B=s様、誤字報告ありがとうございます。
トリニティ総合学園から少し離れた場所にある合宿場。
補習授業部がしばらく世話となる場所だ。
各々が持ってきた荷物を降ろし一息つく。
「ようやく着きましたね、ここが私達の…」
「はい、合宿場です、ふぅ‥‥」
しばらく使われていないと聞かされていたが、全体的にボロボロというわけではなかった。
少々埃が目立つくらいで、これといって古いとは思えなかった。多少掃除すれば過ごすのにちょうど良い場所だろう。
「暫く使われていない別館の建物と聞いていたので、冷たい床に裸になって寝ないといけないのかと思っていましたが……ふふっ、結構広いですし、きちんとしていますし、可愛いベッドもあって何よりです。
これなら皆で寝られそうですね―――裸で♡」
にこやかに言うハナコちゃんにコハルちゃんは顔を真っ赤にする。
「さっきから何でちょいちょい『裸』を強調するの!? それにベッドの数もちゃんとあるんだから、皆で寝る必要ないでしょ!
いつもの調子でコハルちゃんをからかうハナコちゃん。そんな2人を宥めるヒフミちゃん。和やかな雰囲気に微笑ましくしていると、アズサちゃんがいないことに気づく。
「そういえばアズサちゃんは?」
「あら?本当ですね、先ほどまで一緒にいたのですが‥‥」
「どこに行ったんでしょう…」
みんなが心配していると、当の本人は何事もなく戻ってきた。
「偵察完了だ」
「て、偵察‥‥!?」
「トリニティの本校舎から離れているし、流石に狙撃の危険は無さそう。外への入り口が二つだけというのも気に入った。いざという時は、どちらかの入り口を封鎖して、敵を誘導し殲滅できる。いくつかセキュリティの脆弱性も確認できたけど、改修すれば問題ない」
はえーー、すっごい観察眼。参考になるな。流石ゲリラ戦が得意なだけある。
「あの…アズサちゃん、私たちはここに戦いに来たわけではなく、勉強をしに来たんですよ…?」
それはそう。
あの子たちの本懐は勉強、試験合格にある。戦いは二の次だ。
「わかってる。一週間の集中訓練だろう?外出禁止、自由時間皆無、24時間一挙手一投足まで油断できないハードなトレーニング」
「流石に、そこまで厳しくはないと思うよ…」
アズサちゃんの気合の入りようは凄まじく、衛生道具や着替え等合宿の準備は万端に備えてきたようだ。
「流石はアズサちゃん。用意周到ですね」
「当然だ。徹底した準備こそ成功の糸口」
確かに彼女の言う通り。
備えあれば患いなしなんて言葉があるくらいだ。準備を怠れば必ず躓くだろう。
「うふふ。みんなで一緒に食欲を満たし、睡眠欲求を満たし、そしてみんなが欲する目標へと向かって脇目も降らず手を動かす‥‥良いですね、合宿」
「”まさに青春って感じだね”」
「‥‥うん、そうだね。あ、でも任務は確実に遂行する。きちんと勉強して、第2次試験特別学力試験にはどうにか合格する。そのためにここに来たんだ。‥‥迷惑はかけたくない」
そう言ったアズサちゃんだが、一瞬だけいつもの表情とは違った笑顔が見えた気がした。
同時に試験への気持ちも。
「アズサちゃん‥‥」
「大丈夫、万が一の敵襲に備えて対人地雷とクレイモアも用意してきた。あとは即席破壊爆発装置の材料になりそうな物一式と対戦車用の地雷も多少‥‥」
よもや過剰防衛とも呼べそうなほどの物資の数々。何とか使用を避けるよう説得するのであった‥‥
◇◇◇
色々とあったが今後の方針について、再度確認しよう。
第1次試験に落ちてしまった補習授業部の面々は本館にての合宿を行うことになった。第2次試験は1週間後。それまで合宿所で過ごす。
あたしと先生が担当顧問となって補習授業部の合格を支える。
部屋割りについては、補習授業部は相部屋になった。
一方あたしと先生の部屋はそれぞれ個室が割り当てられた。アズサちゃんは一緒の部屋で良いというのだが‥‥
「ダメっ、絶対ダメっ!!同衾とかエッチじゃん!!!死刑!!」
おっと、コハルちゃん?ヒートアップしちゃダメよ?
「えっとコハルちゃん?私、まだ何も言ってませんが‥‥?」
「何を言い出すのか大体分かるわよ!ダメったらダメ!そういうことはさせないんだから!!」
「コハルちゃんは厳しいですねぇ‥‥」
厳しいというよりかは、想像力豊かというべきか。後ハナコさん、貴女も多少要因かと
「私は先生たちもここで一向に構わないけど?ベッドも余ってるし、無理に部屋をいくつも使うこともない」
引き留めてくれるのはありがたいけれど、丁重に断った。
せっかくの合宿なのにあたしや先生がいるんじゃ落ち着けないでしょ?
「”みんなで交流を深めておいて。何かあったら呼んでくれれば”」
「すぐに駆け付けますのでご安心を」
そういって勉強に入ろうとするが‥‥
「勉強の前にやるべきことがあるとは思いませんか?皆さん?」
ハナコちゃんからの提案にみんな首を傾げる。
「敵襲に備えてトラップの設置か?」
「いえ、そうではなく‥‥お掃除、です♡」
「お掃除ですか‥‥?」
ハナコちゃん曰く、管理されていたとはいえこの合宿所は使われ無くなって久しい。埃塗れの環境で勉強するよりも、今日は掃除して環境を整えた方が良いというものであった。
ハナコちゃんの提案にヒフミちゃんたちも賛成。
合宿初日の方針は施設の大掃除となった。
汚れても良い服に着替え10分後の建物の前に集合という形で解散となった。
(‥‥汚れても良い服あったかな。あたし)
◇◇◇
10分後、ヒフミちゃん、コハルちゃん、アズサちゃんは体操服に着替え集まっていた。
「”おお、体操服姿”」
「はい、服装から入るのも大事ですかね。体操着の方が動きやすいですし、汚れた時に洗濯もしやすいですし」
相変わらずアズサちゃんは銃を肌身離さず持っている。もしかして転入前の学校、相当治安悪かったのかな?
「先生はともかく、副先生の恰好‥‥」
あっ、これ?生憎使えるのがインナーしかなくてね。長袖だし安全だと思って
顔を赤らめてるように見えるけど問題ないな、よし!
「お待たせしました、みなさん早かったですね」
そうこうしている内にハナコちゃんが最後にやってきた。
――――学校指定のスク水姿で
「アウトーーーーー!!」
コハルちゃんの甲高い悲鳴が合宿所に響く。
‥‥予想はついてたけど、やると思ってたよ。
「何で掃除するのに水着なの!?馬鹿なの!?バカなんでしょ!?バーカ!!」
「ですが動きやすいですし、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で―――」
「そういう問題じゃなくて!水着はプールで着るものなの!っていうか、誰かに見られたらどうするの!?」
「誰かも何も、ここに私たち以外いませんよ‥‥?」
このままじゃ掃除どころじゃないため、あたしはハナコちゃんに着物の上着をかける。
「水着じゃ身体を崩しやすいわ。それに廃材とかで肌を傷つける可能性もある。だから一旦着替えてきなさい」
そう促されたハナコちゃんは上着を片手に戻っていく。
その後ハナコちゃんはしっかり体操着に着替えて出てきたのであった‥‥
◇◇◇
生い茂った雑草を引っこ抜くところから大掃除は始まった。
全員が一丸となってせっせと雑草を抜いていく。
時折ビニール袋を持ってみんなが抜いた雑草を袋に入れていく。同じように放置されていたガラクタなども分別した後、大掃除を始めて30分経ったころには、合宿所周辺は見違えるように綺麗になった。
周辺を清掃しいよいよ建物の中の掃除を始める。
その前に――――
「みんなー、今日は暑いから水分補給はしっかり取るんだよ!」
クーラーボックスを持ってきて中からキンキンに冷えたペットボトルをみんなに配った。
「わぁ、ありがとうございます」
用意していたペットボトルは好評。みんな喜んでくれた。
全員にいきわたったことを確認した後、施設の掃除を開始した。
◇◇◇
「えっと副先生にはここの清掃をお願いしてもいいでしょうか」
「オッケー!任せて」
コハルちゃんはロビー、アズサちゃんが廊下、ハナコちゃんが宿泊部屋を担当する中あたしは簡易キッチン兼食堂の掃除を任された。
1週間過ごすに当たってこのキッチンの役目は重要だ。ここでみんなが楽しく食事する場所。なら、徹底的に綺麗にせねば。
手始めに食堂全体にたまった埃を払う。砂利や砂は箒と塵取りで取り除き、バケツに水を入れる。雑巾と台拭きを水に濡らして床拭きを始めた。
瞬発力の訓練も兼ねて、クラウチングスタートの態勢を取る。
「1.2.3。‥‥GO!!」
合図と同時に床を駆ける。
まるで風になったみたいに。
テーブルの角をドリフトする勢いで曲がり、間と間を拭いていく。
ゴールし終えた頃には床はピカピカに光っていた。ワックスを塗れば新築といってもいいくらいだ。
キッチンの油汚れは熱湯と洗剤を駆使してきっちり吹き上げる。
「”随分と見違えたね”」
「あっ、先生」
大体の清掃が終わった頃、先生が食堂に訪れていた。
「”居心地がよさそうな食堂になったね”」
「はい!綺麗な場所での食事は最高ですから」
‥‥先生に褒められて、ちょっと嬉しかったのは内緒の話。
◇◇◇
教室や体育館等、大方の清掃を終えた一同は合宿所の出入口に集まっていた。
「”こんなところかな。皆、お疲れ様”」
「すっごい綺麗になった気がする。うん、気持ちいい」
「‥‥悪くない」
「ええ。本当に綺麗になったと思います。お疲れ様でした!」
掃除をやり終えたみんなは笑顔を浮かべている。ただハナコちゃんはそうではないようで
「まだ一か所残ってますよ?」
「あれ、そうでしたっけ?」
この合宿所でまだ綺麗にしていないところがあるのだろうか?ハナコちゃん以外ピンと来なかった。
「はい。屋外プールが♡」
「プール?」
「あっ、そういえば確か‥‥」
「こちらです、付いてきてください」
ハナコに連れられ一同は、屋外プールの前にやってきた。
かなり広そうなプールだが、使われなくなって大分時間が経っているのもありかなり凄惨な状態であった。
浴槽、プールサイドには泥と呼べるのか怪しい程の汚れが付着。タイルもかなり汚くなっている。
「だいぶ大きいな、それに汚れが酷い、どこから取り掛かれば良い物か……。いや、そもそも、補習授業に水泳の科目は無かった筈だけれど」
「試験に関係ないなら、別にこのままでも良いじゃん、掃除する必要ある?」
「――いえいえ、良く考えてみてください、コハルちゃん」
「キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒たち……ほら、楽しくなってきませんか?」
「……? え、何? 分かんない、何か私に分からない高度な話してる?」
「ですが確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると、何だか……こう、もの悲しい気持ちになりますね」
そう言ってヒフミちゃんは、プールをまじまじと見た。これだけ大きなプールが、今ではこの有り様。時の流れは残酷であるというのが伝わってくる。
「このサイズだし、昔はきっと使われていた時期もあったんだろう、元々は、賑やかな声が響き渡っていた場所なのかもしれない
どんなに綺麗なものもこんな風に変わってしまう――『vanitas vanitatum』……それが世界の真実」
プールの現状を見たアズサちゃんが聞きなれない言葉を呟く。
「何?その言葉?」
「古代の言葉ですね、『
……確かに、そうなのかもしれません」
すべて虚しいねぇ…。世の中、虚しいことだらけじゃないと思うよ?楽しいことだってある。それに―――
―――本当に虚しいなら、何も感じなくなるよ。
少し暗い雰囲気になりつつあったのを察してか、ハナコちゃんはとある提案をする。
「……アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん!今から、遊びましょう!」
「ええっ!?」
「今から掃除してプールに水を入れるんです。そして飛び込んだりしましょう!」
明日からは勉強が始まります。もしかしたらこうして遊べるのも最後かもしれません。ですので今のうちに遊んでしまいましょう!さあさあ、濡れてもいい服に着替えてください!プール掃除を始めますよ!!」
ハナコちゃんの熱意に当てられたのか、アズサちゃんもいつもの表情に戻った。
「…うん。たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない
水着の用意はある。直ぐ着替えて来よう」
「あ、待って!!」
「は、早っ!アズサちゃん待ってください!」
ヒフミちゃんとコハルちゃんもアズサちゃんの後を追って合宿所に戻っていく。
「先生方もほらほら!」
「”なんだかハナコの目が怖い‥‥”」
「まぁ、こうなった以上楽しむしかありませんね。あたし、着替えてきます」
「”私は‥‥参加するわけにはいかないから、皆を見守ることにするよ。”」
プールなんて、最後に遊んだのはいつだっただろう。
委員長としての責務を全うするために駆け回っていた毎日。懐かしいなぁ
ツルギちゃんにハスミちゃん、バン、エイキ、ダン。結局、後輩たちとはろくに遊べもしなかった。
それがどうしても心のどこで引っ掛かり続けている。
こうして、補習授業部のみんなと遊べるのも奇跡かもしれない。
なら、その奇跡をあたしは大切にしたい。
「よし、楽しみますか」
あたしは今この一瞬を全力で楽しむことにした。
余談
アリスクの夏イベのストーリーとても良かった!
拙作では会うのはまだまだ先になるけど、サオリたちが前を向いているという事実が嬉しかった。
7囚人のアケミ、あれもう超サイヤ人、もしくは波紋の使いなんよ。片手で戦車や車ひっくり返すとかもはやキン肉マンでも良そうなレベル。