TS転生精霊女王、神様から自然の再興を任されてしまう 作:ひのかぜ
アスウェイク大砂漠を北に抜け、更に幾つかの小さな町や村を抜けた先にある、レーガラント帝国の三大都市の1つである【マリスタルナ】。
この都市近辺にある標高3000m級の山には、非常に難解かつ特殊な加工を施す事で、あらゆる魔法に対する強力な耐性を付与する効果のある【
そのため、この鉱石を採掘する者や加工して帝国の要所を守るための魔道具や武具の製作で生計を立てようと考えた優れた職人が、かなり多く暮らしている。
で、そう言った人々以外にも沢山の帝国民が集まり、レーガラント帝国の軍事・経済の一端を担っているため、あらゆる面で帝都に準ずる規模をこの都市は誇っている。
当然、他国の商人や冒険者などと言った人物も多数集まっているが、治安に関しては心配する必要はほぼない。
優秀な軍人や警察組織、優れた力量と精神を持つ冒険者の存在も勿論あるが、1番は紫双の戦女神ヘーラの拠点が住宅街にある事だろう。
特に、人さらいや強盗、殺人などと言った凶悪犯罪に至っては皆無である。
5年程前までは少ないもののあったが、別案件で激昂していた彼女が凶悪犯罪組織所属の350人を鏖殺した事が、最大の理由なのだ。
「全く、次から次へと仕事仕事って……忙しいったらありゃしないわ! ネイテ、他の助手たちと一緒に残りの仕事を全部やっといて!!」
「えっと、それは無理ですよ……と言うかルシェルさん、今日は随分と荒れてますね」
「当たり前じゃない! 他にも有能な調合師が居るのに、どいつもこいつも私にばかり頼んできて忙しくなるものだから、本当に嫌になるわ! もう放り出して休んじゃおうかしら」
そんな、帝国屈指の経済規模を誇る都市の一角にある個人商店程の小さな『調合屋』の建物に、主に冒険者や商団や鍛冶屋の人々が使用する解毒や傷の治癒、魔力や体力を回復させるポーションを作る職業である『調合師』のエルフの女性が、助手のネイテと言う人間の男性に思い切り当たっていた。
ルシェルと呼ばれている彼女の作るポーションが、マリスタルナで最も質の面で優れていて、かつ本人の顧客に対する愛想の良さが好評を得ているための忙しさである。
加えて、頼まれればほぼ断れない性格でもあり、体感する事となるストレスも半端ではない。
だから、こうしてたまに仕事を中断し、信頼のおけるネイテを含む助手たちに愚痴をこぼして発散していた。
これだけ見れば、当たられる助手たちのストレスも凄そうではあるし、労働環境もお世辞にも良いとは言えそうにない様に見えるだろう。
しかし、実際は福利厚生が大手を含めた他所と比べて手厚く、ルシェル自身がどれだけ荒れても助手に対して身体・精神的暴力を一切振るわず、散々愚痴をこぼして気分が落ち着いた後のアフターケアに余念がないため、見た目程助手にはストレスはない。
ただし、それなりに頻度が高いため、露骨にまたかと呆れられ気味ではあるが。
ちなみに、ここ1週間は様々な界隈からの注文が一気に入ったために特段忙しく、普段よりも荒れ具合が酷い状態となっている。
「あはは……まあ、ここ1週間は注文が一気に来ましたからね。特に、ヘーラさんからの注文が」
「はぁ。アイツからを含め、皆から頼りにされるのは嫌いじゃないけれど、2~3日まとまった休みが欲しいわ。美味しい食べ物を食べながら、何もせずにのんびり過ごしたいし」
「確かにここのところ、連続で働き詰めてますしね。では、今ある仕事を何とか今日中に終わらせる事を前提として、明日から3日間休むための準備を済ませ、それを終えたらヘーラさん含めたマリスタルナのお得意様方に、僕の方から伝えておきます」
「ネイテ、貴方って本当に気が利くのね。勿論、よろしく頼むわ」
普段よりも荒れてはいるものの、珍しい出来事と言う訳でもないのでネイテは特に驚く事もなかった。
気分が高ぶるルシェルを落ち着かせて仕事をしてもらうため、いつもの様に彼女の愚痴を嫌な顔1つせずに聞きながら共感を示し、かつ彼女の望む展開とするために動く事を約束した。
「さてと、明日から3日心置きなく休むために休憩時間を返上して仕事しますか……ネイテ。例の商団から、ポーションの素材は買ってきてくれた?」
「あっ、はい! 先程マリスタルナにやって来たラヴェラ商団の方々から、今回も沢山仕入れさせてもらいましたよ」
「いつもありがとうね。じゃあ、受け取るわ」
結果、今まで高ぶっていたのが嘘であるかの様に元へと戻り、ネイテがラヴェラ商団が仕入れてきた沢山の物の中から買ってきた、ポーションを作るために必要な素材を受け取ってすぐに作業に取りかかろうとしたが、とある物を目にした事がきっかけで、それは中断させられる事となる。
「うん。流石はラヴェラ商団、文句無しの素晴らしい品質の素材を仕入れてきてくれてるわ……ん、ネイテ? この瓶に入ってる透明な液体から自然の精霊の力を感じるのだけど……どうしたの?」
「ああ、これですか? これは、商団の人たちが途中で立ち寄った
「そう、凄いわね。人間しかいないラヴェラ商団とその護衛が自然の精霊女王の住みかに立ち入るだけでなく、そこにある水を持ち帰る事を許されるなんて」
何故なら、持ってこられた数々の素材の中に、頼んでもいないはずの、自然の精霊の力を発する無色透明の液体が入った瓶があったためだ。
それ故に、瓶の中身が一体何なのかと気になったルシェルは、ネイテに対してこれはどうしたのかと尋ねたところ、瓶の中身は自然の精霊女王が住む場所にある湖の水であると判明する。
「ねえ、ネイテ。商団の人たち、今も貴方が素材を買いに行った場所にいるかしら?」
「多分、居るかと思います。道中でかち合った大嵐を含めて、大砂漠旅は相当堪えたみたいなので」
「あー……でしょうね。
本職の精霊術士には劣るものの、調合師になる過程でルシェルはある程度の能力と精霊に関する知識を得ている。
なので、純粋な人族のみで構成されているラヴェラ商団が自然の精霊女王と相対し、住みかにあった湖の水を持ち帰る事を許されたと言う話に、表情では落ち着きを保ちつつも心の中では非常に驚いていた。
友好的ではない精霊の長から一定以上の信用を得たも同然で、アスウェイク大砂漠とその周辺の町や村を中心に、長い時間をかければ純粋な人類にも比較的友好を保てるようになる。
直接言われた訳ではないが、言われたも同然なので驚くのも無理はない。
「そう言えば、その水って使い道に制限はあるのかしら?」
「えっと……女王様自身は何も言ってなかったらしいですが、一応営利目的では使わないようにと、ラヴェラさんが念を押してきました。ですので、実質販売品にするポーションなどには使えません」
「そう。でも、可能なら欲しいわね。ちょっとその水をもらえるか、ラヴェラ団長と交渉してくるから、留守番よろしく」
「了解しました」
そして、一定の制限があるにせよ使い道がありそうな、その透明で綺麗な『水』を欲しくなったルシェルはネイテに留守を任せると、ラヴェラ商団が居る市場へ駆け足で向かっていった。
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