リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結)   作:リーニエたんhshs

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月間2桁とか人生で2回目…


episode3『友達?』

「有り得ない……この私が……この私がッ!?いくら勇者と言えどたかだか人間如きに……」

 

「これは……ハイター……君の言っていた言葉は、どうやら本物になったのかも知れないよ」

 

「人間如きにこの500年分の魔力が負けるなんて……!!」

 

 愕然とし、現実を受け入れられないまま私は跪く。

 確実に仕留められる、そのはずだった。

 いくらこの男が規格外と言えど人間は人間、それにヒンメルはあの化け物僧侶と違い魔法を主軸に添えない剣士だ。

 ならば魔力量は私より少ないはず。

 

 なのに……なのに、何故、どうして、天秤はヒンメルに傾いたのか。

 

 分からない、分からない。

 ただ、今分かるのは、私がヒンメルに支配されたという事。

 つまり、死が秒読みですぐそこにまで迫っているという事だ。

 

 まずい、どうにかして生き長らえる方法を探さないと。

 こんなところで死ぬ訳にはいかない……少なくともこんな死に方だけは何がなんでも御免被る、せめてこの場を逃れられる言い訳だけでも……いや、だが喋る事さえ出来ない。

 

 今だけはアゼリューゼを恨んでも良いだろう、支配される側からしたらなんて都合の悪い悪趣味な魔法なのだと今初めて実感している程に。

 

「……あっ、そっか。僕が許可しないと喋れないのか。『喋って良いよ』」

 

「くっ……ふぅ。まさか私がやられるなんて……一生モノの屈辱ね」

 

 やっと口を開く事が出来たという安堵と共にヒンメルへの恨み言もやはり募っていく。

 僅か数分前までは格下に見ていたというのにどうしてこうなったのか、最早今は見上げて睨み付ける以外にする事が無いのが屈辱だ。

 

「……うーん、どうしよう」

 

「何よ、どう痛め付けるのか考えてるって訳?」

 

「はぁ……いくら魔族相手でもそんな事しないさ。殺すなら即断即決で斬り伏せる、無駄に痛め付けたところで得られるものなんて無いからね」

 

「じゃあなんなのよ」

 

「これってさ、君のアゼリューゼが今僕の言う事聞いてるって事で良いんだよね?」

 

「……言えって言うの?私に?」

 

「じゃないとアゼリューゼを使って確かめる事になるけど」

 

「……分かったわよ、言うわよ言えば良いんでしょ」

 

 本当にこの男は何を考えてるのか私には理解出来ない。

 理解出来ない、がアゼリューゼを一々使われて操作されるのは死ぬより屈辱的だ、ここは断腸の想いで従うしかない。

 ギリギリと歯を鳴らしながらも何とか理性的になり口を開く。

 

「そうよ。『服従させる魔法(アゼリューゼ)』は私の使う魔法ではあるけどコイツは何に対しても平等な判決を下す。所有権に関わらず魔力量の多い者を勝ちと断定し少ない者はその支配下に置かれる、だから500年以上を生きてきた私が人間なんかに負ける要素なんて無かったのに……」

 

「なるほどなるほど……良い事を思い付いたぞ」

 

 ニヤリとヒンメルが笑ったのを私は見逃さなかった。

 直感的に、本能的に嫌な予感が背中を伝う。

 自分自身直感と本能には絶大な自信がある、何百年もその2つを駆使して生き残ってきた。

 その2つを上手く使う事で魔力を研鑽し鍛え上げアゼリューゼの効力を高め幾多の人間をその支配下に置いてきた。

 そんな絶大な信頼を置くものだからこそ、この嫌な予感は当たってしまうとどうやっても確信してしまっていた。

 

「な……何よ」

 

「なあキミ」

 

「ぼく?」

 

「ああ。キミはこの魔族を生かしたいと思うか?」

 

「……うん。悪い魔族なのはわかってるけど、反省させてあげてほしいって僕は思うんだ。どうにかならないかな、ヒンメルさま」

 

「分かった。それじゃあこの魔族は生かそう」

 

『この魔族は生かす』この言葉に本来なら安堵の1つでも浮かべられれば良かったのだが今はどうしてもこの脳内に響き渡る警鐘がそんな余裕の1つもさせてくれない。

 

「――このアゼリューゼを付けたままね!」

 

「そうなると思ったわよ!!」

 

「当たり前だろう?そうしないと君は何を仕出かすか分かったもんじゃないんだから……生かすだけ有り難いと思ってくれ」

 

 やはりそうなるのかと地団駄を踏む。

 最悪だ、ああ最悪だ、よりにもよって自分自身の魔法によって拘束されて奴隷のように生かされるなんて。

 こんな事なら死んだ方が良かったと思わずにはいられない。

 

「こんなはずじゃ……こんなはずじゃあ……無かったのに……!!」

 

「僕だって本当は殺すつもりだったさ。でも……折角こうして話す機会を得られたんだ、それに僕は未だに心のしこりとして残っている事がある。だから君には僕の生涯を持ってして人間を知っていってもらうよ。問題は住む場所だけれど……」

 

 勝手に進む話に益々頭痛がしてくる。

 ヒンメルと共に過ごす?この私が?ヒンメルが死ぬまで?

 有り得ない……有り得ない、やはり死んでいた方がマシだったと今更ながら嘆きたくなる。

 

「それならオレがとーさんに話してくるよ!」

 

「良いのかい?アウラは魔族だけど……」

 

「でも今はヒンメルさまの言う事を聞くんでしょ?ならへーきだぜ!とーさんは村長だし、ヒンメルさまの事すっごく崇めてるからなんとかなるよ!」

 

「……済まないね、そうだったら助かるよ。元々僕は違う任務の為にここを訪れていたから拠点が欲しかったんだ」

 

「ふ、ふざけないで!この七崩賢である私が!?たかだか人間如きに従えって言うの!?」

 

「だって死にたくは無いだろ?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 死んだ方がマシ……とは言いつつも死にたくないのもまた事実だった。

 まるで見透かされたような淡々とした言われ様に何も言い返せず顔を引き攣らせるしか出来ない。

 

「不幸だわ……」

 

 唯一出来たのは、この現実を嘆く事ただ1つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが今日から僕達の家だ!」

 

「はぁ……どうしてこうなるのよ……」

 

「良いじゃないか、村長は『ヒンメル様が従えていると言うなら信じるしかありませんな!』って快く受け入れてくれたし、村人達にも説明してくれるみたいだし!受け入れられる人はほぼ居ないと思うけどね!」

 

「当たり前でしょバカじゃないの?魔族を信じられる人間なんて何も知らないガキだけよ」

 

 どうせその村長とやらも受け入れなんてしないだろうとタカを括っていたのだがどういう訳か二つ返事で了承され、そのまま流れで空き家を紹介され今に至る。

 そして呑気な勇者様に呆れ溜め息をつく。

 

「まあなんにせよ今日から君は僕の友達だ、何か言いたい事があれば言ってくれよ」

 

「……なんなのよほんと」

 

 ガックリと項垂れる。

 こんな呑気なら私にアゼリューゼ掛けるの忘れてくれれば良いのにそれは忘れないのだから本当に都合が悪い。

 

「あ、そうだ友達になるにせよ君は魔族だからアゼリューゼで行動は制限させてもらうよ。ええっと……『人間に害を加えない……食べないのと傷付けない事』だね、それと『僕から半径20m以内にいる事』……最後に『食人衝動は普通の食欲で代用出来るようになる事』」

 

「え……?」

 

「なんだい?」

 

「……だっておかしいじゃない。2つは分かっても最後のはなんのメリットがあるのよ。私を奴隷にしたいのなら不必要じゃない」

 

「なんだそんな事か」

 

 私には分からなかった。

 何故コイツが食人衝動を無くそうとしたのか、それを命令したのか。

 苦しませれば良かったのにと漠然と思ってしまう。

 なのにコイツはまるで当たり前かのように口を動かす。

 

「――言ったろ?今日から君は僕の友達なんだ、そんな友達に不必要な苦しみを与えるなんて有り得ないじゃないか」

 

「……本当に意味分からない」

 

 それも笑顔でそう答える。

 気味が悪いとさえ思えた、魔族と人間の間で友情なんて言うものは成立する訳が無いそれも目の前で人間を殺しかけた魔族だ。

 自分でそれを言うのもおかしな話だがそれが事実なのだから仕方ない。

 だから薄気味悪いとさえ思ったのだ。

 

「まあ何にせよ君には人間というものを知ってもらう。それは命令では無いけれど、そうして知見を広めて言ってくれれば嬉しいかな。折角食人衝動も無くしたんだし」

 

「……うっ」

 

 だが、それはそれこれはこれで生理現象は起きるものだ。

 それもアゼリューゼに捻じ曲げられた生理現象が。

 あまりにも悔しい、捻じ曲げられなければこれは魔族にとっては当たり前の食人衝動なのに今ではただの空腹だなんて……認めたくない、物凄く認めたくないが認めるしかないのが悔しい。

 

「うん、お昼には丁度良い時間だね。今日は外食すると混乱を招きそうだし僕が持ってる食材で何か作ろう。ささ、座って待ってて。……誰かに食事を作るなんて数ヶ月振りだな、あの頃が懐かしくなっちゃうよ」

 

「やってらんないわよ、全く」

 

 悔しいが空腹はどうしようもない。

 この先が思いやられると今日2回目の項垂れをするのだった。

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