リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結) 作:リーニエたんhshs
「今日は村を見て回らないかい?」
「……どうせ受け入れられる人間なんてあの村長親子くらいでしょ、必要無いわ」
「まあまあそう言わずにさ」
「アゼリューゼは使わない癖に強情ね」
「友達と共にいたいと思うのは自然な事だと思うけどね」
私は何事も無く翌日を迎えていた、迎えてしまっていた。
目を覚ますと少し離れたベッドにはヒンメルがいて、そして私がいて、夢であって欲しかった全ては現実と改めて理解してこめかみを抑えながら溜め息を吐いたのは仕方の無かった事だった。
受け入れるしかないと分かっていても割り切るには嫌でも時間が掛かる……そもそも割り切りたくすらないが、アゼリューゼは絶対だ、私がこの500年研鑽に研鑽を重ね七崩賢として君臨したのもこのアゼリューゼの精度を確実なものにしたからだ。
だとするなら、自らの魔法の質を最強と認めるなら少なくともここから50年くらいはコイツと過ごす事を甘んじて受け入れる他無いという訳だ。
悔しいが他でも無い自らの魔法を認めない訳には行かないのが本当に気に食わないったらありゃしない。
しかもあまつさえ村を見て回ろうだなんて呑気にも程があるでしょ。
私が魔族だって事ちゃんと分かってるんでしょうねと聞きたくなるが分かってるからこそタチが悪い。
「能天気ねアンタ」
「いつも気を張りつめていても意味が無いからね。気楽に生きていける時くらいとことん気楽に生きていきたいじゃないか」
「そんなもんなのかしら」
「そんなもんなのさ。人間ってのは君達と比べるとうんと短命だから生き方にも拘らないとすぐ死んでしまうんだ」
「……そう。やっぱり人間って不便ね」
「でも限りある命だからこそ今を精一杯生きるんだ。寿命が短いから一日一日が濃密に思える。今の僕だってそうなんだよ?たった一日だけとはいえ君と過ごした時間は特別だ、そこにはなんの嘘も無い」
私を見つめながら純粋そうな目でさも当然かのように答えるヒンメルにたじろぐ事しか出来ない。
最初出会った時と同一人物とはとてもでは無いが思えない。
だが1つ分かった事がある。
この男は能天気で楽天的でロマンチストな馬鹿である。
最初出会った時も中々に馬鹿の気があると思ったがここまで来るといっそ清々しいまでに馬鹿だ、つい一日前まで敵だったのに良くもまぁそんな言葉をサラッと言えるものだと呆れを通り越して最早何も言えなくなる。
「なんでこんな奴に負けたのかしらね。……ほら、行くんでしょ」
「おお!一緒に来てくれるのか!」
「いや来ないとアゼリューゼで掛けた制約の圏外になるからどちらにせよ連れてかれる末路は変わんないわよ」
とはいえ、根負けだ。
コイツのお馬鹿っぷりを見てしまったら言い合っても何れこちらが呆れて負けるのは目に見えている、ならば言い合うだけ時間の無駄になる。
そんな得の無い事をするくらいならさっさと諦めて着いていく方が余程マシだ。
「それじゃあ行こうか!」
手を引かれる。
思えば誰かに手を引かれたり手を握られるなんて事はこれが初めてだったとふと思い返す。
魔族なのだからそんな行いをする事自体が有り得ないと言われればそれまでだが、ヒンメルに言われた『友達』という単語が頭から離れなかった弊害か、はたまたただの気のせいかは分からない。
だが、それでも。
ヒンメルに引かれたその手が、能天気な笑顔が何処と無く温かいと不本意ながらに感じてしまう自分がいる事に、気が付かないフリをするのだった。
「ほ、本当に魔族だ……」
「大丈夫なのかしら……?」
「いやでも今はヒンメル様に従順って聞いたしなあ」
「じゃあ大丈夫……なのか?」
「さぁ……」
ザワザワと私とヒンメルを……いや、九割方は私を恐怖と物珍しさの2つの感情で見つめてくる村人達。
分かってはいたけれど面倒この上無い、だから村を歩くなんて嫌だったというのに……
「どうだい?良いところだと思わないかい?空気は美味しいし色々思う事はあれど静観していてくれる、それにこの村の料理はとても美味しいんだ。何年か前フリーレン達と旅の途中で寄った時もそれはそれはとても記憶に残る料理が多かったんだ」
「……知らないわよ。ま、個人的には見世物みたいにされて良い気分にはならないけれど」
「時期にみんなも分かってくれるよ、のんびり行こう」
「嫌よ勝手にやってれば良いじゃない。私は引きこもってるから、今までだって大半は魔法研究の為に引きこもってた方が多かったんだから問題ないわ」
出てきたは良いがやはり見世物みたいにされるのは不満だ。
それなら引きこもって魔法の研鑽をしていた方が楽だし自分の為になる行いになる。
……まあ、それは本音だ、だが本音の一部に過ぎない。
本当はコイツと話していた方が気にならないからくだらない話でも良いからしていたかっただけだった。
今までなら気にならなかった人の視線が嫌に気になるのがどうしてもイライラしてしまう、それがどういう訳かヒンメルと話しているとそこまで気にならなくなっている事に気が付いた。
昨日から不本意な事続きではあるしそもそもの元凶はコイツであるのだから感謝だの何だのは全く無いが気が紛れるから取り敢えず話している、不思議な感覚に襲われる。
「まあまあそう言わずにさ。ほら、あそこの燻製肉の串焼きは凄く美味しいんだ」
「ああもうっ、分かった分かった分かったわよ!行くわよ行くったら!だから引っ張んじゃないの!」
口ではそう言いつつ、何処かスっと入ってくるヒンメルの言葉にやはり居心地の良さを感じる……本人には絶対言わないが。
「おじさん、蛇肉の串焼き2本!」
「あいよ。……ヒンメル様や、そこの子が例の魔族の子か?」
「ああそうさ、僕の新しい友達でアウラって言うんだ。今は色々あって食人衝動は全部ただの食欲に変えてるから見た目と感性が違うだけで人間とそんなに変わらないから良かったら……と、までは言えないけれど。無害である事は僕がフリーレンに誓って言える」
「……そうかい。それなら俺はそう信じさせてもらうとする」
少し気怠そうな大男だった。
ヒンメルが連れてきたのは肉の匂いのする屋台……串焼きという料理の店だった。
今の私は食人衝動を全てその他の食欲に変えられているため物凄く魅力的な匂いに感じて意識が持っていかれそうになるが……2人の話で持ち直す、持ち直ってしまった。
「なんで?」
「どうしたんだい、アウラ」
「なんでそんな軽々しく信じられる訳?私は昨日までこの村に害を与えようとしていたのよ?それを意図も簡単に言葉だけで信じるなんて有り得ないわ」
「……俺は如何せん学が無い。魔族がどういう生き物であるかくらいは知っているが、結局それだけだ。ヒンメル様が大丈夫だと言うなら難しい事を考える事が出来ない俺は言葉通りに受け取るだけだ。……ほら、蛇串4本。お近付きの印ってやつでサービスしといてやる」
「……ほんと、益々人間が分からなくなるわ」
いくらコイツが勇者だなんだと讃えられているとはいえ人間は人間に過ぎないはずだ、七崩賢に普通勝てる見込みなんて考える事なんて無い、そのはずだ。
それを意図も簡単に信じられるそれが疑問だった。
そして答えを聞いて益々疑問は深まってしまった。
ただ――
「――割とイけるわね、これ」
「だろう?危険な毒蛇を狩って安全を守りながら美味しく食べられる、とても素晴らしい事なのさ!それにここは他の串焼きも美味しいんだ、例えばイノシシだったり、地鶏もあったり――」
ここの食べ物は想像以上に口に合った。
今までそんな事意識して人間以外を口にした事なんて無かったのに、口に広がる肉汁に良く効いている香辛料が食欲を唆る。
人間の食べる物がこんなにも口に合うのは気に食わないがそれはそれこれはこれ、空腹には勝てなかった。
「……アウラ?聞いてる?」
「聞いてはいないわよ」
「ええ……折角オススメ言ってたのに……」
「でも」
「え?」
「おかわり」
「……!」
「食人衝動を空腹に変換したのはアンタなんだから、奢ってくれるわよね?」
「もちろんさ!さあ次は何にする!?僕としては――」
どうせ50年このままなら、多少なりとも有意義な生活をしようと、あとヒンメルの財布も次いでに苦しめてやろうと画策するのだった。
「アウラ様〜?蛇串出来ましたよ〜」
「ありがとう。……うん、初めて食べた時の味に限りなく近くなってきたわよ。合格じゃないかしら」
「ありがとうございます!曾祖父ちゃんの味を知ってるのなんてもうアウラ様だけになっちゃったからなあ」
「そうね。……でも、私が生きている限りアンタの子孫にもこの味は続けさせていってもらうから頼むわよ?」
「合点です!」
「思い出の味だもの。忘れる訳には行かないわよ…………ヒンメル……」