プール掃除をするにあたり、補習授業部とあたしは濡れても良い服装へと着替えた。
あたしは耐水性のインナースーツを着用している。普段着物の下に履いているインナーとは違うものだ。以前ミレニアムに行ったとき、気になって購入したってわけだ。
着心地は可もなく不可もなくってところ。蒸れて気持ち悪いってこともないし、簡易版ウェットスーツといったところか。
他のみんなは、学園指定の水着に着替えていた。
「いいね、全員似合ってる」
「副先生もよく似合ってますよ」
「うわぁ…体のラインが…ぴっちり…」
「どうかしたの、コハルちゃん?」
「な、何でもないから!!」
コハルちゃん、すごい見てたような気がするけど…どうしたのかな?
もしかして19歳だから若作り感が出てた?‥‥そんなわけないよね!
とことでアズサちゃんはあたしの顔をじっと見てるけどどうしたの?
「副先生は、仮面を外さないのか?」
ああ、お面のことね。
「このお面、大事な時以外外れないようになっててね。自分でもそうそう取れないの」
「ええっ!そうだったんですか!!」
そうなんだよー。食事と寝る時以外外れないんだよなぁ、これが。
身バレ防止とはいえゲマトリア製。オーパーツの類でも使ってるのかわからないけど自力じゃ外せなくてね。
幸い呼吸や運動に問題はないからいいけど。
そんなことを話していると、言い出しっぺのハナコちゃんが戻ってきた。
「では、みんなでお掃除を始めましょうか?」
「待て待て待てっ!!」
ハナコちゃんだけ制服姿で来たことに、コハルちゃんは抗議の声を上げた。
「コハルちゃん?どうかしましたか?」
「あんた掃除の時は水着で、どうして今度は制服なの?本当にバカなの!?『濡れても良い服』ってあんたが言ったんじゃん!!」
コハルちゃんからの抗議にハナコちゃんは不思議そうにしていた。
「これが『濡れても良い格好』ですよ?」
「異議あり!!
制服が濡れてもいいの!?それに普通、プールなら水着を着るでしょ!」
興奮気味に捲し立てるコハルちゃんだったが、ハナコちゃんは冷静に、諭すように話し続ける。
「コハルちゃん、これは各々の美学の問題かもしれませんが‥‥」
「え、美学…?」
「水着と制服、どちらが濡れた時に『いい感じ』になると思いますか?
それとあくまで『濡れて良い格好』ですので特に指定はありませんので」
確かに。
ハナコちゃんはあくまで『濡れて良い服、格好』としか言っていない。
水着に着替えてきてとは、指定していない。一種の頓智のようなものだ。
なんて思いながら見ていると、ハナコちゃんは微笑んだ。
「ふふっ、まぁ半分は冗談ですよ。実は制服の下に着ているんです。
この前、お小遣いで買ったビキニの水着♡」
「えっ、えぇ‥‥?」
ネタ晴らしにコハルちゃんは思わず戸惑っていた。
「確かにスクール水着は鉄板ですね。ですが今洗濯中でして‥‥」
「そ、それならしょうがないわね‥‥」
微笑ましいやり取りを経て、いよいよ全員の準備が整った。
「それでは、あらためまして――お掃除、始めましょうか!」
「「「「「おーー!!」」」」
青空の下、ハナコちゃんの元気な宣言と共に掛け声が合宿所に響き渡った。
◇◇◇
「見てください、虹ですよ!虹!」
ホースを持って、無邪気にはしゃぐハナコちゃん。
いたずらでヒフミちゃんに水をかける。
「ひゃっ!ちょっ、ハナコちゃん冷たいですよぉ!」
お返しとばかりに水をハナコちゃんにかけ返す。
「ここの水は自治区の湖から引っ張ってきているので、口に入れても問題ないですよ!」
「どうしてこんなことに…」
呆然としつつもしっかり掃除をこなすコハルちゃん。
「こちらのブロックは完遂。速やかに別ブロックに取り掛かる」
プールの床をブラシがけしながら駆けるアズサちゃん。思い思いに掃除を楽しんでいるようだ。
一方あたしはプールではなく周りのコンクリートに付着した土を箒で払っていた。
そんな中‥‥
「副先生~~!」
突然、ハナコちゃんがあたしを呼んだ。
「呼んだ?」
プールサイドから顔をのぞかせる。すると、持っていたホースから冷たい水をかけられた。
ボボボボボボ!!溺れる!溺れる!!なんてね。
仮面で覆っていた為、顔は濡れることはなかったもののインナーに水がかかりとても冷たい。
「大丈夫ですか!副先生!?」
大丈夫だ、問題ない。ちょっとびっくりしたけど。よーし、それならあたしにだって考えがあるぞ。
別のホースを蛇口にセットし先端に散水ノズルを取り付け、お返しとばかりに水を全員にぶっかける。
「ひゃあっ!もう!何するのよ!!」
「戦闘任務か、よし相手になろう」
アズサちゃんとコハルちゃんも参戦し、みんなでわいわいと掃除しながらの水遊びが始まるのであった…
◇◇◇
掃除が終わり、プールに水を貼り終えた頃にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「水を入れるのには時間が掛かりましたね。すみません失念していました」
「謝ることはないよ、ハナコちゃん。少しだけとはいえ遊べることには変わらないんだから」
ハナコちゃんに返事したあたしは一番にプールに入る。
みんなも後に続いてプールの中に入る。
「そういえば副先生。ずっとその狐面を付けているが、視界とか大丈夫なのか?」
「私もずっと気になってたのよ!副先生、ずっと狐面外してない!」
「副先生の素顔、とっても気になります…!」
あはは…それもそうだよな。
そりゃあ気になっちゃうか、あたしの顔。
ちょっと?3人ともどうしてそんなじりじり近寄って来るの?
「副先生の素顔、見てみたい」
「えッ!あ、アズサちゃん!?」
「というわけで‥‥」
「副先生~~」
「覚悟!!」
「すみません、副先生」
マジかよ…
あたしの狐面を奪い取ろうと仕掛けて来る4人と完全に日が暮れるまでおにごっこに勤しむのであった‥‥
◇◇◇
プール掃除を終えた後、掃除でみんな疲れたこともあり、その日は部屋で解散。
あたしは先生と共に明日以降使う資料を整理していた。
そんな中、ヒフミちゃんが部屋を訪ねてきた。
「その…夜中にすみません‥‥」
「”ヒフミ?どうしたの?”」
どうもあれこれ考えて眠れなくなったため、先生と話しをしたくなったという。
これ、あたしは退席した方がいいか?
「いえ、折角ですので副先生にも聞いて欲しいんです」
そうしてヒフミちゃんと先生から聞かされた話は耳を疑うような内容であった。
「‥‥第三次試験が受からなかったら全員退学!?」
「はいぃぃ…。そうなんです」
んなこと聞かされてないぞ、あたし。
「”ナギサは私だけを呼んでいた”」
なるほど、ナギサさんが先生にだけ打ち明けたと考えると、あたしは警戒されてるって考えるのが妥当か。
まぁ、あたしよく振り返れば要注意人物だしな。
ゲヘナ、ミレニアム、D.U。3つの自治区で噂の悪人狩り『黒狐』。
思い返せば怪しい要素しかないな、あたし。先生の下で働いているとはいえ‥‥素性不明のお面娘。それも7囚人の1人と交友ありなんて、疑いの目が向かない方がおかしいか。
なんて思いつつヒフミちゃんの独白は続く。
ナギサさんが補習授業部を設立した真の狙いはエデン条約締結を阻止せんとする『裏切り者』を見つけ出すこと。
ゲヘナとトリニティ間の友好条約。連邦生徒会主導とはいえ、犬猿の仲であった両校に交友ができるとなると、ティーパーティー側も決してしくじるわけにはいかないわけか。
にしても、ここまでやるとはね…。
そういう性質は昔から変わらないわけか。
仲が良いヒフミちゃんもテスト不受験を理由に叩き込んだということは、彼女も裏切者と思っている節があるということ。
覚悟はしてるだろうけど‥‥ナギサさん、いつか手痛いしっぺ返しを食らうことになるよ?
『疑わしきは罰せよ』その考えは危険な考えだから。
「みんな同じ学校の仲間じゃないですか…今日だってみんなでお掃除して、一緒にご飯を食べて…。これで誰が裏切者を探れなんて、そんな、そんなこと‥‥私には‥‥」
ヒフミちゃんの表情からはいっぱいいっぱいの感情を押しとどめるのに必死なのが伝わってくる。
自らを普通の女子高生とはいうが、性根は優しい子だ。そんな子をこんなごたごたで疲弊させたくはない。
すると先生はヒフミちゃんにやさしく声をかける。
「”ヒフミは優しいね”」
「え、えぇ…!?」
思わず素っ頓狂な声を上げるヒフミちゃんだったが、先生は不安を感じさせない声で宥める。
「”その件、ヒフミは気にしなくていいよ。私に任せて、どうにか解決するから”」
「あたしも手伝います!補習授業部副担任として、放ってはおけませんから!」
声を上げたあたしと先生にヒフミちゃんの表情は穏やかなものになっていく。
「‥‥はい!わかりました!その、私に何ができるのかわかりませんが…ちょっと考えてみようと思います」
「先生方、ありがとうございます!なんだか心が軽くなりました!」
相談前と打って変わって晴れやかな表情でヒフミちゃん部屋を後にするのであった。
◇◇◇
ナギサさんの目的、補習授業部にいる裏切り者とはなんだろうか?
信頼しているからこそ彼女はヒフミちゃんへ打ち明けたのだろうが、成績不振=怪しい人物という式が果たして成り立つのか。
どうもことを急いているように思えてならない。ナギサさんが何故裏切者に固執するのか。わざわざ補習授業部を建前にしているのか。謎はあれど、考察しようにも情報が少なすぎる。
(ナギサさんがこのまま燻ぶっているとは限らない。警戒は怠らないようにしよう)
表面上は優雅なお嬢様学校なトリニティ総合学園。しかしその実態は、陰謀と策謀が水面下で繰り広げられている伏魔殿。上層に近づけば近づくほどその性質色濃く反映されている。
鬼が出るか蛇が出るか。見ものね。
それにしてもダメだ、寝れねぇ。
プールなんて本当に久々だったからなぁ‥‥学生時代中々入れなかったし‥‥
少し夜風に当たるとしますか。
◇◇◇
「あっ、副先生」
「あら、こんばんは」
夜風に当たるため外に出ようとしたら、ロビーにアズサちゃんとハナコちゃんが居た。
「二人ともこんな夜中にどうしたの?それにアズサちゃん、制服まで着て」
「ある程度寝たから見張りでもしようかと」
「私は‥‥少し寝付けなくて」
苦笑するハナコちゃん。それとアズサちゃんの表情はとても寝れた表情には思えなかった。
新しい環境に放り込まれたんだ。そりゃあ慣れるのには時間がかかるというもの。寝付けないのは当然だ。
かといってこのままじゃ明日からの勉強に支障をきたす。
そこであたしは妙案を思い付く。
「2人ともちょっと待ってて」
「はい?」
「うん?」
あたしは合宿所の食堂に行き、備え付け冷蔵庫に入れておいた牛乳を出す。
コップに注いでラップをかけ電子レンジでチン!温まったコップを取り出し、ロビーへと持っていく。
「はいこれ。」
温めた牛乳を待っていた2人に渡す。
「これはなんだ?」
「ホットミルクですね。身体があったまってよく眠れるようになるんです。
栄養もあって身体にもいいんですよ」
そう、眠れないときはホットミルクを飲むに限る。
昔は睡眠不足気味な後輩ちゃんたちによく作ってあげたなぁ‥‥
少々訝しながらもアズサちゃんはホットミルクに口を付ける。
存外美味しかったようで、あっという間に飲み干してしまったようだ。ハナコも冷ましながらホットミルクを飲み干した。
「ごちそうさま。とても美味しかった」
「うふふ。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
ホットミルクを飲んで一息ついたのか、アズサちゃんは銃を持って立ち上がった。
「ホットミルク、どうもありがとう。安心して見張りができそうだ」
どうしても見張りに行くつもりらしい。
正直、1人きりにはさせたくないというのが本音だ。かといってあたしがとやかく言える身ではない。
ここは彼女を信頼するしかない。
「見張りもいいけどほどほどにね。明日から本格的に始まるんだから、勉強に支障をきたさないように」
「ああ、もちろんだ」
「ハナコちゃんも早く寝ること。勉強中寝ることが無いように!」
「は~い」
2人にそう言ってあたしはロビーから去った。
アズサちゃんとハナコちゃんが何を思ってあの場に居たのかはわからない。
けど、それはあの子たちの問題であって私たちが口をはさむわけにはいかない。
少々考えながらも、あたしは自室に戻り、布団を被って眠りにつくのであった。
こうして、大掃除から始まった補修授業部の合宿初日が終わるのであった。
余談
無料10連、今のところピンク封筒でないよー!
アロナ―ー!!お願いだからピックアップ出して!!水着サオリ欲しいよ~~!!