ネルとの一騎打ちから数日が経過した頃、ゲーム開発部の部室はいつも通りにぎやかであった。
ただあの戦いでアリスちゃんに変化があったようで‥‥
「じゃじゃーん。見てアリス、メイド服~~」
「ひっ!!」
どうもあれからアリスちゃんはメイドがトラウマになってしまったようで、メイド服を見ただけでも怯えて逃げ出してしまうほどだ。
実際、あんな学園最強と戦ったとすれば多少トラウマにもなるのは仕方ない。あたしも若干トラウマになりかけたもん。どうなってるんだあの身体能力。
「アリスちゃん、大丈夫?」
「あ、アリスしばらくはメイド服は見たくありません!」
「身体の方は全部直ったみたいだけど、
心の方はもうちょっとかかりそうだね」
まぁ、いずれ時間が解決することだしそう気張らなくていいだろう。
そんなことを話していると生徒会に行っていたユズちゃんが戻ってきた。
「建物を壊しちゃったことなんだけど、幸い部活中の『事故』として
処理してもらえたよ」
「嘘!ユズ、ユズそれどうやったの!?部活が存続したとして弁償費用で部費は
諦めようかと思ってたのに」
「C&Cの方で処理してくれたみたい」
はえ~~太っ腹だな。流石ミレニアム、
「それとネル先輩から伝言。『また会おう』って」
「ひぃっ‥‥!」
あらあら、すっかり気に入られちゃったようで。これから大変ねアリスちゃん。
「それと黒狐さんにも伝言が‥‥」
「ん?何かしら?」
「『今度は決着つける』とのことで‥‥」
……ひぃん。アリスちゃん、あたしもロッカーに入らせて!
「ああっ!2人とも、ユズちゃんのロッカーに入ろうとしないで!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
そしてとうとう運命の時が訪れた。
ミレニアムが誇る科学の祭典『ミレニアムプライス』その結果発表である。
この大会の結果次第でゲーム開発部の命運が決まる。受賞できれば、部は存続。今まで通りの生活が行える。
反対に受賞できなければ、即刻廃部。ゲーム開発部はミレニアムから消え、みんなの居場所も消滅する。
期待と不安が入り混じる中、幕が上がる。
『これより、ミレニアムプライスが始まります!司会および進行を担当するのは私、コトリです!
今回は過去最多の応募となりました。おそらくは生徒会の意向により部活の維持に「成果」が求められるようになったことが影響しているでしょう!』
『鏡』奪還作戦の時に協力してくれたエンジニア部も無事だったようだ。
それに多くの功績を残していることからも廃部の危機とは縁が遠かったみたい。
ほっと安堵するが、気は抜けない。何しろ先ほどコトリちゃんが言った通り、過去最高の応募数なのだ。
分母が小さい分当たる確率も低くなる。
ドキドキしながらも画面に視線を集めた。
『昨年の優勝作品である生塩ノアさん著の思い出の詩集は、本来の意図とは少し違ったようですが、その形而上的な言葉の羅列がミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました』
多分それ、内容が難しすぎて自然と眠くなるって奴だと思う。
他にも磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ、ミサイルが搭載された護身用の傘、ネクタイ型モバイルバッテリー、光学迷彩下着セット、ちょうど缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫…等、個性豊かな発明品が紹介されていく。
てか光学迷彩下着セットって何?初めて聞くワードなんだけど
困惑しつつもコトリちゃんの進行は続く。
『そして!今キヴォトスのインターネット上でセンセーショナルを巻き起こしているスマホで
マルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、テイルズサガクロニクル2など!
今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのはたったの7作品!』
『それでは第7位から受賞作品を発表します!!』
心臓がバクバクと音を立てる。
『7位は‥‥エンジニア部、ウタハさんの「光学迷彩下着セット」です!』
「ふぅーーーー」
まず7位入賞ではないことにほっと息を突く。
というより先から気になったその発明品はなんだろう?用途がすごく気になる所なんだが…
「どこに需要があるのかしら?」
「さ、さぁ‥‥」
『これは身に付けてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からない
というエキセントリックな作品ですが………
露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で大変高い評価を………
その評価した審査員が一体誰なのか気になってしまいます!』
‥‥裸を晒すのが自ら晒すのが好きだなんて世の中変わった人もいるんだな。
深く突っ込まないようにしよう。
続く6位、5位とゲーム開発部の名前は上がらなかった。
そして4位、3位、2位と同様テイルズサガクロニクル2の名前は呼ばれない。
残すは1位のみ。
『最後に!今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!』
「ぅぅっ‥‥」
「どうか…お願いします!」
「ドキドキ‥‥」
『第1位は―――――CMの後で!!』
盛大に焦らされ、あたしたちはコントのように派手にずっこけた。
「アリス!!」
「充電完了!!いつでもいけます!」
「ダメだからね?気持ちはわかるけど撃っちゃだめだからね?」
アリスちゃんとモモイちゃんを宥めている内にCMが終わり、発表が再開した。
『第1位は――――――――
新素材開発部の――――
まだ言い切っていないにも関わらずモモイちゃんは手に持った銃でディスプレイを撃ちぬいた。
「きゃあっ! ディスプレイを撃ってどうするの!?」
「どうせ全部持って行かれちゃうんだし、もう関係ない!」
無情にもテイルズサガクロニクル2の名前は1位には呼ばれなかった。つまり、ゲーム開発部の廃部が決定した瞬間でもあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
大きく叫び、膝から崩れ落ちるモモイちゃん。
確かにゲーム開発部は大きく成長を遂げたであろう。ネットでの評判も、決して悪いことばかりではなかった。初代テイルズサガクロニクルが、クソゲーランキング一位を取ったあの日からは彼女たちは変わることができたのだ。全ての努力が無駄だったわけではない……。
ただ努力が必ずしも報われるわけでもないのだが。
それも彼女にとって心配なのは他でもない、ユズちゃんとアリスちゃんのことだ。
ゲーム開発部という居場所を失った彼女たちの居場所はどこにあるのだろうか?ユズちゃんはミレニアムの寮に戻れればいいが、そもそもの素性不明で偽造学籍のアリスちゃんがいられるとは限らない。
「‥‥私、寮に戻るよ」
真っ先に口を開いたのはユズちゃんだった。
「もう私のことをクソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う。
ううん、仮に居たとしてももう大丈夫。
今の私には…この3人と先生、お姉さんがいるから」
「ありがとうございました、先生方。
2人が部室に来てくれた時から、わたしたちは、大きく変わることができましたから」
強い精神ね。あの気持ちの持ちようならきっとこれからもやっていけるわ。
でもアリスちゃんは、どうしよう?
「先生。シャーレの方で保護した方が良いと思います。
面倒はあたしも手伝いますので」
「”うん。それがいいかな”」
「‥‥アリスちゃん」
「いえ。先生方のことは信用できますから」
気丈そうに振舞うアリスちゃんであったが、悲しげな様子は見て明らかであった。
「もう‥‥みんなと一緒に、いられないんですね」
今にも涙が零れそうで、見ているこっちも悲しくなってくる。
でもあたしたちにできることなんて‥‥
今にも泣きだしそうなのはゲーム開発部も一緒なようだ。
「先生!やっぱりアリスを連れていかないで!!」
「アリスちゃんと一緒にいたいんです!!」
「2人とも…先生を困らせないであげて…うぅ‥‥」
重苦しい空気の中、ゲーム開発部の部室のドアが開く。
入ってきたのはセミナーの早瀬ユウカであった。
「ひぃ!もう来た!!」
「そ、そんなあ!!」
もはや絶望とまで思われていたがユウカの表情は何か晴れやかなものであった。
いや、少し息もきれており急ぎで来たことが窺える。
「何よ?そんな重い雰囲気だして…ってそうだ!」
「みんな、おめでとう!!」
「「「「「??????」」」」」
突然のお祝いにその場にいた一同は固まる。
「あれ?結果見てないの?」
「え、わたしたち7位以内にはいれなくて―――」
「何言ってるの?今も生放送中なんだからちゃんと見てなさいよ」
「それが‥‥お姉ちゃんがディスプレイを吹っ飛ばしちゃって」
そういえば、吹っ飛ばしてたせいで最後まで視れてなかったな。
何かあったのだろうか?
「はぁ~~~、何してるのよ、もう‥‥
ほら、私のスマホ見せるからよく見て」
そう言ってあたしたちはユウカのスマホの画面をのぞき込んだ。
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対し、
実用性を軸に据えて授賞を行ってきました。
これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。
しかし、今回の作品の中には、新しい角度から実用性を感じさせてくれたものがありました。
その作品は懐かしい過去を鮮明に思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。
よって、私達はこの度、
『今回は特別賞を設けます。その受賞作品は―――
『テイルズサガクロニクル2』
ゲーム開発部のみんながゲームを愛する一心で作りあげた魂の1作。その思いはプレイヤーにしかと伝わっていたのである。
これには全員が驚きを隠せずにいる。
さらに審査員は述べる。
レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開。
一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観。最初は困惑の連続だったがが、新しい世界を旅して、一つ一つ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかり込められた作品だということ。
そして何より、プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった幼年期の頃を鮮明に思い出す事ができたということ。
それらが評価されテイルズサガクロニクル2はミレニアムプライス、特別賞を授与されたのである。
「本当におめでとう!
……その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しで面白かったとは言えないけど……
良い作品に出合えた後の、あの独特な感覚が味わえた」
ユウカの賛辞に加えて吉報に駆けつけたマキちゃんも
「モモ! ミド! あたしもTSC2やってみたよ! すっごい面白かった!
今ネットでも大騒ぎだよ! ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前より
TSC2の検索数が多くなってるって」
早速アリスちゃんがインターネット上にアクセスしてみると‥‥
「確認しました。3時間前にアップしたテイルズ・サガ・クロニクル2は、
先ほどまでダウンロード7705回、計1372個のコメントが付いていましたが……
ミレニアムプライスの発表以降、約26秒間でダウンロード回数が1万を超えました」
「コメントも約500個追加。言葉のニュアンスからして否定的・疑惑的なコメントが
242件、肯定的・期待のコメントが191件。残りは不明、
もしくは評価を保留にしているコメントです」
最も共感を受けているコメントでは、
ゲームに出会えたことの感謝、ミレニアムプライスを通じてミレニアム生徒への偏見が無くなったと書かれていた。
評価やコメントは多々あれど、『テイルズサガクロニクル2』はミレニアムサイエンススクールのイメージを一変させた、革命を巻き起こしたのである。
「こ、これってつまり、廃部にはならないんだよね!?」
「えぇ、そうよ。あ、でも、あくまで臨時の猶予だから。
正式な授章ではないし、生徒会セミナーとしてはまた来学期まで、
ゲーム開発部の部室の没収及び廃部を保留する事にしたの。それと…」
ユウカの表情が少しはにかんだものに変わる。
「えっと、それから……ごめんなさい。
此処にあるゲーム機の事、ガラクタって言って……ちょっとキツくいったりもして、
あなた達のおかげで思い出したわ。小さい頃に遊んだゲームの事
……だから、ありがとう」
積もる話はあれど、ユウカはそういい部室から去っていった。
一方残されたあたしたちは、喜びを分かち合っていた。
廃部の阻止。つまり、アリスちゃんはゲーム開発部のみんなと一緒にいられるということである。
「えっと、つ、つまり……アリスはこれからも……皆と一緒ににいて、良いんですか……?」
「「うん!!」」
「これからも、よろしくね……!」
「‥‥はい!!」
――――これからも、よろしくお願いします!!
かくして勇者たちの冒険はまだまだ続いていく。
レトロな世界にロマンを追い続けながら、道には花が咲き誇ることだろう。
目を開け、夢を見続けよ。
世界中の夢が少女たちを待っている。
冒険の行方は、心の中に。
強き心は、壁を越えて
道は、真実へ
君は誰かになれる。
見渡す限りの世界に
集まろう、ここへ
そして伝説へ‥‥
―――――――――――――――――――――――
夜のミレニアム、セミナーの執務室にてネルはある人物に書類を渡していた。
「おらよ。依頼通り、アリスと黒狐に関する調査書類だ」
「流石、コールサイン
受け取った書類をまじまじと見つめている。
「んなあ、リオ」
「何かしら?」
「アリスはともかく、黒狐まで調べる理由はなんだ?」
ネルからの問いに、リオは神妙な面持ちで答える。
「‥‥もし黒狐の正体が予想通りであれば、今後ミレニアムにとって深刻な事態に
なりえることよ。あなたも彼女の正体について大体、見当がついているでしょう?」
「‥‥あぁ」
「天童アリスについては未だ様子を見る程度に済ませているけど、
黒狐の場合はそうはいかない」
「リオ、なんであいつをそこまで警戒してんだ?」
「‥‥‥‥」
「お得意のだんまりか。まぁ、要件は済んだことだしあたしは帰る」
そう言ってネルは、リオを背に帰っていった。
一方リオは、執務室の窓から外を眺める。
余談1
第2章のクリア報酬を獲得しました。
*『黒狐』の神名文字×100
余談2
文末の言葉はとあるゲームのキャッチフレーズを捩ったものになります。
予想してみてね。