それにアビドス勢の自室に、ホシノの解像度が上がったりと考察の幅がさらに上がります。
過去ホシノのイメージも今までと変わりそうですし、目が離せないです。
『鏡』奪還作戦から幾日が経った頃、ゲーム開発部の部室内は物々しい雰囲気でいっぱいになっていた。
ユウカから課せられた廃部を阻止するための条件。それは『月末までに一定の成果を収めること』。条件をクリアすべく、ヴェリタスとエンジニア部の協力もあってC&Cやセミナーから『鏡』を取り返すことができたのだが…
本人たちから聞いた話では、解析したG.Bibleに記されていたのは、ゲームを愛することの一言。一度は落胆し、絶望した彼女たちだったが、最後まで希望を捨てずに全力で最高のゲームを作るべく動いている。
ミレニアムで行われる最大規模でのコンテスト、ミレニアムプライス。本日がその参加受付最終日であった。
「お姉ちゃんまだ!?」
「あとこれを入力すれば終わり!」
「残り2分…厳密には残り96秒…」
時間に追われつつも、モモイはコードを入力し、ユズに確認する。
「エラーは出てない!行けるよ!! 」
「ファイルのアップロードまで15秒‥‥。アリス、後何秒?」
「残り19秒です!」
モモイ、ミドリ、ユズ、アリス、そして付き添っていた先生とサバキも固唾を飲みながら見守る。
残り5秒。
4…3…2…転送完了。ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました。
パソコン画面に表示した文字を見た途端、その場にいた全員が安堵し、一気に身体中の力が抜けた。
「まっ、間に合ったぁぁぁ!!」
「ギリギリセーフ…心臓が飛び出るかと思ったぁ‥‥」
「”みんな、お疲れ様”」
「先生とお姉さんも手伝ってくれてありがとうございます」
いやーーーー結構な死闘だったね。この6日間。あたしの場合は5日間か。
苦労して手に入れたG.Bibleがあれだったのはびっくりしたけど、完成できたのは良かったよ。
モモイちゃんの書いたシナリオを推敲したり、デバック作業の手伝いだったり、大変だったけどとってもやりがいがあって楽しかった。
けどこれはまだ第一関門を突破しただけに過ぎない。むしろ本題はここから。アップロードした新作ゲーム『テイルズサガクロニクル2』がミレニアムプライスで受賞されなくてはならない。
「発表は3日後…この部室にいられるか、そうじゃないかが決まる」
「うぅ…ちょっと緊張してきた…」
結果発表までみんなの緊張が高まる中、モモイがある提案をする。
「発表まで待てないし、せっかくだからweb版の『テイルズサガクロニクル2』
をアップロードしてみない?」
ユーザーの反応を確かめるべく考えたのだが、ミドリたちは今一つの反応を見せる。
「うーん…ちょっと怖いかも。低評価コメントも心配だし」
確かに。前作の評判も考慮すると、タイトルだけで低評価するような輩だってネット上では珍しくない。
ミドリちゃんが心配するのも無理はない。せっかく作ったのにボロクソに言われるのは誰だって怖い。
けれどモモイちゃんは力強く言ってのける。
「何言ってんのさ!そもそもこのゲームはミレニアムプライスに出品する
為だけの作品じゃないでしょ!
自信をもって、見て貰おうよ!私たちはベストを尽くしたんだから!」
「うん。アップしよう」
「え?」
「作品っていうのは…見てくれる人、遊んでくれる人がいて完成されるものだから
わたしは…わたしの作品を完成させたい」
‥‥見上げた心意気だな。
療養を終えた後、聞いた話だが、かつてユズちゃんは製作したゲームを酷評を受けたらしい。
それが切っ掛けで心に傷ができ今のようにロッカーに引きこもるようになってしまったようだ。
でも今のユズちゃんには、精神的な成長があったように見える。怖いだろうに、勇気をもってネルに話しかけた。モモイちゃんやミドリちゃん、アリスちゃんとの出会いが彼女に発破をかけたのかもしれない。
ここ一番での胆力と他者からの意見に真っ向から向き合う強い意志。
そりゃあ、モモイちゃんやミドリちゃんがゲーム開発部に惹かれる訳だ。
引き付ける力が確かにあるのだから。
受け止める勇気を持ったユズちゃんの意思を尊重し、『テイルズサガクロニクル2』はweb上にアップロードされた。
プレイした感想が寄せられるのは2、3時間後くらいだと予測されるため、ひとまず休憩に入ることになった。あらかじめ差し入れ用のお菓子とジュースも用意しみんなで食べていると、一足早く食べ終えたアイスがパソコンの前で待機していた。
「アリス?どうしたの?」
「‥‥待機します。みなさんがダウンロードを始めたようで、気になります」
想定時間はまだまだ先ではあるものの、アリスはゲームの感想を待っているようだ。
「これからプレイするのに時間かかるだろうし、待っててもすぐには来ない
と思うよ?」
「それでも待ちます」
アリスの意思は固かった。これから来るであろう感想に心躍っていてるのだから
「ならわたしも待ってる」
「…ダメだな、私もドキドキしてきちゃった」
「私は心配でドキドキしてきた…自分で言い出したことなのに緊張でおかしくなりそう!」
「ならあたしも見ようかしら」
そうして一同は休憩そっちのけで感想コメントを待つことになった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
待つこと数分。感想覧に初めてのコメントが投稿された。
早速確認すると、前回のクソゲーランキング1位であったことを揶揄するコメントだった。
「マキに連絡。該当IPアドレスの方角に対して、最大出力のビーム砲を食らわせてきます」
「待って待って待って!!」
さすがにリアルファイトで制裁しようとするのはヤバいって!
あれ普通の生徒に当たったらただじゃすまないのは目に見えてるから!
「”アリス、落ち着いて”」
「ゲームをやっていない人の発言だから…気にしないで」
何とかアリスを宥めると、今の間にも次々と感想が送られて来る。
感想の大半が怖い物見たさのものや目新しさ目的だったが、それ以外にも期待や興味といった好意的な反応が寄せられた。そればかりかアップロードされてそこまで時間が経過していないにも関わらず、アップロード数が2000を超えるという事態になっていた。加えて有名なポータルサイトにも記事が掲載され、アップロード数はさらに伸びていく。
「うわぁ…無関心でなければいいなとは思ったけど、
ここまで反応されるとなると逆に怖くなってきた!」
「‥‥ドキドキします」
「うぅ…期待と不安で心臓が爆発しそう!」
そうモモイちゃんが言った直後、ゲーム開発部の壁が派手に爆発した。
――――――――――――――――――――――――――――
壁にくっきりと残る爆発痕。そして対物用の弾丸。明らかに遠距離から砲撃されている。
今回は忘れずに持ってきていたスナイパーライフル『黒笏』のスコープを覗くと、同じくスナイパーライフルを構えた褐色のメイドの姿を捉えた。
C&Cの襲撃である。
反撃にこちらからも撃ち返すが、居場所を察知したようで避けられてしまった。
「外に生徒会の人たちが…!」
「もしかして前回の仕返し!?」
だとすれば随分派手にやってくれるじゃないの。
このままじゃ、守りたい部室がおじゃんになってしまう。
「”みんな、ひとまず外に出よう。
ここで戦うのはまずい”」
ひとまずゲーム開発部の部室から離れた一行。
途中、生徒会が差し向けたドローン軍団とも交戦したのだが今更苦戦する相手でもなかった為忽ち蹴散らされた。
――――――――――――――――――――――――――――
旧校舎の廊下へと逃げ延びた一行はほっと息をつく。
すると…
「逃げ切れるとでも思ったか?」
「―――危ない!」
咄嗟にあたしはミドリちゃんを抱え、右に飛ぶ。
先ほどまでいた場所には幾つもの弾痕がついていた。
「なるほどな。通りでいちいち良い判断だと思ったぜ。
さっきこのチビたちを率いたのも、差押品保管所を襲撃したのも。
あんただったか、先生?アカネが調査した例の「大人」ってのも
噂は大げさじゃなかったってわけか」
ゲーム開発部の前に姿を現したのは、C&Cコールサイン00美甘ネルであった。
「”どういう用件?もしかしてリベンジ?”」
先生が訊ねるもネルは鼻で笑う。
「はっ、そんなくだらない理由でくるわけねぇだろうが。
しいて言うならまず‥‥」
そういうとネルはユズちゃんを指さす。
「そこのでこ出してるあんた。あの時はよくもあたしを騙してくれたな?」
「ひっ、す、すみません!」
威圧のこもった視線と声にユズちゃんは怯えてしまう。
しかし次の瞬間ネルはニカっと微笑んだ。
「やるじゃねえか。褒めてやるぜ」
「…え?」
「わざわざ怯えたふりをして騙すとはな…見事な演技だった」
((((多分怯えてたのは本当だったと思うけどなあ‥‥)))
話が逸れたのに気付いたネルは本題を話す。
「それはそうとして‥‥そこのバカみてえにデケぇ武器持ってるあんたと狐面の奴」
相手はどうもあたしとアリスちゃんに用があるようだが、当のアリスちゃんは心当たりがないようで辺りを見回している。
「あんただよ、あんた!!」
「…アリスですか?」
「そうだ、てめえと黒狐には用がある
C&Cに一発喰らわせたらしいじゃねえか。それと狐の方も結構暴れてくれたみてぇだな?
ちと面貸せや」
Oh‥‥なんか不良とかヤンキーみたいな誘い方だな…こわい怖い。
アリスちゃん大丈夫?
「あ、このパターン。アリス知ってます。
『私にあんなことしたのは、あなたが初めてよ…っ』
告白イベントですね?チビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です!」
「…ふふっ」
アリスの例えが的確だった為、思わずサバキの口角が上がってしまう。
「?アリス、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」
いやいや、何も問題ないよ。
むしろ、よくその例えが出てきたね?アリスちゃんはとっても賢いね。
「はい。アリス、ゲームで学びました!」
わしゃわしゃとアリスちゃんの頭を撫でていると、チビメイド様ことネルは顔を赤く染め叫ぶ。
「誰がチビメイド様だ!?ぶっ殺されてえのか!?それと笑うな!」
どうもアリスちゃんにチビと呼ばれたのが気に障ったようで、声を荒げた。
――――――――――――――――――
少しして落ち着いたネルはあたしたちに本題を告げる。
「誤解してるかもしれねぇから一応言っておくが、
別にC&Cに一発喰らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ。
正当な依頼の中での出来事だった。そっちはあたしら相手に目的を達成しただけだからな」
どうもネルの目的は直に戦うことのようだ。先の一件であたしたちに興味を持った為、実力を確かめるつもりで来たようであった。しかも勝てばこのまま引き下がるとのこと。
「‥‥わかりました。『一騎打ちイベントの戦闘』みたいなものですね」
「イベ?…なんつった?」
アリスちゃんは状況を理解し戦う気満々である。
「あの時は『鏡』を持って帰るという使命がありましたが‥‥
今なら‥‥!」
そういうと背中に背負った巨大な銃、本人曰はく『光の剣:スーパーノヴァ』を構える。
空気が少し震え、電子音と共に銃口へ光が集まっていく。
「魔力充電100%光よっ!!」
けたたましい轟音と共に、電気の直流がネル目掛けて発射された。
ミレニアム特製の分厚い壁を、いともたやすく貫通する威力を持つ一撃。旧校舎の廊下が大きく揺れた。
「これはっ‥‥!」
「わぉ!」
「これほどの威力とは‥‥」
音を聞きつけ、他のC&Cメンバーも現場に駆け付けた。
一方あたしたちもスーパーノヴァの威力を改めて目の当たりにした。
「すごい‥‥」
「こんな威力見たことない‥‥」
「ああ」
あまりの光景に息をのむ一同。
「…やったか?」
「アリスちゃんその台詞はむやみに言っちゃダメ!」
そうそう。それは確実にやってない時の台詞、フラグだから…
それにあの子がこの程度でやられるとはとても思えない。
なんてことを言い合っていると黒煙を見つめていた先生の表情が硬くなる。
「”いや、まだだよ”」
「え?」
先生が告げた途端、アリスちゃんにサブマシンガンの弾丸が襲い掛かる。
「確かに、並大抵の火力じゃねぇが…。それだけだ」
黒煙の中から無傷のネルが姿を見せる。
「も、もう一度魔力を充電‥‥」
再度スーパーノヴァにエネルギーを集めようとするが、ネルは即座に距離を詰めアリスちゃんの身体を蹴る。
「きゃあっ!」
バランスが崩れた隙に銃撃を浴びせる。
「てめぇの武器は確かに強い。ミレニアムでも類を見ねぇくらいにはな。
だが、一度引き金を引いた後、発射まで数コンマ秒かかる。
しかも火力が強すぎるせいで詰められたら撃てねぇ。何せ爆圧に自分まで巻き込まれるからな」
さすがはミレニアム最強の異名を持つだけのことはある。
彼女の観察眼は正確で、スーパーノヴァの弱点を見抜いていた。それを含めた戦い方もできる。まさに強者のいでたちだ。
「そしてこの間合いであたしに勝てるやつなんざ、
キヴォトス全体でもそう多くは…いや1人も居ねぇ、覚えておけ」
アリスちゃんもスーパーノヴァを盾として使い猛攻を凌いでいるが、防戦一方である。
このままではジリ貧だ。
ぐっと堪えつつもアリスちゃんはスーパーノヴァを掴み、勢いよく振り回した。
「ぐっ、この銃身を振り回せんのかよ…!!」
少し驚きつつもネルは一振りを避け、再度攻撃を始める。
「近接戦は悪くねぇ判断だ。だが…この距離じゃあたしが有利なことに変わりない!!
それにお前は標準を合わせられねぇ!」
ネルの言う通り、絶妙な近距離にいる彼女にアリスちゃんは標準を定めることはできない。
しかし、アリスちゃんには秘策があった。
「‥‥標準は必要ありません」
なんとスーパーノヴァの銃口をネルではなく床へ定め、エネルギーをチャージする。
「な!あたしじゃなく、床に!?
正気か!そんな事すれば諸共‥‥」
「光よ!!」
躊躇いなく光を発射すると、再び轟音を響かせながら大爆発が巻き起こった。
――――――――――――――――――――――――――――
壁をいとも簡単に破壊する一撃は、廊下の床を何層にもわたって破壊した。
深い穴の底ではぐったりとアリスが倒れている。
「肉体損傷率48%…後退を望みます!」
「”私が背負うよ”」
「お願いします!」
スーパーノヴァで発生した黒煙に紛れ、あたしたちは一目散にその場から立ち去った。
一方、爆破に巻き込まれたネルはというと‥‥
「リーダー!」
「まさか、瓦礫に巻き込まれて…」
「さっき一瞬アリスちゃん見えたけど、だいぶダメージ受けてたね。
もしかしたらちっちゃいリーダーもぺちゃんこに…」
「―――誰が小っちゃいって!?」
アスナの言葉に声を上げて言い返すネル。大したダメージもなく元気そうな姿であった。
「わ~お!全然ピンピンしてるじゃん!」
「‥‥ったくてめぇはどっちの味方してんだ!!」
それはさておき、C&Cはゲーム開発部を追いかけるか、考えていたがネルはそれを制止する。
「目的は概ね達成した。リオがゲーム開発部に興味を持つ理由もわかったし…
それに‥‥」
「わかった!気になっちゃったんでしょ?先生のこと!」
「ばっ、ばか、ちげぇよ!」
「でも少々心配ですね…あの子たちの体躯から推察するに先生の好みは‥‥」
「まぁ、リーダーにとって悪い情報じゃないかも」
「うるせぇ!いつまでもそういうこと言ってっとぶっ飛ばすぞ!!」
他のメンバーから揶揄われながらも、慕われているリーダーの叫びが旧校舎に響くのであった‥‥
‥‥ったく、他にも確かめたいことはあったんだけどなぁ。
――――今日は取り逃がしちまったが、次はサシで決着つけようぜ『黒狐』?
ミレニアム編は次回、もしくは次々回で終了予定です。
エデン条約編にて書きたいことがいっぱいあるので…
余談
ゲマトリアによって改修された『黒笏』は攻撃力が若干高くなっているぞ。
その代わり反動も大きくなっている。