一夜明け迎えた朝の天気は、あいにくの雨。しかも合宿場の窓に強く打ち付ける程の大雨だ。
いや、雨っていうレベルじゃねえぞこれ!!もう台風だよ、これ。雷だって降ってるし。寝る前に天気予報、見とけばよかった。
ん?寝る前……しまった!洗濯物!!
さっと上着を羽織り、大急ぎで洗濯物が干してある場所へと向かった。
案の定、干してあった洗濯物は軒並み全滅。泥や葉っぱも付着し、洗濯し直さなければならないほどに汚れてしまっていた。
「…ひぃん。やっぱりかぁ…」
あたしが黙々と洗濯物を取り込んでいると。
「副先生、遅くなってすみません!」
起床したヒフミちゃんたちが駆けつけてくれた。
全員大雨でびしょ濡れになりながらもなんとか洗濯物を取り込んだ。
「つい、失念してしていました…私がみんな一緒にと言い出したせいです」
「いやハナコのせいじゃない。もう一度洗濯すればいいし、着替えだってまだあるはず。気に病む必要はない」
「そうよ。この時期は天候が変わりやすいから、こんな時もある」
「‥‥ありがとうございます。そうですね、早く髪も乾かさないと」
しかし、ここで問題が発生。ヒフミちゃんの着替えが無くなってしまったのである。予備の方も全滅してしまい、下着で過ごすほかない状況になってしまった。
さらに不幸は重なるもので、雷が落ちたと同時に合宿場の電源が落ちた。加えて
「て、停電でしょうか…?」
「…悪い知らせだ。洗濯機が止まった。蓋も開かない。非常に困った」
「…!?」
合宿場とはいえ、そう何年も使っていなかったのだ。落雷で停電が起きてもおかしくはなかった。
「あらあら、どうしましょう…」
仕方ない。確かあたしの部屋に予備のバスタオルがあったはず。皆にはそれを羽織ってもらうか。そう思い、みんなを連れてあたしの部屋に向かう。けれど2度あることは3度あるといったもの。あたしも例外ではなかった。
「すまない、副先生」
ん?どうしたのアズサちゃん
「副先生の部屋、水が流れてないか?」
まっさかあ~~そんなわけなっ―――
部屋のドアを開けた先では凄惨な光景が待ち構えていた。
天井からは何か所から雨漏りしており、雫が床やベッドに滴っている。さらに衣服を入れていたクローゼットにも雨漏りは浸食しており、予備の着物が台無しになっていた。
「ホワァァァァァ!!!!!」
「ふ、副先生!?」
「”黒狐!?”」
「副先生のあんな声初めて聞きました…」
服があああ、服が全滅してるぅぅぅぅ!!どうしよう、背中見られちまう!!
雨が収まったら掃除するとして。背中の羽を見られるのは非常にまずい!!あたしがトリニティの人間だって勘繰られてしまう!
慌てふためくあたしを余所にハナコちゃんはとある考えを出す。
「でしたら、こういうのはいかがでしょう?」
◇◇◇
「では、第1回補習授業部の水着パーティーを始めます」
どうして‥‥あたしも参加させられるんですか…
激しい雨と落雷が続く中、薄暗い体育館ではハナコちゃん主催の水着パーティーが行われることになった。
何故、あたしも参加させられているのかというとプール遊びで着たインナースーツが唯一無事だったからである。ただ、インナーだけではエッチだとコハルちゃんに窘められてしまったので、ハナコちゃんの悪知恵が発動。インナースーツの上にハナコちゃんが持っていた予備の水着を着る羽目になった。サイズは問題ないんだが…これはこれでエッチなのでは?あたしは訝しんだ。
あたしこれでも19歳よ?年長がインナースク水って、いやーきついでしょ…
「わぁ……‥ぁ…」
ああ、コハルちゃんキャパオーバーしちゃってるよ。
「…ごくっ」
ヒフミちゃん、あんまり見つめないでぇ…恥ずかしいから///
お面が無事でよかった。こんな顔見せられないよぉ…顔真っ赤だもん//
「ふむ。中々様になってるぞ、副先生」
あはは…アズサちゃんは純真でいいわねぇ(遠い目)
「うふふ。お似合いですよ」
後で正座だからね、ハナコちゃん。アズサちゃんとヒフミちゃんまで巻き込んで着替えさせようとしてきて…
3対1じゃあどうしようもないでしょう!!
そんなこんなで授業もできないことから、交流を深める意味合いも込めてパーティーは始まった。
「私、こういうこと、すっごくしてみたかったんですよね。なのでちょっとテンションが上がっていると言いますか…」
「”ハナコ、本当に楽しそうだね”」
頼むからスーパーハイテンションにだけはならんといてくださいね?
「私もこういった時間が楽しく思える。補習授業部に入ってから全部が楽しいんだ。学ぶことも遊ぶことも、全て。知らなかったことを知れるのはとても楽しい」
アズサちゃんが楽しんでもらえているようでなにより。ならもっと楽しんでもらわないと。
そう思いあたしはトランプを取り出す。
「みなさん、トランプしません?」
「いいですね!折角ですし、やりましょう!」
「そうですね、いいと思います」
結構乗り気でよかった。
「すまない、副先生。トランプというのは何?」
そういえば、アズサちゃんは知らないのか。トランプってのは簡単で奥が深いカードを使ったゲームなんだ。
「詳しいルールは私が教えて差し上げますね。実際にやってみましょう」
先生も参加し、こうして水着パーティーのゲーム大会、幕開けである。
◇◇◇
「皆には悪いけど、いけぇ!『革命』!!」
「ふふ。『革命返し』です♡」
「えっと、これは『Jバック』でしょうか」
「やった!♧縛り!!」
「ここで仕掛ける!『8切り』からの3が2枚で上がりだ!!」
な、なんだって――!?
「私も上がりです!」
「”こっちも上がったよ”」
「私も上がれたわ!」
おぅ…残すはハナコちゃんだけか…でもこの調子なら次の番で
「『8切り』からのA・K・Q・Jの『階段』です♡」
ホワァァァァァ!!!
ま、負けたぁ…というかアズサちゃんの成長スピードが速すぎる!ハナコちゃん、何を吹き込んだの?
おのーれぇー…だったら次は‥‥
続いてあたしが出したのは対戦用の玩具『バトル・ドーン』
ツクダニオリジンから販売された。相手のゴールにシュー、超☆エキサイティング!する3Dアクションゲームである。まさか体育館の倉庫に置いてあるとは思いもよらなかったが。
レバーを使いボールを打ち出すシンプルなものだから、誰でも簡単に熱中できる。
「そ、それはバトルドーン…!何故、それがここに!?」
「体育倉庫でにあったのよ。次はこれで勝負といきましょう」
これはちょっと自信あるぞ。何せ練習してたからな。見てろよぉ…
◇◇◇
…また負けた‥‥
まさか集中砲火されるとは…完敗だ…
途中からハナコちゃん、テンション上がり過ぎて超☆エキサイティング!!とか言い出した時はびっくりしたよ。コハルちゃんもマジで驚いた顔してたからね。カメラで撮ればよかった。
けどなんだかんだいって楽しめた。みんなも同じようでアズサちゃんもずっと笑いっぱなしだった。それだけでもやる価値はあったと思う。
それからというもの談笑は進んでいく
トリニティの水族館に世にも珍しいゴールドマグロが展示された話。
閉ざされた遊園地でアトラクションが動いている話など、気になる話題でいっぱいだった。まさか覆面水着団の話題も出るとは思わなかったが。
しかしアズサちゃんが海に行ったことがないのは驚いた。しかも一回も。よほど転校前の学校は僻地にあったのだろうか?それとも校則が厳しかったのか?
かくいうあたしも1年生の頃以来行ってないんだけどね!
「それとですね。今の季節、出るらしいんですよ。幽霊が」
「そ、そんなの出るわけないじゃん!嘘に決まってる!」
「あ、あはは…」
楽しい話を続けるうちにハナコちゃんはアズサちゃんに話しかける。
「アズサちゃんは夜、きちんと眠った方が良いと思いますよ?」
「…うん。今朝は寝坊して迷惑を掛けてしまった」
寝坊してたんだ。アズサちゃんにしては珍しい。
「慣れない場所で寝坊なんて、これまでほとんどなかったのに…ここはもう『慣れない場所』じゃないからかもしれないな」
きっとアズサちゃんにとって補修授業部は心から安心できる場所なんだろう。
「それはそれとしてちゃんと寝るように。見張りも程ほどにね」
「”ハナコ、アズサのことすごく心配してたよ”」
「そうなのか…ごめん。実は見張りは言い訳で…ブービートラップとかを設置していたんだ」
もしかしてマリーさんの時のアレ?
「どうしてそんなことを?」
アズサちゃんが言うには悪意を持って侵入しようとするルートのみ設置しているらしい。けれどマリーさんの件もあるから程度を低くするように釘をさしておく
「…そうだったんですね、それならそれで、教えてくれると嬉しいです。どうしても…心配しちゃいますから」
「…そうか、うん。これからは気をつける。私のせいで、皆が被害を受けるのは望む所じゃないから」
「”アズサは優しいね”」
「なっ…子ども扱いしないで、先生!」
照れ隠しから一転しアズサちゃんはうつむき気味に話を続ける。
「だってこの世界は…全てが無意味で虚しいものだ。だからもしかしたら…私は…いつか…裏切ってしまうかもしれない。皆のことを、その心を、その信頼を…」
それでも諦めるつもりはないんでしょ?
どんなに世界が虚しくても、その優しさがあれば虚しさに心を奪われることはないはずだから
なんて思っていると体育館の照明が戻り、辺りを照らす。
大雨も雷も過ぎ去り、小鳥のさえずりも聞こえる。
「それでは第1回水着パーティーはお開きですね」
「2回目、楽しみにしてる」
「2回目とかないから!こんなの最初で最後なんだから!」
こうして水着パーティーは閉幕を迎えた。
再度洗濯を行い、全員の服が乾く頃には辺りは、すっかり1日が終わろうとしていた――――
◇◇◇
「いいえ!まだです!このまま1日が終わりだなんてそんな勿体無いことはさせません!!!」
突如ハナコちゃんが納得できないとばかりに話し始めた。
「突然の事でしたが、せっかくのお休みじゃないですか。皆裸で交わったのにこのままはいおやすみなさいだなんて───」
あれ、あたしら…裸だったっけ?
「副先生、しっかりして!ハナコ!勝手に記憶を捏造しないで!」
「それはともかく、このまま寝てしまうのは勿体無いです。まだ火照っているといいますか、物足りないといいますか…」
でしょうね。あれだけ盛り上がっといて、熱が冷めないのは当然のこと。今日は丸一日中に居たんだ。折角だから外に出たいと思うのも仕方ないことだ。
「具体的には?」
ハナコちゃんの提案にアズサちゃんは興味津々のようだ。
「うふふっ、こっそり合宿場を抜け出す。これも醍醐味だと思いませんか?さぁ!皆で合宿場を抜け出してお散歩しましょう!トリニティの商店街には24時間営業の店も多いです。食べ歩きやショッピングもできちゃいます!」
すっかり目をキラキラさせちゃって。本当にやってみたかったんだね、ハナコちゃん。
「そんなに校則違反じゃん!ダメ!」
それはそう。
「細かいことはわかりませんが、こっそりやってる人多いと思います。意外と皆さんやってますよ?そういう人、周りに居ません?ヒフミちゃん」
「あ、あはは…そ、そうですね…」
まぁ、本来立ち入り禁止のブラックマーケットに立ち入ってるくらいだもんな、ヒフミちゃん。
ペロロの為とはいえ、行動力はすごい。おかげで闇金と不良の癒着にも気づけたからな。あの時はありがとう。
「そこまで遠いわけではありませんし、どうですか?楽しそうだと思いませんか?コハルちゃん」
「えっ…と…きょ、興味はあるけど…」
ちょっと葛藤しているものの、素直に打ち明けてくれるあたり、コハルちゃんも合宿で成長しているのだろう。
初期のつんけん振りとは大違いである。多分ハスミちゃんの前だから見栄を張っていたのかな。
「ちょっと行って戻って来るだけですから、大丈夫です。良いでしょうか先生方?」
「”楽しそうだね、行こうか”」
先生も生徒が楽しめるならと存外乗り気の様子だ。
「え、良いの!?」
みんないつも頑張ってるし、ご褒美兼発破をかける意味を込めて連れていっても罰は当たらないだろう。
「準備はできた。今すぐ出発しよう!」
話してる間にアズサちゃんは、制服に着替え終えていた。
「さぁ、皆さんも着替えて夜の街に繰り出しましょう!!」
支度を整え、制服に着替えた補習授業部を連れあたしたちは夜のトリニティへと向かうのであった…
余談:今回出てきた物
●『バトルドーン』
ツクダニオリジンから発売された3Dアクションゲーム。通常版は3~4人用だが、拡張版では最大6人までのマルチプレイが可能となった。
レトロ品に片足を突っ込んでいるゲームである為、買おうとするとそこそこ値が張る。何故合宿場の体育倉庫にあったかは不明。置き忘れたのだろうか。
販売当時はキヴォトス全土で超☆エキサイティングブームを巻き起こした。
元ネタはツクダオリジナルからの『アメリカン・バトルドーム』
●トランプ
誰もが知っているカードゲーム。4つのスート、各スート3枚ずつあるカードとジョーカーを組み合わせ様々なルールで遊ぶ。『ババ抜き』『大富豪』『ポーカー』など多岐にわたる。
特に大富豪には定番ルールやローカルルールがあり、今回は8切り、しばり、革命、Jバックを採用した。
読者のみなさんはどんなルールでしたか?。