プロローグ:還る学園
ねえねえ、聞いた?
なになに?
トリニティの亡霊のウワサ
なにそれ、なにそれ
昔、トリニティ総合学園で行方不明になった生徒がいるんだって
そうなの?
今も遺体が見つかってないらしくて、その亡霊が今も彷徨ってるってう・わ・さ
きゃー!こわーい!
なーんてね、只の都市伝説だよ。そんなの本当なわけないじゃん。
もう~~ビビらせないでよ!!
アハハ!ごめんごめん
そう、これはただの都市伝説。
トリニティの亡霊など作り話に過ぎないのだから‥
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やってきました、トリニティ総合学園~~!
そう、あたしの青春時代が全て詰まっている母校だ。ま、卒業できなかったんですけどね。
何故、あたしがトリニティにいるかというと、ティーパーティーからの要請で先生と来ることになったからだ。
そして今あたしらは、テラスにいる。
当代のティーパーティーは、テラスで対談するのが様式らしい。
「へーこれが、噂の先生か。私たちをあんまり変わらない感じだね。
それにそのお面もとってもユニークじゃん」
「‥‥ミカさん、初対面でそういった態度はあまり礼儀がなっていませんよ
愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね」
「うぅっ、それは確かに‥‥」
この場で最も格式が高そうなブロンド髪の少女がミカと呼ばれたピンク髪の子を窘めていた。
しっかし、まさかまたティーパーティーの場に呼ばれる日が来ようとは。人生何があるかわからないものだ。
「トリニティの外の方が、このティーパーティーの場に招待されたのは、
記憶の限りでは先生方が初めてです。普段は一般の生徒でも招待されない席でして…」
知ってる。あたしも現役時代で招待されたのはそう多くないし、一般生徒を見たことがない。
「あー、なにそれナギちゃんちょっとやらしい!恩着せがましい感じー!」
ミカという子はナギちゃん?の発言に茶々を入れる。一方でそのナギちゃん?も軽く咳払いし牽制する。
「ミカさん?」
「あー…ごめん、できるだけ大人しくしてるね…」
そういうとさっきまでの軽口は鳴りを潜め、しょぼんとしていた。
「では改めまして、先生方をご招待したのは少々お願いしたいことがありまして」
「”お願い?”」
早速本題に取り掛かろうとしていた矢先、僅かに大人しくしていたミカが活気を取り戻す。
「おおっ!ナギちゃん、いきなりだね!?小粋な雑談とか、アイスブレイクとか挟まない感じ?
ほら、ティーパーティーって基本、社交界なんだし?」
ぐいぐいと話をずらすミカにナギちゃん?の顔は段々険しいものになっていく。
対してミカは、調子ずいてさらに仕掛けていく。
「これはティーパーティーとしての在り方の問題なんだから気にしないとダメ!
ナギちゃん、きちんしないと!」
ミカからの言葉にナギちゃんはにっこりと微笑み、こう返した。
「ミカさん、それはあなたがホストになった際に追究してください。
今は、一応私がホストですので、私に従ってくださな」
でました、これぞトリニティクオリティ。この学校、同じティーパーティでもホストとゲストで立場が異なる。生徒会に所属しているとはいえ、権限の全てはトップのホストが決めること。それが昔ながらの校則だ。
少し、重苦しい空気になりつつあったが、先生が機転を変え、話の方向を変える。
「そういえば、君たちが生徒会長なんだよね?」
「仰る通り、私たちがトリニティ総合学園の生徒会長
「”生徒会長
そういえば、他校の生徒会長は基本的に1人だったな。トリニティ独特の風習だから、先生には馴染みが薄いのも無理はない。
この形はトリニティの歴史に関わることだが、詳しく話せば長くなる。
なのであたしは先生へ簡潔に解説する。
「その昔トリニティの前身となる学園では、各分派が紛争を繰り広げていたようです。それを解決すべく『パテル』・『フィリウス』・『サンクトゥス』、3つの学園の代表を筆頭に統合され、それが今の生徒会「ティーパーティー」の成り立ちとなったようです」
「”へぇ~そうなんだ”」
「トリニティの歴史について、随分とお詳しいのですね」
やっべ、饒舌に話過ぎた。トリニティの歴史学では必須項目だったから、語っちまったけど、ナギちゃんとやらの視線が怖い。
「あはは…。此処に来る前に少々、勉強致しまして…」
「えらーい!お面付けてるのに、勤勉家なんだね!ほら、ナギちゃんもひけらかしてばっかりじゃなくて見習わないと!」
便乗したミカからの軽口に、とうとうナギちゃん?の堪忍袋の緒が切れた。
「ああもう、うるさいですね!先から横からちくちくと!!私は大事な話をしているんですよ!
黙れないのでしたらその小さいお口に――――
ロールケーキをぶち込みますよっ!?
さっきまでのおしとやかな口調から一変し、荒々しく怒鳴り声を上げた。
それにしてもロールケーキをぶち込むとは‥‥これぞトリニティスラングである。
はっと我に返ったナギちゃん?は、少し恥ずかしそうに調子を戻す。
「…大変失礼しました。折角のお客様の前で、ご無礼を」
「いやぁ…怖い怖い」
先々代のティーパーティーも『ナンパ師』『苦労人』『医療従事者』と中々個性豊かであったが、当代のティーパーティーも大分個性が濃さそうだ。
***
気を取り直し、冷静になったナギちゃんこと、桐藤ナギサからの提案は『補習授業部』なる部活の顧問になってほしいとのことだった。この『補修授業部』というのは、成績不振に陥り、落第も危ぶまれる生徒を集めた部活らしい。本来であればティーパーティーが対処するところではあるものの、『エデン条約』?なる重大な話で手一杯。そこでシャーレに白羽の矢が立ったというわけである。
「いかがでしょう、先生?どうか生徒たちに手を差し伸べてくださいませんか?」
「”私にできることがあれば、喜んで”」
その提案に先生は二つ返事で承諾した。
ナギサさんから渡されたリストを目した先生が、一瞬何か考えていたような気がするが、気のせいか。
「それともう一つ。補習授業部に集められた生徒たちは中々癖のある子たちみたいで、
流石の先生でも手を焼きそうだから、狐さんも手を貸してほしいの。模擬テストの結果も
良かったから、教えるのに向いてそうだし」
あれってそういう意図だったのね。良かった…記憶力在って‥‥
先生が担任を引き受けるなら、あたしも手伝わない理由はない。
何より可愛い後輩たちが困っているのだ。元とは言え先輩の自分としてほっとけない。
その後、現在のティーパーティーのホストセイアさんは入院中であることを知った。つまり、ナギサさんは代行でホストを行っているということである。他にもいろいろと聞きたいことはあったのだが、向こうも『エデン条約』の件で忙しかった為、今回はお開きとなった。
さてと、久しぶりのトリニティに来た感想だが、先生はともかくお騒がせ者のあたしはティーパーティーの2人からはあまり良くは思われてなさそうだ。
会談の最中で見た2人の目を見たらわかる。ミカさんは、興味本位と少し怪しんでるような目。一方ナギサさんは、穏やかに見えてがっつり警戒心が窺える。重大な出来事が近いこともあって少々神経質になっているのかもしれないなぁ‥‥
それに唐突な補習授業部の設立と先生の招集。全くの偶然だろうか?
まぁ、あたしの考えすぎか。
さて、どんな後輩が来るんだか。対面するのが楽しみだ。
◇◇◇
それから数週間後。ティーパーティーからシャーレへ要請を受けた。
いよいよ、本格的に補習授業部が動き出す。
トリニティに再び足を踏み入れたあたしだが、現在先生とは別行動をとっている。
どうも、補習授業部に送られた生徒の1人が先生の顔なじみだという。あたしとも面識はあるとは言っていたが、一体誰だろうか?
それはさておき、あたしはあたしで購買で昼食を購入しつつ、補習授業部のメンバーを探していた。
にしてもやっぱりトリニティの校庭はだだっ広い。生徒も多いから探すのも一苦労だ。
ぶらついていると、近くで何やら騒ぎ声が起こっていた。
「なんだ?なんだ?」
気になって騒ぎのする方へ行ってみると、正義実現委員会の子たちが集まっていた。
せき込む子や涙が止まらない子と、何がどうやったらそうなるのかかなり深刻そうな状況だ。
見て見ぬふりなんてことはできない。
「すみません、こちら現在立ち入り禁止で‥‥」
「連邦捜査部
「シャーレの方ですか!?先輩に取り次ぎますので、少々お待ちください」
シャーレのロゴが入った腕章を見せると、委員の子はその場から離れる。
そして、少しした後、上司に当たる生徒を連れてきた。
「あなたがシャーレの方っすね。初めまして、イチカっす。よろしくっす!」
応対に出てくれた生徒の名前を聞いて、あたしは思わず絶句する。
…イチカ?えっ、嘘。イチカってあのイチカ?
はぁ~~見た目が全然違い過ぎてわからんかったわぁ‥‥
向こうは気づいてないけど、まさかこうもガラッと様変わりするなんてねぇ‥‥
「…?どうかしたっすか?」
「ヴェ、マリモ!」
いけないいけない。無様な姿を晒すところであった。それよりも今起こってる状況を把握しなくては。
「それで何が起こってるの?」
「それがっすね‥‥。校内での暴力行為の疑いがある生徒がいるんすけど、立てこもってるみたいで。案内するっす」
イチカに連れられ、あたしは立て篭もり犯がいる現場へとやってきた。
「あっ!イチカ先輩。その方は?」
「シャーレの方っすよ」
「初めまして連邦捜査部シャーレの『黒狐』です」
「こちらこそ初めまして。正義実現委員会1年の静山です」
自己紹介を終えたあたしは再度、現場の状況を尋ねる。
「それで、現場は?」
「現在、立て籠もっているのは2年生の白洲アズサさん。通報があって駆けつけたところ、教材用催涙弾の弾薬倉庫を占拠している状況です」
「かなりの数の催涙弾を爆破させて抵抗してるっすから、被害も甚大っす」
白洲アズサ…確か補習授業部の名簿に名前の記載があったな。
「自警団の方とも連携していますが‥‥」
「状況は芳しくなさそうだな」
「はい‥‥」
話していると、生徒の1人が現場から引き揚げてきた。
「あっ、スズミさん!」
白い髪に特徴的な片翼の生徒、守月スズミ。シャーレ奪還の際、協力した子だ。
「お疲れ様です。マシロさん。‥‥ところで何故貴女がここに居るんです?『黒狐』さん」
あたしに警戒の素振りを見せるスズミ。まぁ、警戒するのも無理はない。
あの場にいた彼女からすれば警戒するなという方が難しい話だ。
「シャーレの要件でいらしてたみたいで偶々来てくれたんす」
「そうでしたか。大変失礼しました」
そういうとスズミはあっさりと警戒を解いた。
話が分かる子でよかった。
それでスズミからも状況を聞くことになった。
「犯人は倉庫に幾つもブービートラップやIED*1を用いた抵抗を行っています。そう、一筋縄ではいかないでしょう」
‥‥なるほどね。いわばゲリラ戦のエキスパートなわけだ。しかもたった一人で大多数を相手にしている。生半可な作戦では捕まえるのは難しいだろう。
にしても、これ以上時間を掛けさせるわけにもいかない。何せ先生や他の補習授業部メンバーが待っているのだ。迷惑を掛ける訳にはいかない。
「うーん…どうするっすかねぇ…ハスミ先輩たちは別件で来るのが遅れるっすし…」
暫し考え込む中、ふと購買で買った商品が目に入る。
その時、サバキに一筋の光明、天啓が下りる。
「あたしにいい考えがある!」
「本当ですか!」
「えっ、マジっすか?」
ふっふっふっ、シンプルだけど人質なしの立て篭もり犯にはあの方法が一番効果的だな。
「それで、その方法というのは?」
「まぁ、見ててくださいな」
正義実現委員会の委員長として培った実力、ここで見せてやろうじゃないの!!
余談
イチカとサバキは過去に面識がある。ただし、そこそこ昔のことで、イチカ本人はサバキの名前や正義実現委員会所属であったことなどは知らない。