正義実現委員会の閻魔様   作:光からの使者

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エピソード3 溺れるべからず

 

ウィッシュリストに書かれた目的の内『砂のお城』と『砂風呂』を終え、次のミッションに取り掛かる。

 

 「せっかく海に来たわけですので泳ぎましょう!でも『リストには泳ぎを習得する』とありますね…」

 

 つまりはただ写真を撮るだけではだめだ。泳げる人が泳げない人に教える姿を写真に収める必要がある。

 

 「この中で泳げない人っていらっしゃいますか?私は泳げないというほどでもないので…」

 

 「海に来たのは初めてだけど、水泳の訓練は受けてきたから習得済み」

 

 「私もある程度泳いだことはあります」

 

 「‥‥きひひ」

 

どうやら4人とも泳げるようだ。

そうなると全員習得しているわけでミッションが最初から達成できない。

 

 「どうしましょう‥‥」

 

 「やられた…初めから罠だったのか…」

 

 思案に暮れているとヒフミちゃんが妙案をひねり出す。

 

 「…習得してるように見える写真なら、「できないふり」でもよ言うのではないでしょうか?」

 

 なるほど。

 

 このミッションの目的は『泳ぎを習得する』こと解決するのは『習得するシーンを撮る』こと上手いことミッションの穴を突くわけだ。

 

 「その考えは悪くない。流石だヒフミ。どうだろうか監査役?」

 

 「えっ、監査役って私ですか?うーん…大丈夫だとは思います」

 

 となれば後は教える人と教わる人を決めよう。

 

 「やっぱり教える人といったら……先生が適任だと思います。ふりがバレないよう説得力を持たせる意味合いでも十分だと思いますし」

 

 「”私でよければ喜んで”」

 

 残りは教わる人役だな。ってアズサちゃん、なんであたしの方をじっと見てるの?

 

 「いや、ヒフミが泳ぐと言った時様子がおかしかったからな。…もしかして副先生、泳げないのか?」

 

 「あっ、あはは…何をおっしゃるやら…あ、あたしは泳げるから‥‥」

 

 あからさまに動揺を見せるあたしにみんなの視線が突き刺さる。

 

 「明らかに動揺してますね。ツルギ先輩、サバキ先輩って泳げなかったんですか?」

 

 「‥‥いや、昔見た限りだが泳げてはいた。ただいつの間にか泳いでる姿は見なくなった」

 

 そう、あたしは泳げるんだ。

 ただあの日以降少しばかり抵抗感が出来てしまったのだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 サバキが現役時代だった頃

 

 「ふぅ‥‥夏の奴か……」

 

 あくる日の夏。

 海に逃げた犯罪グループを追い詰めていた。慣れない海上での戦闘だったが幸い相手方の戦力が低かったこともあり難なく制圧完了した。ただ少々気が抜けていたのだろう。それが良くなかった。

 

 

 「くそぉ……せめて一矢報いてやるっ!」

 

 倒した奴の1人が最後の力を振り絞り、部下目掛けて何かを発射した。

 

 「危ない!」

 

 咄嗟にその子を庇ったはいいものの、両腕に粘液が付着する。粘液はたちまち固まり、両腕が枷を付けられたかの如く重くなる。

 

 「そいつはミレニアムから奪った瞬間接着のトリモチ弾だっ!一度固まれば中々取れないのさ」

 

 「コイツ…!」

 

 部下が詰め寄ろうとしたその時、天候が急変し大風が吹き荒れ始める。

 

 「うおっ!?ぐ‥‥うわっ!」

 

 運悪く強風に吹かれたあたしは大波の中に投げ出されてしまった。

 

 普段なら何ともなく海面から出られるはずだったが、特殊トリモチが重しとなって浮き上がることができない。段々呼吸ができなくなりあたしは次第に意識を失った。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 あの後、ダンが救助に入ってくれたおかげで助かった。

 だけどそれ以来、溺れるのが怖い。泳ぐこと自体はできる。ただ溺れるのは絶対に嫌。海中で身動きが取れずに息が詰まっていく感覚は今でも忘れられない。首を絞められるのとはまた違った感覚だ。

 

 「副先生…?どうかされましたか?」

 

 「ウェッ?!な、ナンデモナイ‥‥何でもないさ‥‥」

 

 と・に・か・く早いこと役を決めて写真を撮ってしまおう。こんな序盤に時間は使ってられない。

 

 「そうですね。では教わる方を決めま…あれ、皆さんは?」

 

 辺りを見渡せば先ほどまでいたツルギちゃんたちが居ない。どこに行ったんだろう?

 

 「そういえば私泳げないんでした。すみません、先生助けてくださ~い」

 

 「現在緊急事態発生、至急支援を要請する。繰り返す、緊急事態につき支援を要請する。」

 

 「くへぁっ!ぐぼぼぼぼおっ!がぼっ!がぼっ!ごぼぼぼ‥‥!」

 

 心配もつかの間。

 海辺では三者三葉に溺れたふりをしていた。マシロちゃんはちょっと棒読みぎみで、アズサちゃんは軍隊のそれなのよ。んで‥‥ツルギちゃん、大丈夫?溺れたふり?本当は溺れてるんじゃあ‥‥

 

 助けに行かなきゃ(使命感)

 

 「み、みなさんさっき泳げるって―――」

 

 溺れたふりをする3人をどうするか考えていると本日何度目かの銃声が鳴る。

 

 「あの、これって」

 

 「奇遇ね。さっきも聞いた気がするの」

 

 2度あることは3度あるというべきか。やっぱりさっきにチンピラたちが集まってきた。

 

 「あいつら溺れてやがるぜ!これはチャンスだ!」

 

 「さっきのお返し、たんまりとしてやるぜ!!」

 

 あー意気揚々としてるとこ悪いんだけどまだ間に合うから早く撤退なさいな。

 

 「あ?何言ってやがる、こんな絶好の機会みすみす逃す理由ねえだろうが」

 

 おめぇら沈められっぞ。悪いこと言わねぇからやめとけって。

 必死に忠告するが悲しきかな。ツルギちゃんたちは海辺から飛び出し何事もなかったかのようにチンピラたちと相対する。

 

 「戦闘ですか?」

 

 「ふーふー、…きひゃあ」

 

 

 終わったな、あいつら(絶望)

 

 「あ、あれぇ…?」

 

 「そういえばあいつらが居た辺り、膝くらいまでの深さしかなかったような……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 「スケバンの皆さん、全然懲りませんね…」

 

 ‥‥‥今日だけで確か、3度目か。

 2度あることは3度あるとは言うが、ほぼリプレイ映像と何ら変わりない。

 

 ツルギちゃんたちへ不意を突けると誤認したチンピラたちは瞬く間に制圧された。それはもう一瞬のことである。彼女たちは打ち上げられた魚のように海面をプカプカ漂っている。当然気絶したままだが。

 

 「あの人たち、どうします?」

 

 「”海辺まで引き上げよう”」

 

 「そうですね」

 

 いくら素行の悪いチンピラたちとはいえ海水浴場で死なれたら後味が悪い。渋々ながら救助することにしよう。

 

 「こういうのが海なんだな。確かに悪くない」

 

 アズサちゃん…これは違うのよ…海はこう、なんていうか。自由に楽しむものなの。チンピラたちに襲われることもなく平和で自由に楽しむものなの…

 

 アズサちゃんが海に対して変なイメージを持たなければよいのだが。

 

 それは、それとして撮影は無事に終わらせた。

 みんな筋はいいから邪魔さえ入らなければ簡単に終わらせられるミッションだからね。

 

 えっ、あたしは結局どうしたのかって?

 ‥‥まぁ、あたしが泳ぎを教わってる写真も撮ってもらったよ。みんなのなかであたしは最年長者だから、正直恥ずかしかったんだが、ヒフミちゃんたちにせっかく海に来たんですから写真を撮りましょう!ってせがまれちゃったから断りづらくって。記念写真になったからいっか。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 次のミッションに行く前に少しばかり休憩を取ることにした。ちゃっちゃと終わらせても良いのだが、如何せん真夏で動き続けてきたのだ、当然喉が渇くわけで。日射病や熱中症の危険性もあるからこまめな休息が必要だと判断したのである。

 

 ここであたしが買ったクーラーボックスが役に立つわけだ。

 保冷性ばっちりなこの箱に氷や保冷剤をたんと詰め込んで持ってきた。おかげで持ってきた飲み物はキンキンに冷えてやがる。犯罪的だ、うま過ぎる!

 

 「サバキ先輩、隣よろしいでしょうか?」

 

 「いいわよ」

 

 ビーチパラソルの下で休憩しているとドリンクを持ったマシロちゃんが隣のベンチに腰掛けてきた。

 

 「やはり楽しいですね海は」

 

 「ええ。久しぶりに来てみたけど気分が落ち着くわ」

 

 新旧の正義を担う者たちは彼方にまで続く水平線を見つめる。

 潮の波打つ音が夏らしさを演習する。

 

 

 「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

 

 「何かしら?」

 

 「‥‥サバキ先輩の持つ『正義』とはどういったものでしょうか?」

 

 マシロちゃんの口から出てきた言葉は、正義実現委員会に身を置く人間なら一度は考えたことのあるもの。あたしたち正義実現委員会はその名の通り、『正義』を実現する者たちの集い。あたしやツルギちゃん、ハスミちゃん、コハルちゃんやマシロちゃんもそれぞれが抱える『正義』を胸に門を叩いた。

 

 「最近のことですが、私も『正義』について自分なりに考えているんです。ですがはっきりとした答えは出せていません」

 

 だからあたしの考えを聞いてみたくなった、ってわけね?

 

 

 「はい。いつか私も自身の判断で正義を実行しなければなりません。正しい正義を知るにはまず、知識を得えて新しい見解を得ることだと考えました。ですので今の先輩たちが1年生だった頃に正義を実行してたサバキ先輩のお話をいただければ何か見出せるのかもと思いまして」

 

 考え方としては悪くない。知らないまま成長するよりも知見を深めることは良いことだ。そしてコハルちゃんも同様だったけど、昔と変わらず向上心がある。それはとっても大事。常に前に進もうとする意志は、未来を明るく照らせるものだから。

 

 ‥‥さてと。

 マシロちゃんとの絡みは先日くらいであまり多くない。けれど折角の機会だ、彼女のことを知っておくのも悪くはないと思ってしまった。それにあたしの意見を聞きたがっているのだ。応えねば無作法というもの。

 

 「そうねぇ‥‥あたしの『正義』は『失わせない正義』かしら」

 

 「失わせない…ですか?一体、何を?」

 

 あたしの返答にマシロちゃんはきょとんとする。

 無理もない。だって抽象的すぎるもの。

 

 「決まった物はないわ。『正義』も『平和』も絶対失いたくない、失わせてたまるかっていうのがあたしの『正義』なの。もちろん、あなたたちもね」

 

 大事な…大事な…後輩たち。

 あたしが生きてる間は絶対失わせやしない。もうあんな思いは‥‥

 

 「随分と‥‥大雑把ですね」

 

 「でしょ?でもあたしにとってはそれが大事であり、正義なの」

 

 カラカラとあたしは笑う。

 

 「一般的に定義されるような『正義』やサバキ先輩のような『正義』もある、というわけですか?」

 

 「その通り。よく正義の反対は悪なんて聞くけど、本当は別の正義だとあたしは思ってる」

 

 「えっ?」

 

 マシロちゃんが驚いた反応をする。

 それもそうだろう。正義の反対は悪であると思うのは一般的なこと。むしろ、あたしのような発想になるのが珍しいくらいだ。

 

 「どうしてそう思うのですか?」

 

 「……正義って言葉はかなり複雑なの。その時の正義なんて状況次第でどうも変わる。単純な悪なんてあるようでないんだから」

 

 自分を悪と思って悪事を働く奴はいない。己が正しいと思うから世間一般的に悪と呼ばれることを平然と行える。だから争いごとは無くならないのだ。罪悪感を抱くのであれば、罪を裁くための法律も必要ない。

 

 

 「人はね、自分が正しいと思い込むと止まらなくなるの。初めは誰かを守りたいと思う正義感が段々エスカレートしてしまいには過剰になっていく。手段と目的が入れ替わってより残酷な行いも正当化するようになるの」

 

 マシロちゃんも思う所があるのだろう。少し顔を俯かせていた。

 

 先の補習授業の件もいわば互いの正義感のぶつかり合い。

 アリウスと和解したいミカさんの『正義』

 エデン条約を成立させ幼馴染を守りたかったナギサさんの『正義』

 すれ違った末に権限の悪用とテロ未遂に繋がったわけである。

 

 けれどマシロちゃんは目を力強く見開き、あたしを見つめる。

 

 「色々な『正義』があることはわかりました。ですが、私は私の『正義』を持って立っています。誰かを助けたい、力になりたい。この気持ちは正義実現委員会の門を叩いた時からブレることはありません。私の『正義』が誰かにとって別の『正義』だとしても証明し続けるつもりです」

 

 

 真っすぐな瞳だった。

 確固たる信念を持ち合わせた者の目だった。ブレない『正義』を堂々と誓える彼女が少し羨ましく思う。

 

 「ふふっ。それでいいと思うよ。その固い信念があれば、正義が暴走することはないから」

 

 コハルちゃんといいマシロちゃんといい若いのに軸がしっかりしている。

 次世代の正義実現委員会も安泰ね。

 

 「みなさーん!移動しますので、来てください!」

 

 

 っと堅苦しい話はここまでね。遠くでヒフミちゃんが呼んでる。

 遅れちゃ大変ね。

 

 「サバキ先輩。貴重なお話をありがとうございます。自分なりの『正義』へ一歩前進できたような気がします」

 

 「どういたしまして。マシロちゃん、忘れないでね。自分の『正義』を、進むべき道を」

 

 「はい!」

 

 

 正義を担う者同士の密やかな話は幕を閉じ、次のミッションに向かって行くのであった。

 

 

 




余談
 トリニティに所属する都合上、単純な正義ではいられない。
 正義を志す者にとっては蜘蛛の巣のような場所である。
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