真夜中の大騒ぎから一夜明け、補習授業部は迫る第二次学力試験へ向けて勉強に励んでいた。
そして本日は3回目の試験模試を行う日でもある。
「アズサちゃん、やる気満々ですね」
「当然だ!予習と復習はしっかりやっていたし、何よりも今回こそは‥‥」
「その様子ですと、アズサちゃんは模試への準備は万全という感じですね」
「すごい気合入ってるじゃん…」
おっ、いいね~やる気がみなぎっていることは良いことだ。もしかしたら点数にも期待できるかも。
「試験範囲は完全にマスターした。何周も掛けて、徹底的に準備した」
「私だって、正義実現委員会のエリートとして負けないんだから!」
「うふふ。私も一生懸命に頑張るとしましょうか」
みんなやる気に満ち溢れてていいなぁ。これが若さか‥‥
「”みんな、良い感じに張り切ってるみたいだね”」
やっぱり、昨日の息抜きがいい刺激になったんだと思う。
じゃあ、やる気が削がれない内に、始めるとしますか!
「”それでは第3次補習授業部模試、スタート!!”」
◇◇◇◇
先生の号令で補習授業部一同は机に向かってペンを走らせる。
ペースは各々違ったが、最初の模擬テストの時に比べ、みんなの手の動きは軽やかに見えた。これまでの突き重ねがしっかり表れている証拠だろう。
5…4…3…2…1・‥
「そこまで!」
長いようで短い模試の時間が終わった。
先生と協力し、一枚一枚答案用紙を回収。その後、別室で採点に取り掛かる。
◇◇◇◇
少しした後、採点を終えたあたしは全員のテスト結果を告げる。
学力試験の合格点は60点以上であること。ということは…
「”全員、合格だよ”」
先生の言葉に教室は沸き立った。
「や…やりました…!」
「ほ、本当!?嘘ついてない!?」
ところがっどっこい。嘘じゃありません、現実です。
「‥‥!」
「あらあら♡」
「おめでとう。よく頑張ったわね、みんな」
ようやく成し遂げた全員合格。この後のテストにも希望が見えてきた。
リーダーとしてみんなをまとめていたヒフミちゃんも大いに喜んでいる。
「凄いですアズサちゃん!60点どころか70点も越しています!本当に凄いです!よく頑張りましたね…!」
「……うん!」
アズサちゃんの努力、ずっと見ていたぞ。本当によくやったな。
「コハルちゃんも!紛う事なき合格です!凄いです!やりましたね!」
「夢じゃないよね……?あはっ、こ、これが私の実力よ!見たか!」
「はい!流石は正義実現委員会のエリートです!」
コハルちゃんもよく食らいついてくれた!ハスミちゃん、ハスミちゃん見てる?あなたの後輩は立派な子よーー!
「ハナコちゃんも…」
「……運が良かったですね、うふふ、いい感じの数字です♡」
ハナコちゃんも最初に比べて点数が伸びた。やっぱり打ち明けてくれたのが大きかったのだろう。直ぐにとはいはないが、彼女の悩みを手助けできるようになりたいな。
「良かったです…うぅ…」
感極まったのかヒフミちゃんが泣きそうになっている。
「ひ、ヒフミちゃん…?」
「以前ハナコちゃんに何があったのか、何を抱えているのかはまだ分かりませんが…でも、良かったです…」
「ヒフミちゃん…ありがとうございます。ご心配をおかけしてごめんなさい」
ヒフミちゃん…よかったな。
あたしや先生だけでは補習授業部をまとめることはできなかっただろう。補習授業部にとって阿慈谷ヒフミという存在は大きな芯とも呼べる存在だ。
経緯はあれとはいえ、彼女がこの場に居てくれてありがたく思う。
◇◇◇◇
それはそうと、アズサちゃんが合格点を取ったということでヒフミちゃんによるモモフレンズ授与式が行われることにあった。
「約束通りモモフレンズグッズ授与式を始めます!」
笑顔でペロロリュックから大量のモモフレンズグッズを取り出す。
ペロロやスカルマン、ウェーブキャット。いろいろなものがある。選り取り見取りだな。
大望の品を前にアズサちゃんの目がこれまでにないくらい輝かせていた。
一方でハナコちゃんやコハルちゃんはモモフレンズにはあまり惹かれなかったようで…
「私は謹んで遠慮しますね…」
「わ、私もいいかな…」
「そ、そうですか…」
どんまい、ヒフミちゃん。
まぁ、好き嫌いは人それぞれだから仕方ないね。
「うぅ‥‥無理だ…決められない!頼む、ヒフミ。私の代わりに選んで欲しい!」
「うーん、っと…それではこちらのインテリなペロロ博士はどうでしょうか!」
そういってヒフミちゃんが選んだのは眼鏡をかけたペロロのぬいぐるみであった。
「おお!この子にする!!」
「このペロロ様は物知りで勉強もできるという設定があるんです。今まさに勉強を頑張っているアズサちゃんにピッタリかと!」
「うん!本当に可愛い、好き、えへへ……」
ヒフミちゃんの選んだぬいぐるみを大切に抱えるアズサちゃん。
「素敵だぁ…」
「先生、心の声洩れちゃってますよ?」
おっとしっけい。つい出てしまった。
その後も補習授業部のやる気はとどまることなく、勉強は続いていった。
◇◇◇◇
「お待ちしておりました、黒狐さん」
「ご無沙汰しております。ナギサさん」
試験が前日に迫ったある日、あたしはナギサさんに呼び出された。聞いていた話では先生も来ているとのことであったが、生憎先生の姿は見当たらなかった。
「あれ、先生は…?」
「先生でしたら先ほどお戻りになりました。どうやら、すれ違いになってしまったようですね」
すれ違いならしょうがない。それにしてもナギサさんはどうしてあたしを呼んだのだろうか?
「‥‥黒狐さん。本日お招きしました理由は、一度あなたとお話してみたかったから、でしょうか」
あたしと話がしたいねぇ…周りに誰も付けずに、招待したってことは何か探りたいことがあるのだろう。
「先生より補習授業部での黒狐さんのお活躍は聞いております。生徒に寄り添い先生の補佐を務めていると、素晴らしいですね」
「いえいえ、自分なりに頑張っているだけですので。それで、今回は別に本題があるのでしょう?」
あたしがそう問いかけると、ナギサさんは微笑む。
「ええ。直接的に言いましょう。『あなたは誰なのですか?』」
…やっぱりあたしにも疑いの目は向いていたか。
「あたしは、連邦捜査部シャーレの助手であり、補習授業部の副担任、黒狐。ただそれだけですよ」
そういうもののこちらを見つめるナギサさんの視線は鋭かった。
「黒狐さん。誠に勝手ながら貴女のことを調べさせてもらいました。先生の赴任時、DU地区で暴動を鎮圧、アビドスでの戦いに干渉。最近では指名手配犯の逮捕にも貢献してますね。ですがこちらの情報網をもってしても素性はおろか素顔や学校等、一切の情報がわからない謎の人物‥‥とまでしか判明しませんでした」
でしょうね。だって徹底的に身バレ防止してんだから。
「当初の予定では、補習授業部の顧問には先生だけを呼ぶつもりでした」
‥‥ほぅ?
「ですが、テストの結果を見てあなたもお招きすることにしたのです」
テストって、ミカさんも言ってたあれか。
「突然、試す形になってしまい申し訳ございません。ですが、あれはあれで得る物がありました。黒狐さん、何故あの問題が解けたのですか?」
何故?問題を出されたって言うのに解いちゃいけなかったの?
「実を言いますと、あの試験は過去のトリニティで出された小テストなのです。基礎問題が多かったとはいえ、よく解けましたね」
っ、そういうことね。ナギサさんの言いたいことは分かった。ナギサさんはあたしがトリニティに関係する人間なのではないかと疑っているわけだ。送ったテストにクリアしたことがその証明になったと。
「はっきり仰いますと、あなたも存在自体が怪しいところなのです。アズサさんのように、素性不明で統制不能な存在なのです。」
まっすぐこちらを見つめるナギサさん。
瞳の下には隈が薄ら出てきている。よほど不安で眠れない日々を送っているのだろう。だからこそ彼女は焦っている。セイアさんの次は自分か、ミカさんの番。エデン条約を控えているのに志半ばで終える訳にはいかない、その強い責任感と使命感から彼女は自分を必要以上に追い詰めてしまっている。
「ナギサさん、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか」
「あなたは、納得しているのですか?補習授業部を退学させることに。」
「‥‥納得はしていません。ですが、すべては大義の為です。私個人よりもトリニティ全体を優先しなくてはなりませんから」
そう口にしながらもナギサさんの心には迷いが見えた。深い葛藤を抱えつつもなんとか抑えようとしている。そんな風に見えた。
「大義も大事です。ですが、あなた自身は本当にそれで良いのですか?その選択をすることに、後悔はありませんか?」
「何が…言いたいのです‥‥」
「あたしは、ただナギサさんが自分の心に押しつぶされて欲しくないだけですよ。それにあたしが誰であれ、補習授業部のみんなが学園に戻れるよう務めるつもりです」
今のナギサさんにあたしの説得が通じるとは思っていない。けど、せめてナギサさんには後悔のない選択をしてもらいたい。裏切者については情報が足りないからどうにもできない。ミカさんの言葉もナギサさんの言葉も鵜呑みするわけにはいかないのだ。
帰り際にナギサさんへ一言付け加えた
「ナギサさん、補習授業部は頑張っています。無実を証明する…ということよりみんなで平穏な学校生活を送りたい。その一心で勉強に励んでいるんです。それだけはあなたに知ってもらいたかった」
そう言い扉からトリニティ本館を後にする。
ナギサさんとの対談を終えた。このままテストを終えられればいいのだが、きっとそうはいかないだろう。
けれど、今のあたしにできるのは補習授業部のみんなを合格させることだけ。みんなの期待に、あたしは応える。
「そうですか…やはり、ミカさんの言う通り‥‥」
部屋を出る間際、ナギサさんが零した言葉にあたしは気づくことはなかった‥‥
◇◇◇◇
その後補習授業部は、第2次特別学力試験前、最後の授業を終えた。いよいよ明日は補習授業部卒業を賭けた試験が行われる。
「みなさん、本日もお疲れさまでした。この1週間で私たちはしっかり合格できるだけの力を身に着けられたはずです!」
ヒフミちゃんの言葉に一同は頷く。
「”みんな、本当によく頑張ったね”」
まったく、その通り。彼女たちの努力と成長は、面と向かってみてきたあたしと先生が良く知っている。今の彼女たちなら問題なく合格できるだろう。
「あとはしっかり試験に合格し…堂々と補習授業部を卒業するだけです。今までの勉強が無駄ではなかったことを、きっちりと証明しに行きましょう!そしてみんな、笑ってお別れできるように…」
あっ…そういえばそうなるのか。
「…そうか。合格したらお別れか…」
一緒に生活していたのが長くて忘れかけていたが、合格すれば補習授業部は解体。みんな、あるべき場所に戻るわけか。けど、彼女たちは現役の高校生だ。また機会があれば、必ず会える筈だ。
「なぁに、永遠に離れ離れになるわけじゃない。トリニティに居る限り、絶対にまた会えるんだから安心なさいな」
「…うん、その通りだな」
…そういえば試験について何もわかってなかったな。確認してみるか。
携帯を取り出し、トリニティ総合学園の掲載掲示板にアクセスする。すると最新の項目に『第2次特別学力試験』の項目があった。
おっと、これだ。
早速、内容を確認してみると‥‥信じられないことが書いてあった。
「なっ、なんじゃこりゃあああああっ!?」
「副先生!?一体どうしました?」
「こ、これ‥‥」
あたしは、大急ぎで該当箇所をみんなに見せた。
内容は試験について変更が行われたことについて。ただの変更であったら何でもなかったのだが、内容はそれをはるかに凌駕していた。
まず、試験範囲の拡大。あたしたちが合格に動いていた勉強を進めていた箇所からおよそ3倍近く範囲を広げられたのである。
次に合格点の引き上げ。これまで60点合格だったのが90点にまで引き上げ。ただでさえ補習授業部では90点まで超えられた人が少ない。ただでさえ範囲を引き上げられているというのに…これでは…
そしてとどめが試験会場。試験が行われるのは、ゲヘナ自治区の廃墟の一角。ただでさえエデン条約でピリピリしているというのに。
いくらなんでもあからさまに合格させないと言っているものだ。掲示板の告知も昨日、突然アップされていることからナギサさんは、徹底的に補習授業部を退学させる気なのだろう。
‥‥ティーパーティーが強権を振るうことは知っている。昔からこうだったから、納得もしている。だが、私欲で使われた例は限りなく少ない。先々代もよほどのことがない限り、権限は使わなかった。だが、ナギサさんは‥‥
「‥‥露骨なやり方ですね。ナギサさんは何が何でも私たちを退学させたい…と」
「どうもティーパーティーの情報網で試験について把握したようですね。古典的な手口とはいえ、してやられました…」
「ちょっと!退学ってどういうこと!?」
そうだった。コハルちゃんたちには打ち明けてなかった。
一連のことを先生が説明してくれた。
「試験に3回落ちたら退学!?」
「…なるほど」
退学になってしまえば、コハルちゃんは正義実現委員会に戻れず、ヒフミちゃんは平凡な生活を送れず、アズサちゃんの居場所も失われてしまう。
「今まで隠していてごめんなさい。あなた達にプレッシャーを与えたくなかったの…」
「いや副先生が謝る必要はない。それよりも、状況が状況だ。見て、試験時間が『深夜3時』って書いてある」
「それで行かなかったら未受験で不合格、ですか」
本当だ…もうなんでもありだな。ナギサさん、貴女はエデン条約の締結を望んでいたというのに。こんなになるまで追い詰められていたと‥‥
「今はとにかく急ぐしかない。用意をしたらすぐに出発しよう」
それもそうだ。とにかく走るしかない。
「…みんな、念のため装備は万全にね」
「装備ですか!?」
何せあの無法地帯で受けるのだ。十中八九、何かしら戦いになる可能性が高い。
「アズサちゃん、いくつか装備を譲ってもらえないかしら?できれば手榴弾とかブービートラップに使う素材とか」
「いいぞ、好きなのを持って行ってくれ」
手榴弾、閃光弾、油に煙幕。あるだけ装備を積み込み身支度を整える。
こうして各々用意をまとめ、大急ぎでゲヘナ自治区にと急ぐのであった。
余談
黒狐ことサバキが好きなモモフレンズはスカルマンである。
一方苦手なのはペロロ。なんでもあの焦点の合っていない目と垂れた舌が苦手なのだとか。