そんな話。
10月31日ハロウィン。
本来はアメリカとかの海外の行事で仮装したガキどもが家を巡ってトリックオアトリートと言って菓子をせびってくる日だ。
それがまぁ日本に来たらチンコを自分に惹きつけたい脳内発情した女とチンコに脳を支配された男が艶事を図り、一年前に至っては渋谷で車をひっくり返すというアナーキーもかくやのイカレた日になっているのだから不思議だ。
ホントにコイツら本来のハロウィンが鎮める対象である悪霊とやらに憑かれてるんじゃねーの?
そもそも僕は、ハロウィンがあまり好きではない。
それは僕自身の誕生日という僕にとっては凄く特別な日が10月30日であり、その翌日のハロウィンはその夢が覚めた後。
なんら特別感のない日であり、世間様との認識のズレや温度差が出来ているのかもしれない。
けれど、一番は僕がハロウィンの恩恵にあずかれるような人間ではないからってのが大きいんだと思う。
SNS上で流れてくるコスプレしたエロ女とのハメ撮りの数々。
正直羨ましいし、コイツら全員死んでくれねーかなぁとか思ったりもするのだ。
恋人居ない歴イコール年齢なのでマジで本格的に羨ましいだけのクソイベント。
陰キャ臭い思考だ。
でも、間違いなく僕が人生で積み重ねた感覚だった。
そして、そんなハロウィンが大嫌いな僕が今日...10月31日。
渋谷のスクランブル交差点に居た。
大勢の集団が誘導されて交差点を渡っていく。
クソ疲れる....コイツら、何のためにこんなことしてんだ....?
そんなことを考えながら隣を見ると僕がここにいる元凶、矢司雄一がジョーカーの恰好で横に並んでいる。
コイツ...この前色々それ関連の出来事が世間を騒がしたのに、この恰好ってどういう神経してんだ....?
「...なぁ、バカきついんだけど。」
「いやごめんって!大学入って上京したわけだし、一回くらい参加しときたいじゃん!」
「...それは、そうなんだけどさぁ。」
僕の高校からの友人、矢司雄一。
僕は大学帰りに、コイツから暇なら付き合ってくんない?という文を入れられてコイツの元へと行った。
そしたら渋谷に行くだの行って来たので、暇だしついていくことにしたのだ。
まぁ嫌いな行事ではあるが、大学進学して2年経っても東京にいないと出来ないことが出来ていない僕にとってはハロウィンというのはThe東京で行われる乱痴気騒ぎって感じだ。
分からないモノはあまり思いっきり批判出来ない。
一般的にクソと言われる映画もちゃんと見て非難するようにしている僕だ。
ハロウィンもそんな感覚でここにいるわけだ。
まぁ現状、良い点なんてまったく見つかってない。
それどころか苛々する一方だ。
この人ごみに、若者が集まった時特有の軽いノリ。
そしてさっき後ろでカップルが「これお祭りみたい~」と言っていたのを聞いたのだ。
どこがだよ。
お前らさては地元のお祭りとか参加したことねーな?
それか東京出身だからそんなお祭りないってか?
都会生まれの悲しいサガだねぇ...。
地方性のない東京生まれの若者が迷惑千万乱痴気パーティを『お祭り』と呼んでいることに一種の悲哀を感じるわ。
交差点を渡って小分けになった集団。
周りを見ればコスプレしたエロ女にナンパする男をよく見る。
大体が茶化ついた僕が嫌いなタイプで、それでいて僕のような陰キャを淘汰しているような男どもだ。
正直今日の体験を経て、ハロウィンはチンコ!マンコ!セックス!!って感じの以前から抱いていた偏見が確たる証拠を持ってしてイメージが固まってしまっていた。
もう、こんなに頭湧きたった男女が大勢集まるのなら実際にお祭りにしちゃえばいいじゃん。
どっかの地方のお祭りみたいにチンコを模した神輿とマンコを模した神輿をみんなで運んでぶつけてセックス表現してれば良いと思う。
名前もハロウィンなんて異国情緒漂うモノじゃなく、『マンコ山笠チンポ山笠~チンポで膣の奥をドンドンどんたく~』って名前にしろ。
「これ深夜のドンキの前を切り取って濃縮還元したみたいな人間しか居ないんだな。」
「...?どういうこと??」
「なんでもねぇよ。」
僕が吐いた悪態を聞いて、矢司は首を傾げる。
コイツもコイツでちょっとむかつくな。
なんでもコイツ、この後この騒動がひと段落したくらいに就活の時にアピールポイントにする為に清掃ボランティアをやるつもりらしい。
一人で飲み入ったバーで風俗嬢に煙草をもらったりと、かねてより行動力だけはあるよく分かんねー奴だと思ってたけど今日はひとしおだ。
だって時刻はまだ八時。
この騒動がひと段落するって....深夜だろ?
それまでお前、どうすんの?
で、僕はどうすれば良いの??
そんな疑問を抱きながらもなんとはなしにコイツと一緒に歩いているわけだ。
今のところ、なんも楽しくない。
そもそも大学帰りだから僕、コスプレしてねーし。
「おージョーカー!」
「ジョーカーじゃーん!写真良いっすか?」
「...すっ!良いっすよ....。」
チャラチャラした連中に写真撮影を要求される矢司。
そこには陰キャ特有の仕草として陽キャに対してのヘコヘコする肥満体系のジョーカーがそこに居た。
これ、原作好きな矢司がこれやってるってことがアイツにとっての最大の尊厳破壊だろ。
ちょっと見ていて面白い。
けどコスプレしている矢司が写真を撮っている間、僕はただ横にはけて普通に居づらさを感じるだけだ。
そもそも歩いている間に矢司は手を振られたり、仮装しているキャラの名前を叫ばれてペコペコ会釈している。
つまりはイベントに仮装しているが故に馴染んでいるのだ。
単純に疎外感を感じる、ノーコスプレの僕は場違いなのだ。
まぁ、なんも事情を詳しく聞かずにホイホイ来たお前が悪いと言われればそれまでなのだが。
でも、コイツとはそういう事情なんか聞かなくても集まって遊びに行くくらいの関係性なのでそれはまぁしょうがない。
とにかく、僕にとっては面白くない。
「うしっ、おまたせ。」
「...なぁ、悪いんだけど...俺トイレ行っていい?」
「おう!俺、待っとくわ!」
なんだか膀胱が限界を迎えそうなので、集団から少し抜けたトコロに居る今のうちにトイレに行くことにした。
近くのコンビニから出る。
集団から少し抜けた場所でも、コンビニのトイレは待つ列が出来るくらい多かった。
これ、こっちじゃなくて向かいの別のコンビニもそんな感じなのかな。
そう思って店の前で待っている矢司の元へと向かう。
すると、そこに居たのは矢司と....そして楽しそうに談笑する女性の人。
ヤギのような角を付けた黒く露出度の高いコスプレ...サキュバスのコスプレか?
そんな恰好をしている綺麗な女の人。
流れるように艶やかな黒髪と、綺麗な碧眼が印象的だった。
これまで矢司が話しているのを見たことがない...それどころか僕も話したことがない部類の絶世の美人だ。
こんな人が矢司と話している....なんだ.....?
「うす、待たせたな。...この人は?」
「あ、お..おう!あぁ~さっきみたいに話しかけられて写真撮影して。そしたらなんか色々話が合っちゃって~。」
あぁ~、この人も肥満体系ジョーカーと写真を撮りたかったってわけか。
目線を向けると、その女性はニコッと僕に笑みを向ける。
僕は存在としての格の違いという物を魂から感じ取ったのかさっと視線を逸らす。
視線を逸らしたことで、矢司が僕が用を足したコンビニとは別の向かいのコンビニの袋を持っていることに気づく。
「お前、それ....。」
「あ、あぁ!これな!写真を撮った後にトリックオアトリートってこの子に言われちゃって、俺菓子持ってないじゃん?それ言ったらコンビニに一緒に買いに行こうってなって....。」
よく見てみれば、コンビニの袋にはお菓子だけでなくコンドームも入っていた。
あぁ....そういうことか。
僕はなんていうか、無感情に状況を察した。
「お前....この後、深夜のボランティアどうすんの?全然時間あるけど。」
「あ、あぁ....いやそのことなんだけどさぁ...その、この子がもっと話したいって言ってるし....」
なんとも言いにくそうな態度を見せる矢司。
やっぱりな。
僕の察した通りだ。
つまりは、ここで今一番邪魔なのは僕なのだ。
「....はぁ。俺さ、帰って良い?この後、好きなプロゲーマーが配信するみたいだかんさ。流石に今の時刻...八時から深夜まで待つとかやっぱ付き合いきれんわ。」
「お、あ、あぁ...。悪いな、付き合わせちゃって....。もし、アレなら地下鉄まで送ろうか?」
「いや、良いって。別に一人で帰れるし。それに人ごみを逆行していくなら俺一人の方がよくね?」
「そ、そうか!それじゃ、ここで解散ってことで....。」
「おう、じゃあな。」
そう言って彼らの背を向ける。
けれど、すぐに振り返った。
なんだか今日という日に....ハロウィンに負けたような気持ちになったから。
「...頑張れよ。」
「...!おう!...ありがとな。」
なんとも気まずい表情をしていた矢司が僕に笑顔を見せる。
その矢司にその綺麗な女の人はぴったりと寄り添っていた。
なんだよ...ぞっこんじゃん。
はぁ....。
肩を落としたくなるのをぐっと我慢して彼らにまた背を向けて歩き出す。
少し歩いた先でスマホで帰る為の経路を調べた。
なんだ、態々人ごみのところまで行かなくても別の駅に行けばいいじゃん。
渋谷から抜けてどんどん歩いていくたびに、人ごみが遠ざかってがらんとした寂しい空気が漂う。
喧騒の後目の静寂。
なんというか矢司と僕、明暗の別れた感じと似ているなって思った。
頑張れよだの言ったけど、僕はどのくらい本心で言ったのだろう。
6割...5割、いや4割にも満たないだろう。
負け惜しみだ。
友達だったから悪いようにも思いたくないけど、でもやっぱりあんな綺麗な人に逆ナンされるとか身体が焼けるほどに羨ましくて。
だから、自分の中のそんな汚い感情を友達に覚えているということから目を逸らす為に言ったに過ぎないのだ。
もしかしたら、僕は心のどこかで矢司のことを下に見ていたのかもしれない。
長い付き合いだ。
だからこそ、アイツの事は分かってた。
デブだし、高校の時に体操服を持って帰り忘れた際のアイツは目に来るほどの悪臭を漂わせていた。
大学に出てから何に目覚めたのか知らないがなんか傾いた思考を滅茶苦茶ツイートし始めたし、飲みに行った時にそれを聞いたら『本気じゃないよ~』とか言いながらも今度は反対の思想を語り始める。
それでいてケモナーで百合が好きで、僕が前にどんなのが好きなのと聞いた時には結構えぐい母娘の尊厳破壊絵を見せられてトラウマになったし。
けれど、アイツには行動力がある。
今回のハロウィンもそうだけど、高校の時は学校で募集していた海外でのボランティア活動に参加していた。
風俗やギャンブルも挑戦していたし、一人でもバーに行ける。
俺の知らない大人とのやり取りも結構しているし、バイタリティ?って奴があるのだ。
少なくともこうしてウジウジ一人でハロウィンに文句言っている僕よりも高尚なのは確かだろう。
そんな行動力があるからこそ、ああやって綺麗な人との艶事という成果を獲得できたのだ。
それはきっとすごいことだし、アイツが報われた瞬間なので祝うべきだ。
けれど、そう素直に祝う気持ちも持てない僕。
僕一人が終わってた。
「二度と行かねぇ....。」
誰も居ない路地を歩きながらも、僕は独り言ちる。
やっぱりハロウィンはクソだ。
なくなってしまえ。
そんな怨嗟を覚えながらも、なんとか家に帰り着いた僕はコンビニで適当に色々炭酸飲料やら酒やらラーメンやらを買い込んで避難するかのように自宅に戻った。
好きなプロゲーマーさんの配信を見てゲラゲラ笑いながら酒を掻き込む。
ハロウィンから逃避し、時刻は深夜2時を超えたあたりで僕は自分の体をベッドに投げ出した。
朝...というか昼か。
時刻は12時。
酒飲んで寝たことで痛む頭、そんな頭をガンガン揺らすようにインターホンが鳴る。
インターホンの音で起こされた僕は、散らかった家で足場を探すかのようにしてインターホン鳴らした奴が分かる奴....これドアホンっていうんだっけ?そこへと向かう。
なんだろ....お届け物とかなんも来ないはずなんだけど。
それに、二日前にオナホ用ローションを頼んだので今日配達が来るとしても何も心当たりがない。
そう思いながらも確認すると、そこに立っているのは矢司だった。
矢司は昨日と同じ格好、それでいて顔のメイクが少し落ちた状態でそこに立っている。
ニッコリと笑顔を浮かべてカメラを真っ直ぐ見つめていた。
「なんだコイツ...なにやってんだ?...気持ちわりぃ.....。」
家に呼んだ覚えもないし、約束してたわけでもないのにそこに立っている矢司。
それでいて、こちらをまっすぐに見つめながらもにっこりと笑みを浮かべていた。
なんというか....なんか不気味だった。
「おい、ふざけんなよ。なんだよ。」
通話ボタンを押して、声をかける。
しかし、微動だにしない。
....これ、アレだ。
中に入れないと話にもならない奴だな。
偶に、俺の高校からの友人を家に呼んだ時にこういう感じの悪ふざけをしてくるのだ。
正直めんどくさいことこの上ない。
こういう時はさっさと家に上げちゃえば向こうも普通に話をしてくる。
だからこそ、僕は開錠ボタンを押す。
マンション1階の扉が開く。
矢司は笑顔のまま、マンションの中へと入っていった。
ハロウィンの衣装のままとか、コイツ絶対臭いだろ....。
でも奴から来てくれたのは良かったのかもしれない。
昨日、俺に気を遣わせたんだ。
それならあんな綺麗な人との情事はどんな感じだったのか、連絡先とか交換できたのかとを僕は聞く資格があるだろう。
土産話くらい聞かせてくれても良いはずだ。
....待てよ?
そもそも、普通情事の時って事前か事後かは問わず風呂とか入らないか?
それにまず服を脱ぐもんじゃね?
....それなのに、なんでアイツ昨日来てた服のまんまなんだ......?
....いや、もしかしたらあの後なんかアイツがやらかしてあの綺麗な人から袖にされて泣く泣くボランティアをしたり、酒に逃げたのかもしれない。
それで僕に愚痴りに来たのかもしれない。
だとしたら良い気味だ。
ざまぁみろって感じ。
まぁ、友達なわけだし?
少しくらい慰めてやるとするかぁ!
そう思ってると、インターホンが鳴る。
ドアホンには青い画面に玄関という文字が写る。
僕はこれまた足の踏み場を探しながらも、玄関へと向かった。
覗き穴を除けば、そこには笑顔の矢司。
そこに居るのが矢司であることを確認すると、僕は鍵を開けて扉を開いた。
「おはよ。...なにお前?何しに来たの?」
そう問いかけてすぐに、僕は気づいた。
アイツの、眼が青い。
ドアホンを見てた時から感じてた違和感。
その理由に面と向かって初めて気づく。
真っ青で綺麗な碧眼。
アイツの目はそんな色はしてない。
それにアイツはカラーコンタクトとかは付けたことがないはずだ。
その目、なんだかどこかで見たような....。
そうだ、昨日の女だ。
昨日の女もちょうど、そんな青空を切り取ったかのような綺麗な碧眼をしていた。
...そもそも今矢司はこうして目の前で気持ちが悪い笑みを浮かべている。
その笑みも、なんだかあの女が浮かべてたものに似てるような....。
バカげてる。
けど、なぜだかなんとなくそう感じた。
ゾワゾワと肌が鳥肌立って、背中に冷や汗が流れる。
「いやぁ~悪い悪い。昨日、気を遣わせちゃったみたいだったから謝ろうと思って~....。」
コイツ....誰だ?
間違いなく目の前にいるのは矢司だ。
けど、なぜだか確信に近い物を感じてる。
コイツは...違う。
矢司ではない。
ニヤニヤと笑いながら、僕に詫びだす矢司。
心臓の鼓動は高まり息が荒れそうになる。
もう気づいてしまったから。
ドアを開けたのが失敗だったって。
だってもう、逃げられない。
「....もうハロウィンは終わってんぞ。」
なんとか絞り出すように言葉を出す。
探るかのような、それでいてハロウィンが終わったのに仮装している友人を茶化しているようにも聞こえる言葉。
けれどその言葉を聞いた瞬間、にっこりと笑顔を浮かべていた矢司から笑みが消えた。
無表情で、ただ僕を真っ直ぐに見つめている。
「あら、そうなの?」
女の声。
間違っても矢司雄一の口から出てはいけない女の声。
それと同時に、元々肥満体系だった矢司の身体がボコボコと泡立つかのように膨張する。
それは段々と人の形を失っていき、しまいにはその肉袋から肉が裂けて太い角のような物が飛び出す。
矢司の目の合ったところは、まるで着ぐるみかのような穴になっていてその向こうで黒い蠕動する何かに包まれた青い瞳が僕を見つめていた。
思考は真っ白。
身体は震えて、ガチガチと身震いで自分の歯が鳴る音が頭を響く。
もしかしたら、ハロウィンに仮装するのは人間だけじゃないのかもしれない。
ちくしょう、やっぱりハロウィンはクソだ。
こんなことなら、居留守すればよかった。
友達が美女といる時、その美女に笑いかけられた時に目を逸らさずにしっかりとその人を見れたら。
友達が尋ねて来た時に開錠する前におかしな点に気づけていれば。
そういうクトゥルフ神話TRPGで言うところの判定をことごとく外したら?っていうのが主人公のイメージです。
実際に一年前のハロウィンでの体験を元にコズミックホラーが書けないかな?それを作中の時系列と同じでハロウィンとその翌日にかけて書いて投稿出来たら面白いかなってハロウィンの夜に思って急遽書いたホラー短編です。
ホラー短編なので続きません。