TS転生精霊女王、神様から自然の再興を任されてしまう   作:ひのかぜ

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精霊の生誕

 生きとし生ける者であれば、多かれ少なかれ必要とするものである水。

 

 この世界では一部の例外はあるが、それは基本的に変わらぬ摂理だと言える。

 

 半ば強引に押し付けられた形となった、アスウェイク大砂漠の自然再興には、当然の事ながら凄まじい量の水が必須だ。

 

 だからこそ、俺はラヴェラ商団の面々との交流から5日後の昼間、雨を降らせない事には始まらないと思ったから、精霊魔法の1つの『雨呼ぶ霊声(ヴィアクスティオ)』を、神様が用意していた『精霊の指南書』を見ながら使ってみた訳である。

 

 勿論、俺が使えば魔力の加減次第で、超広範囲の天気を大嵐に変えてしまう事も可能なのは、精霊の指南書に記されていた文章で確認も済ませている。

 

 故に、細心の注意を払いながら使用した。少なくとも、俺はそうしたつもりではあった。

 

「にしても、あれは効果ありすぎでしょうよ。手加減したはずなのにこれとか、なんの冗談なの……?」

「ルゥ?」

「ああ、うん。心配させてごめんね、テウルフ。調子が良くない訳じゃないから大丈夫」

 

 しかし、結果として空を灰色の分厚い雲が覆い、オアシスに生える木々を大きく揺らす程の強い風に雨が降り、加えて雷が鳴る音が聞こえてくる程の大嵐を呼んでしまう。

 

 今はそれから3日半経ち、天候もほぼ砂漠地帯特有のものへと戻ってはいるが、ピークは前世の祖国である日本でも滅多に来ないレベルの台風、これとほぼ同じくらいだった。

 

 また、この大嵐による精霊大樹への影響は全くなく、俺やテウルフの生活に支障をきたす恐れはない。

 オアシス内に生えているヤシの木擬き他数種類の植物への影響を、雨が止んでからすぐに調べてみたのだが、あの大嵐の割には小さそうだったからほっと一安心だ。

 

「テウルフ。私は上でのんびりしてるから、何かあったら吠えるとかして呼んで」

「ルォ!」

 

 そんな事を考えながら、階段で上に上がってリビングエリアに向かい、置いてあった本での勉強を再開することにした。

 もう外に出る事は可能だが、今は少々そんな気分ではない。様子見のために4時間前、テウルフと一緒にオアシス内とその周辺を見て回ったばかりなのもある。

 

(……はっ?)

 

 あれこれ考えながらリビングエリアまで上り、勉強を始めようとした訳なのだが、そんな気は一瞬で吹き飛ぶ。

 

 何故なら光る葉っぱのようなものが、いきなり俺の目の前にヒラヒラ落ちてきたと思ったら、次の瞬間には特有の気配を放つ女の子……自然の精霊少女へ、数秒で変化したからだ。

 

 瞳はまだ閉じられているから分からないが、髪色や服装などが俺にそっくりなのも驚きでしかない。

 若干髪が黄緑がかっていたり、フリル多めのワンピースに髪飾りがつけられている。パッと見で分かる違う点を挙げるとしたら、これくらいか。

 

 まさか、このタイミングで()()()()の瞬間をこの目で見る事になろうとは、全く思わなかった。

 

 けど、良く考えたらこの精霊大樹は俺の力で満ち満ちていて、更に3日半前には強力な精霊魔法(ヴィアクスティオ)を使用している。

 

 オアシス内であれ植物自体の数はかなり少ないが、自然の精霊が誕生する条件を前述の2つで満たしていても、決しておかしくはない。

 

「んぅ……お母さま……?」

「え? 私が?」

「うん、わたしのお母さま!」

「……わぉ」

 

 だが、数分経ってこの精霊少女が目を覚ました瞬間、満面の笑みで俺の事を「わたしのお母さま!」と呼び、抱きついてくるのは流石に予想外にも程があるのではなかろうか。

 

 でもまあ、状況からしてこの精霊は自然の精霊女王()の魔力が満ち満ちているこの精霊大樹、およびオアシスから生まれた訳であり、発言もあながち間違いとは言い切れない。

 

 オアシスより外側は植物すら殆んどなく、魔物がわらわら出てくる過酷な環境である大砂漠、ともなればこの精霊を一緒に暮らす『仲間』として認定する事は、もはや決定事項だと言えた。

 

 俺もちょっと前に転生してきたばかり故に、何かを教えられる立場ではない問題があるが、まあそこは神様からもらった本を使って、一緒に勉強していくしかない。

 

(……強いな、この力)

 

 それに、名前がない故の特性として、自然のほぼない大砂漠に放り出されたら消滅する、この最大の弱点をないものとして話を進めた場合だが、この精霊はほぼ問題なく過ごせる可能性が高い。

 

 名付けて強化されたグランドウルフであるテウルフよりも、単純な力量が上回っているからだ。属性相性的にも、恐らくは結構有利だ。

 

 その豊富な魔力を使った水属性魔法を連発しているだけで、この大砂漠に生息する魔物はひとたまりもないに違いない。

 

 なお、俺に出会うまでこの大砂漠で積んできた経験があるテウルフと、生まれたばかりのこの子が仮に何かしらの形で戦った場合、テウルフの方が若干優勢になると見ている。

 

「わわっ! お母さま、どこに行くの?」

「あなたに紹介したい、私のお仲間さんのところ。下の階に居るんだよ」

「へぇ、どんな存在なのかなぁ? すっごく楽しみ!」

 

 そして、この精霊が俺の事を母親として扱ってくるのに違和感しかないのだが、状況が状況なだけに決して無下には出来ない。

 ともなれば、テウルフの様に名前をつけるべきだろうが、事はそう簡単ではない。

 

 精霊への名付けは、妖精への名付けと並んで1個体に与える影響が、かなり大きいからだ。

 

 加えて、俺自身も精霊女王としての名前がまだ思い付いていないから、尚更すぐには無理だろう。

 

 とは言え、この精霊への名付け云々に関しては、焦る必要は全くない。ゆっくりと時間をかけ、考えに考えて決めるべき事柄なのだし。

 

(……)

 

 で、この精霊をオアシスで暮らす仲間として迎え入れる以上、テウルフには必ず一声かけておく必要がある。

 

 出来ればお互い仲良く、そうでなくても喧嘩とかをしない程度の関係性を築ければ良いが、果たしてどうだろうか。

 

「わぁ……! もっふもふの大きくて可愛い狼さんだ!」

「ルゥゥ! ルゥ!」

「あはは! くすぐったいよぉ!」

 

 なお、結果はご覧の通り、とても仲良い関係性が築けそうだと確信すると同時に、俺の心配が杞憂に終わる展開となるのであった。

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