リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結)   作:リーニエたんhshs

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ここから時間が現代に一旦戻ります
あと匿名と本垢含めてまさかのこれが総合評価最高値を記録してしまう事態が起きている、そこまで行くとは思わなかったので素直に嬉しみを覚えている次第


episode8『運命の歯車は少しずつ動き出す』

「で?なんで俺達は伯爵の屋敷に呼ばれてるの?」

 

「なんでもこの街を救ってくれたお礼に何か褒美を与えたいとか何とか言ってたね。私は即断即決で魔導書にしたけど」

 

「フリーレン様はある意味コストパフォーマンスが良いお方ですからね。お金ではテコでも動きませんけど」

 

「俺ももう慣れちまったけど不思議な感性ではあるよなー」

 

 俺達は本当はフリーレン、フェルン、シュタルクと俺、リーニエでまた別れて旅をするはずだった。

 誕生日が近くなればここグラナト伯爵領に集まろうと約束してお互いの道を行く、そうなるはず……だったのだがお互いどこに行くか言ったところどっちもここから更に北上して雪国に向かうというまさかの一致。

 道を分かつのはまだまだ先になりそうだと全員で顔を見合わせて笑い合ったのが今日の朝の話だった。

 

 そもそも昨日は俺のプロポーズやら何やらがあり旅を再開するには盛り上がり過ぎてしまいゆっくり過ごしていたのだからその時に言えば良かったのだが、全員疲れていたのか気が抜けてしまっていたようだ。

 

 さて、そんな俺達だがその今日の朝にグラナト伯爵の配下である兵士長直々に屋敷に来てもらいたいと言われたそうな。

 俺はその時点で寝てたから知らなかったけど。

 

 ……しかしお礼、ねえ。

 

「どうしたの、ソール」

 

「んーいや、ちょっと考え事」

 

 上目遣いで聞いてくる可愛い可愛い俺の彼女に微笑みながら脳内では真剣に思考を始める。

 思えば伯爵は隠蔽魔法を使うという発想が浮かぶ前の俺とリーニエの事を見ている訳だ、つまり偽アウラことグラオザームの配下の魔族だという事は知れている。

 どういう扱いをされるか分かったものではない、いざとなれば逃げられるようにだけはしておくか。

 

「……ソール、怖い顔してるよ」

 

「むむ、少し考えすぎたかな」

 

「リラックスリラックス。考え過ぎるのは疲れる」

 

「だなあ。ありがとうリーニエ」

 

 とはいえ考え過ぎもダメだな。

 もしもの時は逃げりゃ良いだけだし、絶対リーニエを守れば問題無い。

 

「なにかあっても私に任せておいてくれれば良いよ。可愛い息子とその嫁が一緒になるのを認めたのはこの私自身なんだからさ」

 

「フリーレン……ほんと、頼りになるよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 それにフリーレンもいるしな。

 ここまで鍛錬した俺より強かった全盛期のハイターの倍強いんだからちょっと人間につつかれたくらいではビクともしないだろう。

 

 何はさておき全ては蓋を開けてみないと分からない話だらけだ。

 だったら……開けるまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良く来たな。出立も近いだろうに悪かった、面を上げよ」

 

 グラナト伯爵は元より人当たりの良い性格だ。

 貴族でありながら街の住人達とも良好な信頼関係を築き上げ、伯爵自らフランクに話に行くという光景もしばしば見られるとか。

 柔軟な発想も多く住人の意見も有用と分かれば多く取り入れる傾向があるとしても有名であり、貴族界では変わり者としても名が知れているらしい。

 そんな伯爵であるならば、あの場面を明確に見た伯爵であるならば。

 

 話が出来るのではないか……フードを被せて顔を敢えて見えないようにしてあるリーニエを見ながらそう思う。

 

「そこの子も、フードを外すと良い」

 

「……恐れながら伯爵、1つ宜しいでしょうか」

 

「ん?ああ、申してみろ」

 

 フリーレン達も流石に冷や汗をかいている、ここに着くまでに一応話をしておいたがすっかり忘れていたとか言われた時は腰が砕け散るかと思ったんだからな。

 そんな事を思い出しながら解けない緊張を和らげるように話す。

 

「この子の事で話をしたいのですが、何分混乱を招く可能性があります。人払いをお願いしても良いでしょうか」

 

「その事か。それなら問題無い……何せ今ここにいるのはあの時、そこの子に助けてもらった兵士ばかりだ。……正体なら察しは付いておるよ」

 

「……!分かりました、ありがとうございます」

 

 と、思ったがどうやら既に見透かされていたらしい、これは一本取られたとホッと息を吐き出す。

 かなり頭の柔軟な人とは聞いていたが、まさかここまでとは。

 

 魔法を消してリーニエのフードを取る。

 そこにいたのは正真正銘あの日いた魔族としての彼女だ。

 だと言うのに伯爵は穏やかな顔付きを変えなかった。

 

「……リーニエ」

 

 伯爵は少なからず俺より昔からリーニエを知っている。

 どんな心境で話し掛けているのか……俺には分かりかねるのが少しだけ悔しく感じてしまう。

 

「あの日は兵士共々お前のお陰で助かった。礼を言う」

 

「……お礼なんて、私に言わないでほしい。私は今までずっと首を斬り落とされる人間を見殺しにしてきた、そんな存在なんだよ」

 

 しかしそんな気持ちはリーニエの言葉でかき消された。

 彼女の口は震えていた。

 

 昔、リーニエから聞いた話があった。

 

 

「私は……沢山の人間を見殺しにしてきた。自分の手は汚れてないけれど……もう、私の名前は血まみれだから……誰に殺されても文句は言えない、言うつもりも無い。それだけの事をしてしまったんだから、私は」

 

 

 俺はそれに対して何も言葉を掛ける事が出来なかった。

 それはまだ当時20年も人生を歩んでなかった人間に答えを出せるものでは無かったから、代わりに抱き締めてあげる事が精一杯だった。

 何か答えを見つけられたら、言えたら良かったのにとずっと後悔していた、ずっと引きずっていた。

 だから改めて聞かされて、また心がズキっとしてしまっていて、そして改めてまだ答えが出せそうにない自分に嫌気が差す。

 

 そんな事を思い出しながらも、何も言えない歯がゆさを耐えるしか無いと表情には出さずにリーニエを見つめる。

 

「確かに、そうやも知れんな。だが逆らえば殺される立場にいたのだろう、それならば仕方あるまいて」

 

「そうは……言っても。その中には、貴方の息子も……」

 

「……覚えているか。儂の息子の話をした時の事。お前は自分が手に掛けた訳でも無い息子の事で儂に謝り、自分にも家族同然に想う誰かがいる、そう言っていたな」

 

 驚きだった。

 まさか俺がいない間にそんな事を話していたとは、どういう状況で話していたか皆目見当もつかないが伯爵や周りの衛兵がリーニエに対して穏やかな顔付きなのはそういったエピソードを既に話していたからなのか。

 しかしだとすれば合点が行くのも確かだ。

 

「魔族は人を欺く存在だよ。簡単に信じるなんて……」

 

「では、そこの男はそういう存在ではないのか?」

 

「うっ……ち、違わない……」

 

「ではお前はもう一括りに魔族とは呼べぬ。この街にいた『魔族』は全員討伐された、ここに魔族はもういない。上にはそう報告しておこう。皆も良いな?」

 

 周りの衛兵も事実として『保身を何よりも優先する魔族が身を呈して、それも人間を助けた』それを見てるが故にこの流れで反対意見など出るはずがなかった。

 シンプルな答えなのにリーニエも反論出来ない辺り、やはり人生経験の差が違うなあと素直に白旗を上げるしか無い。

 

「そういう訳だ。我々はリーニエ、お前の事をどうこうするつもりは無いという事だ。それが助けてもらった礼、恩を仇で返す真似なんぞしないさ」

 

「……そ。あり、がとう……」

 

 俺が関係する誰か以外に存在を認められる。

 それは、きっと。リーニエにとってとても大きな出来事で。

 そんな彼女の手をそっと、握るのだった。

 

 

 ちなみに褒賞はそれとは別に出た。気前が良過ぎるだろグラナト伯爵……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでソール?」

 

「どうしたフリーレン」

 

「や、今更だけどどうしてアウラが偽者って分かったのかなって思って」

 

 グラナト伯爵邸を後にした俺達は休憩もそこそこに既に出立する。

 向かう先はここより更に北だ、フリーレン、シュタルク、フェルンはオレオールを目指して、そして俺達はアウラちゃんのいる村を目指して。

 とはいえフリーレン達の進むルート的にバッチリその村を中継するらしくそこまでは同じ道を歩む事となる。

 

 ……まあ、この話の通りどうして俺とリーニエが北を目指すかは言ってない訳だが。

 

 だって魔族の事になると怖いじゃんこの人……しかもアウラには特別怖くなるし。

 でももう逃げ道無いんだよねこれ。

 

「……俺達が今から向かう村。『本物』がいるんだよ」

 

「……は?」

 

「だから言いたくなかったんだよこの人怖いから。……本物のアウラちゃんがいるんだよ、昔その村に滞在した時に会ってたから顔見て偽者だって判断出来たって事」

 

「アウラ『ちゃん』……?」

 

「その時は魔族だって知らなかったから同年代だと思ってたんだよぉ!リーニエ、何とかしてくれ!」

 

「……私以外の女の子と親しくなってたのは少し不満。むすー」

 

「リーニエェ!?」

 

 きっとこの旅は色々と大変で、胃が痛くなる事もあるだろうけれど。

 生涯忘れる事の無い大切な時間になるのだろうと2人に詰め寄られながら思うのだった。




※グラナト伯爵にはアウラが偽アウラだった事を話しています
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