正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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エピローグ

 

 「先生に補習授業部のみなさん、こっちっす!こっち!」

 

 試験会場である第19分校の入り口にはイチカちゃんが待っていてくれた。ツルギちゃんたちに抱えながら向かってくるあたしたちを笑顔で迎え入れた。

 

 「では、私たちはこれで失礼します。イチカもご苦労だった。戻って身体を休めてくれ」

 

 「了解っす!」

 

 「…試験、頑張ってください。応援しています。それと、力になれなくてすみません。この分はいつか、必ず」

 

 会場に着くなりあたしたちを下すとツルギちゃんたちは足早に立ち去ろうとする。

 

 「ハスミ先輩っ!ツルギ委員長っ!ありがとうございました!」

 

 「ツルギちゃん!ハスミちゃん!助けてくれてありがとう!」

 

 あたしとコハルちゃんは目一杯にお礼を伝える。

 少しだけ足を止め、振り返った2人の顔はどこか微笑んでいた。

 

 一方ワカモはというと‥‥

 

 「”ワカモもありがとう。おかげで助かった。感謝している”」

 

 「ひゃっ‥‥ひゃぃぃぃ~~このワカモ、あなた様のためならばたとえ火の中水の中。いつ、いかなる場所でも即推参致しますわ~~」

 

 ものすごく顔を真っ赤にしていた。

 お面で顔を隠しているが、それでもわかるほどの赤色。もうね、ゆで上がってるんじゃないかなって思えるくらい。

 ワカモも今の顔を見られたくなかったのか、爆速でトリニティ総合学園から去っていった。あれが俗にいう全力疾走という奴か。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

ドアを開け、大舞台の教室に入る。

補習授業部を取り巻く不安要素はない。あとはみんなが培った努力を証明するだけだ。

 

 

 「”最後の試験だね”」

 

 「「「「‥‥」」」」

 

 みんなの間にも緊張が走る。退学が掛かった試験。そのラストチャンスなのだから無理もない。

 

 「‥‥うん。どんな結果だろうと、この試験で私たちの全てが決まる」

 

 「あぅぅ‥‥」

 

 「‥‥っ」

 

 「ここまで色々ありましたねぇ」

 

 ええ、本当に。この何週間、毎日忙しかったな。

 

 「‥‥気持ちはわかる。けど感傷に浸るのは試験が終わってからにしよう」

 

 それもそうだ。今はみんなの試験が何より大切だ。

 

 「私たちはこの日のために努力をしてきました。その成果をしっかり見せましょう」

 

 「ああ。最後まで諦めるつもりはない。全力で掴みる」

 

 「私も。自分らしくあろうと思います」

 

 「先輩たちからの期待に応えるためにも、今度こそ満点とってやるんだから!」

 

 みんな、テストへのプレッシャーを感じてない。

 絶対に合格してやるって気持ちが伝わってくる。

 

 試験開始の合図の前にあたしは補習授業部の副担任として檄を飛ばす。

 

「あなたたちなら絶対にできる。それだけの心も実力も備わっている。だから、自信をもって!!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

言いたいことは全て言った。後は天に任せよう。

 

「”では第3次特別学力試験”」

 

「「”開始っ!!”」」

 

 

 

◇◇◇◇

 

ナギサさんからの要請で始まったこの部活。

 

 はじめは足並みが揃わなかったり、結果が身を結ばなかったことが多かった。エデン条約に関わる因縁に巻き込まれ、トラブルに巻き込まれるなんてこともあった。それでもヒフミちゃん、アズサちゃん、コハルちゃん、ハナコちゃんはひたむきに頑張り続けた。

 

 それにつらいことばかりではない。

 みんなでプール掃除したり、水着でレクリエーションしたり、深夜の町でちょっとした冒険もした。充実した日々だったと振り返っても思う。

 

 今回の出来事を通して補習授業部は一歩大人に近づいた。

 

 そんな彼女たちのこれからを、幸運をあたしは祈る。何気ない日常を幸せに過ごせるよう願わずは居られなかったから。

 

 テスト終了の合図が鳴る。

 

 さてと、時間だ。運命に立ち会うとしよう。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

第3次特別学力試験、結果

 

浦和ハナコ 合格

 

白洲アズサ 合格

 

阿慈谷ヒフミ 合格

 

下江コハル 合格

 

 

補修授業――全員合格

 

 

彼女たちはその手に未来をつかみ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 「‥‥補習授業部のみんなはしっかりと、自分達の力で合格を勝ち取ったのだね」

 

 気が付くとティーパーティーのテラスにいた。

 さっきまで補習授業部の合格パーティーをしていた筈なんだが…眠っていたのか…

 

 あたしの前で淡々と話す少女。

 

 ティーパーティーの制服に小柄な体躯。加えてナギサさんやミカさんにはない特徴的な狐耳。

 容姿やミカさんの言葉から推察するに彼女は。

 

 「もしかして、貴女が百合園セイアさん?」

 

 あたしが何とか声を捻りだすとセイアさんは少し驚いた様子を見せた。

 

 「っ!まさかこうして対話できる人がいたとは。その通り、私がティーパーティー最後の1人。百合園セイアだ。こうして会うのは初めてだったね、浄玻サバキくん」

 

 テラスの椅子に腰かけ、セイアさんの話に耳を傾ける。

 

 「どうして会ったばかりの君の名を知っているのか、疑問に思うのは当然だろう。だがそれを説明するよりも話したいことがある。コハルは帰れる場所を。ハナコは自分らしく振舞える存在を。アズサは学びを続けられる場と友を。そしてヒフミは今までの日常を。誰もが、かけがえのないものを手に入れた」

 

 補習授業部が努力の末に手に入れた正当な報酬。

 むしろ、もっとあっても良いとは思うがみんなが満足している以上つっこむのは野暮だろう。

 

 「ミカは監獄に幽閉された。もう2度と会えないかもしれない。ナギサはエデン条約の調印に行くことだろう。でも大団円というわけにはいかない。全てを破局に導くような、二度と太陽を拝めるとは思えなくなるような暗雲が迫っている。それが何か君も知っているだろう?」

 

 「…アリウスか」

 

 アズサちゃんの母校でありミカさんと協力関係にあった学園。

 きっとこの先、奴らは関わって来る。歴史の闇に消え、現在まで募りに募った怨みと憎しみは計り知れない。そんな彼女たちがエデン条約という絶好の機会を逃すはずがない。

 

 「さて、何故私が君の名前を知っているのか、答えがまだだったね。‥‥私には生まれつき不思議な能力があるんだ」

 

「不思議な能力?」

 

「いわゆる予知夢というものだ」

 

 これから先のことが夢でわかるっていうあれか?

 

 「その認識で間違いない。過去や未来、そして現在を通して観測ができる。先生にも度々話しかけていたんだ」

 

 なるほど。既にコンタクトは取っていたわけか。

 先生が最後まで明かさなかったことを踏まえると状況を察していたのかもしれない。

 

 「観測する過程で君の存在を知り、こうして会話を試みたわけだ。しかし夢の中とはいえあっさりと叶うとは思わなかったよ。こういったことには慣れてるのかい?」

 

 不思議そうにセイアさんは語り掛ける。

 

 まぁ、色々不可思議体験してきたからな。デカグラマトンとやりあったり、廃墟で人を見つけたり。人並み以上に立ち会った気がするよ。夢で話すのも初めてはない気がする。

 

 「…そうね。なんなら最近も体験したよ。特にミカさんのパンチとか」

 

 実際、武闘派が多いパテル分派の長だから実力者なのは覚悟していたさ。でもまさか壁ごと吹っ飛ばされるなんて思いもしなかった。内臓ひっくり返るかと思ったもん。

 

 「ミカか‥‥彼女は昔から腕っぷしは強くてね。私やナギサも中々手を焼かされたものさ」

 

 そうだんたんだ。

 てことはあれは、素手で怪力だったのね‥‥怖っ

 

 「ミカを止めてくれたこと、礼を言う。君が、先生が、補習授業部が引き留めてくれなかったら。取り返しのつかない事態を引き起こしていた」

 

 もしあの場であたしたちが負けてしまったら。

 障害を排除したミカさんはホストの座に座り、ゲヘナへ宣戦布告するだろう。

 そしてトリニティとゲヘナによる争い。もしかしたら学園同士の戦争に発展していたかもしれない。やがて戦乱はキヴォトス中に広がり、大混乱に陥る。混乱に付け込んでアリウスが横やりを入れることだって考えられた。そうなればキヴォトスに終焉が訪れる。

 

 だから、あそこでミカさんを止められて本当に良かった。

 

 「でもミカさんはこれからやり直せる。だって彼女はまだ生徒だもの」

 

 もう高校生ではないあたしとは違う。ミカさんは今を生きる学生だ。

 やらかしたことは許されない。けれどしたことに対する罪悪感を抱いている。セイアさんが無事だったと聞いて、良かったと言ったのだ。

 それにアリウス側の介入もあった。情状酌量の余地もあるだろう。

 

 あたしの返答に、セイアさんは半ば想像ついていたのだろう。

 驚く様子もなく告げる。

 

 「『正義実現委員会の閻魔』とは聞いていたが‥‥意外と優しいんだね」

 

 「ええ。あたしの役目は罪を犯した人を取り締まり、公正に裁くこと。罪を悔いている人を必要以上に責め立てることはしないよ」

 

 「‥‥そうか。この質問は君にとって愚問だったようだ。すまない」

 

 「謝る必要はありませんよ。よくあることですから」

 

 テラス席にある紅茶を飲む。

 べたつかないすっきりとした甘さ。漂う香りも市販の物とは違う、上品な香り。夢の中とはいえど、流石トリニティの紅茶だと実感する。

 

 (でもこれ、結構お高いんだろうなぁ‥‥)

 

 なんて思っていると次第に視界がブレ始め、思わず椅子から転げ落ちそうになる。

 

 「どうやら、時間のようだね」

 

 長いようで短いような一幕。今宵の茶会はお開きらしい。

 

 夢から醒ます前にこれだけは、伝えなければ

 

 「セイアさん。怪我が完治したら、もう一度ミカさんと話し合ってほしいんです」

 

  予想外の言葉にセイアさんは意外そうな顔をする。

 

 「何故、そう思うんだい?」

 

 「なんというかお二人の間にはまだ壁があるような気がするんです。十分にお互いが言いたいことを言い合えていない。そんな気がして、いらぬおせっかいだとは思いますが」

 

 

 

 

 

 視界のブレがひどくなってきた。どうやら時間切れらしい。

 意識が消えかける中、セイアさんはこちらを向いて微笑む。

 

 「最後に一つだけ聞かせてくれないかい。久方ぶりのトリニティはどうだったかな?」

 

 

 「根本的な所は変わってないけど、結構楽しかった」

 

 「そうか。それならよかったよ」

 

 

 微笑むセイアさんを前にあたしの意識は真っ黒になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 静まった空間にはセイアのみが残される

 

 「‥‥浄玻サバキ。予知夢で見た通りの人物だった」

 

 虐げる悪しき者を許さない『熱い正義感』。

 誰に対しても優しく接する『慈愛の心』

 正義実現委員会を担う人間として大事なものを持ち合わせていた。

 

 確かにハスミ副委員長とツルギ委員長が慕うのも納得がいく。

 

 けれど、本当のサバキを知っている人は果たしているのだろうか。

 『正義実現委員会の委員長』ではなく、『正体不明の黒狐』でもない。浄玻サバキという名の少女のことを。

 

 燃えるような情熱の下に押し込めた冷たさを。

 一体、誰が知っているのか。

 

 

 予知夢で観測した未来。

 

 崩壊する平和と日常。

 その中心で叫ぶ天使(トリニティ)からも悪魔(ゲヘナ)からも外れた異形の存在。

 

 あれを人々は”鬼”と呼ぶのだろう。

 

 「‥‥伝えるべきだったか。いや、言えるわけがない。その怪物がサバキ君であるなどと」

 

 築かれた瓦礫の山の頂上で、”鬼”は叫ぶ。

 

 不条理への嘆きを。

 全てに対する憎悪を。

 抑えきれぬ程溢れ出す怒りを。

 

 言葉にならない咆哮へ変えて。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 場所は変わり、真夜中のトリニティ総合学園にある墓所。

 夏真っ盛りのこの学校では密かに寮を抜け出した生徒による肝試しが行われていた。

 

 「ねぇ‥‥本当に出るの?」

 

 「あたぼうよ!だってシスターフッドが管理してる墓地だぜ?ぜってぇ出るに決まってらぁ」

 

 草木も寝静まる丑三つ時。

 月明りが照らしてはいるものの静寂な墓地が自然と不気味さを増す。

 

 「しっかし、『トリニティの亡霊』ってどんなんだろうな?存外可愛かったりして」

 

 「でも確か…『トリニティの亡霊』の噂って嘘だったんじゃないの?ティーパーティーが直々に言ってたけど」

 

 「えっ、そうなの?なーんだ、とんだ肩透かしじゃねぇか。それなら来た意味ねぇじゃん」

 

 落胆しながら、肝試しに来た生徒は帰ろうとする。

 すると墓所の入口に誰かが立っていた。

 

 赤と黒のセーラー服。正義実現委員会の委員だろうか。

 

 「正義実現委員会だ…」

 

 「げっ…」

 

 深夜の巡回中をしていたのだろう。

 こうなった以上、見つからないようにするのは困難だ。仕方なく厳重注意を受ける覚悟で入口に向かう。

 

 「ごめんない。すぐ寮戻りますので…」

 

 しかし声をかけてもその委員は返事を返さない。虚空を見つめた目で、墓所の外を見ている。

 

「あの~~聞いてんのか―――ぐえッ!?」

 

 肩を掴もうとした時、何かに気付いたもう1人が手を取って勢いよく走り出した。

 わき目も降らず、体裁など構いもせずに駆ける。

 

 墓所を抜け出した頃には暑さと湿気から汗まみれになっていた。

 

 「ちょっと!何すんのさ!」

 

 見るからに怒った態度を取っていたが、連れ出した相方の表情を見て絶句する。

 顔を青くし、身体が小刻みに震えているのだから。

 

 「‥‥さっきの人、足がなかった」

 

 「は?」

 

 「それに透けてた。あんなの絶対おかしい‥‥幽霊だよ‥‥絶対」

 

 「じゃあ、何だよ…『トリニティの亡霊』は本当に‥‥」

 

 自分たちが目の当たりにした光景を思い出し背筋が凍るのであった。

 

 

 

エデン条約編 前編 トリニティの亡霊と裏切者 Fin.




 余談
 
 補習授業部の出来事が終わった後、サバキは先生にお叱りを受けたぞ。理由はワカモに学園の襲撃を頼んだこと。状況が状況だったため、1時間ほどの説教で済んだ。当然正座だったため無事、脚が痺れた模様。

 
 これにてエデン条約編 前編、完結!
 

 次回からは短めながら夏空のウイッシュリスト編に移ろうと思います。お楽しみに
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