リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結)   作:リーニエたんhshs

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第11話『それぞれの想い』

「ここまで来たらもう安心だろ」

 

「ですね、屋敷付近にはフリーレン様が結界魔法を貼りましたし被害も出ないはずです」

 

「……面目無い。君達が介入してくれなかったら衛兵達は勿論、儂の首も今頃飛んでいてもおかしくなかった。礼を言う」

 

 フェルン、シュタルク、フリーレンは屋敷から大分離れたところまで衛兵と伯爵を連れて行き安全圏と分かると一息付く。

 伯爵はその道中、そして現在も沈痛な面持ちであった。

 魔族を憎みながらもその魔族の実力を測り切れておらず危うく大切な衛兵達を失うところだったという自らの失態故だった。

 

「……仕方ないから私達があの魔族達を倒してくる。お礼はその功績での恩赦で良いよ」

 

「ああ、約束しよう。……まさか本物のフリーレンだとはな。それに気付かぬとは儂も衰えたか」

 

「割と気付かれないし問題無いんじゃない?ま、そんな訳で行くけど近付いて殺されないでよ……恩赦無くなっちゃうから」

 

「分かった、必ず生き残ろう。……そして、その暁には……」

 

 しかしそんな伯爵に敢えて軽口を叩くフリーレンを見、僅かに笑みが零れる。

 間近で見ればそれは本物の、勇者パーティにいたフリーレンだと気付く事が出来たが決め手はその気だるさと、相反する豪胆さが言い伝えと全く同じであったからだった。

 

 彼の心の苦しみがほんの僅かに晴れた事に、気付く者は発言したフリーレン含め誰もいなかった。

 

「さて、行きましょうフリーレン様」

 

「うん。準備は出来てる?」

 

「おう、バッチリだ!」

 

「私は……1つだけ、2人に聞きたい事がある」

 

 伯爵を見送った3人は振り向く事は無い。

 だがフリーレンはどうしても話しておかなければならない、そうせねば集中力が狂いかねない事があった。

 屋敷へと引き返しながら話を続ける。

 

「どうしましたか?」

 

「改まってなんだよ」

 

「……『あの魔族』の事。本当はさ、薄々気付いてたんだ。ソールは昔から冒険が好きでね。定住って事をあまり好まずずっとあっちこっち行っていた……それは1人になってからは顕著で一度も長期滞在みたいな、そんな事はしなかった……ここに住み着いた時、5年前までは」

 

 フリーレンはリーニエの事を本当は薄々気付いていたところがあった。

 ソールの事が心配で年に数回わざと出会っては過ごしていたと言っているが、その中には『変な魔族に騙されていないか』という心配も含まれていた。

 だからだ、彼が定住し始めたという事は人生を大きく変える何かがそこにあったのだと。

 そして彼にとって冒険を一時中断してでも行いたい事は『そういう事』以外考えられなかった。

 

 ……彼女はそれも相俟って、この街に来た瞬間に見た魔族に感情をぐちゃぐちゃにされ思わずゾルトラークを放ちかけたのだった。

 

「あの子が、ソールが人生を懸けて自分の夢を追い掛ける事は知っていたから。だからそんなあの子が歩みを止めた時点で会いに行けなかった。私にはソールの隣に魔族がいるのが耐えられそうになかったから。でも、フェルンとシュタルクがいるならって思えた」

 

「ソールがとても賢い子なのは分かってる。『真偽を見抜く魔法』を使って尚騙されるようなちゃちな魔法精度な訳無い事も知ってた、何年も一緒に冒険してたからね。でもやっぱり、割り切れないみたいだ……魔族と言うだけで殺意を抑えられない」

 

 彼女はかつて集落を魔族に襲われ、自分以外の仲間を失っていた。

 その憎悪は何百年以上という歳月を経て更に増幅しこびり付く程になっていたのだった。

 だから毎年会っていたソールに会う事に怯えていたのだ、彼の隣に魔族がいたらと思うと耐えられないから。

 それでも会った結果が結局想定する最悪の心情になってしまったと自嘲する。

 本当は彼の事を息子だと思っているし、だからこそ夢も応援したかったのにと言葉を落とす。

 

「それでは一度、話してみるべきです。『3人』で」

 

「だな。そこまで悩んでるなら意地なんて張らずに腹割って話さないとダメだ。少なくとも俺とフェルンはあの魔族……リーニエの事一旦は認めたしさ」

 

 そんなフリーレンに2人は頷き合い言葉を掛ける。

 ソールとリーニエの言葉を直接聞き、多少なりとも心打たれ、何よりフリーレンを慕っていたからこそ出た言葉だった。

 

「うん、ありがとう。……そうだね、確かに全部を全部否定してたら何が真実か分からなくなっちゃうかも知れないね。ちゃんと聞きたい、だから今は……行こう」

 

「ええ、どこまでもお供します」

 

「おう!俺だってやってやる!」

 

 文字通り一歩踏み出す。

 それが何を意味するかは、まだ誰も知る由もないが――

 

 

 

 

 

 

 

「ちょこまかと鬱陶しいな」

 

「へっ、そんじゃ当てて見やがれ!」

 

「所詮は逃げるだけか? ……なに?」

 

 バリィンという甲高い音……ガラスの炸裂音が鳴り響き瞬時に俺はリーニエを片脇に抱えて外に脱出する。

 流石に室内でハンマーを振り回すのは俺の不利に繋がるからな、いくら動かしても問題無い外への脱出は最優先とされた。

 問題はどうやって、だが……そこは魔族の短略的思考に助けられたな、興味の無い事にはとことん興味が無いオツムのお陰で簡単に遂行出来た。

 

「簡易結界張ってくれてるみたいだな、これなら暴れ回れる」

 

 屋敷内でしっちゃかめっちゃかやってた間にフリーレンが簡単に結界を張っていてくれたのか、一枚の壁のようなものが屋敷の隣に出来上がっていた。

 まあ、街の人間を守るのが最優先だから門には結界貼ってないみたいだけど……なんかものすごく増援が来そうな予感がするけど気にしたら負けだろう。

 

「背中は私が守る」

 

「んじゃリーニエの背中は俺が守る。お互い背中は預けたって事で!」

 

「ん、やる」

 

「フリーレン……そうか、アレはあの時の……ならば仕方あるまい。まずは貴様らから消してやる。ドラート」

 

「了解」

 

 リュグナーはフリーレンと会った事があるのかそう呟くと渋々と言わんばかりにドラートに指示を出して信号弾を……

 

「まずっ!?案の定増援かよ!!」

 

 本来魔族は傲慢で油断しがちな生物だ。

 だから心のどこかで俺自身が慢心していたのだろう……魔族が増援を呼ぶ事は無いと。

 それは明らかな誤算であった。

 

「うげ……鎧だけならまだしも生きてる魔族まで増援にいるのかよ」

 

「私の事なら心配しないで。何とかする」

 

「そうは言ってもなあ……」

 

「アウラ様は魔族には珍しく用心深いみたいでな。何かあればと隠し持ってたんだよ、まさか使う事になるとは思わなかったがこれで今度こそ殺してやるよ」

 

 得意気に語るドラートが今はちょっとウザい。

 確かに俺はリュグナーよりは強い、それこそ完璧に怪我もせず殺せるだろう。

 だがそれはあくまでも1対1の時に限る。

 ドラートがいるだけでも多少の負傷は覚悟していたのに不死の軍勢の一部に配下の魔族集団まで寄越されたらいくら単体で見たら雑魚でも数の暴力ってもんがある。

 リーニエがいるっていっても限度を考えなければならない。

 

「はぁ……こりゃ腕の一本くらい覚悟するかね」

 

 リーニエは魔族だから傷の治りが早いと聞いた……が、それもそれで限界点というものが存在する。

 治りきらない傷を負えば普通に致命傷になりかねない。

 

 守ってやらねば……という程弱くは決してないがドラートを倒し切れる程の実力にはまだ追いついていないのが俺の見立て、細心の注意を払いながらリーニエをサポートしつつ戦いもするとなれば片腕程度吹き飛ばされても文句は言えないか。

 

「ダメだよ、そんなの」

 

「比喩表現だよ比喩表現……巻き込んどいて悪いけど、一緒に戦ってくれるか?」

 

「もう私の背中は預けたしソールの背中も預けられた。だから離れられないね」

 

「……全く。んじゃこの戦いが終わったら君に伝えたい事があるんだけどさ、2人とも生き残れたら聞いてくれるか?」

 

「ん」

 

 だがそんな事お構い無しでリーニエは勇気付けてくれた。

 魔族という生き物は元来生存本能に優れている。

 油断も慢心もするが真に危険が迫ればいの一番に退散するものだ、それこそフリーレンに聞かされたヒンメル達に敗走させられた時のアウラのように。

 ではリーニエはどうか。

 彼女はそんな危険を省みず薄ら笑顔で背中合わせになってきた、自らだ。

 

 そんな彼女の行動に俺は胸を打たれた、彼女自身魔族という枠組みを飛び越えてくれたのだと実感出来た。

 

「んじゃ……ここで男見せなくていつ見せるって話よ!」

 

 気合いを入れる――

 

 

「悪いけど道開けてね、私アウラ倒しに行くから」

 

 

 刹那飛んでくるトンデモ威力のゾルトラーク。

 

 

「……あっ、そういやフリーレン帰ってくるの忘れてた」

 

 

 いつもの如く飄々とした態度で増援のド真ん中にゾルトラークを打ち込む見慣れた小さい姿。

 どうやら、気合い入れた内の何割かは無駄遣いになりそうだ、と苦笑いを浮かべるのだった。

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