正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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業務4:アビドスの生徒に実力を示せ

 アビドスの校舎からやってきた少女は、手に持ったショットガンを向ける。

 明らかに敵意を纏った眼。全身から漂う他を寄せ付けない威圧感。間違いなくこちらを狩る気でいる。

 

何か、誤解がおきているかもしれない。そう思い、少女に話しかける。

 

「あたしは、トリニティ総合学園の3年、正義実現委員会委員長の浄玻サバキ。ヘルメット団掃討作戦の件で、そちらの生徒会長さんに呼ばれて―ーー」

 

 ズドンッ

 

 あたしが全て言い切る前に少女のショットガンから硝煙が上る。

 

「嘘を付くな。トリニティの生徒を呼んだ、なんて話は聞いていない」

 

 聞いていない?一応ユメさんのモモトークには連絡した筈なんだけどなぁ‥‥

 

「どうぞ、お引き取りを。それとも痛い目に遭ってから帰りたいですか?」

 

 ‥‥ダメだ、あの子。こっちの話聞くつもりないらしい。

 でもこっちもティーパーティー直々の依頼で来ている。このまま帰るなんてつもりはない。

 

 「悪いけど、痛い目に遭うつもりはないし、帰るなんてこともない。こちとら、そちらの生徒会長さんに呼ばれてきてんだ。来て即帰れは筋が通らん」

 

 バッグから2丁のサブマシンガン『天極と地獄』を取り出し、構える。

 

 「ねぇ。アンタ、名前は?」

 

 「小鳥遊 ホシノ」

 「教えてくれてありがとう。‥‥んじゃあ、はじめよっか」

 

 

 真昼間のアビドスで、あたしと小鳥遊ホシノによる戦闘が幕を開けた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 先手を取ったのはホシノ。

 全身から放たれる威圧感と共に素早い動きで接近する。射程距離を詰めて速攻で仕留めるつもりなのだろう。

 

 出会いがしらの一撃といい、あのショットガンの銃弾をまともに食らってはたまらない。

 

 こちらの射程距離もあるが、まず必要なのは勢いを殺すこと。牽制を掛けるべく、『天極と地獄』から弾丸を放ち弾幕を展開する。

 

「遅い」

 

「ちっ、やっぱそう簡単にはいかねぇか」

 

 二丁拳銃によるありったけの弾丸を放つも、ホシノの素早い身のこなしの前では全く当たらない。

 

 徐々に徐々に、ホシノとの距離が狭まっていく。ホシノを近づけさせまいと、弾を装填し再び弾幕を張るサバキ。しかし、とうとうホシノは、サバキの懐近くまで到達した。

 

 

 ショットガンを構え、サバキの胴体に銃口を向ける。

 

 「―――これで終わりですね」

 

 勝利を確信したのか淡々とホシノは銃の引き金に指を掛けた。

 

 「あ・た・し・を・‥‥なめんなぁーーーっ!!」

 

 引き金が引かれる一瞬の間にサバキは身体を横にずらし、銃撃を往なした。

 

 「‥‥躱されたッ!?」

 

 「今度はこっちの番ッ!!」

 

 今度はサバキが二丁拳銃をホシノの防弾ベストへ向ける。

 フルリロードを終えた『天極』と『地獄』による二大火力がホシノに襲い掛かった。いくら防弾ベストで威力を軽減しているとはいえ、完全にダメージを殺せるわけではない。

 

 わずかだがホシノの顔が歪む。

 

「くっ‥‥このぉッ!!」

 

 ただしホシノの方も黙ってやられているわけもなく、ショットガンの銃身を握ったかと思えば、そのままサバキの側頭部を銃底でぶん殴った。

 

 「があっ‥‥」

 

 意識外からの攻撃に思わず攻撃の手を緩めてしまう。その隙を付き、馬乗りになってサバキの腹部に銃口を押し当て、引き金を引いた。

 

「がふっ‥‥」

 

 全身に襲い掛かる衝撃。身体を仰け反らせようにも、身体をがっつり押さえつけらえており捩ることさえままならない。

 

 必死に抵抗するが、小柄な体のどこにそんな力があるのか、マウントポジションを覆すのに苦戦していた。

 

 「この…放せっ!!」

 

 「放すわけないでしょうっ!」

 

 再びホシノがショットガンにマガジンを込めようとする。その際、ほんの一瞬、拘束が緩んでいることに気づく。

 

 (チャンスだっ‥‥!!)

 

 拘束の緩みに気づいていないホシノの両足を掴む。

 

「なっ‥‥!?」

 

 「おらあああぁぁっ!!」

 

 動揺した隙を突き、左へ投げ飛ばす。

 

 投げ飛ばされた衝撃で地面を転がるホシノ。彼女のショットガンもはじかれたように手元から転げ落ちる。

 

 何とか態勢を立て直そうとしていた所をサバキは見逃さなかった。近くに落ちているショットガンを足で払いのけ、再起の芽を潰しにかかる。

 

 傍から見れば、勝負あったかのように思えるこの場面。

 けれどホシノの目は、より殺気を帯びており、諦めよりもほど遠いことが窺える。

 

「――――殺す」

 

「――――やってみろよ、ガキ」

 

 お互いリミッターが外れ、純粋に目の前の相手を叩きのめすことだけを考える。

 

次の瞬間、銃をかなぐり捨ててサバキとホシノによる取っ組み合いが始まった。

 

 完全銃社会のキヴォトスにて生身の殴り合いに発展するケースは極めて少ない。何せ、わざわざ殴り合うよりも安全圏で銃を撃ち合っていたほうが安全に勝てるからだ。

 

 しかし今の2人にとってそんなことはどうでもよかった。

 

 ただ本能のままに標的を潰す。両者が見据えるのは勝利のみ。

 

 ホシノがサバキにキックをお見舞いしたかと思えば、今度はサバキがホシノを投げ飛ばす。

 サバキが殴れば、ホシノが頭突きを喰らわせる。

 

 両者、流血しているのもお構いなしに、一進一退の殴り合いが続く。

 

 他のアビドス生たちも校舎からホシノとサバキの戦いを固唾を飲んで見守っている。

 

「ハア‥‥ハア‥‥いい加減…倒れろよ…」

 

「ぜえ…ぜえ‥‥そっちこそ‥‥」

 

 長時間に及ぶ戦い息も絶え絶えになるサバキとホシノ。

 

 お互い辛うじて立っているのもやっとなほどフラフラの中、意地とプライドがそうさせているのかギリギリ踏みとどまっている。

 

((次で決める‥‥!!))

 

 視線を交わし、態勢を整える。

 考えることはどちらも同じ。次の一撃にすべてをぶつける。

 

 同時に相手に向かって走り出す。

 

激しい組みあいを経て己の全てを乗せた拳を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

2人がほぼ同タイミングで繰り出したストレートパンチ。腕と腕が交差し合う。

 

見事な形でのクロスカウンターは、互いの顔面を捉えた。

 

 

「かは‥‥っ?!」

 

「ぐふぅ‥‥っ」

 

 

 綺麗にパンチが炸裂したことで両者ともに意識が飛び、そのまま地面に倒れ込む。

 

 アビドス高等学校での死闘は勝者なしのダブルノックダウンという決着に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 「うぅっ‥‥」

 

 いっっっ‥‥、あたし気絶してたのか‥‥そういえば、あのホシノとかいう少女は…?

 

「くっ‥‥」

 

 声のした方向を見るとホシノもボロボロながら立ち上がっていた。

 

「まだ、やる気?」

 

 「当然です。アビドスに貴女のような人を入れる訳にはいかない」

 

 向こうもまだまだやる気のようだ。結構身体ガタついてるけど、こっちも引けないんだ。向こうが降参するまで付き合ってやんよ。

 

 「二人とも、そこまでだよ!!」

 

 もう一度、取っ組み合いに移ろうとしたその時あたしとホシノの間に緑髪の少女、ユメが割って入ってきた。

 

 「ユメ先輩‥‥!」

 

 「ユメさん‥‥」

 

 「他の子から二人が戦っているって聞いて急いできたんだよ!!それにホシノちゃん、今日お客さんが来るって伝えてたはずなんだけど」

 

 「ですが、有名校のトリニティから来るなんて信じられません。それも部活の部長が自らなんて」

 

 アビドスのことはあくまで噂程度の知識でしかしらないが、砂嵐による被害が甚大になった結果アビドス高等学校の校舎は存続の危機に立たされている。学校を存続するのにかなりの苦労をしてきたのだろう。別段トリニティでもアビドスのことは広まっていないことを見るに、誰も手を差し伸べなかったのだろう。それで急に手を伸ばしてきたトリニティに警戒していたわけか。

 

 なるほど。そりゃあ確かに警戒するわな。ただでさえヘルメット団に狙われてるんだ、そこに迂闊にも入っちまったんだ。連絡もクソもないだろうに

 

 「あー…なんだ、そのすまなかった。こちとら、そっちに対する配慮が足りてなかった」

 

 「‥‥いえ、こちらこそ早とちりしました。すみません、せっかく来てくださったのに」

 

 あたしが申し訳なさそうに謝罪すると向こうもバツが悪そうな表情をしながら謝ってくれた。

 

 きっと先の戦いで沸騰した頭が冷えたおかげだろう。

 

 「元は私が来るのが遅れたのが原因だし、ごめんねぇ、サバキちゃん」

 

 「いいえ、戦闘を始めたのはこちらですし、それに十分な説明ができなかったあたしにも非があります。気にしないでください」

 

 「そういえば、ユメ先輩。なんで来るのが遅かったんですか?」

 

 「実はね、帰り道ヘルメット団に襲われちゃって。返り討ちにはできたんだけど、思ったより時間がかかっちゃって」

 

 「そうだったんですか」

 

 「折角アビドスに来たんだし、案内しようと思ったんだけどまずは怪我の手当しなきゃね」

 

 

 そう言ってユメはあたしとホシノを校舎の中に連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ユメに連れられ、アビドス生徒会室という名札が掲げらえた教室で手当てを受ける。

 

「改めまして、ようこそ。アビドス高等学校へ」

 

 嬉々としてサバキに話しかけるユメ。一方、先ほどの件もあってかホシノは気難しそうな表情のまま椅子に腰かけていた。

 

 「知っての通り、アビドス高等学校は多額の借金を負い廃校の危機にあるんだ」

 

 「借金…?いくら?」

 

 「‥‥ざっと9億…」

 

「9億っ!?」

 

 まじか‥‥。想像してたよりもはるかにヤバい問題抱えてたんだな…てか、9億の借金って何したんだ?

 

 

 

 「借金がここまで膨れ上がったのも理由があってね。砂漠化や頻発しだした砂嵐の被害を抑えようと私たちよりも前の生徒会が奔走してたみたいなんだけど‥‥」

 

 「事態は好転するどころかむしろ悪化。資金が枯渇し、次第に借金ばかり膨れ上がることになってしまったわけです」

 

 それで、9億なんて言うバカげた桁にまで膨れたわけか‥‥。てか、生徒会のメンバーって他にはいないのか?

 

 「今アビドスにいる生徒も精々二桁くらいしかいなくて・‥‥」

 

「多くの生徒は、既に他学区域に流れていきました。生徒会も私とユメ先輩しかいません」

 

 はぁーーー、たった2人で学校問題に向き合ってたのか。

 

 ん?今話の話を整理すると。アビドスは今廃校の危機に陥っている。そのことをトリニティを始め他校もある程度知ってるわけだ。

 

 

 

 ‥‥なんで連邦生徒会動いてないの?これ結構重大案件じゃない?

 

 そのことを聞いてみるとホシノは諦めたようにため息を吐く。

 

 「もちろん、連邦生徒会にも相談しました。‥‥けど今のアビドスでは連邦生徒会への発言権が失われているんです。ですので、連邦生徒会からもまともな支援が期待できない状態に陥っています」

 

 「それ、結構詰みに近くない?」

 

 「ええ。はっきり言って完全に詰みです。ですが、諦めるつもりはありません。学校存続はアビドスの問題です。ですので私たちだけ解決して見せます」

 

 「‥‥手伝えることがあったら言ってね?大ぴらには厳しいけど、プライベートとしてなら手伝えるから」

 

 「いいえ、別に不要です。そんなことよりもまず目の前の問題が先です。ユメ先輩」

 

 「は~~い!」

 

 ホシノに促され、ユメさんは色々と書かれたホワイトボードを持ってくる。

 

 「それじゃあ、説明するね」

 

 ユメさん曰く、アビドス高等学校を占拠しようとしているのはカタカタヘルメット団というらしい。マエルさんからの情報通り、連中は膨潤な物資を有しており、資材が枯渇気味でありながら、廃墟よりも拠点として最適な学校を占拠しようとしているらしい。戦える生徒にも限りはあるし、ユメさんやホシノさんだけではやがてジリ貧になってしまう。ダメ元で募集をかけたところ、同じくヘルメット団に悩まされていたマエルさんと接触。そこで1人で殲滅力の高いあたしを推薦したというわけである。

 

 (いつのまに話付けてたんだ、あの人‥‥)

 

 「そこで、サバキちゃんには学校の防衛を手伝ってほしいの~~。ヘルメット団さえ、何とかできれば少しは借金返済に力を入れられると思うから」

 

 ア~~~あたしの頭を抱えて、わしゃわしゃしないでくださいユメさん~~~

 どこがとは言えませんが、当たってる~~当たってますから~~~。

 

 あぁぁ、性癖壊れる~~~

 

 「‥‥先輩、委員長さんが窒息し掛けてます」

 

 「あッ!ごめんね、苦しかったよね?」

 

 「いえ、大丈夫です。問題ありません」

 

 ユメさんから解放されたあたし。ちょっと夢見心地だったことは黙っておく。

 

 

 その後、配置や物資の確認を済ませあたしはトリニティ自治区に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 サバキがアビドスを去った跡、教室に残ったユメとホシノ。

先ほどの明るい表情とは打って変わって、神妙な顔であった。

 

「‥‥本当にいいんですかね、あの人を頼っても」

 

「大丈夫。だってサバキちゃんも強いもん。それに私より強いホシノちゃんと互角だし」

 

「‥‥カイザーのこと言わなくて良かったんですか?」

ホシノからの問いに、ユメは少し間を開ける。

 

「‥‥うん。ホシノちゃんが言ってた通り、アビドスの問題は私たちの問題。それに他校のサバキちゃんまで巻き込むわけにはいかないし」

 

「そうですか‥‥」

 

 

 

 学校を存続するべく、日夜必死に足掻く生徒たちをキヴォトスの月明りが照らすのであった。

 




余談
サバキの持ってるバッグには自身の武器以外にもいろんなものが入っている。(ムツキの鞄のような物)結構容量が多い。

サバキの戦闘スタイルは主に二丁拳銃によるガンカタ。ただし本人は銃よりも殴り合いを好む節がある。

ホシノ以外で苦戦したのは暴走したツルギと???。かなり苦労した。
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