TS転生精霊女王、神様から自然の再興を任されてしまう   作:ひのかぜ

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大狼の名付け

「……どうしよう?」

 

 本来であれば他の魔物どころか、人間すら捕食対象とする凶暴なグランドウルフ。地球の動物で表すなら、熟練のハンターですら少しの油断も許さないヒグマが、最も近い存在か。

 

 それくらいに危険なこいつが、借りてきた猫のように大人しいどころか、その体躯に見合わない鳴き声をあげながら身に纏う魔力を完全に霧散させ、伏せて無防備な姿を晒しているともなれば、誰だって驚くはずだ。

 

 確かに俺は、こいつを含め砂漠の魔物を打ち倒す事が可能な、精霊女王として相応しい力を持っている。仮に戦うとするならば、自分の力について何も分かっていないハンデを抱えてさえ、圧倒的勝利を収められるだろう。

 

 しかし、だからと言って普通はここまで大人しい、まるであなたに服従することを誓うかのような態度は取らない。普通は必死に逃げるか、死に物狂いで抵抗するか、諦めるかの3択になるはず。

 

 だから恐る恐る近づいて、その大きな頭に触れてみたりしても視線を向け、匂いを嗅いでくるだけで何もしてこない。

 ゆっくりと後ろに周り、馬に乗る感じで乗ってみても全く動かず、ただ可愛らしい鳴き声をあげるにとどめるのみ。

 尻尾を触ったとしても左右に軽く振るだけで、それ以外は案の定何もしてこなかった。

 何なら、口の前に手を出して(愚かで命知らずな行為をして)みても、反応すら示さない。

 

 致命的となるか否かは別として、襲われるよりは圧倒的に良いのは間違いない。単に、あまりにもイメージとかけ離れているが故に、ひたすら困惑するしかないのだ。

 

 俺をこのオアシスを含めた一帯の主として認め、自分を守る意味で服従の(一緒に暮らしたい)意思を示しているのか、可能性は極めて低いが懐かれたのか、はたまた別の理由があるのかは分からない。

 

 ただ、それならそれで面白そうではある。異世界人が訪れるかどうかも分からないこの環境下、例え魔物でも俺にとって安全ならば尚更だ。

 

「ねえ。一緒に、ここで暮らしてみる?」

「ルォォォ……!」

「おぉ、凄いね。『私』の言葉が分かるんだ」

「ルォッ!」

「知能が極めて高いって特徴はなかったはずだけど……特異個体なのかな?」

 

 と言う事で、物は試しに言ってみたところ、例えるなら嬉しさを感じる鳴き声で俺に向け、返事を返してきた。他の個体は知らないが、少なくともこいつだけは知能がかなり高いらしい。

 

 ただでさえフィジカルが強いグランドウルフに、人の言葉を理解出来る知能が加わるなど、まさに鬼に金棒と言うことわざが似合う状況だ。 

 

(転生した初日に魔物の仲間が出来るとはな……誰も予想出来ないだろ、これ)

 

 言うまでもないが、魔物であれ一緒に暮らす選択をした以上は、責任を持って色々とやっていくつもりである。

 グランドウルフの飼育書とかいう都合の良いものは当然ないため、全てが手探りとなるけど問題はない。

 

(となると、こいつに名前がないのは不便だな。何かつけてやるか)

 

 そして、一緒に暮らすのであれば必要であろう『名前』について、考える必要を感じた俺は、未だに伏せの姿勢を取ったままのこいつを尻目に、思考を巡らせ始める。

 

 この世界では、名前をつけられた対象の種族や名付け親、名付けた時の状況によってかなりの差こそあれ、名付け行為は地球でのそれとは別に、基本的にかなり重要な意味を持つ。

 

 エルフやドワーフなどの亜人種も含めた人類には影響力は非常に少ないが、特に概念寄りの存在である精霊や妖精が名付けの対象となった場合、種族特性を維持しながら1つの生命としての存在が確立するようになる。

 

 勿論、非常に単純明快かつ短いながらも儀式を行う必要があり、単にあだ名や愛称を決めて呼んだ程度では何も変わらない。

 言わずもがな、既に名前が存在する対象や生き物以外にこの儀式をやっても、全く意味を成さない。

 

 なお、俺の場合だと精霊となった経緯が特殊だったからか、儀式をせずとも自分で精霊としての名前を決められる()()が、神様より与えられて……と言うか、何かの間違いでうっかり消滅したら困るどころではないから、決めてくれとお願いされている。

 その場合、1ヵ月以内に決めなければ前世の名前がそのまま引き継がれてしまうため、是が非でも決めなければ。

 

 ちなみに、こいつのような魔物が対象の場合、人類程に意味がないとまでは言わないが、精霊や妖精程にその影響力が強い訳ではない。名付け親を強く信頼するか服従し、かつ名付けを心から受け入れる事も条件に入るため、ある意味では難しくもある。

 

「じゃあ、一緒に暮らす以上は名前がないとね。だから、君の名前は……テウルフ。誰かが居る時は、グランドウルフの『グラ』ちゃんって呼ぶけど、良いかな?」

「オォォォーーン!!」

「そっか。受け入れてくれたみたいで良かったよ……うわっ!?」

 

 ただし、ことこいつに関しては完全に条件を受け入れてくれたらしく、俺が差し出した手に犬がお手をするような感じで乗せてくれたため、この瞬間に『名付け』が成立した。

 

 と同時に、こいつ……テウルフの魔力が目に見えて増え、水の力も感じれるようになる。

 見た目も基本的には変わらないが、毛色と瞳の色が俺の髪や瞳と似てきていた。

 

 名付け親が俺だから少しだけ似てきたのだろうが、なるほど。今回はこう言う形で影響が出たらしい。

 

 環境が環境だから、最低でも1ヵ月くらいは孤独だろうなと思っていただけに、この展開は少し嬉しい。

 前世から孤独に慣れているのならまだしも、仕事なり何なりで人との関わりは持っていたから、本当にそう思っている。

 

「これからよろしくね、テウルフ」

 

 これで、人同士みたく言葉を交わす事は出来ないが、俺の言葉を理解はしてくれる存在と一緒に暮らしていく事が決まり、孤独を感じずに済むと決まったのだった。

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