Rei - 暇を持て余していた時に書いてあったやつです。犬吠埼が出てくる理由? 私が気に入っている場所だからですが、何か?
──速見高校学園艦・艦橋併設テラス──
「もうすぐ大洗ですね……」チャリ、という金属音とともに懐中時計を取り出しながら、六甲が呟く。
八月末にマニラ港を出発した速見高校学園艦は、黒潮の背にのって東進し、灯台の閃光に導かれながら
「ああ……」将人は顔に当たる潮風に眼を細めながら答えた。「大洗学園には一度寄らないといかんと思ってたんだ──積もる話もあることだし……」
「なら投錨後すぐに大洗学園に向かったほうがいいでしょうね……矢貫が銚子の国際電電と話しているのを聞きましたが、すこし天気が荒れ気味だそうです。無電は洋上でも通じますから……」
「そうか。この間の新聞では晴れと出ていたが、なにせ一週間前の予報だからな。当てにならんのも無理はないか」
「まあそんなところです。そういえば……」六甲がふと思い出したように言う。「思えばなかなか過密なスケジュールでしたね。神戸の親善試合が終わったかと思えば理事長代理でマニラへ訪問、それが終わったらすぐさま日本に
「まあそう愚痴るな、理事長は理事長で学園の存続に奔走してるんだ。今回だって成田からマニラまでの航空券を手配するのは造作もなかったが、訪問の目玉は親善試合だったからな……」
速見高校の理事長は、学校を存続させるためあらゆる方面へ根廻しをしていた。それに並行して、可能な限り多くの試合で勝利をおさめることで学校内の戦車道への興味を引き立てようとしていたため、戦車道部が学園艦ごと海外に遠征して親善試合を行うことも珍しい話ではなかった。
じっさい、日本国内の強豪校と幾度も戦ってきた速見隊を相手に、マリキナ国際高校の戦車道部は手もなくひねられており、速見高校生の戦車道への興味は
「我々としても経験が積めるしWIN-WIN、と言いたいところですが……」と六甲がなおもぼやいた。「さすがにこう何度も遠征を繰り返していては隊の疲労が溜まる一方です」
「お前が疲れてるだけだろう」
「バレましたか。──とはいえ、そろそろ休暇が欲しいところですね」
「それについては心配しなくていい」と将人が返す。「学園艦改装予算を戦車道にそっくり注ぎこんだせいで艦のあちこちにガタがきていてな……しばらくは茨城に
「では私はすこし足を伸ばして銚電に乗ってきましょうかね……隊長も大洗学園への訪問が終わったら一緒に来ませんか? インフラが悪いのはともかく、犬吠埼の温泉はなかなかいいですよ。──空調の効きは悪いですがね」
毒舌持ちの六甲が珍しく称賛しているのを聞いて、将人は少し興味をそそられた。
「お前が賞めるのも珍しいな……一度行ってみるか」
「いい選択です、隊長──では隊長は大洗での用事がすんだら来てください。宿は二人部屋を取っておきますから」
コラム:速見高校学園艦の設定
【速見高校学園艦】
英海軍・イラストリアス級航空母艦を原型とする学園艦。大阪特別港を本拠地とする。
全長六八一〇メートル、全幅八七〇メートルと大洗学園艦より一回り小さいサイズで、六基の加圧水型原子炉と一二基の蒸気タービンにより最高速度十一ノット、巡航速度八ノットで航行する。
速見高校艦は原子炉を原動力とする学園艦としては最も新しい型式であるが、それでも建造されたのは一九八五年であり、改装もほとんど行われていないため、艦内各所で老朽化が進行している。
【原子力学園艦】
原子炉を原動力として航行する学園艦。現時点で現役のものは速見高校艦を含め五隻のみ。
一九七〇年代から八〇年代にかけて盛んに建造されたが、原子炉の危険性などが問題視された影響で九〇年代からは急速にその数を減らし、複数の再生可能エネルギーを原動力とした艦に置き換えられていった。
艦底に存在する原子炉区画は船舶課の生徒といえども立ち入ることはできず、万が一原子炉が致命的な故障を起こした場合は、緊急手段として区画ごと海水注入で封鎖した後、予備電源を使用して可能な限り陸地の近くまで航行する。