Rei - だいぶ間があきましたが第7話です。
──試合会場・森林地帯──
「あれは──黒森峰でも知波単でもない!
「いえ隊長、奴はただじっとしているだけです。命令されてあそこにいるのでしょう。それに──双眼鏡で見てみてください」
俺が言われるままに双眼鏡で茂みの向こうを除くと──果たせるかな、一両で突っ立っているT-34/85の車体には青いフラッグが立っていた。
「フラッグ車──だと⁉」
「
「ならさっさと──待て、さっきのプラウダ隊、何か違和感が……」俺がそう呟いた瞬間、辺りの茂みが一斉に
「知波単を護衛に廻したか! 小癪な……」そこまで言った六甲が凍りつくのと、
「「IS-2……!」」
先頭にいた六甲車の前に突き出た122mm砲の主は、緑色の夏季迷彩に〝015〟の数字を描いた──ノンナの操るIS-2重戦車だった。
さよう、六甲が鼻で嗤った相手は、たとえ陰で〝ちびっ子隊長〟と揶揄されていようとも、大洗戦で一度失敗していようとも──
彼女は大洗戦と同じ轍を踏まぬよう、自車の護衛であるIS-2とT-34/85──すなわちノンナ車とクラーラ車──をフラッグ車の護衛へ廻したのである。単騎で突っ込んできた志賀車を陽動と判断し、自車よりもフラッグ車の掩護を優先した、以前のカチューシャならば絶対にしないであろう判断であった。
「Как вы смеете недооценивать нашего великого Катюша(よくもカチューシャ様を見くびってくれたわね)……!」
「この代償は高くつきますよ……!」
そして、カチューシャの読み通り速見隊が舐めた行動を取ってきたことで、ノンナとクラーラは完全にキレていた。
「まずい……知波単だけならまだしも、
「すまん隊長! 流石に学習していたか!──こちら速水隊
俺が悪態をつくと、六甲が謝りながら西住隊長に敵フラッグ車の位置と周辺戦力を報告する。──まもなく、黒森峰の攻撃隊が大挙してやってくるだろう。
だが、蜘蛛の子を散らすように逃げる速見隊を、ノンナ達が見逃すはずもなかった。ズドン、という地鳴りのような砲撃音の一瞬後、六甲車の砲塔に122mm砲弾が襲いかかる。──だが、咄嗟の照準で放った砲弾は六甲車の砲塔を盛大に揺すりはしたものの、撃破には至らなかった。クラーラ車の射撃も真鶴車をかすめて飛んでいく。
「Черт возьми(しまった)!」
「外したぞ! この機を逃すな! 逃げ続けろ!」
IS-2の再装塡はT-34のそれより時間がかかる。だが、速水隊にIS-2の正面装甲を貫徹できる砲はない。よしんばクラーラ車を撃破できたとしても、その間に何輛かがIS-2に喰われるのは自明であった。ゆえに、将人は逃走の続行を選択したのである。
当たるな、当たるな……と将人は震える速度計の針を
これは、黒森峰対策で重装甲化したプラウダ車に20キロ/時以上の差をつけた数値であり、速見隊が逃げに徹すれば、プラウダ隊がこれを追うことは不可能であった。
「──
ゆえに、ノンナ達は小さくなってゆく速見隊を見送ることしかできなかったのである。
だが、速見隊という刺客を撃退したプラウダ隊とて、安全といえるわけではなかった。速見隊を無疵で逃がしてしまった今、黒森峰隊が総力を挙げてフラッグ車を叩きにくることは自明である。プラウダ高校の二ツ頭といえども、黒森峰隊を相手に無事では済まない。つまり、彼女らは一刻も早く撤退せねばならなかった。
「カチューシャ、敵本隊にフラッグ車の位置を知られました。撤退し、合流します」
『何やってんのよ!』カチューシャが不機嫌そうに叫ぶ。『合流するならさっさとしなさい! III号にでも尾けられたら面倒よ!』
「了解。哨戒のためT-34/76を一輛残して合流します」
『私はB地点に先行するわ! そこにフラッグ車を移して隊を再編するわよ!』
そう言い残してカチューシャがやや乱暴に無線を切ると、ノンナ達の転進がはじまった。──知波単隊を偵察のため先行させ、クラーラ車がフラッグ車を護衛、ノンナ車が
速水本隊は逃走し、黒森峰隊は数キロ先──襲撃される確率はほぼないといってよく、彼女らはやや警戒をゆるめて進んでいた……
ミニ解説:IS-2とJS-2
ソ連重戦車・IS-2は、TV版で「JS-2」と書かれていたことがある(TV版第8話でみほが自室で参照していた資料)。どちらも同じ戦車であるのに、なぜ表記が違うのだろうか? そこには米ソの言語の違いが関係している。
IS・JSはともにソ連書記長・ヨシフ=スターリンの略だが、ISはロシア語、JSは英語での略称となっている。「ヨシフ(Иосиф/Iosif)」を英語では「Joseph」と表記するため、本来スターリンの名前にはない「J」が使われることになったのである。
決してカチューシャの身長が女子小学生並みということでうわなにをするやめr