正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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10限目:求める美食

 美食研究会を捕まえるべく、あたしたちは夜の町を駆ける。

 

 人通りが多かった中央通りは、爆発で大荒れ。いくつかのお店も火事で燃え上っていた。

 

 

 「これまた派手にやってんね」

 

 「感心してる場合じゃないわよ!早く止めないと」

 

 おっとそうでした。美食研究会の連中をとっ捕まえて、ゴールドマグロを取り返さなければ。

 

 「先生、副先生。対象を確認した。あの4人…いや5人組か?」

 

 「4人組で間違いないわ。後の1人は被害者だから、手荒にしないように」

 

 大方今回も美食研究会に拉致されたのだろう。毎度ながら気の毒ね。

 今度、お見舞いの品でも持っていこうかな。

 

 「”フウカにはお世話になってるし、助けてあげないとね”」

 

 先生もお知り合いでしたか。なら、なおさら気合が入るってものだ。

 

 「”黒狐、最前線を頼めるかい?”」

 

 もちろんさー!

 

 先生の指示により、あたしとヒフミちゃん、アズサちゃんが前衛を、コハルちゃん、ハナコちゃんが支援を担当することになった。

 

 ハスミちゃんも後方からの火力支援でアシストしてくれるようだ。

 

 

 「う、うわああっ!?ちょっとハルナ!正義実現委員会の他に黒狐だっているじゃん!どうするの!!」

 

 「黒狐さんがいるとなると…少々まずいことになったかもしれませんね」

 

 「シャーレの先生も来てるみたいですし、正義実現委員会より厄介かもですよ?」

 

 「それよりさ~いつマグロ食べられるの?さっきから全身でどつかれて痛いんだけどぉ!いい加減、お腹すいたぁ!」

 

 彼女たちがもたついている間に補習授業部が追い付いた。

 

 ドーモ。美食研究会=サン。黒狐です。

 

 「アイエエエ!黒狐さん!?」

 

 「ドーモ。お久しぶりですわ、黒狐=サン」

 

 民衆が寝静まる夜更け、トリニティ自治区は戦いの開始点と化す。

 

 「一応聞くけどそのゴールドマグロ、返してくれないかな?」

 

 此処で返してくれれば荒事にはならないんだけどねぇ…

 

 「ふふふ。丁重にお断りしますわ。せっかく手に入れた伝説のマグロ。食べねば美食の名が泣きましてよ!」

 

 しってた。そりゃあ、そうだわな。

 元から大人しく返してもらえるとは、思ってないわな。

 

 「それでは皆さん。早く帰って、フウカさんの料理をいただくとしましょう」

 

 「賛成です。鮮度が落ちる前に包囲網を突破、ですね☆」

 

 「本当にやる気!?」

 

 「マぁグぅロぉぉぉ!!」

 

 「んんっ!んんんん――――!!」

 

 リーダー格であるハルナさんの号令で、美食研究会は一斉に戦闘態勢に入る。

 

 相手は4人。数的有利はとっているが、人質とゴールドマグロを無事に確保しなければならない。そうなると、まずは連中の目的であったゴールドマグロを取り返すのが有効だな。

 

 「うわぁぁ!来たよ!!」

 

 マグロを持っているのは確か…あの巻き角のゲヘナ生、イズミちゃんだったか。彼女に狙いを絞る。

 しかし向こう側も戦い慣れてるためか、マグロを死守せんと立ちはだかる。

 

 「ホッカホカの榴弾はいかがですか?今ならおかわりもありますよ」

 

 アカリさんのグレネードランチャーがハスミちゃん、コハルちゃんのいる後衛へ向けて放たれる。

 

 「いや結構。暖かいのならスープで間に合ってる」

 

 榴弾の側面を速やかに美食研究会へと蹴り返す。

 榴弾が着弾したおかげで、煙が煙幕の代わりとなって周囲を覆い隠す。その隙にハスミちゃんの狙撃がイズミちゃんの腕に命中、ゴールドマグロが空中を舞った。

 

 「あっ!マグロが!!」

 

 空飛ぶマグロであったが、先生の指示で降下地点には既にアズサちゃんが待機しており、見事キャッチしてくれた。

 

 「先生、副先生。無事、第一目標を確保。元気ピンピンだ」

 

 「了解。よくやったわアズサちゃん」

 

 てか水中から取り出されて長いけど良く生きてたなぁ…『伝説のマグロ』は伊達じゃないってか。

 

 マグロを奪い返された美食研究会は再び取り戻すべく、猛攻を仕掛ける。

 ジュンコちゃんの2丁アサルトライフルが火を噴き、周りの遮蔽物が壊されてしまう。

 遮蔽物を失ったハスミちゃんに再び銃が向けられるが…

 

 「コハルちゃん、今です!」

 

 「わかってるわよ!」

 

 ハナコちゃんの合図でコハルちゃんの手榴弾が投擲、動きを妨害させた。

 態勢を立て直す前に、先生がヒフミちゃんに指示を飛ばす。

 

 「”すかさず畳みかけて、ヒフミ!”」

 

 「はい、わかりました!」

 

 ようやく態勢を立て直したジュンコちゃんたちの前に、ペロロのデコイ人形が展開された。

 

 「何これ!?」

 

 ペロロに気を取られている内に、3方向から一斉攻撃をしかけ、じりじりと作戦行路へと追い詰めていく。

 

 「うーん、このままだとジリ貧ですね☆どうしましょう?」

 

 「はっ!バラバラに逃げれば生存率上がるかも!そうと決まれば!」

 

 「いいアイデアですわ、ジュンコさん」

 

 追い詰められた美食研究会の面々は各個逃走を選んだようで、バラバラに逃げていく。

 アカリさんとジュンコちゃんが逃げた方向をなぜかハスミちゃんは眺めていた。

 

 「追わなくていいの?」

 

 「ええ。大丈夫です。むしろあちらに逃げた方々は災難でしたね。なにせ―――」

 

 

 

 「きゃはははっっ!きええええええ!!」

 

 

 「いやあああぁぁぁぁっ!ごめんなさぁぁいぃぃぃ―――!!」

 

 あっ(察し)、大体分かった。

 

 先生から連絡が入り、ハルナさんを確保したとの報告があった。

 先生と合流したついでに縄で縛られていたフウカちゃんの拘束と猿ぐつわをとってあげる。

 

 「んんん…ぷはっ!あ、ありがとうございます。おかげで助かりました…」

 

 とんだ災難だったな、あなたも。

 今はひとまず体を休ませてあげて。

 

 …っと、それじゃあたしはイズミちゃんを捕まえに行きますかね。

 

 

 そのイズミちゃんだが、他の面々に比べて意外と遠い距離まで逃げていた。

 

 「うえーん…ここはどこぉぉ!?」

 

 おーい、そこのお嬢さん!

 

 「ふぇぇ!?き、狐さん!私に何をするつもりなの!?」

 

 別に取って食おうとは思ってないさ。みんなの所に連れてってあげるだけ。

 

 「ほ、本当に…?」

 

 大人しく着いてきてくれれば、こっちだって危害は加えないって約束する。

 

 「…わかった」

 

 交渉成立ってね。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 ひとまず、これで美食研究会を全員捕まえることができた。

 引き渡しの間、簡易留置場に彼女たちは置かれるらしい。

 

 ふぃ~~大分骨が折れそうだったよ。

 

 「流石は先生と黒狐さん。結構なお手前でしたわ」

 

 「それはどうもね」

 

 おたくらの信念は納得できるし否定もしないけど、公共施設から強盗は控えて欲しいな。

 楽しみに見に来た子供とかいるだろうし。

 

 「ですが、あの伝説のマグロを観賞用として扱うなんて、美食に対する礼儀がなってないとは思いません?」

 

 なら、自分で取って来るこったな。取った獲物をどうするかは取った人が決められるの。

 納得ができないからって横から掠めとるのは高潔な美食家としてどう?

 

 「うむむ‥‥」

 

 それよりも、アカリさん。貴女腕がすごいことになってない?

 

 「あら?本当ですね、気が付きませんでした」

 

 ほんまか~?だって腕ありえない方向に曲がってるよ?痛覚ないんか?

 

 「とりあえず応急処置してあげるから、診せて」

 

 「うふふ。ありがとうございます」

 

 「ねぇ、あんたって診察も出来るの?」

 

 まぁ、現役時代に医療学かじってたからな。

 専門的知識なら少しだけある。本職には負けるけどな。

 

 っと、応急処置終わり。ゲヘナ学園に戻ったら必ずお医者さんに診てもらってね。

 

 それはそうとフウカちゃん。怪我はなかった?

 

 「はい…特に目立った怪我はないみたいで」

 

 それはよかった。

 

 「あの、今度良ければ食堂にきていただけませんか?先生と一緒に、お礼をさせてください」

 

 おー、せっかくのお誘いだ。断るのは失礼というもの。

 

 ぜひ、行かせてもらおうかな。

 

 「はい!後輩のジュリと一緒にお待ちしていますね」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 美食研究会の拘束を済ませると、ハスミちゃんから頼みごとを受けた。

 なんでも、エデン条約の締結が迫っている時期に表立った問題にはしたくないらしく、美食研究会の身柄を代わりに引き渡してもらいたいとのことだった。

 

 あたしと先生の属するシャーレはいわば中立の立場。中立な者が関われば双方の政治には影響を及ぼすことはない。

 

 「”分かった。任せて”」

 

 「ええ。承知しました」

 

 「はい。何から何までありがとうございます。私たちは一旦引いた位置にいますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 成長した後輩のカワイイ頼み事。叶えてやらねば…無作法というもの。

 補習授業部のみんなはスイーツ店に戻らせ、あたしと先生はゲヘナ自治区との境界にある大橋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 先生と一緒に、受け渡し場所で待機していると、サイレンと共に車が到着した。

 

 「お待たせしました、死体はどこですか?」

 

 (死体…?)

 

 「”え?”」

 

 車両の中から現れた生徒にあたしも先生も一瞬、言葉が出なかった

 

 「…失礼。死体ではなく負傷者でしたね。えっと、納品リストには新鮮な負傷者3名と人質1名、健康者1名とありましたが――」

 

 「”新鮮な…?”」

 

 死体に鮮度もないと思うが‥‥

 これまた癖が強い方が来たな。

 

 「ところであなたがたは?正義実現委員会ではなさそうですが」

 

 「その方々はシャーレの先生と助手の黒狐よ」

 

 自己紹介をしようとした矢先、久方ぶりに聞いた声がした。

 車両から風紀委員会委員長、空崎ヒナの姿を見せた。

 

 「あ、ヒナさん!ご無沙汰しています」

 

 「久しぶりね、先生。それに黒狐も」

 

 「知り合いでしたか、風紀委員長」

 

 「ええ、ちょっとね」

 

 ホシノちゃんの件では大変お世話になりました。

 

 っと積もる話はあとにして、さっそくあたしたちが引き渡しに来た訳を話した。

 

 「なるほど。お互い政治的な問題にしないために、先生が…。こちらとしても、問題にしたくないのは同じ。だからこそ、今回は風紀委員会ではなく、救急医学部が来たってことになってる。私はただの付き添い」

 

 考えることは正義実現委員会も風紀委員会も同じだったってわけか。

よく見れば、その制服は確かに救急医学部の物ね。

 

 「救急医学部の部長、氷室セナです。以後、よろしくお願いいたします。死た…いえ、負傷者がいたらいつでもお呼びください。配送料は頂きませんので」

 

 もしかして、廃品回収かなにかと思ってる?

 美食研究会に負けず劣らず癖が強いなぁ‥‥

 

 「”よろしくお願いします”」

 

 ヒナさんが救急医学部を呼んだのは、政治的な関わりが一番薄い部活であった為。トリニティ自治区にいる負傷者の引き渡しとすれば、来るのは当然のことだ。それに先生もといシャーレも政治とは関わりが深くはない。だからこうして会っても問題はないわけだ。

 

 「政治ごっこは風紀委員長にお任せします。私は死体以外に興味はありませんので」

 

 「…負傷者でしょう?それに本物の死体を見たことないでしょうに」

 

 「そうですね、負傷者でした。それについては風紀委員長も見たことはないでしょう?」

 

 ……死体ねぇ。見ないしたことはない…あんなのは

 

 

 世間話はさておき、美食研究会の引き渡し作業に移る。

 

 「おや。応急処置が施されていますね。これは誰が?」

 

 「狐さんがしてくれたんですよ~。腕がありえない角度に曲がってましたので助かりました☆」

 

 あくまでも応急処置にすぎない。治療についてはセナさんたち本職の方に見て貰った方がいいだろう。それと、赤い髪の子まだ吐き気が残ってるみたいだから擦ってあげて。

 

 そういえば先生とヒナさんが何か話しているようだけど‥‥何を話しているんだろうか?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 「風紀委員長、まだですか?」

 

 「ええ。今行くわ。じゃあ、お疲れ先生。それに黒狐も」

 

 車へ乗りこむ前にヒナさんはあたしと先生を見つめる。

 

 「補習授業部のことは先生が守るのよね?」

 

 「”もちろんだよ”」

 

 先生の返答にヒナさんは納得したように頷く。

 

 「…そう」

 

 おーい、ちょっと?あと一人誰か忘れちゃいませんか?

 

 「黒狐」

 

 なんです?

 

 「先生のこと、よろしく頼むわね」

 

 もちろんさー

 

 「ふふっ。じゃあまたね」

 

 そういってヒナさんは車に乗ってゲヘナに戻っていった。

 

 帰る間際、ヒナさんが少し笑っていたのは嬉しいな。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 予期せぬ出来事がありながらも補修授業は無事合宿所に戻ってきた。

 

 「なんだか怒涛の一日でしたね…」

 

 確かに。停電から始まり、水着パーティーに美食研究会と内容が濃すぎる一日だったな。

 

 「でも楽しかった」

 

 「…えへへ」

 

 「コハルちゃん、あれからずっと嬉しそうですね。やはり、ハスミさんをしっかり手助けして共闘出来たからですか?」

 

 

 「そうよっ!ハスミ先輩と一緒に戦えるなんて、初めてだったし。私が役に立てたなんて、嬉しい…!えへ    へ!」

 

やっぱり憧れの人と一緒に戦えるのは嬉しいのね。ハスミちゃんが、そう思われる子に成長したのはあたしとしても嬉しくなっちゃうな。

 

 「みなさん、明日の勉強も張り切っていきましょう!」

 

 「はい、私も頑張らないとです♡」

 

 ハナコちゃんが提案してくれたお散歩も、結果として補習授業部の士気を上げてくれた。それに本人が協力を申し入れてくれたことでテスト面も不安は減った。

 それにコハルちゃんもハスミちゃんとの共闘を経て自信に満ち溢れている。このままいけば全員合格は時間の問題だ。

 

 補習授業部にもささやかながら希望が見えてきた。

 

 ―――第2次特別学力試験まで、残り3日。

 

 




余談
サバキと美食研究会は本編前に交戦してるぞ。
その際、若干トラウマになりかけたらしい。
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