リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結)   作:リーニエたんhshs

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この話正直書くかどうか悩んだ、でも脳内のアウラが勝手にそう動くから仕方ないんだ…こ、これは俺がアゼリューゼされて書いただけなんだ…


episode7『その気持ちの答えは知らなくても』

「ほら、起きなさいヒンメル。朝よ」

 

「う、ううーん……も、もう少しだけ……」

 

「はぁ……この村に来る前はこんな事無かったって言っていたけれど本当かしら。気が抜けてるんじゃないの?」

 

 この村に来て早4年が経過した。

 時の流れというものは早いもので、すっかり私はこの村に馴染みきってしまっている。

 いや、馴染んでしまったのはもう3年くらい前の話だ、それを敢えて見ないフリをしてそのまま流されるがままに人間社会への適応の勉強をして生きてきた、たったそれだけの話。

 

 気が付けば人間を食べようという思考は遙か彼方に飛んで行ったのか少なくとも3年半以上はそんな事を考える日は無かった。

 そして人間のする食事が好きになっていた。

 

 ヒンメルからは

 

「そんなに食べても太らないのは凄いなあ……世の女性は羨ましがるよ」

 

 なんて言われたりもしたが、私は今『魔力制限をしながら生きている』。

 常時色んなものを消費しながら生きているのだから太らないのなんて当たり前だろう。

 

 そもそも自分が魔力制限をしようとしたのもヒンメルが原因だ。

 

「え?フリーレンって魔力低くないかって?ああ、それはずっと魔力制限をして生きているからだね。常時ハイター……メガネの僧侶の1/5まで制限してるけど全開放したらそいつの倍くらいはあるかな。その魔力制限のお陰で魔力量が増えて磨きも掛かってるって話してたし、本当にフリーレンは努力家で可愛くて僕の最高の……え?アウラもするって?」

 

 あの無性にムカつく女に出来てこの七崩賢のアウラに出来ない訳が無いのだ、と対抗心で始めた事だったが存外に実戦的で且つ魔力量の増加も生きてきて初めてな程のペースだった。

 

 ……魔族としてのプライド?

 

 そんなもの犬にでも食わしておけば良いのよ。

 今の私は人間社会で人間として生きているのだからそんなしがらみは必要無い、それ以前にそんなものとうの昔に忘れてしまったらしく魔力を隠す隠さないに関して後からヒンメルに言われて思い出した程なのだから。

 

 言い方を誤魔化さず言うのであれば、ここで4年過ごして人間というものを理解して、生き方が、人生観が変わった。

 私に今あるのは『魔族』という『種族としてのプライド』ではなく『私』という『アウラ個人としてのプライド』。

 魔族として生きるのでは無い、魔族としてフリーレンに、あのエルフに勝ちたい訳じゃない。

 私というプライドの元で勝ちたいのだ。

 

 まあ、そんな変貌を遂げてしまった私は何だかんだこの人間社会を謳歌してしまっているというのがこの4年の話という事になる。

 

 さて、場面を戻すが……この男は未だに起きようとしない。

 全く困った30歳児だ、今日はアンタの誕生日でしょうにと『ここ3年以上している起こし方』をする。

 

「起きないアンタが悪いんだから……ちゅっ」

 

 自分の髪をかき上げ、そっとヒンメルの頬にキスをする。

 

「うひゃあ!?あ、アウラか……だ、だからその起こし方は卑怯だろ……!」

 

「起きる前にも言ったけど起きないアンタが悪いのよ。ヒンメルってば未だにウブなんだから」

 

「うぐっ……」

 

「しかも今日はアンタの30歳の誕生日よ。村のみんな総出でパーティーするんだから主役がそんな寝坊助じゃ格好付かないでしょうに。ああほら、髪の毛跳ねてるってば。もう、いつもは格好付いてるのに私の前ではどうして気が抜けてるのかしらこの30歳児は……もうおじさんの仲間入りなのよ?」

 

「あはは、その、面目無い……あとおじさん呼びは多大なダメージを負うからやめて……」

 

「だったら寝坊しない事ね」

 

 その起こし方というのは、頬へのキスだった。

 あんまりにもヒンメルが女への耐性が無い……くっつかれたりすると見た目上は問題無いけれど私には分かるくらい冷や汗をかいていたり、といつハニートラップに引っかかるか分かったもんじゃない童貞ムーブを繰り返すものだから面白半分で寝ているヒンメルにキスをしたら飛び上がって悲鳴を上げていた。

 あんまりにもあんまりな女性耐性の無さに呆れ返ってしまったがこれ幸いにと揺すっても起きないコイツを一発で覚醒させる手段として使っている。

 

 ……まあ、正直悪い気はしない。

 

 コイツは顔は良いし性格も悪くない、周りの女が放っておかないのもまま分かる話ではある。

 とはいえ感性は未だ魔族のままの私に異性だの恋だのはどうにも理解出来ないでいるから平気で出来ているのだろうけれど。

 毎回した後何故だか顔が熱くなったり動悸が早まったりする理由は分からないが、それだけだ。

 

「いつも悪いね、どうにも君だけの前だと気が緩むのか緩い生活をしてしまいがちで」

 

「全くもう。これじゃどっちがどっちを使役してるのか分からないわね。尤もアンタが私を実戦で使役してるケースなんて一度も無いけれど」

 

 何年も時が過ぎれば問題の1つや2つ起きる事だってあった。

 それこそ他の集落とのトラブルの結果恨みを買って奇襲を受けるなんて事もあったくらいだ……尤も、それは全て無駄に終わったのだけれど。

 

 その時でさえヒンメルは私に命令をするのではなく、一旦アゼリューゼを解いて私にアゼリューゼを使わせて鎮圧させてみてはどうかと言う『提案』をしてきていた。

 その提案のお陰で鎮圧もしてお互い何度も話し合った結果一応の和解には至ったから今があるのだが、命令しても良かった盤面でしなかった辺りやはりコイツはコイツなのだろう。

 

「……アゼリューゼ使ってる僕が言うのもどうかと思うけどさ、アウラ。君とは出来る限り対等な関係でありたいんだよ」

 

「アンタの思考は大体分かるからまあ良いけど。そうやって接してきた末路が今の私ってのが答えでしょ」

 

 そんなこの男だから、私は人間として生きていく決心が付いたのだと思っている。

 そうでなければ未だにぶつくさ文句を言っては悪態を付いて悪巧みをしていたに違いない。

 

「さ、とにかくさっさと着替えちゃいなさい。ご飯出来てるから」

 

「うん、そうだね。こうして君に良い影響を与えられたのだとしたら僕はとても嬉しいよ」

 

「……そ。まあ、私も少しくらい恩は感じてるから」

 

 だから、ほんの少しだけ素直になったりして。

 ヒンメルがうざったいくらいの笑顔でこちらを見つめていたのは最早仕方ない事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー今年も楽しかったね」

 

「毎年良く飽きないわね。ずっとアンタ騒ぎっぱなしだったじゃない」

 

「そりゃそうさ。みんなが僕を祝ってくれる、これ以上に幸せな日は無いよ」

 

「まあ、見てて悪い気持ちにはならないけれど」

 

 夜も更け静寂が心地好い。

 ついさっきまで飲んだくれていた連中も帰っていって残ったのはいつもの私とヒンメル。

 ……ヒンメルも少し酔っているのか、顔が赤い。

 私は別に魔族だから酒に酔うなんてそうそうないけど。

 

 ……そう言えば今年はプレゼントを何にするかずっと考えていて結局決まらなかった。

 

「アウラも年を追う毎に笑顔が増えてる気がする。君は可愛いんだからそうして笑っていてくれるととても魅力的だ」

 

「ふーん、アンタってほんとそういうとこ隠さないわよね」

 

「そうかな。今日はいつもより気分が良いから口が滑ってるだけかもね。こんな日にフリーレンに会えたらなあ……」

 

 いや、今決まった。

 彼は確かに楽しそうだった、とてもとても楽しそうだった。

 だけれど同時に寂しそうな顔をしていたのも事実だった、フリーレンの名前を口にしながら。

 

 ……どう足掻いたとしてもヒンメルの中にある心はフリーレン一色なのだろう、それは分かりきっている話だ。

 だが、寂しさを埋めるくらいであるならば。

 一時でも忘れさせてやれるのであれば。

 

「ねえ、ヒンメル」

 

「なんだい?」

 

「私からの今年のプレゼントはまだじゃない?」

 

「そうだね。……あ、無理に用意してほしいとかじゃないよ?寧ろ毎年用意してもらってとても有難いくらいなんだからさ」

 

「今年のプレゼント、決まったわ」

 

「え?」

 

「私よ」

 

「はい?」

 

「わ・た・し!30にもなって童貞なんてやってらんないでしょ?」

 

「え、ええ!?いや、いやいやいや!!だから僕は君も女の子なんだからもっと自分を大切にと……」

 

「そんな辛気臭い顔してられると困るのよ。あと女耐性付けないとどこでどうアンタが引っかかって私まで巻き込まれるか分かったもんじゃないから。それに私は構わないわよ、アンタなら」

 

 矢継ぎ早にそれらしい言い訳を並べる。

 勿論これらも嘘では無い、誕生日なのに寂しそうな顔されてるのも変なのに引っかかるのも困るのは事実。

 でも本音は、慰めたいという気持ちは言えなかった。

 

「…………アウラは、本当に良いのかい?僕で。30にもなって童貞の僕で」

 

「寧ろアンタ以外に触らせた事は無いしキスもアンタが初めてよ。それが答えなんだから男なら腹括りなさい、良い?」

 

「わ……分かりました……はい……」

 

 

 

 結局、それをして寂しい気持ちを忘れさせられたかどうかは未だに分からないままだけれど。

 そして何より、この夜がヒンメルにとって最初で最後だったけれど。

 

 たったそれだけの事なのに、いつまでも忘れられない私は何なのかしらね……バカみたいじゃない。

 

 

 

「もう……ヒンメルはいないじゃない……」




細かいところではありますが、アウラは既に30歳を『30歳児』や『おじさん』と呼んで歳を重ねている事を認識しています
つまり人間の寿命がどれだけであるかを額面だけでなく心でしっかりと理解して接しているという事になります

これが何を意味するかは言わずもがな本家フリーレンを愛読しているそこの貴方ならお分かりいただけるでしょう…
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