第2次学力試験を受けるべく、あたしや先生、補習授業部の面々はゲヘナ自治区にある廃墟に向かっていた。
急ぎ足で向かうこと数十分。ゲヘナ自治区のスラム街にたどり着いた。
「ここからはもうゲヘナの自治区ですね…」
「”みんな、気を付けて行こう”」
夜のゲヘナかぁ…十中八九戦闘は避けられないだろうな。特にスラム街なんざ、不良の巣とも言ってもいい。
そんな中トリニティ生徒がいるんだから、見逃すはずがない。
「おうおう!お前ら知らねえ顔だな?」
「ここを通りたきゃ通行料払いな!」
‥‥噂をすれば、なんとやら。ごろつきに不良にチンピラがわらわら湧いてきた。
まるで子悪党のバーゲンセールだな。
「ん?てかその制服トリニティのじゃね?」
まずい、さっそくバレた。
「てことはこいつら攫えば、身代金がたっぷりもらえんじゃん」
ああもう、テンプレートすぎるぞ。古典的にも程があるだろうが。
悪いけど、こんなところで足止め喰らうわけにはいかない。
「どいて」
アズサちゃんが動く前に、あたしは不良へ銃をぶっ放す。
「ふ、副先生!?」
やっぱりこの手に限る。
それに向こうはやる気だったんだ、先手必勝。
銃撃に気づいた不良たちが物陰から続々と出て来る。随分、やる気なようで。
より取り見取りだぁ。
手に持つサブマシンガンに力が入る。
「強行突破か…いいだろう!」
流石、アズサちゃん。意図に気づいてくれた。
先生の指揮もあってか、不良退治はさくさく進んだ。銃弾を浪費するわけにもいかないから、極力殴打による無力化に留めた。
体力の消耗を抑えつつ、ゲヘナ自治区を進んでいくと無事にスラム区域を抜けた。
◇◇◇◇
「いくら夜中とはいえ、人がいませんね」
やっぱりハナコちゃんもそう思うか。無法地帯のゲヘナにしては、静かすぎるな。深夜営業しているお店もない。コンビニですらやってない。
それにスラム街とは別の場所で銃撃音。どこか戦闘が起こっているのか?
「目的地に行くにはこのまま進むしかありませんし…とりあえず行ってみましょう」
念のため、周囲の警戒は怠らないように。戦闘に巻き込まれるかもしれないから
あたりを警戒しながら進んでいくと大橋に差し掛かった。するとヒフミちゃんが何かに気づいた。
「あれは…検問?」
橋の入口付近には風紀委員会の姿が見られた。バリケードを設置しているあたり厳戒態勢を敷いているな。ここを抜けるのは気が引けるが‥‥
「止まれ!ここから先は立ち入り禁止となっている!そもそも今日は外出禁止令が出されている!」」
案の定、呼び止められてしまった。それに風紀委員会の子たちはトリニティの制服に気づいた。
「ゲヘナに何しに来た!目的はなんだ!!」
敵対するつもりも理由もない為、ヒフミちゃんとハナコちゃんが事情を説明するも…
「トリニティの生徒が試験を受けるために、どうしてゲヘナの自治区に来るんだ!嘘を付くならせめてマシな嘘をつけ!」
それはそう。正論だから何も言い返せないのが悔しい‥‥
でも、ここを抜けなければテスト会場にはたどり着かない。
エデン条約のこともあるからトラブルを起こすのも憚られる。
‥‥やむを得ない、シャーレの超法的権限を使わせてもらおう。
横目で先生にアイコンタクトを送ると、先生も理解してくれたのかアイコンタクトを返してくれた。
「‥‥すみません。私共は連邦生徒会捜査部シャーレの者です。この子たちを送り届ける任務を任されています。誠に勝手ではありますが、この橋を通行させていただけないでしょうか?」
あたしは風紀委員会の子にシャーレのバッジを見せる。
「シャーレ?シャーレってあの?」
すると風紀委員会の子たちはお互いの顔を見つめ、悩み始めた。
「どうするよ?」
「でも通すなって行政官や上司から言われてるし…」
争いごとは避けられそうだが、このまま時間が過ぎ去っていくのはよろしくない。
どうしたものかと思っていると‥‥
突如、一発の榴弾が風紀委員に命中。封鎖していたバリケードごと吹っ飛ばした。
「あらあら、これは先生ではありませんか?」
給食部の車に乗った美食研究会(+フウカちゃん)が現れた。
ハルナさんたちに事情を説明すると、目的地まで送ってくれることになった。
「お任せくださいな。ですが…今辺りでは大きな騒ぎになっていまして」
「”騒ぎ?”」
「温泉開発部が市街地の真ん中をドカンっ!と爆発させたみたいで」
…あいつらか
温泉開発部。
ゲヘナ学園に属する部活の1つで、ここの部員たちは全員温泉を愛してやまない子たちで構成されている。活動内容も温泉の発掘および管理と至って健全なものに見える。しかし、そんな名前と裏腹にキヴォトス有数の迷惑集団の1つであり、極悪テロ集団でもある。
理由は簡単で彼女らの活動がもたらす被害が馬鹿にできないから。
何せ温泉開発にかける熱意に対し、他のことには無頓着。他の自治区だろうが市街地だろうが温泉の気配がある、それだけでやって来ては場を荒らして帰るという迷惑さ。源泉調査しているわけでもなくただの勘で爆破を行っている為、根拠と理由があってテロを起こしている美食研究会よりも理解に苦しむ。
美食研究会の時と同様、悪人狩りをしていたあたしも交戦経験がある。戦闘力自体は足したことがないが、規模の大きさから来る人海戦術は少々面倒くさい。
そういえば温泉開発部の部長の子を泣かせちゃったっけ。
ちょっと罪悪感がある。
しっかし、風紀委員会が動くはずだ。
戦闘音から推測するにかなりの戦力を回しているのだろう、美食研究会が脱走できたのも納得がいく。
「ですが、先生のためなら問題ありません。快く送り届けますわ。そうでわね、フウカさん?」
そういって見つめる先にはジト目のフウカちゃん。
今回は拘束されていないようだ。良かった。
(눈_눈)「まぁ…先生のためならいいわよ。でも壊さないでよね?」
もう慣れちゃってるよ、この娘。心労、お察しするわ。
「さぁ、皆様乗ってくださいな!」
ハルナさんに促されるまま、全員給食部の車に乗りこむ。
「ちゃんと捕まってくださいね☆それでは~出発!」
アクセルを踏み鳴らし、補習授業部と美食研究会を乗せた車は夜の道路を走り出す。
◇◇◇◇
それからというもの、夜のゲヘナは喧噪なサーキット会場と化した。
美食研究会と補習授業部の後ろを温泉開発部、加えて風紀委員会が追いかけて来た。特に風紀委員会は血眼になって迫って来る。
給食部の車では、全員で逃げ切ることは難しい為、各員分散してテスト会場に向かうこととなった。
あたしはサイドカー付きバイクに乗り、アズサちゃん、ハナコちゃんと共に向かっていた。
「副先生、まずいことになった。囲まれたかもしれない」
えっ、まじで?
「前方には火炎放射器を持った温泉開発部、後方にはやたら強いツインテールの風紀委員。退路を塞がれた」
火炎放射器はメグちゃんで、ツインテールは‥‥イオリちゃんか。
うーん、どうしようか。
イオリちゃんは真正面の戦いなら強いからなぁ‥‥最初戦った時も搦め手で勝ったし。
メグちゃんはメグちゃんで、燃やされたら大変だ。
考えていると背後からイオリちゃんの怒声が響く。
「おい、黒狐!!必ずとっ捕まえてやるからなあ!!」
「副先生、ゲヘナの風紀委員に何か恨まれることでも…?」
いやぁ…?
「アズサちゃん、トラップを使うから運転を頼む。ハナコちゃんはルートの割り出しをお願い、最短ルートで行くわ」
「了解」
「お任せください♡」
運転をアズサちゃんに任せ、バッグに用意していたペットボトルを取り出す。そして中に入った液体を思いっきり道路にブチ撒けた。
「ん?あいつら、何して…ってうわ!?」
液体をぶちまけた場所を通過した風紀委員会の車体が激しく揺れる。
「どうした!」
「ハ、ハンドルが利きません!!」
「何だとっ!」
そうあたしがぶちまけたのは油。それも滅茶苦茶滑る奴である。
バナナの皮なら百点満点だったんだけどな。
「作戦成功!このまま突っ切るよ!!」
「了解。副先生、ハナコしっかり捕まって!!」
アズサちゃんによるドリフト運転で、前方の進路を塞いでいる重機の間をすり抜ける。
「待って!止まれぇ!」
「「「「「「うわあああああッ!?」」」」」
一方で風紀委員会の車は曲がり切れず、勢いよく重機に衝突した。
温泉開発部と風紀委員会が共倒れしたのを確認した後、会場を目指しのバイクのエンジンを走らせる。
「よし、このままヒフミたちと合流しよう」
許せ、イオリちゃん…今度菓子折り持ってくるね…
「あのすみません、副先生」
「どうしたのハナコちゃん?」
「すみません。油‥‥かかっちゃいました」
おぅ…
◇◇◇◇
風紀委員会と温泉開発部を撒き、無事に試験会場へ到着した。
既に先生やコハルちゃん、ヒフミちゃんも来ており補習授業部全員が欠けることなく会場に揃った。
「あっ、アズサちゃん!ハナコちゃん!それに副先生も!ご無事で何よりで‥‥」
無事を喜んでくれた先生たちだったが、あたしたちの姿を見て呆然とした。
「お待たせしました♡」
「なんとかテストに間に合ったか。さすがに疲れたな」
ガスマスクを被ったアズサちゃんに水着姿のハナコちゃん、そして衣服が若干焦げたあたし。
異様な光景にヒフミちゃんたちも言葉にできずにいた。
「そ、そっちは一体何があったのよ‥‥」
「話せば長くなるわ」
温泉開発部や風紀委員会とのカーチェイスについて話したいのをこらえ、試験会場の中に入る。
あとで聞いたのだが美食研究会は車ごと川に突っ込んだらしい。フウカちゃんはハルナさんが助けた為無事だったそうだが。まるで映画みたいだな。
っとそれはさておき、会場となる廃墟の床に転がっていた物を拾った。
「不発弾?こんなところに?」
「L118、牽引式榴弾砲の弾頭だな。爆発しないように爆薬などは取り除かれてる」
「なるほど。L118ということはティーパーティーの‥‥」
わざわざ加工してくれているあたり、ナギサさんからの手筈なのだろう。
ん?トリニティの弾を…ゲヘナに?それ、結構まずいんじゃあ‥‥
不発弾の中には中答案用紙数枚と通信機が同封されていた。
『これを見ているということは、どうやら無事に到着されたようですね』
通信機を起動すると、ホログラムが展開しナギサさんの姿が現れる。
「ナギサ様ッ!?」
「この方が、ティーパーティーの……」
あーそういえば、コハルちゃんは面識なかったね。あっちが一方的に認識してるから、忘れてた。
今更だがヒフミちゃんはナギサさんと縁があるのだろう?ナギサさんはヒフミちゃんのこと懇意にしてるあたり、関係は深いと思えるのだけれども‥‥
疑問は置いておき、通信機上でのナギサさんは説明を続ける。
『ふふふ…恨みの声が聞こえてきます』
自覚はあるのね。貴女の行いが恨まれる行いであるってのは。
『あくまでこの映像は録画映像ですので、何を言っても意味はありませんのであしからず。それでは、約束の時間までに試験を終えて戻ってきてくださいね。補習授業部のみなさんのご健闘を祈ります』
ホログラムが消える前にナギサさんは一言告げる。
『それと‥‥どうか、お気を付けて』
そういって通信は終わった。
「今の言葉‥‥何か含みのある
発言からするに無事に試験を終わらせてくれる気はない。
絶対何か仕掛けて来る
それにティーパーティーが仕掛けてきたって事実にコハルちゃんとヒフミちゃんの表情は暗い。
学校の偉い人が自分たちを潰しに来たってのは心にくる。頑張って勉強してきたのにこの仕打ち、当人たちには心当たりすらないのだから余計にショックだろう。
ただアズサちゃんはこんな状況でも諦める気はないようで
「ここで悶々としていてもしょうがない。テストを受けよう」
そう、今はテストを受けるしかないのだ。
「”みんな、頑張るよ!”」
先生の後に続いて補習授業部のみんなは会場に入っていった。
みんなが席に着いたことを確認すると、あたしは装備を持って廃墟の屋上に向かう。
可愛い後輩の邪魔をさせないために。
◇◇◇◇
テスト会場の屋上で偵察していると案の定、ぞろぞろと温泉開発部がやってきた。
「ここで合ってる?」
「そうそう。住所的には合ってそう。ここから向こうの方まで全部かな。どこからの情報だか知らないけど、温泉のありそうな場所を教えてくれるなんてありがたいこった」
温泉の場所を教えた?つまり、誰かが温泉開発部を手引きしたことになるな。
考えられるのは…ナギサさんか。
「よぉし、発破準備!」
「開発だぁーーー!!」
爆破スイッチを押させる前にスナイパーライフル『黒笏』で持っていた手を狙い撃つ。そして続けざまに部員の脳天をヘルメットごと撃ち、昏倒させた。
「うわあっ!?なんだ!?」
突然の奇襲に温泉開発部の間で動揺が広がる。
「楽しんでるところ悪いけど、今日は退いてもらえないかしら?明日以降なら、好きなだけ開発してもらっても構わないから」
屋上から顔を見せ、温泉開発部たちに警告する。
大人しく退いてくれれば良いのだが‥‥
「なにをー!温泉が目の前にあるってのに退くわけないじゃないか!」
「「「「「そうだ!そうだ!」」」」」
っ、そうだよな。退くわけないよなぁ‥‥仕方ない。
やいのやいのと抗議の声を上げる温泉開発部にもう一度『黒笏』で狙撃する。
「もう一度だけ言う。大人しくこの場から去るか…痛い目に遭って帰るか!」
声を荒げ警告を告げる。
これで退いてくれるなら、これ以上あたしも戦うつもりはない。
退かないというのなら‥‥
温泉開発部たちは動揺しており、退くか戦闘するか意見が割れているようであった。
「どうするよ?」
「引き上げるしかないんじゃない?」
「えーでも温泉が目の前にあるんだよ!?」
「でも私、戦いたくないよ…おっかなそうだし」
テストの終わりまで残り30分。
お願いだから、早く行ってくれ‥‥
意見が割れる温泉開発部であったが、1人の部員があたしに啖呵を切った。
「ふざけるな!温泉開発をやめられるわけないだろ!」
「ちょっと!?」
「相手は1人だぞ!数で掛かれば!!」
「そうかな?」
「そうかも」
その声に周りも感化されたのか、口々に賛同の声を上げる。
どうやら、諦めてくれる気はなくなったらしい。
放っておけばテストは妨害されてしまう。そうは、させない。
「‥‥そう、残念ね」
「へっ?」
屋上から飛び降り、踵落とし1人の頭をヘルメットごと地面に叩きつけた。
鈍い音を鳴らしながらその子は気絶した。
「‥‥ヒィッ!?」
怯える子の腹部に『地獄』の銃口を構え、0距離で弾丸を放つ。
「あがががががっ!!?」
一弾倉分撃ち終えた頃には、撃たれた子は身体をビクンビクンと痙攣させながら意識を手放した。
「まだやる気?これ以上、痛い目に遭いたくないならとっとと帰りなさい!」
「逃げるんだぁ…勝てるわけない‥‥!!」
「逃げろぉーー!」
「待って!置いてかないで!!」
凄惨な光景に恐怖を抱いたのか、1人また1人と蜘蛛の子散らすように逃げ出していく。
やがて試験会場から温泉開発部の姿は消え去った。
◇◇◇◇
テスト終了まで残り10分。
温泉開発部を追い払い、なんとか会場に戻ることができた。
少し疲れはあるものの、これで試験を邪魔されることはない。
体を休ませながらも試験監督として仕事を行っていると‥‥
ピッ…ピッ…ピッ…
微かにだが電子音が聞こえる。
気にしなければその程度の音。ただ妙に胸騒ぎがした。
試験会場とは言うけれど、この場所は打ち捨てられた廃墟の一角に過ぎない。
だからこそナギサさんは試験用紙をあらかじめ用意していたわけで‥‥っ!
しまった!?なんで気付かなかったのか。
試験会場だって、温泉開発部だって、ナギサさんがあらかじめ仕掛けていた物。
なら、ここにも何か仕掛けてあってもおかしくない。
試験終了まで残り5分。落ち着いて耳を澄ませる‥‥あそこか!
教室の中央部、コンクリートが剥がれ土が露出している箇所。
さらに音のする場所を掘り出すと、タイマーが付いた小型の爆弾が幾つもあった。
って何個もかよ!?
「”黒狐っ!?”」
「副先生、どうしたんですか!?」
「皆、今すぐ離れて!爆弾がセットされてる!!しかもいっぱい!」
「「「「ええええっ!!!」」」」
爆発まで残り10秒。
このままでは間に合わない。
先生をあたしの懐に伏せさせ、背中で庇う。
テスト終了のタイマーと同時に、会場は爆風に包まれるのであった。
◇◇◇◇
ところ変わり、逃げ帰った温泉開発部は本隊と落ち合っていた。
「カスミ部長~~」
「ごめんなさいぃぃ。温泉開発できませんでしたぁぁ!」
黒狐にズタボロにされた子たちは部長と呼ぶ白衣の人物に泣きついていた。
着崩した白衣を着たその生徒、『鬼怒川カスミ』は声高らかに笑う。
「はーはっはっはっ!何、問題ない。既に準備は済ませているのだからな!」
部長の言葉に、部員たちはやや困惑する。
「部長?どういうことですか?」
状況がいまいちつかめていない部員たちにカスミは告げる。
「実はだな。数日前、匿名から依頼を受けてな。あそこにはあらかじめ用意を済ませておいたんだ。今頃、良い温泉が出来てるだろうさ!」
「流石、部長!!」
「さぁ、撤収するとしよう。メグとも合流しなくてはな」
目的を果たした温泉開発部は、風紀委員会に見つかる間にそそくさと撤収していく。
「そういえば、君たちをそんなのにしたのは一体誰なのだ?」
「それが…狐面の人物でして」
「狐面‥‥?」ゾクッ
ひえええぇっ!!!!
◇◇◇◇
「先生方!ご無事ですか!?」
「”うん、こっちはなんとか…”」
「こっちも無事よ…」
なんとか爆発から逃れたが、試験会場だった廃墟は見事に瓦礫の山と化した。
「解答用紙が…!解答用紙がっ!!」
「‥‥跡形もなく吹っ飛ばされた」
当然、試験用紙が無事であるはずもなく、一同が座っていた席もろとも爆破されてしまっていた。
テスト用紙が無ければ試験どころではない。
上手くしてやられた‥‥!
テストが終わったとしても成績が付けられなければ、結果が出ない。
つまりは…この試験は不合格ということになる。
試験会場が爆破されたと説明すれば再試験の申請もできるだろうが、何せ仕掛けてきたのはナギサさんだ。
再試験を許すとは思えない。
「‥‥ふふっ。なるほど、そうですか。ここまでやるのですね…面白くなってきたではありませんか」
表情は笑っているものの、ハナコちゃんの内心は相当ご立腹なのが感じ取れる。これまでの努力を、急な予定変更&実力行使で台無しにされたのだ。怒る理由は十分にある。
「ナギサさん‥‥」
先日会った時、明らかに彼女の心身は限界を迎えそうになっていた。
今回の凶行に走ったのも裏切り者が見つからない不安と恐怖、焦りがそうさせたのだろう。
だが、流石にこれはだめ。
自分の手は汚さず、『温泉開発部』という第三勢力に任せ試験を妨害させた。一週間にも及ぶ補習授業部の頑張りを自ら握りつぶした。加えて先生がいるのにも関わらず爆弾を使った。先生はキヴォトスの人間よりも身体が弱い。例え一発の銃弾でも命の危機に陥るほどに。そんな先生を巻き込んだ。
‥‥情状酌量の余地もなくなってきたぞ、桐藤ナギサ。
第2次試験にも不合格となると、次の試験が最後となる。3次試験を合格できなければ補習授業部は全員退学ということになる。
試験範囲は前回の3倍、90点以上の獲得が条件の試験がだ。それも1週間で合格できるようにならなければならない。また今回のようにナギサさんからの妨害がないとも限らない。
なんとかしないとなぁ‥‥
そう考えていると、先生や補習授業部のみんながびっくりした様子であたしを見つめていた。
「みんな?どうしたの?」
すると何か言いづらい空気の中、先生が口を開いた。
「”その背中は‥‥?”」
ん、背中?
そういえば、やけにスースーするというか。寒いような?
恐る恐る背中へ手を回す。
手袋越しに感じる生暖かさ。
普段来ている着物でもインナースーツのものでもない。ほのかに感じる肌の温度。そして肩の付け根に触れた硬い感覚。
腕を戻したあたしの手には黒い羽根が付着していた。
そう、久しく見ることも見せることもなかった羽根が、翼が。
開いた状態で補習授業部と先生に見られてしまっているのだ。
翼を見られたという事実に気付いた途端、全身から血の気が引いた。
「み、見るなぁっ!見ないでくれ!」
我ながら情けない声を出してしまったと思う。
でも今はそんなことを気にしていられるほど、余裕がない。
身体が震えているのがわかる。息だって荒いのが理解できる。
怖くて震える感覚なんて、全然なかったはずなのに。
忘れたはずなのに
カハッ‥‥ヒュ―ヒュ― ゲホッ ゲホッ
(しまった…呼吸が‥‥)
「大丈夫ですか、副先生!」
「まずい、過呼吸に成りかけている」
「副先生…」
第3次特別学力試験まで‥‥あと1週間。
余談
これまでずっと隠し続けていたのが、翼を見られたことでバレてしまう。
その恐怖と焦り、不安が無意識のうちに苦しめている。正体がバレることに対し過剰にまで不安を覚え不安定になってしまうほどに。
それが今のサバキの状態である。
当の本人もその深刻さを知らない。