TS転生精霊女王、神様から自然の再興を任されてしまう   作:ひのかぜ

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落とし物

 ラヴェラ商団の面々は団長(ラヴェラ)を含めた全員、俺の見立て通り信用出来る人たちであった。

 

 昨日、この世界についての情報を纏める作業を始めてから、オアシスを去る予定となっている今日の朝方()まで、特に何事も起こらず平和に時が過ぎていったからである。

 

 強いて言うなら夕方頃に、ラヴェラが道中で倒したラスカルトホークの肉を焼くために火を使うと、疲れた様子で報告しに来た事くらいだ。

 

 大砂漠を渡る旅の疲れが想像以上に溜まっていたところに、威圧感が半端ないやり取りを1時間近くも行なわせてしまったのだ。そりゃあ、そうもなる。

 

「ありがとうございました、女王様。お陰様で()()()()、しっかりと休息を取る事が出来ました」

「そうか、それは良かった。私としても、ラヴェラから興味深い話の数々を聞けて、この交流は良い経験になったと言おう」

 

 しかし、あの後身体的にも精神的にもゆっくりと休む事が出来たようで、今の彼女の表情は少し晴れやかになっている。

 

 他の皆も、完全に疲れが取れたとは言い難いだろうが、これからの大砂漠旅を乗り切るだけの英気は養えたように見えた。余程の事態が起こらなければ、マリスタルナの街に到着出来るだろう。

 

 なお、念のためにテントが撤収された辺りや湖を軽く見回してみたところ、ちょっとしたゴミ1つすらなかった。この様子だと、俺が事前に綺麗にしてと伝えなくても良かったに違いない。

 

(……だからこそ、人脈が広がるんだろうな)

 

 これは恐らく、ほぼ全員に習慣づいている。オアシス以外のどのような場所であれ、やむを得ない状況に陥らない限りは、意識しなくても身体が動くレベルだ。

 

 ラヴェラの見る目と教育の賜物か、各々が小さな頃に置かれていた環境が良かったからか……いや、違う。両方が揃ってこそか。

 

「さて。ここまで無事に辿り着けたお前たちなら杞憂となるだろうが、大砂漠を渡り終えるまでは気を抜くなよ」

「もしかして、心配して下さるのですか? 純粋な人族である我々を」

「まあ、そうだな。他の奴らならともかく、信用出来ると判断した者たちの旅路を思うくらいは、私だってするさ。ラヴェラ」

「重ね重ね、感謝致します女王様……では、我々はこれにて立ち去りますね」

 

 そして、テウルフに乗り大砂漠との境界線まで来たところで、商団の全員に向けて見送りの一声をかけた。

 

 過去の歴史から、自然の精霊は基本的に純粋な人間に友好的ではない。この要素があるお陰で、ラヴェラを含めた大半は俺のらしからぬ振る舞いに驚いている。

 

 だが、それで良い。記念すべきこの世界の人間との初対面、振る舞いがアレな奴らだったらともかく、前世の日本人を彷彿とさせるレベルの集団が相手であれば、尚更なのだから。

 

「ふぅ、もう良いかな。女王様らしく振る舞うのも疲れたよ」

「ルゥゥ!」

「労ってくれてるの? 君は優しいね、テウルフ……ん?」

 

 遠目で見える程度、ここで全力で叫んでも聞こえなくなる距離まで離れたのを確認したため、女王様ムーブで疲れた精神を癒すために家へ戻り始めてからすぐ、生えていたヤシの木擬きの根元に1枚のハンカチが落ちていた事に気づく。

 

 俺の家にも、神様が用意してくれたタオルやハンカチはあるが、花柄模様のハンカチはなかった。そして何より、ここまで使い込んではいない。

 

 どこかの町や村とかから飛んで来たとは考えにくいから、間違いなくラヴェラ商団の面々が落としたか、忘れていったのだろう。

 

(うーん……イリシスって人に届けてあげるべきか否か……これ、絶対大切な奴だよな)

 

 と言うか、拾って良く見てみると、落とし主であろう人物の名前が刺繍されている。

 

 誰かからプレゼントされたのか、自分で買ったか作ったものかは分からないが、大切にしていた事だけはすぐに分かった。

 

「テウルフ。まだ間に合いそうだし、あの人たちを追いかけられる? 全速力で」

「ルォッ!」

 

 そう考えたら、次の瞬間使い込んだハンカチを手にテウルフの背中へと再度乗り、すぐさま追いかけるようにお願いをしていた。

 

 気づくのが遅ければ諦めていただろうが、こうして気づいてしまった以上、とてもじゃないが無視は出来ない。

 

 大事なものを落としたと気づいた時の喪失感、それが戻って来た時の嬉しさ、どちらも前世で経験したが故である。

 

 勿論、これらは全て俺の勝手な想像であり、届けに行くのも独りよがりな発想だ。

 全速力で追いかければ、確実に変な誤解をさせてしまう事も、当然理解している。

 言わずもがな、これが女王の振る舞いとして正しいとは言い切れない事もだ。

 

「えっ……じ、女王様!? もしや、我々の内誰かが何かとんでもない粗相をしてしまったとかでしょうか……?」

「驚かせてすまない。そう言う訳ではなくてだな、実は……」

 

 で、案の定ラヴェラを含む商団の面々をパニック状態にさせてしまったので、速攻で問いかけに対する否定を行い、追いかけた理由を説明し始めた。

 

「嘘……バッグ閉め忘れてる上に落とすとか……わたしの馬鹿!」

「ふむ。その様子だと、お前がイリシスで間違いはないな?」

「あっ……はい、わたしのハンカチです。その、わざわざわたしのためだけに、お手数かけて申し訳ありません。ありがとうございます、女王さま」

「気にしなくて良い。これは、私がやりたくてやっただけなのだからな」

「マジで大切な奴じゃねえか。良かったな、イリシス……女王様。俺の幼馴染みのために、ありがとうございました」

「うむ。こやつにも言ったが、気にしなくても良いぞ。えっと……」

「ギリセスと申します。イリシスと同じく新米ですが、精霊術士をやっています」

「そうか……その名前、覚えておこう」

 

 すると、金髪赤褐色の瞳をした少年……ギリセスの隣に居た銀髪青瞳の少女が、明らかに持ち主でなければ見せない反応を見せ始めた。

 

 更に、ギリセスを含めた商団の面々がハンカチの存在を知っていて、そこに刺繍されていた名前で呼んでいるのが耳に入る。ここまで来れば、持ち主であると言うのは疑い様のない事実であろう。

 

 故に、一言断ってラヴェラとのやり取りを止めてから、小さく畳んで直接手渡す。

 

(届ける判断を下して良かった。俺の勝手な想像は当たっていたようだな)

 

 そうして受け取ってくれた後、自分を強く戒める言葉を呪文の如く口にしつつ、しっかりバッグにしまう様子から、相当大切にしていたのだと良く分かる一幕である。

 

 渡したハンカチにどんな思いがあるのかなど、色々と話を聞いてみたい気もするが、今はそれをする時ではない。ラヴェラたちだってこんな大砂漠は一刻も早く抜け、目的地に到着したいはずなのだから。

 

「さてと、これでもう用事はないから私は行く。改めて言うが、驚かせてすまなかった」

 

 なので俺は、最後に一言だけ残してこの場を立ち去る事を決めた。

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