リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結) 作:リーニエたんhshs
「ねえ、アウラ」
「ん?どうかしたかしら」
「僕達、沢山旅をしてきたね」
「ええ。とは言っても、それは殆どが年に一度封印されたクヴァールの様子を見に行く簡易的なものだったし途中までは私の飛行魔法でショートカットしていたけれど」
「そうだったね。それでも……君とする冒険は楽しかった。最初は願っても決して叶わないと思っていた魔族との共闘、そんなものだったけど……次第にアウラの事を僕は、あの勇者パーティーのみんなと同じくらい『大切な人』、親友として見るようになっていった」
「私だってつまらなくは無かったわ。行くたび行くたびに何かしら騒動に自分から飛び込みに行くアンタは見ていても一緒にいても飽きなかったもの」
私がこの村に来てもう……何年が経っただろうか。
いや、本当は分かっている、分からない訳が無い。それだけこの人と、ヒンメルと共に過ごしたこの時間はかけがえのないものだともうどれだけも感じてしまっていたから。
最初この村にいた住人も大半はもう死んでしまった、それだけの時間が経っているという事はヒンメルももうすっかり年老いてしまった事になる。
私はその現実を、もうすぐ来るだろう『その時』を信じたくないだけなのだ。
「……僕はね、アウラ。君にはもう僕の課した制約なんて要らないと思っているんだ」
「どうしたの急に。遂にボケたのかしら?」
「そんなおじいちゃんに見える!?」
「だってアンタもう70超えてるじゃない。髪だって髭だって私の知識がなかったらどうなってたか*1」
「いやそれはもう本当に感謝してますはい……って今はそうじゃなくてね!?ゴホン……僕ももうこんな歳だからね、そろそろフリーレンとの約束が近いんだ……半世紀流星を見に行く約束がね。フリーレンは魔族が大嫌いだから、このまま縛り付けておくのはきっと良くない。だからこれを機にアゼリューゼを君に返そうと思う」
「それで私が裏切ったらどうするつもり?魔族の50年なんてそんなに長いものでは無いのよ?」
でも、ヒンメル自身がそれから目を逸らさせてくれなかった。
半世紀流星はその名の通り半世紀に一度見える流星群の事であり、前回は私と会う直前の話だったと聞く。
だから……もう、50年だ。
ヒンメルと出会って、もうすぐ50年。
あの日の時点で450年程度を生きていた私にしてみればたかが50年になる、そのはずだったのに。
いつの間にかこの50年が私に重くのしかかってきていた事に気が付いてしまう。
そうやって気付くのが嫌で、どうしてか今日は意地の悪い事を言いがちになってしまう。
「そうやって言えてる時点で、君はもう魔族じゃないよ。君の心は間違いなく、人間だ。だから尚更もう心配要らないと言える」
「嫌よ」
「どうしてだい?」
「……言わないとダメな訳?」
「聞かないとここでアゼリューゼ使っちゃうかも」
「……分かったわよ、言うわよ言えば良いんでしょ」
しかしそれよりヒンメルの方が意地が悪い。
老いてすっかり背も低くなったというのに未だに私より魔力量が多いんだから堪ったもんじゃない。*2
それに何度かコイツのパーティーメンバーの僧侶……ハイターと戦士……アイゼンにも会った事があるがその2人も大概おかしかったしもう冷静になればなる程生き残れたのが奇跡だと思えてくる。
閑話休題。
そうやって言われたら断れない私は折れるしか無い。
ヒンメルはなぜだか笑っているけど。
「何よ」
「いや、僕とこの村で会った時のアウラも全く同じ言葉を言っていたなと懐かしくなっちゃって」
「良く覚えてるわね、そんな事」
「大切な親友の事だから当たり前さ」
急に顔が熱くなって動悸が早くなる。
人間にとっての50年がどれだけの月日なのかくらい、痛い程分かっている、分かっていて尚且つこの男は『あの日』を忘れずにいた、いてくれた。
そう分かっただけで、もしかしたら私は良かったのかもしれない。
自然と口が言葉を発していた。
「…………ヒンメルとの繋がりが無くなるのが、なんか嫌なのよ」
「え?」
「理由よ、り・ゆ・う!アンタもうおじいちゃんなんだから繋がり無くしたらどこ行くか分かったもんじゃないじゃない。この制約がある限り……アンタがどこ行っても私が見つけられるんだから。だから簡単にそんな事言ったらぶん殴りたくなるのよ」
「老人虐待!?……まあ、すぐにとは言わないよ。約束ギリギリまでは、僕と君との大切な繋がりとして残しておきたいし。そんな言葉聞いちゃったら余計にね」
「……ふん」
やはり今日のヒンメルは意地が悪い。
言わなくても良い事を言うものだから余計に顔が熱を帯びてしまう。
しかしこの男はそれを尻目に言葉を続ける。
「そんなアウラに頼みがあるんだ」
「変な事頼んだら今度こそ殴るから」
「そんな事じゃないよ。僕と、僕の人生最後の冒険に一緒に来てほしい、ダメかな?」
一瞬、何故だか目頭が熱くなる。
理由は分からない、だけど何となくそれを誤魔化すように言葉を発しないといけないと感じてしまって。
「……フリーレンとの半世紀流星が最後の冒険じゃないの?」
「あれは、冒険というより約束を果たしに遊びに行くみたいなものだからね。冒険らしい冒険は今回が最後さ」
「そう。仕方ないわね、そこまで言うなら着いてってあげるわよ。アンタの頼みだもの。……ところでどこに何しに行くのよ」
「うん。ここから数日歩いたところにある北部高原、キーノ峠近くの森にある女神の石碑なんだ。理由は……旅をしながら話したいかな」
「そ。良いわよ、これでアイツに会った時マウント取れるもの」
「ははは、いつ会うか分からないけどもしそうなっても喧嘩はしないでね?」
女神の石碑……聞いた事はある。
何の為にそれが存在するかなんて全く分からないが、私は何となくそれがフリーレンの為なのでは無いかと感じていた。
何故そんな事が分かったかと言われても、それはただの直感だけど。
そして、それが正しかったとすぐ知る事になるのだけれど。
「……女神の石碑で過去に来たフリーレンを未来に返す為、ね。定期的に何か調べ物をしていたと思ってたけどまさか50年ずっとそんな事してたなんて。アンタって本当に仲間想いね」
「僕らの為に過去に来てくれた事も大きいけどね。とにかく、やっとこの人生の終わりに女神の石碑を解読出来たんだ。これでやっとフリーレンを未来に返してあげられる」
数日の旅の中でヒンメルはそこに行く理由を話していた。
やっぱりそれはフリーレンの為だった、分かっていたけれど少しだけ寂しい気持ちになるのは気の所為だと思いたい。
「勇者ヒンメル?」
「聞いた事無いかしら?こう見えてもコイツ、若い頃は魔王を倒した英雄だったのよ」
「爺様に聞いた事がある、俺が生まれるよりずっと前の出来事だと。物語の中に出てくる勇者様に実際に会えるとは、なんて光栄な事だ。……それに、これも爺様から遠い遠い噂として聞いていたが本当に魔族と共にいるとは恐れ入った。ヒンメル様に不可能は無いのかもしれないな」
森に着くと偶然現地の戦士と名乗る若い男に出会った。
そいつはこの森に詳しいと話し、女神の石碑まで案内してくれた。
しかし私にとってはそれよりも、もうヒンメルが物語の中の人物になりかけている事に何とも言えない感情を抱いていた。
私と戦ったあの日は私の中ではまだ色褪せてないというのに。
「それに、最後には必ず会いに来てくれる。そんな気がするんだ」
ただ、ヒンメルが男に語り掛けたその言葉だけがやけに鮮明に耳に残ったのは気の所為では無いと感じていた。
「……よし、これでフリーレンが未来の時間軸に帰る事が出来る」
「そう。……終わりなのね、これで」
「そうだね。たった数日だったけど楽しかったよ、あの頃を思い出せた。それにアウラと話す時間はとても楽しかった」
女神の石碑に何かを記し、立ち上がるヒンメル。
終わりだ、彼とする最後の旅はもう帰るだけで、それ以上は何も無い。
本当はもう少しだけワガママを言いたかった、あと少しで良いから旅をしていたいと、ワガママを言いたかった。
でも……でも。旅が大好きなコイツが1番そう思っているはずだ。
なら、言う事は1つだ。
「私、忘れないから」
「……アウラ」
「決してこの旅路を忘れない。勇者ヒンメルが辿った最後の旅を、私が覚えているから」
「ありがとう、アウラ」
ほら、こうして言えば笑ってくれるんだから。
これで良い、ヒンメルにはこれが1番似合う。
後悔しない選択を、出来たはずだ。
帰り道は、少しだけ軽口が増えたような気がした。
119話のお陰でフリーレンがまた脳みそ破壊される要素が増えちゃった…
「ヒンメルと最後に冒険をしたのは私だから」も言えなくなっちゃったんだ…
フリーレン…強く生きてくれ…