正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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6限目:潜む裏切り

 

 補習授業部副顧問の朝は早い。

 

 他のみんなが朝の支度を終える前に、今日の授業の準備を終えなくてはならないからだ。

 

身支度を整えていると携帯の通知が鳴る。

 

「ん?なんだろう」

 

先生からの連絡であった。以前会ったミカさんがあたしと先生に会いたいらしい。確かエデン条約だったか。その条約締結日が近づいているためティーパーティーはかなり緊迫した状況だったはず。連絡をくれたミカさんもパテル分派のリーダーなはずだ

 

(あたしと先生に何の用だろう?)

 

 少し考えながらも、身支度を進める。

 授業と教室のセッティングを終えたら向かうと返信し、用意を済ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

ミカさんから指定された場所は、合宿初日に掃除したプールサイドだった。

 

「わぁっ、水が入ってるー!ここに水が入ってるなんて久しぶりに見たなぁーもしかしてこれから泳ぐの?皆でプールパーティー?」

 

「プールパーティはまだ後ですね。おはようございます、ミカさん」

 

「”おはよう、ミカ。待たせてごめんね”」

 

「ううん、私も今来たところだよ☆おはよう先生、狐さん」

 

 親しげに微笑みながらミカさんは挨拶を返す。

 

「”それで用件って?”」

 

「えへへ…先生たち、上手くやってるかな、って思って」

 

なるほど。あくまで興味本位ってことか。

 

気さくな態度でミカは話を続ける。

 

「にしてもナギちゃん、ずいぶんと入れ込んでるみたいだね。わざわざ施設まで手配しちゃって」

 

「おかげさまで、皆勉強に身が入ってくれていますよ」

 

掃除にプール遊びとレクリエーションの時間が取れたおかげで補習授業部間での交流が深まった。

 にしても前置きが長いの代替わりしても変わらずか。

 

 「‥‥あはっ。もしかして私、警戒されてない感じ?てっきり、警戒されてると思ってんだけどなー」

 

 気がかりなことはあるけれど、下手に警戒心を露わにすれば勘繰られる恐れもある。だからこそ、友好的意思を見せるのがベストなのだ。

 

 「そうなんですか?特に警戒する理由もないと思っていましたので。それよりも本題があるんですよね?」

 

 「ふふ。‥‥ごめんね、先生も狐さんも長い前置きはお好みじゃなかったかな。それじゃ、あたらめて本題に移ろっか」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 アイスブレイクを終えたミカさんは先生に問いかける。

 

「先生。ナギちゃんから取引を持ち掛けられなかった?例えば…『トリニティの裏切り者』を探して欲しいとか」

 

 ド直球に聞いてきたな。『トリニティの裏切り者』について尋ねるあたり、情報共有はされているとみえる。

 先生は沈黙で返しているけど、ミカさんも察しがついているのだろう。ため息交じりに話し始める。

 

 「はぁ、やっぱり。思ってた通りなんだから。…詳しい情報もなしに?ただ「探して」ってナギちゃんに頼まれたの?

  補習授業部の構成メンバーについてだったり、理由だったり、色々教えてもらえなかった感じ?」

 

 さぁ~、何のことだかさっぱり(すっとぼけ)。

 

  「…そっかー、もう、何も言わずに先生にこんな重荷を背負わせるだなんて…」

 

 おっと、勘違いさせてしまったみたいだ。

 

 あたしはナギサさんには呼ばれなかったから、取引の詳細は先生にしかわからない。

 けど、先生がナギサさんへなんて返したか想像に難くない。

 

 「”その提案なら断ったよ”」

 

 「へぇ?それは、自分の生徒達を疑いたくないから?」

 

 先生からの返答にミカさんはその理由を尋ねる。

 

 「”それは私の役目とは違うと思って”」

 

 「へぇ…面白い答えだね。私たちにとっては「トリニティ」が中心みたいだったから、ちょっと新鮮かも。

  いじわるな質問だけど、先生は誰の味方?もしかしたら、誰の味方でもない…みたいな?」

 

 「”私は生徒の味方だよ”」

 

 

 ミカさんからの問いに先生ははっきりと言い切る。

 

 「…わーお。生徒の味方かぁ…それはちょっと予想外だったなぁ…。そっか、それもそうだよね」

 

 戸惑ったような様子ながらもミカさんは先生に聞く。

 

「えっと‥‥一応、生徒会長だけど、私も生徒なわけだから、先生は私の味方でもあるって考えてもいいのかな…?」

 

 「”もちろん、ミカの味方でもあるよ”」

 

 自然に言いきっちゃったよ。流石、先生。

 

 「わーお…さらっとすごいこと言ってのけるね、先生。そういう話術…なのかもしれないけど、うん、純粋に、嬉しかったかも」

 

 「すごいでしょう。これが先生なんですよ」

 

 何せ、警戒心バチバチだった生徒の心も解かす実績ありだからな。

 自分のことのように思っているとミカさんから話を振られる。

 

 「狐さんも先生のことすごい信頼しているんだね」

 

 「ええ。シャーレ創立時からの付き合いですから」

 

 「へぇ‥‥そうなんだ」

 

 

 

 

 

 「先生の言葉は嬉しかった。でも、その言葉を額面通りに受け取るのはちょっと難しいかな~。それって同時に誰の味方でもないって解釈もできるし」

 

 確かに。言葉が真実である証明は、あくまで先生の信用があってこそ。会ったばかりのミカさんが信頼しきれないも無理はない。

 

 「だからそのまま受け取るんじゃなくて、私から先生に取引を提案させて貰おうかな」

 

 するとミカさんは、思いがけないことを話し出す。

 

 

  「トリニティの裏切り者が、誰なのか教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

『トリニティの裏切者』

 

 ナギサさんが補習授業部の設立した最大の要因でもある。エデン条約締結の妨害を目的としているらしいが、詳しいことは未だはっきりとしていない。

 それをミカさんが知っているというのだ。

 

 「色々と複雑な事情があったりするんだけど…補習授業部の顧問に先生を呼んだのは私なの。狐さんにテストを送ったのも私」

 

 「”ミカが‥‥?”」

 

 あっ、そうだったんだ。てっきりナギサさんかと。

 

 「それにナギちゃんに振り回されてる姿を見てるのは、何か申し訳ないなって」

 

 ミカさんが言うにはナギサさんと色々あったらしい。第3の立場の人物が欲しかったことやトリニティへの借り(ホシノちゃん奪還の手助け)等。

 

 「あっ、ごめんね。『裏切者』の話だったね」

 

 

 「トリニティの裏切り者。それは……白洲…アズサ」

 

 

 ミカさんからの告白に少なからずあたしや先生は衝撃を受けた。

 補習授業部に馴染み、みんなと切磋琢磨しているアズサちゃんが裏切者とは受け入れがたかったから。

 だが、まったくのでたらめだと言い切ることもできなかった。

 

 「知っているかもしれないけど、あの子は元々トリニティに居た子じゃないの。

  随分前にトリニティから分かれた、分派。『アリウス分校』ってところから来た子なの」

 

 アリウス…。昔、図書委員長から聞いたことがある。確か歴史の闇に消えた幻の分派って話だったな。

 今や証明するものが無くて都市伝説、もしくはオカルト話に近かったが。

 

 「”それを私たちに教える理由は何?”」

 

 問いかける先生の表情をミカさんは品定めするかのように見つめる。

 

 「…ふふ。いい眼だね。本当に期待できそう」

 

 裏切者が本当にアズサちゃんなら、何故それを知っているミカさんはナギサさんに教えない?

 成績不振という理由はあるだろうが、少なくともナギサさんが抱えている問題は解決するだろうに。

 

ミカさんの考えが読めない。

 

 「端的に言わせてもらうとね。あの子(白洲アズサ)を、守ってあげて欲しいの」

 

 

 どうも、事はあたしの想像よりもはるかに複雑そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 トリニティ総合学園は古くからキヴォトスに存在する学校である。中でも屈指のお嬢様学園であり、マンモス校。ゲヘナ、ミレニアムと次いで3大校とも呼ばれる。

 

 前に言った通り、歴史あるトリニティには多くの分派が存在している。中でも代表的なのがパテル、フィリウス、サンクトゥスの3つ。この3分派が中心になってトリニティを治めている。

 

 ただ、トリニティも始めから仲が良かったわけではない。過去には権力を巡って紛争を繰り返していた時代があった。だが、途方もない戦いに嫌気がさしたのか和平を望む声が多く上がった。1つの学園としていこうという動きになり、そんな話をしたのが『第一回公会議』である。

 

 公会議を経て生まれたのが今のトリニティ総合学園に繋がるというわけだ

 

 

 元と言えどあたしもトリニティ生。歴史学で教わったことがあったから良く知っている。しかし、ミカさんが言うには円満な解決とはいかなかったようだ。

 

 多くの学園が賛同する中、ただ1つ反対の声を上げる学園がいた。それは『アリウス』。今のトリニティと何ら変わらない組織であったみたいようだ。しかし連合に反対したアリウスと争いに発展し、トリニティはアリウスを徹底的に弾圧した。

 

 出る杭は打たれる、とはよく言ったもの。

 

 1つの集合体として形成されつつあったトリニティに反旗を翻したアリウスを連合が見逃すはずもなく。

 見せしめとばかりに潰されたとミカさんは語った。

 

 トリニティ自治区からも追放され、具体的な詳細も不明。あたしの在学時でさえ、アリウスの存在は都市伝説やオカルト話でしか伝わっていない。そんなアリウス分校がアズサちゃんの出身校なのだという。

 

 また『エデン条約』は第一回公会議の再現なのだという。

 ゲヘナとトリニティが仲良しこよし手を繋ごうという条約だが、実態はゲヘナ・トリニティ連合の結成。

 

 ミカさんが懸念しているのは、武力同盟の結成を連邦生徒会長がいない状況下で行って何をしようとしているのか?ということだ。かつてのトリニティがアリウスにしたことをナギサさんが繰り返そうとしているのではないかと考えているようだ。

 

 「あるいはもしかしたら…セイアちゃんみたいに‥‥」

 

 そういえば、ティーパーティーの長は本来3人の筈。ナギサさん、ミカさんのほかにいる筈。そのセイアさんとはこれまで顔すら合わせていない。

 

 「”セイアに何かあったの?”」

 

 セイアさんのことを尋ねるとミカさんは複雑そうな表情をする。

 

 「…‥前に話した通りだよ。セイアちゃんは入院中なの」

 

 「先生は、本当に知りたい?この話をしたらもう私は戻れない」

 

 ミカさんの口振りから、セイアさんのことはトップシークレットのことに感じる。何か、後には引けなくなる恐怖が。

 

 「もし、この先の事実を知った先生がわたしのことを裏切ったら、きっともう終わりだろうね。狐さんも同じ。それでも知りたい?」

 

 「”裏切るつもりなんて――”」

 

 「‥‥ううん、でも大丈夫だもんね。さっき、先生は私の味方って言ってくれたもん。狐さんだって先生を信頼してるし、味方も同然だよね。」

 

 あたしと先生を信用してくれたのか、ミカさんは意を決して話してくれた。

 

 

 「セイアちゃんは入院したんじゃない。

 

 

 

 

 ヘイローを壊されたの

 

 

 「‥‥‥ッ!」

 

 「…そんなッ!」

 

 

 

 

 ヘイローはあたしたち生徒にとって重要なもの。ヘイローが無くてはあたしたち生徒は生きられない。

 そのヘイローが破壊されるなんて‥‥!

 

 名目上セイアさんは入院中ではあるものの、ヘイローを破壊され既に亡くなっている。ティーパーティー以外誰も知らないことだという。破壊されたのも去年の話だというのだから衝撃を受ける。

 

 犯人もわからない状況で、物的証拠も証人もいない為、捜査は難航しているらしい。

 さらにミカさんの告白は続く。

 

 「『白洲アズサ』…あの子を転校させたのは私なの」

 

 「”ミカが?”」

 

 「うん、ナギちゃんには内緒でね。生徒名簿とかそういう書類を全部捏造してあの子を入学させた」

 

 まさか、モモイちゃんと同じ手口使ってたとは。いや、生徒会長の立場にいる人間の方がリスクも少なく済むだろう。

 

 ミカさんがアズサちゃんを転校させた目的。『アリウス』との和解。過去の憎しみから逃れられないアリウスを助け仲良くしたい。それがミカさんの本音であった。政治的理由で反対されたそうだが、彼女の言い分にまったく悪いとは言えない。彼女の優しさが見えた気がした。

 

 トリニティとアリウスの和解。アズサちゃんはその象徴。

 

 エデン条約を締結する前にアリウスと仲良くしたかった、のだと。

 

 そしてミカさんは補習授業部に集められた子たちについて教えてくれた。

 

 補習授業部メンバーはナギサさんが疑っている子であると。

 

 ハナコちゃんは成績優秀であったのにも関わらある時を境に奇行に走り出した。

 

 コハルちゃんはハスミちゃんたち正義実現委員会への牽制。ゲヘナへの悪感情があったと噂されている。

 ハスミちゃんに限ってそんなことはないはずだ。だってあたしの自慢の後輩だから。いくら憎くても人ではなく罪を憎め。そう教えてきた。

 

 ヒフミちゃんはブラックマーケットへの出入りや犯罪集団との関わりで疑われてしまったらしい。

 ブラックマーケットはともかく、犯罪集団について‥‥‥その節は本当にすみませんでした。

 

 そういった経緯がありナギサさんは裏切り者を探っているという。

 

 やっぱり、政治的な策謀が絡み合っていた。あたしがいた頃よりもより複雑で、根の深い話だ。

 

 先生は話を聞いてもミカさんの身を心配していた。

 政治に身を置くミカさんを気遣っているんだと思う。相変わらず優しい人だ。

 

 

 

◇◇◇

 

別れる前にミカさんがこんな話もしてくれた

 

「あっ!そうそう。夏が近いからかな、最近変な噂が出回ってるんだよね」

 

「”変な噂?”」

 

「学校に幽霊が出るって噂。トリニティも歴史ある学園とはいえ、幽霊の話なんて初めて聞いたからさ

 おかげでただでさえ神経質になってるのに、ナギちゃん余計にピリピリしちゃって‥‥もういい迷惑だと思わない?」

 

確かに幽霊なんて噂、今まで聞いたことなんてなかったな。

 

「それってどんな話なんですか?」

 

「う~ん‥‥私も詳しいことはわからないけど‥‥その昔、迷子になって学園からも見捨てられた生徒が今もトリニティを彷徨ってるって」

 

 へぇ~~ありきたりだけど、ありえそうな怪談話だ。

 

 「本当かどうかはわからないけど、いい話のネタにはなるんじゃない?それに先生には狐さんがいるんだし、幽霊なんてやっつけられるでしょ」

 

 確かに。あたしの『天極』と『地獄』で浄化させてやんよ!

 

 なんて、思っているとミカさんが不思議そうにあたしのホルスターにある『天極』と『地獄』を見つめていた。

 

 「…どうかなさいましたか?」

 

 「‥‥‥ちょっと気になっちゃって。ごめんね」

 

 「いえいえ、良かったら見てみます?」

 

 「良いの?」

 

 「ええ。変哲もない銃ですが」

 

 「わーい!ありがとう」

 

 『天極』と『地獄』をミカさんはまじまじと眺めている。

 

 「へぇ‥‥‥」

 

 少しの間銃を眺めたミカさんはあたしに『天極』と『地獄』を返却した。

 

 「ありがとう、狐さん!あっ、そろそろ戻らないと‥‥‥。今日は楽しかったよ。じゃ、またね。先生。狐さん」

 

 そういってミカさんはトリニティの校舎へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 ミカさんを見送った後、あたしと先生は合宿所へと戻っていた。

 

 けど、どうもあたしは何か妙に思えて仕方がない。ナギサさんの真意をミカさんは伝えに来た。それは確かだろう。

 しかし、わざわざアズサちゃんをアリウスから招いたことを明かす必要があったのか?それに彼女は度々味方というワードを気にかけていた。アリウスとの和解を目指しているようだが、それとは別に何か急いでいるように気がしてならない。エデン条約締結まで時間がないことはわかったが、ミカさん1人でナギサさんを説得するつもりなのだろうか?

 

 それに‥‥あたしの銃を見せた時のミカさん。かすかに笑ってたような‥‥

 

 気のせいか…?

 

 

 今はともかく補習授業部のみんなを合格させるために、急いで合宿場へと戻っていった。

 

 




余談
・先々代図書委員長(本作オリジナル生徒)
 だいのオカルト好きで都市伝説や伝承、歴史の本を読み漁っている。そのおかげか歴史学やオカルトの類に強く、度々出土不明の本を調達している。また、オカルト好きが行き過ぎてシスターフッドに締められそうになったという話も聞く
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