雷神よ愛を知れ   作:天廻シーカ

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この作品の鹿紫雲一ですが普通の生活するために言動だけは若干マイルドになってます(中身は変わってない)。



1 始まりの日 前編

『青春とは、己を鍛錬する期間で、また暴力である。

 この世界に生を受けて十六年、私はただ己を鍛え続けてきた。

 この世界では掴みにくいと思われる呪力も、成人するまでにはなんとかしたいと思っている。今はその片鱗も掴めてはいないが。

 話は変わるが、近頃の学生はあまり暴力を振るったり、本気の殴り合いの大喧嘩をしないのだろうか。

 私は甚だ疑問に思っている。

 殴り合いの大喧嘩というのはなんの意味もないようで、実は大きな意味を持っているからだ。

 挑みかかる弱者と、その覚悟に応える強者。その二人の応え合いに愛はないというのだろうか。

 否。これは最も美しい愛である。ああ、なんと美しい愛の形であろうか。

 しかし、社会はそれを許さず暴力を抑制するように動き続けている。

 餓鬼から愛を奪い孤独を強制し続けている。

 これは許されざることであり、私はそんな社会の仕組みを、そんな社会の風潮を変えていきたいと強く思う』

 

「なあ比企谷、私が出した課題ってなんだっけ?」

「高校生活を振り返ってというテーマに作文ですけど」

「だよなぁ……」

 

頭を抱える平塚先生の前で俺、鹿紫雲一は桜をボーッと眺めていた。教室の隅の席にいた男子生徒と共に職員室に呼び出されたかと思ったらこれだ。仕方ないから来てやったのに、来るなり俺は生活指導の教師にため息を吐かれている。どうしたものか。

 

「まずな、『呪力』ってなんだよ。調べても出てこないような謎パワーを当たり前のように真面目な作文で書くな」

「表面的になら説明できますが、説明した方が?」

「するな。脳の容量の無駄だ」

 

その後もなんの抵抗もしない俺に対して罵詈雑言の嵐が降り注ぎ続けた。

お前の高校生活はどこいってんだとか、学生が同級生に対して当たり前のように餓鬼って言うなとか、暴力を肯定するなとか。

あくまで一部だけでこれとかどれだけディスれるんだよこの作文。

 

「そして比企谷もなんだ……、」

 

やっと俺に対するディスりが終わったため、再び散りゆく桜を眺めるのを再開する。

いい加減話終わってくれねぇかな。さっさと帰って寝てぇんだよ。ちょいと鍛錬もしたいし。

 

「はぁ……、こんな久しぶりにカロリーの高い文章読んだから胃もたれしそうだ」

 

その言葉を聞いて、俺は始めからずっと聞いてましたよという体を取り繕って平塚先生の方を向く。

思ったより早く終わったな、ラッキー。ギリギリ禅組む時間も残せたし上々だ。

 

「死んだ魚の目をした学生と暴力いちばんの学生背負ってけとか、とんだクラス頼まれたもんだな」

「そんなDHA豊富そうっすか?賢そうですね」

 

おっと、急に言葉のドッチボールが始まったが思ったより隣の男子生徒、先生との馬が合っている。こんなに軽口を簡単に叩き合えるということは、一度暴力でやり合ったんだろうか。

うーむ、俺には前々世からこんな軽口叩き合えて信頼できた仲間は多分いなかった。

わからねぇな、覚えてないだけでいたのかもしれねぇ。

 

「で、君もだ。

 厨二病臭いところが多々見えるし、君の家庭の事情もわかっているが、それとは別に自由な時間は結構あるはずだぞ?

 それがなんでこの高校生活1%の作文になった?」

「全部真ですので」

「全部間違ってるんだよなぁ……」

 

どこが間違ってるんだ、気に食わねぇ。

近頃の中高生が暴力をしていないのも、愛は暴力で伝えるものであるということも、俺は知っている。少し寂しい気もするが、これが最適解のはずだ。

少なくとも二度の人生でこの先生の三倍近くは考えているだろうからそれをとやかく言われる筋合いは無い。

 

「小僧、今年齢のことを考えていたな?」

「え?」

 

その言葉に思わず声を上げながらも必要最小限の動きで先生の見事な正拳突きを避ける。おい待て、なんで当たり前のように先生が生徒に暴力振るってるんだよおかしいだろ。

しかも超綺麗なフォームだった上に拳が風切ってたじゃねぇか、直撃したら普通に保健室送りだぞ。

 

「なんで拳が飛んでくるんですか、俺考えてただけですよ」

「つい手が出た。あと君なら避けられると思ってな。すまない」

「確かに避けられますが……」

 

隣を見るとさっき比企谷と呼ばれていた男子生徒がドン引きした顔でこっちを見ていた。そりゃそうだ、俺だから避けられたが大抵の素人なら普通に直撃する速度だった。呪力以外の力はちゃんとくれた神様に感謝だな。

 

「ともかく、すみませんでした。問題の内容書き直してきます」

「すみませんでした、俺も書き直して出します」

 

俺の言葉に乗じるように比企谷も頭を下げる。先生と比企谷が仲良く話し始めた時は長引くんじゃねぇかとヒヤヒヤしたが、終わってみりゃ短く済んでよかった。幸運だったな。

 

「まあ待て、国語36点、96点。今日はお前たち2人に提案したいことがあったんだ。正直少し考えていたんだが、今回のの怪文書を読んで完全に踏み切ることにした」

「は……?というか俺はともかくダイナミック得点開示やめませんか。

 個人情報終わってますよ」

「なんだ、じゃあ数学100点と48点っていった方が良かったか?」

「あ、やめて下さい致命傷です。提案ってなんです?」

 

比企谷はすぐさま音を上げた。しかし、俺にとっては別に国語36点が広まったところでなんとも思わないから勝手に言えという感じでノーダメージ。

必須知識の漢字で20点満点が取れているし、進級するための補修もすでに予定に組み込んである。

それより提案がなにかが気になる。だるい社会奉仕的なものは嫌だ。

だがいかんせんこの教師が国語教師なせいで生殺与奪の件を握られている。

クッソ、もっとマジで勉強しておけばよかった。

 

「まず前提として、君ら2人には友達がいないだろう?」

「当たり前だ。命をかけて殺し合った仲の奴がいないからな」

「えぇ……。まあ、そうですが」

 

さっきから俺が口を開くたびに比企谷がドン引きしている気がする。先生も先生ですぐに額に手を当てる。

なにか俺は間違ったことを言っているのだろうか。

 

「提案と言ったが、まあ強制だ。

 比企谷は絶対に、鹿紫雲は絶対の絶対に従え。

 君たちの精神を一から叩き直す」

「「は?」」

「よし、じゃあ2人とも着いて来たまえ」

 

平塚先生はそう言うと、白衣をはためかせながら職員室を出て行った。

なんでこの先生、白衣を着ているのだろうか。俺は授業中ほとんど寝ているせいでわからないがチョークの使い方が終わっているんだろうか。

それにしても白衣を着るのはやりすぎだろと言いたくなる。

 

「早く着いて来い、キレるぞ」

「「えぇ……」」

 

もうキレてるだろ、その言葉が口をついて出かけたがギリギリで抑えた。そしてのっそのっそと歩き始めた比企谷の後ろに着いて行く。ここで言い争っても何の意味もねぇからな。

廊下を歩いている間にいつの間にか隣に並んでいた比企谷の容姿を確認しようとそちらを見ると、奴も同じことを考えていたようでたまたま目が合った。そのままため息を吐き2人で肩を落とす。この男、本当に死んだ魚の目をしていた。こんな男と同列に扱われているのが正直心外だ。

だが、これは奴も思っていることだろう。俺もこの髪型がやべー髪型であることは自覚している。俺は自分が好きでやっているから他人の評価など知ったこっちゃないがな。

社会性という意味ではある意味俺たち2人は最強なのかもしれない。

 

「ここだ」

 

五条悟と比企谷の目を足して2で割れば普通の目になるのだろうか、そんなことをぬべーっと考えていたらいつの間にか目的地に着いていたようだ。ちなみにまだ要件を言われていない。この先生狂っている。

というかここ空き教室か?何で連れて来たのかがわからねぇ。

そう思いながらも、平塚先生の開けたドアに俺はズカズカと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

女生徒が1人居た。陽だまりの中1人で小説を読んでいる、ただただか弱い女だ。ただ、そのか弱さと同じレベルで美しかった。

2回の人生を終えて来ている俺が美しいと思うのだから大抵の人間は美しいと思うに違いない。

 

「雪ノ下、ちょっといいか」

 

俺たちを引き連れ当たり前のように教室に侵入した平塚先生は、その女生徒にそのままの勢いで声をかけた。どうやらこの女子の名前は雪ノ下というらしい。寒そうな名前だな。

雪ノ下はちょうど読んでいた文庫本から目を上げて冷たい目でこちら、主に平塚先生の方を貫く。

うん、明らかに好意は持たれていない。

 

「平塚先生。入る時はノックをお願いしたはずですが」

 

そんな言葉を皮切りに始まる会話を他所に比企谷を見ると、雪ノ下を見て固まっていた。

コイツはダメだな、戦場なら1番最初に死ぬタイプだ。

そういやすっかり忘れてたけど提案ってなんなんだよ。もう帰りてぇ。

 

「はぁ……、それで、そちらの奇抜な人たちは?」

「彼らは入部希望者だ」

「は?」

 

ついに思わず声が漏れた。勝手に連れられて来た教室に入ったら勝手に部活に入ることが決定していたんだから、そりゃキレたくもなる。

何もかもがおかしい。

ま、それは隣の比企谷もわかっているようだし動揺している。ここは俺が聞いてやるか。

 

「俺たち、提案という話で来たんだが、入部って話はどっから来たんだ。話おかしくないか?」

「君らはヤバいレポートを書いたのでな。特に君が。ということで、ここで罰として部活動をすることを命じる。

 もちろん拒否権はない」

 

終わった。マジで、国語ちゃんとやっとけばよかった。国語の進級さえかかってなければ即逃げたから、現実が非情過ぎる。

残念ながら監獄に留まることになった。じゃあな、俺の自主練。

 

「ということで、念の為雪ノ下にも伝えておく。

 こっちの比企谷はこの腐った目と同様、根性も腐っている。そのせいでいつも孤独な哀れなやつだ。彼の捻くれた孤独体質をここで矯正する」

 

流石に可哀想に思って隣を見ると、比企谷も苦々しい顔を全面に出していた。16歳で精神破壊してくるとかこの先生人の心とかないな。

次は俺か、何を言われる。もし嫌なことがあったら訂正してやるから覚悟しろ。

 

「そしてこいつが鹿紫雲だ。こいつは、暴力で全てが平和になると思っている、ある意味比企谷よりもヤバいやつだ。

 というかこいつに暴力以外の愛をこの部活で教えてやってくれ。

 国語の成績と今後のこいつの人生が不安でしょうがない」

 

うん、何も反論できん!

なんか言うつもりだったが、言うことなかった!わりかし思ってた疑問そのまま言ってくれたからな。この世界に来るとき聞こえた変な声も暴力以外の愛の形を知ってくれって言ってたし。

正論だ正論。

 

「平塚先生、勝手に話を進めないでもらえますか」

「なんだ、嫌なのか」

「はい、お断りします。そこの男、1人はこっちを下賎な目で見ているだけですが、もう1人はこの話を殆ど無視してもう窓の外を見てます。

 正直この2人の手綱を握れる自信がありません」

 

おっと話に飽きていたのが気づかれた。だって話なげーじゃん。

こんな時間あるならスクワットでもやってりゃよかった。ほんと今日、時間の無駄だ。

 

「大丈夫だ、雪ノ下。多分。

 比企谷の方はそんな度胸があれば高校生活を謳歌できているだろうし、鹿紫雲も鹿紫雲で実際に暴れているわけではない。精々運動神経が良いだけのただの厨二病の学生だ」

「なるほど……」

 

おい、流石に突っ込みたくなった。こちとら呪力は使えないと言っても運動神経のレベルはいいなんてもんじゃない、100年に1人の逸材だぞ。それをただの学生って言うなよ。

比企谷も何かブツブツ言っているような気がするが、気にしない。

さっきの話のレベルからしてたいして重要な話でもないだろう。無視しても損はない。

 

「はぁ……。はい、それでは承ります。先生からの依頼であれば無碍に出来ませんし」

「そうか、ならよろしく頼んだぞ雪ノ下」

「こっちには聞かないのかよ……」

「当たり前だ。君らに選択肢はない」

 

平塚先生はそう言うと、ツカツカと教室を出て行ってしまった。





高評価、感想下さると作者が喜びます。
続くかは未定ですが、1時間後に後編上がります。
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