使えるかも!」
「ちょっとお姉ちゃん!」
今の言葉マエストロが聞いたらよろこぶだろうな。
にしても若い子は元気があっていいね~~。あたしもすっかり19歳だから、元気があるのが羨ましくなるよ。
よ~し、おじさんも一肌脱いじゃうぞ!!
「”それで早速本題なんだけど”」
モモイちゃんによると、かつてミレニアムには伝説のゲームクリエイターがいたようだ。その人物は最高のゲームを作る秘密の方法が記された『G.Bible』なるデータをここ、廃墟に残した。そしてそのG.Bibleを探し出して最高傑作ゲームを作りだすというのが目的らしい。
先生があたしを呼び出したのは、モモイちゃんとミドリちゃんの手助けをする為。
『廃墟』には謎のロボットたちが辺りをうろついており、非常に危険だ。2人だけでは心もとないため、助っ人としてあたしに白羽の矢が立ったわけである。
目的を説明し終え、奮い立っているとモモイの背後にロボットが現れる。
「…■■■!■■■■■■ッ!!」
「ろ、ロボットッ!?」
「まずいよ!このままじゃ囲まれるッ!!」
「屋外は危険です。早くどこかに隠れましょう」
「”あそこに工場がある。そこに向かおうッ!”」
モモイちゃんは、アサルトライフル。
ミドリちゃんは、スナイパーライフルを駆使してロボット軍団の包囲網から逃れるべく戦う。
ゲームっぽいネオンカラーの弾丸がロボットたちを蹴散らしていくがそれ以上に、敵の数が多い。全貌が不明瞭な場所であるが、いくら何でもロボット共の数が減らなすぎる。一体一体は『天極と地獄』の掃射でやられるほど装甲は脆いが、倒しても倒しても湧いてくるのだ。
まともに戦えば、じり貧は免れない。
「先生、目標地点まであとどれくらいですかッ!」
「”残り100m。あともう少しだから、頑張ってッ!”」
工場はもう目と鼻の先。けれど、捕まれば一巻の終わり。
しかたない。
「モモイちゃん、ミドリちゃん。あたしに捕まって」
「「えっ?」」
そう言ってあたしは2人を両腕で抱え、全速力で工場へと走り込む。
そして入口のドアを思いっきり蹴りつけて閉める。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
先生とあたしたちが無事、工場にたどり着くと、ロボットたちは追うのを諦め去っていった。
あのロボットたちについて、色々と謎が多い所ではあるものの。今は全員が無事なのを喜び合う。
すると謎の音声が鳴る。
『接近を確認』
「な、なに?」
「音声が部屋全体に響いてる…」
『対象の身元の確認します。
才羽モモイ、資格がありません。
才羽ミドリ、資格がありません。
‥‥身元不明。確認できません』
この声、工場のAIなのか?2人のこと知ってるみたいだが、一体何が目的だ?
「何で、私のこと知ってるの?」
「私のこともだ‥‥どういうことなんだろう‥‥?
それにお姉さん、身元不明ってどういうこと?」
「そうだよ!教えて教えてッ!!」
「あ~~、えっと‥それはねぇ‥‥」
話すとややこしくなるんだよなぁ‥‥元トリニティの3年生で、今は死人扱いなんだけど、生きてましたって。
あまりにもとんちきすぎるというか‥‥ファンタジー過ぎるというか…
曖昧にモモイちゃんとミドリちゃんに、はぐらかしていると、AIは先生の身元を検索し始める。
『対象の身元確認します‥‥
シャーレの先生…。‥‥資格確認しました』
「どういうことッ!?先生いつの間に仲良くなったの?」
「”私にもさっぱり‥‥?”」
当の先生にもよくわかっていないらしい。
だが、先生はここの施設のAIにとって問題ない存在のようだ。
『入室権限を付与。
才羽モモイ、才羽モモイを先生の「生徒」として認定。
また、先生の同行者にも資格を与えます。承認。
下部の扉を開錠します』
‥‥ん?下の扉?そんなのあったか?
「ねぇ、もしかしてだけどさあ‥‥」
「‥‥いやまさかね。流石に違うでしょ」
‥‥もしかしてだけど。もしかしてだけど。それって地面のことなんじゃないの?
あたしたちの予想通り、ガチャンという音ともに床が消えてしまう。
そういうことかよっ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
底が抜けた床から落下し、あたしたちは工場の下層に居た。
「流石に死ぬかと思った‥‥」
「あれっ!お姉ちゃん、先生!黒狐さんッ!!」
「お姉ちゃん大丈夫?先生と黒狐さんはどこに‥‥」
「ココ‥‥」
「同じく‥‥」
「わわッ!?先生、黒狐さん。どうしてそんなところに!?」
「どうしてって落ちた時2人がクッションになってくれたんだよ?」
「そ、そうだったんだ…ありがとうございます」
全員、怪我がなくてよかった。
ひとまず、立ち上がり辺りを見回す。
先ほどまであたしたちが居た上層とは異なり、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。
「見て、あれっ!」
ミドリちゃんが何かを見つけたようで、指を差していた。
ドーム状の部屋、そのど真ん中で日差しに照らされながら、裸の少女が椅子で眠っていた。
「‥‥返事がない。ただの死体の様だ‥‥」
「不謹慎なネタ言わないでッ!!それに死体っていうより、眠ってるって
感じじゃないかな?まるで電源が入ってないみたいな‥‥」
確かに。人‥‥というよりかは人形と言った方が近いか。
けど、オートマタ以外でここまで人間に近い姿のものは見たことがない。
「ねぇねぇ。ここ文字が書いてあるよ?…AL-IS‥‥アリス?」
「よく見ると全部ローマ字じゃないみたい。AL-1S、じゃないかな?」
型式番号みたいな物か。だとしたからこの子は廃墟で創られた存在なのか?
元々廃墟は謎が多い場所でもある。ビナーみたいなデカグラマトンに似たオーパーツがあってもおかしくない。
考察を巡らせていると、さすがに裸のままにしておくのは可哀想とのことだったので、ミドリちゃんが予備の服を少女に着せていた。
すると少女から電子音が鳴った。
『状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します』
そんな電子音と共に眠っていた少女の目が開く。
どうやら触ったことで起動したらしい。
「状況把握、難航。説明を…お願いできますか?」
「えっと‥‥私たちにも何が何だか‥‥」
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。
データがありません」
「私たちにいきなり攻撃したりしないよね…?」
「肯定。本機は接触許可対象への遭遇時、敵対意思は発動しません」
なるほど。プログラム上あたしたちに攻撃することはないわけか…
しかし…自我も記憶も目的もない完全な喪失状態と来たか。
休眠状態の時に初期化されたのかもしれないな。
一般的なロボット市民やオートマタとも違い、この子にはヘイローもちゃんとある。
ますますわからないな…‥
「工場の地下、全裸の女の子、記憶喪失。
ふふッ‥‥いいこと思い付いちゃった」
うん?モモイちゃん?
「いや、今の言葉の羅列からして嫌な予感がするんだけど…‥」
「良いからいいから。狐のお姉さん、その子をおぶってあげて」
「?ええ、いいけど‥‥」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ねぇ、ちょっと!?この子部室に連れてきてどうするのッ!?」
「く、首絞めないで‥‥苦しッ…」
どうやら廃墟の探索後、少女を放っておくことができずミレニアムサイエンススクールにまで連れ帰ってきてしまった…
まぁ、放置するわけにはいかないのは理解できる。
下手したらオートマタたちにやられかねないからね。
それはそうとモモイちゃんはこの子をゲーム開発部の一員にするようだ。
名前はAL-1Sを文字ってアリスにするようだ。
アリスは未だどことなく機械っぽい様子だが、起動してから然程立っていないのだ。無理もない。
だが、目覚めたばかりのアリスちゃんにとって、ゲーム開発部の部室は未知の領域。部屋に散らばったゲーム機やソフトに興味津々だ。だけど‥‥
「私のWeeリモコン口にしないで――ッ!ぺッして、ぺッ!!」
あぁぁ、今度はゲーム機かじっちゃってるよ‥‥。
アリスちゃんは、目についたものを片っ端から口に入れてしまっていた。
行動原理が赤ちゃんと変わらないのだ。
まぁ、仕方のないことなのだが。
「…‥。」
「ん?どうしたの?」
そんな興味津々にあたしを見つめて。もしかしてあたしと遊びたいのかい?
よーし。抱っこしてあげよう。ほら、おじさんのところにおいで。
あたしの呼ぶ声にアリスはトコトコと近づく。
そしてそのまま抱っこされた。
「フフッ、いいわ。遊びましょうか――
(ガシッ)
って‥‥痛い痛いッ!!仮面を無理やり剝がそうとしないでーーッ!」
取れちゃうぅぅ!!仮面どころかあたしの顔ごと取れちゃうからッ!!
ってアリスちゃん、今度はあたしの胸元に手を入れて、どうしたの?
もしかして、着物に興味持っちゃった?
「あっ‥‥あ、アリスちゃんダメッ!?着物の中まで入ろうとしないでーーー!!」
廃部を阻止すべく、動いた冒険で新しい仲間、アリスを加えたゲーム開発部。
けれど、それはまだ冒険の始まりに過ぎない。
友情とロマン、愛と勇気の冒険譚。
余談:
『黒い狐面』
マエストロから送られた黒い狐のお面。
一見、お祭り屋台や神社にあるような普通のお面に見える。
しかし顔を保護する防具としては優秀。大抵の衝撃は吸収してしまう。
反面、装着者が食事、睡眠したいという欲求がない限り外すことはできない。
装着時は強力なロックが掛けてられており、力づくでは外せない。