リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結)   作:リーニエたんhshs

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???「ちょっとしたおまじないだったはずなんですよ、ええ…」


episode2『嘘が本当になる男』

「久しいなヒンメル、10年振りか」

 

「ご無沙汰しております、陛下」

 

「ハハハ、その10年前とは比べ物にならないくらい大人になったな。……すっかり、勇者じゃな」

 

「勿体ないお言葉です」

 

 僕は数ヶ月前、魔王を討伐したその足でフリーレン達と別れそのまま王城まで足を運んでいた。

 魔王城から王国までは距離がある、討伐してから既に数ヶ月経っていたあの時点で王国全土には余裕でその功績が伝わっていた。

 その為、まずは謁見せよという通達が入ったのだ、僕だけに。

 

「しかしハイター、アイゼン、フリーレンはやはり来なかったか」

 

「彼らとは王国に行く前に別れてしまったので」

 

「で、あろうな。全員自由人であるのは余から見ても明白だった故な」

 

 ……多分、通達が行く前に別れてしまう事を陛下は予見していたのだろう、なんて勘の良い人だろうか。

 

「……無事、魔王を討伐し帰還致しました」

 

 雑談もそこそこに、本題へ入る。

 ここへ来たのは他でも無い、魔王討伐の報告だ。

 これを成し遂げて初めて正式に倒された事が王国内の事実になる、言わば旅の最後を告げる仕事になる。

 寂しいがケジメを付ける為にも済ましてしまおう。

 

「良くぞ魔王討伐を達成した。……本音を言えば期待などしていなかったがな。路銀として渡したのも銅貨10枚程であっただろう?」

 

「ははは、そうでしたね」

 

「しかしお主は余の、いや全国民の予想を遥かに上回り文字通り勇者となったのだ。たとえ本物の勇者の剣が抜けずとも、お主は未来永劫勇者として語り継がれていく。勇者とは勇者の剣を抜いた者ではなく、その心を持ってして呼ばれるのだと余や国民に説いたのだ……誇ると良い」

 

「ありがとう、ございます……!」

 

 感慨深かった。

 確かに当初僕達は誰にも期待されていなかった、路銀だって陛下が話した通り4人でたったの銅貨10枚。

 だが今こうしてこの人は僕を『本物の勇者』だと称えてくれた。

 功績だけではない、勇気や心を度々報告で聞いてそれを勇者だと評価してくれたのだ。

 これ程に嬉しいものは無い。

 あの剣が抜けずとも僕は勇者になれたのだと、改めて実感する事が出来たのだから。

 

「本当にご苦労であった。式典は一週間後であるからゆっくり休むと良い」

 

 だが、これで僕の、僕達の旅は本当に終わる。

 寂しいが始まりがあるものにはいつか終わりが来るものだ、これは割り切っていくしかないだろう――半世紀彗星が見られる50年後にまた、フリーレンに会えるその日までを楽しみに生きて行ければそれで。

 

「――と、本当は言いたかったのだがな」

 

「……?」

 

 しかし、陛下は言葉を続ける。

 本来はここで終わるはずだったそれが、旅の終わりが、何故だかその続きがある気がして。

 

「済まないが、式典が終わり次第北方大陸へと行ってもらいたいのだ」

 

「北方大陸、ですか」

 

「うむ。最近なんでも魔物や魔族が増加傾向にあるらしいのだ。今回は行き帰り含めて1年分の路銀を渡す故、討伐に赴いてもらいたいのだ。この任務を受けてはくれぬか?」

 

 驚いた――と共に、終わりを見つめていた僕の目が再び前を向いたのが分かった。

 

「分かりました、その任務是非とも引き受けさせてください」

 

「無理を言って済まないな」

 

「いいえ、僕としてはそれどころかまだ旅を続けられるという事に胸が踊っていますよ」

 

「ふっ、そうであるか……流石は勇者、旅を求めるか……」

 

 そう、これが僕がまた旅をする事になった日の話だった。

 

「おや、そうであるなら私から贈り物をしなければなりませんね、ヒンメル」

 

「ハイター!君も来ていたのか!」

 

 そして、親友にして幼なじみとの再会の日でもあった。

 ハイター……彼は僕のたった1人の幼なじみだ、昔から聡明で、それだから少しひねくれ者でかつては僕が貰ったレプリカの勇者の剣を見て『偽物にしかなれない』とすら言ってきた小生意気な奴だった。

 そんな彼とも旅をし、今では僕の実力をもしかしたらアイゼンやフリーレンより知ってくれているかもしれないとまで思う良き理解者となってくれた。

 

 そんなハイターともあの橋で別れて以降会っていなかったのだが……まさか謁見中に会う事になるとは。

 

「余が呼んだのだ。ハイターは聖都へ栄転となってもらう故な」

 

「聖都の!?凄いじゃないかハイター!」

 

「それ程でもありませんよ。しかし陛下、我々2人がかち合わせるように仕向けましたね?」

 

「ほほほ、はて何の事やら?……まあ良い。ヒンメル、其方の出立は式典から2日後となっておる。つまり本日から9日後だ、それまで羽を休めると良い。存分に友と語らっておけ」

 

「はっ!」

 

 ……そしてまさかまさか、陛下がこの再会を仕組んでいたとは。

 基本的に普通に威厳あるのにふとした時にちゃっかりしたところがあるからついつい笑顔になってしまうのだ。

 

 

「いやはやしかし1年は会わないと思っていた幼なじみとこうして再会出来るとは思いませんでしたよ」

 

「僕もだ。もう旅の終わりだとしんみりしていたところに新しい旅の始まりと君との再会があるなんて、人生分からないものだ」

 

 王国の酒場、そこでゆっくりとハイターと語らいながら酒を流し込む。

 ここの酒場は肉料理と酒が良く合うらしく非常に話が進む、出立までここに通うとしようと1人決意する。

 

 閑話休題。

 

『1年分の路銀を渡される』という事は少なくとも1年は帰って来れない事になる旅になる。

 

「帰ってきたくなければそれもまた良し、今回の旅の報告はしなくても良いものとする。1年でも、10年でも、いくらでも旅をすると良い」

 

 陛下から退室の際に言われた事だった。

 任務自体はシンプルなサーチアンドデストロイだから数ヶ月も滞在すれば終わる事だと付け加えられた上でそう言われたという事は、ある程度僕の心情も見透かされていたのか、そこまで分かりやすかっただろうかと苦笑いしてしまう。

 

「そういえば君には贈り物をすると言いましたよね」

 

「ん、ああ言ってたね。何をくれるのか楽しみだよ」

 

「ふふふ、ちょっとした加護のある魔法ですよ。その名も『魔力量を偽装する魔法』です」

 

 確かにそういえば、だった。

 話が弾んだ為に記憶の片隅に追いやっていたけれど……『魔力量を偽装する魔法』か、これはまた面白いものだ。

 フリーレンのしていた魔力制限も出来るが、これはまた逆の事も行える魔法でもあった。

 

「魔力制限の広義版みたいなものだよね、それ」

 

「ええ。違いは『魔力量を多く見せる事も出来る』事ですが」

 

「うーん、それについては果たして実用性があるのかどうか……あ、でも魔族や魔物避けにはなるか」

 

「そういう事です。まあ貴方には必要無いと思いますがね」

 

 この魔法は特に魔力量の少ない人間に纏わせる事で実力至上主義者の魔族や魔物を撤退させるというギミックが主な使い道だった。

 ただ僕は見つけ次第討伐するから使う必要が無くて実用性を思い出すまでに時間が掛かったけれどね。

 

「じゃあなんだよこれ」

 

「おまじない、ですよ」

 

「おまじない?」

 

「ええ。いつも隣に私が居ると思えば、旅もより楽しくなるでしょう?この魔法は本人が魔力切れを起こさない限りどういう訳か消えないので、一般人なら長くて1日ですがヒンメル、貴方なら実質半永久ものだと思いましてね」

 

 それじゃあ僕には必要無い魔法をどうしてと思ったがハイターは爽やかそうにそう答えた。

 成程、本命は魔法そのものではなく『傍に居られる』という事だったか……全く、恥ずかしげも無くそうしてストレートに言うのはハイターらしいと言えばらしい。

 

「それに、レプリカの勇者の剣で本物の勇者になった貴方であれば。もしかしたらこの魔法も何かしら有効活用してくれると思うので」

 

「そっか……それなら有り難く貰っておくよ」

 

「掛けるのは出立の日なのでお忘れなく」

 

 そうして僕はその魔法を餞別代わりにまた旅に出たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「有り得ない……この私が……この私がッ!?いくら勇者と言えどたかだか人間如きに……」

 

「これは……ハイター……君の言っていた言葉は、どうやら本物になったのかも知れないよ」

 

 僕は目の前の光景に驚愕しながらも、そう今は聖都にいるだろう唯一の親友に向けてそう呟く。

 

「人間如きにこの500年分の魔力が負けるなんて……!!」

 

 天秤が僕の方に傾き、アウラが跪く。

 

 人生二度目の、嘘を本当にした瞬間だった――

 

 

 

 ……それは良いけれど、この子どうしようか。




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