リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結)   作:リーニエたんhshs

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本日より番外編『昼行灯のアウラ』編開始です!
彼女が断頭台から降り、この名前を名乗るまでの道のりを辿っていきます!


番外編『昼行灯のアウラ』
episode1『それは有り得なかったはずの再会』


「……やっとここまで来たわね」

 

 面倒そうに溜め息を吐きながらそう呟く。

 私の名前はアウラ、誇り高き大魔族『七崩賢』の1人にして『断頭台』の2つ名を冠している魔王軍の1人……だった。

 そう、たった数ヶ月前までは魔王軍の1人だった。

 別に魔王様に絶対的な忠誠を誓ってる訳では無いが、私より強い数少ない魔族だったから従うより他無かった。

 

 それは正直どうだって良い、逆らいさえしなければ自由に人間に対して狩りを出来るし、自由を奪われる事も無いのだから。

 そう、本来ならそうだった。

 

「本当に癪に障る……」

 

 私はかつて『二度』人間に敗北している。

 一度目は南の勇者と呼ばれる人外に、二度目は……魔王様を倒したヒンメル一行に。

 

 魔王様は数ヶ月前ヒンメル一行によって討伐された……そう聞いたのはここに来るまでの道中の旅人の噂話でだった。

 魔王が死んだ事よりも、私より強い魔族が倒された……というその一点でのみ私は戦慄した。

 魔王討伐の話を聞く1年だか2年だか前にヒンメルと遭遇した時、アゼリューゼを使おうとして腕を斬り落とされてキャンセルさせられるという屈辱を味わい逃走している身としてはいくら人間なんていくらでも殺せる大魔族と言えど身の危険を感じざるを得なかった。

 

「そのせいで不死の軍勢を使えない羽目になったのよ……」

 

 そもそもヒンメルに殺されかけてから私は不死の軍勢を集められていなかった。

 最後に持っていた軍勢は全員ヒンメル一行に倒されている。

 それからと言うもの『ヒンメルが死ぬまで逃げ切る』事を目標とし見つからない遠方の地まで逃げてから不死の軍勢を作り直すプランを立てそして今日に至る。

 

 たかだか数ヶ月がこれ程長く感じたのは初めてだ。

 

「まあ、それもこれも一度人間に殺されかけてるから警戒出来た訳だけど。というかあの男は何者だったのよ……こっちは8人いたのに4人も殺されるなんて聞いてないのよ」

 

 だが耐えられたのは奇しくも一度南の勇者に殺されかけたからだった。

 唯一この生涯で付き合いらしい付き合いがあったシャッテン含む七崩賢3人が目の前で文字通り瞬殺された瞬間明らかにまずいという生存本能が警鐘を鳴らしていたのを今でも覚えている。

 あの時いの一番に軍勢を押し付けて逃げていなければ命は無かった、そう確信している。

 

 あの後シュラハトと相討ちになったみたいだけれど。

 

 そんな法外じみた人間を一度見たからこそ私はヒンメルへの認識をすぐ切り替え逃走した、出来た。

 私は逃げれば逃げた分だけ有利になる、生きていればその分魔力量が増えていく上に寿命も長いからだ。

 

服従させる魔法(アゼリューゼ)』は魔力量が絶対の魔法だ。

 魔力量の多い方が少ない者の身体と魂の支配権を獲得し自由に従わせる事が出来る。

 つまり自分より強い相手には逃げて隠れるしか無い。

 だが相手が人間であるなら逃げ隠れしているだけで良い。

 何せ人間という生物は貧弱だ、たかだか100年の寿命しか持たない。

 だと言うなら寿命を待ってしまえば良い、戦うだけが勝利だと思っている脳筋魔族と私とでは思考回路が違う。

 死んでしまえば戦っても戦わなくても同じ、ならば戦わずして勝つ安全なルートを辿る方が余程楽だ、名も知らない人間にリスクなんて何一つ考えた事は無いがヒンメル相手ならそういった考えに至るのも仕方の無い話だ。

 

「でも、もう大丈夫そうね」

 

 王都からここまでは数ヶ月掛かる。

 更に言えばアイツは北方に用は無いはず、あるのはクヴァールが封印されているという村くらいなものだ。

 ならばこちらはノーマークのはず、ちょっと村の1つでも操って隠れ蓑にしてやろうかしら。

 そうしてしまえば仮にヒンメルが北方を訪れたとしても適当に誤魔化して凌げるはず。

 

 そう、無敵って訳。

 

「ヒンメルへの復讐はフリーレンをアゼリューゼさせる事で果たすから良いわ。直接やろうなんてしてあの時のように殺されかけたらバカバカしいもの」

 

 ヒンメルの他にも僧侶とドワーフの戦士と魔法使いのエルフがいたが前者2人は厄介そうだった。

 逆に言えばエルフは魔力量も一般的な魔法使いと比べたらかなりの高さだが七崩賢と比べればそこまで高いとは見受けられず、傀儡として動かすには最適の人材。

 アレを操りさえすればヒンメルには勝ったと看做して良い、直接対決なんて脳筋のする事なんだから。

 

「……ふふ、早速獲物発見ね」

 

 どこか山中の村に暫く取り入った後に一斉に操ってしまおうかと考えていた矢先に、こんな山中を歩く子どもを見つけた。

 こんな場所地元民でなければ子どもが出歩くのは有り得ないだろう、ともすれば絶好の獲物になる。

 食べるのでは無い、というかヒンメルから敗走して以降食べるのは我慢している……万に一つでも噂になればヒンメルが来かねないから。

 そういう事情も相俟って、この獲物はつまり隠れ蓑までの道先案内人。

 大人では魔族の知識も備えている者も多いが10歳前後であるなら良くも悪くも人を疑う事をしらない。

 魔族からしたら有難い存在にしかならない。

 

「ねえ」

 

「おねーちゃんだれー?」

 

「私ね、ちょっと旅をしていて滞在……少しの間泊めてもらえる村を探していたの。だから良かったら君のところの村に連れて行ってもらえないかな?」

 

「うーん……良いよ!おねーちゃん困ってるんだろ?だったら俺が助けるよ!」

 

「ありがとう、助かるわ」

 

 予想通り、子どもは扱いやすい。

 万が一があるからとフードを被り角を隠しておいたがこれなら外しても問題無かったかと思うくらいだ。

 今更脱ぐ程愚かでは無いけれど。

 

「ねえねえおねーちゃん」

 

「何かしら」

 

「おねーちゃんってどこから来たんだ?」

 

「遠い遠いところよ、少なくとも君の足じゃ辿り着けないくらい、ね 」

 

「そうなんだあ、凄いなあおねーちゃんは」

 

「私からすれば楽勝よ。……ずっとひとりぼっちだったけど」

 

 呑気そうに問答する子どもにほくそ笑む。

 これだけ間抜けなら村人達もまさか自分の村が魔族のターゲットにされているとは思ってすらいない大層間抜けな連中なのだろう、ヒンメルが死ぬまでの拠点にするには丁度といったところだ。

 

 ――間違いない、ここから私の、断頭台のアウラの大逆転劇が始まる。

 

 そう確信していた。

 

「――そこまでだ」

 

 この声を聞くまでは――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そこまでだ。お前にはこれ以上人間を殺させやしないぞ、アウラ」

 

「ヒン……メル……!! アンタがどうしてここに……」

 

 まさか、だった。

 有り得ないはずだった。

 有り得ないはずの再会だった。

 その声を、姿を、見た瞬間私の脳内に二度と響くはずの無かった警鐘がけたたましく鳴り響く。

 

 ――ヒンメル、そこにいるはずの無い人物。

 

 今この瞬間にでもアゼリューゼを使えば7割以上の確率でヒンメルを捩じ伏せる事は可能だ、何せ魔力量の差が違う。

 だが問題は発動までのラグだ、残り3割弱で発動前に今度こそ殺されかねない賭けになんて私は出る趣味は無い。

 これがあるから私はコイツと戦うという事を放棄し逃げ続けていたというのにどうして……

 

「魔王討伐の報告をしたら王様から『北方で魔物が大量発生している地域があるから討伐してこい』って言われてね。1人でまた冒険を再開していたのさ。まさか君と会うとは思ってなかったけれどね」

 

「あっそ。それで?私と殺り合おうっての?」

 

「……そうだね。正直、もう魔族に話が通じないのは分かってる。平和主義の僕の趣味じゃないけど、君を殺すしか無い」

 

 極めて平静を保つように相手を挑発する言葉を並べる。

 そうして少しでも相手の心を乱す事が出来れば僥倖、出来ずとも……

 

「ヒンメルさま?ほんものの?」

 

「ああ、そうだよ。この僕がヒンメルさ。銅像そっくりのイケメンだろ?」

 

「うん。あのね、このおねーちゃん助けてあげてほしいんだ」

 

「……それはまたどうして?」

 

「このおねーちゃん、ずっとひとりぼっちだったって話してたんだ。とてもさみしそうだったから、殺すのはかわいそうだよ」

 

 そう、コイツみたいな子どもは現実が見られない甘ちゃんに過ぎない。

 少しでも私が嘘で演技をしてもそれを信じる、それを利用すればこちらの味方に勝手になってくれるのだ。

 そしてヒンメルは『優しい』と呼ばれる男だ、魔族の話は聞かなくともこうして子どもの話は聞いてしまう。

 

 それが隙になる。

 

「――『服従させる魔法(アゼリューゼ)』」

 

「なっ!?しまっ……!?」

 

 僅かな、一瞬の隙さえ出来れば問題無い。

 本来ならフリーレンを傀儡にする予定だったがそれより強いヒンメルを操れるのならそれに勝る僥倖は無い。

 

 

 勝った――




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